◆
怪物の条件。
一つ、怪物は喋ってはいけない。
二つ、怪物は不明でなくてはいけない。
そして三つ、怪物は――……
◆
夕方。
黒みの掛かった橙色に染まりつつある下北沢の街。
そこを駆ける影が一つ。
「アッフン! アッフン!」
まるで発情期のオランウータンのような声。
それを上げているのは、
バーサーカーであった。
否。
バーサーカーの搾りカスであった。
たしかに彼女――バーサーカーの容姿はとても女だとは思えないものだが、ここは便宜的に『彼女』と呼ぶことにする――は正体不明にして詳細不明のサーヴァント『野獣』との戦闘により魔力を消費した末に、彼の宝具によって固定され、無惨に斬り倒されたはずである。
しかしその寸前、『野獣』はバーサーカーに掛けた固定を一瞬だけ解いたのだ。
完全に固定したままでは、斬ることすら出来ないのだから当然と言えば当然である。
けれども、その固定の解除はあくまで一瞬。
たとえサーヴァントであったとしても、それに反応し、反撃や逃亡のアクションを起こせる程の余裕はない。
だが、起こしたアクションが反射的なものであれば話は別だ。
タイムラグゼロの反射的行動は『一瞬』と呼ばれる時間の間に十分起きうる。
バーサーカーの場合、その時起きた反射的行動は生物の最も根源的行動である『己の子孫を残すこと』――つまり、『己の分身を残すこと』であった。
元々、バーサーカーは宝具で自分の分身を生み出す事に長けている。
故に彼女は最期に――『分身』と呼べるほど完全に自分をトレースした存在ではないものの――自分に近い存在を生み出すことができた。
それが今現在『野獣』から逃げ、下北沢内を走り回っている物体である。
見た目はバーサーカーの生首の横に節足動物のような六本足を生やしたもの(所謂『小ピンキー』)だ。駆除しなきゃ……(使命感)
見た目からわかる通り、今現在の彼女の力はとても弱い。
森のファストフードであるスローロリスに負けるほど貧弱だ。
その上、この状態のバーサーカーは存在と同時に消滅がもう始まってる! ほど魔力量が乏しい。
それ故に、彼女は魔力を欲し、下北沢の道を歩く一般人のホモの精力をすれ違いざまに吸っていた。
最初は善良そうなハンサム顔の空手部員。
「やめてくれよ……(絶望)」
その次は眼鏡を掛けた、肥満体の男性。
「おま◯ここわれちゃあ^〜う」
次は後ろ姿がやけに印象的な中年男性。
「やっぱり(股間が)壊れてるじゃないか……」
その次、次、次次次次次次次つぎつぎ次つぎ次次次次ツギ次次次次次次次次次つぎツギつギツぎ次次次次次次…………。
小さなバーサーカーに襲われた者たちは皆、そのような断末魔をあげて息絶えていった。
小型化し、通行人の視界範囲の更に下から急襲し、精力を吸収できるようになったのは、バーサーカーにとって皮肉にも利となったことであろう。
しかし。
それでも足りない。何が。魔力/精力がだ。
彼女の身体には、飲み物を欲する軍畑先輩のような渇きがあった。
――このままでは自分は近いうちに必ず消滅する。
――それを避けるためにはもっと多くの魔力を持つ者……たとえば魔術師やサーヴァントからしゃぶらねば。
小さなバーサーカーはそう考える。
しかし、今現在のスローロリス以下の彼女が魔術師やサーヴァント相手にフェラを行える可能性はGOが神でない可能性に等しい。即ちゼロ(断言)。
だが、かと言ってこのまま貧弱な一般人相手にフェラを行っていても近いうちに彼女は消滅するであろう。
ならば、倒されることを覚悟で魔術師やサーヴァント相手にフェラを試みた方がまだ前向きだ。
そこまで考えた時、彼女はふと足を止めた。
考えがまとまったからではない。近くのビルから膨大な魔力を感じたからである。
――これ程までの魔力を吸えれば消滅は免れる……どころか、元の状態に戻れるかもしれない。
そう考え、ほくそ笑みながら彼女は顔をビルの方に向ける。
そこの壁には中の店の物だろうか、次のように書かれた看板が掛かっていた。
『平野空間』
◆
「死ぬ寸前まで痛めつけてやるからなぁ〜?」
自身の宝具『悶絶少年専属調教師の調教道具(ゲイ・オブ・シンジュクチョウキョウセンター)』――因みに言うと、『万物を束縛する調教の縄』も固有結界内部でしか使用出来ないとはいえ、この宝具の一部である――から鞭を一つ取り出し、ニヤリと笑うキャスター。
それを見て、TDNは『やべぇよやべぇよ……朝飯食ったから……』と頭が半ば、朝飯の走馬灯へと突っ込んでいた。
一方ライダーは黙って冷や汗を流す。
彼の宝具である黒塗りの高級車はロープでギッチギチに縛られ、車体のあちこちで悲鳴をあげている。
どうやら、ロープの縛る強さは時間が経つごとに強くなっているらしい。
ガラスにはヒビがはっきりと浮かんできた。
タイヤも完全に束縛され、最早空回る音さえしない。
おそらくあと数分もしない内に、この黒塗りの高級車はバァン! と盛大な音を立てて大破するだろう。
そうなれば、次に荒縄で縛られるのは彼ら二人だ。
両手両足を縛られ、衣服を脱がされ、キャスターが持つ鞭で叩かれることとなるだろう。
それだけは嫌だ、とライダーは考える。
彼の最期は高潔で高貴なものだったとはとても言えないものだった。
むしろその真逆である。
己の失敗を突かれ、脅しに屈し、ケツの穴を突かれ、最終的に拳銃で肛門を撃ち抜かれる――そのような、最期であった。
もう二度とあのようなみっともない終わり方だけはしたくない。
雨が降りしきる屋外で、下半身が貧弱なキャスターの調教を受けた末に豚に成り下がるというのはまさにライダーが思う『絶対にしたくない最期』である。
それを避けるためならば――
「――なんでもしてみせる……」
ん? 今なんでもするって言ったよね。
ライダーは後部座席にいる己のマスターの方を振り向く(見返り美人)。
「おい、マスター……この状況を何とか出来る方法が一つだけある」
「やれば、キャスターに勝てるんですか?」
「おう、勝ってやるよ」
「だったら早くやってください! オナシャス!」
己の命がそこまで大切なのか、TDNはライダーに土下座せんばかりの勢いで彼に頼み込む。
ライダーはそんな己の主の姿に半ば呆れながらも、一度頷き、口を開いた。
「よし。じゃあ、今から行う作戦を簡単にだが説明する。まずは――」
一転攻勢が、始まろうとしていた。
◆
「フォーフォッフォッ。詰み、ですねぇ」
キャスターのマスターである平野は心底愉快そうに笑う。
その顔につい先ほどまであった焦りや緊迫は最早消え失せている。
「意外と早く落ちたな〜」
キャスターも同様に愉快そうな表情を浮かべつつも、その言葉からは何処か『せっかく現れた敵が予想よりも弱くてガッカリした』という感情が読み取れなくもない。
あと数分もしない内に目の前の黒塗りの高級車は大破し、その中で震えてるであろう乗員二人が姿を現す。
それ以降は調教ショーの幕開けだ。
一方的な鞭打ち、洗濯バサミ、その他諸々。
それらを考えるだけで、キャスターの『ガッカリ』は多少晴れた。
「しかし、これはセイバーくんの助けを借りなくて――固有結界内に彼らを入れなくて本当に正解でしたねぇ。いや、勿論セイバーくんたちに手の内を晒さない為、という目的もありましたが、危うく『こんな奴相手に、平野店長はキャスターに固有結界の発動を許可したのか』と失望されるところでしたよ……」
「いやいや、仕方ないですよ平野店長。慥かにライダーの宝具は強力でしたから。まあ、俺の宝具ほどじゃなかったですけどね! ガハハ!」
「ふっ、それもそうですね! フォーフォッフォッ!」
「ガハハハハハハ!」
二人は笑う。
半ば確定した勝利の喜びでか、為す術も無く力を封じられた哀れなライダー主従への嘲りでか、それともその両方か。
しかし。
その時、突如起きた巨大な破壊音によって彼らの笑い声は掻き消された。
――ようやく終わったか。
そう考えながら二人は黒塗りの高級車がかつてあった方に目を見やる。
さあ、どのように痛めつけてやろうか。
さあ、どのように調教してやろうか。
勝者の余裕を顔から滲ませる二人。
しかし、そこには木乃伊死体と化したTDNしか居なかった。
ライダーの姿は見当たらない。
「……?」
またも、平野源五郎の顔は困惑に染まる。
ロープの束縛力に耐え切れなくなったのか、TDNの木乃伊は砕け、雨に溶けて消えていった。
その後、彼の後ろに隠れていた『何か』が姿を表す。
デデドン! デデドン! デデドン!
途端、平野源五郎とキャスターの心臓が早鐘を打ち始める。
デデドン! デデドン! デデドン!
依然、ライダーの姿は見当たらないが今となってはそんなことはどうでも良い。
おそらく、マスターであるTDNが木乃伊死体になった為、魔力供給が途絶え、消滅したのだろう。
――もしくは『アレ』に精力を吸われたのかもしれない。
デデドン! デデドン! デデドン!
そこに居たのは首から下の部品が復活しつつある女の生首であった。
デ デ ド ン !
「
い
ち
ま
ん
え
ん
く
れ
た
ら
し
ゃ
ぶ
っ
て
あ
げ
る
よ
」
悪魔が、嗤っていた。
◆
平野源五郎による魔術結界『平野空間』の中で展開されたキャスターの固有結界という『この中の中で!?』な二重結界はあらゆる結界への侵略を可能とする宝具『醜く悍ましき淫奔の城(おフェラごてん)』を持つバーサーカーにとっては、格好の獲物となっても障害にはならなかった。
とはいえ、今現在弱体化した彼女では結界に侵入は出来ても、そこを自身の固有結界に変えることまでは出来ないのだが。
ともあれ、道中に居るセイバーとひでに気付かないくらい夢中になり、キャスターたちに気付かれることなく無事固有結界内に這入った当初、バーサーカーには
①キャスターをしゃぶる、
②平野源五郎をしゃぶる、
③ライダーをしゃぶる、
④TDNをしゃぶる、
の四つの選択肢があった。
しかし、①と②は真っ先に除外された。
何故かと言うと、それはキャスターの持つ性質の所為である。
彼はバーサーカーを倒したサーヴァント『野獣』と同じく、数多の風評被害をその身に宿している。
故に、キャスターは『野獣』と非常に似ているのだ(野獣先輩KBTIT説)。
その為、バーサーカーは無意識のうちにキャスターを避けたのである。
ならば、彼の隣に立つ平野源五郎が選択肢から同時に外れるのも当然だ。
結果、残った③と④――すなわち、ライダーとTDNの方へと彼女は向かって行く。
ライダーの乗る黒塗りの高級車を縛る荒縄――『万物を束縛する調教の縄』は相手のホモ性の高さに応じて束縛力が上がる宝具だ。
しかし、ホモさえも喰らうノンケのバーサーカーにとってはそんなもの、弱体化した状態であっても大したものではない。
故に彼女はホモの縄をさながら蜘蛛の糸のように容易く千切り、また時にはその小ささを活かしてロープの隙間を潜り抜け、最後にヒビの入ったガラスを割ることで黒塗りの高級車へと侵入した。
「なんだお前!?(驚愕)」
作戦会議をしていた所に突然謎の生物が現れ、TDNは驚きの声を上げる。
一方、ライダーは胸元から拳銃を取り出し、バーサーカーへと向けた。
流石は歴戦の英霊、893である。
相手は体の殆どが頭部で出来てる生物だ、急所を狙うのは容易い。
――しかし、こいつは何だ?
――キャスターが仕掛けてきた使い魔?
――いや、ここまで追い詰めておいて、更に使い魔を召喚してくるのはおかしい。
――ならば……?
そのような思考によって、ライダーが引き金を引くのが僅かに遅れる。
バーサーカーはその隙を見逃さず、猛スピードでライダーの股間へと這いより、そこにさながら蛭のごとく貼りついた。
「!?」
ライダーは己の股間ごとバーサーカーを撃とうと、銃を下に向かって構える。
しかし、それ――下半身へと銃口が向けられることが彼のトラウマを刺激するスイッチとなった。
「ぐ……うぅ……!」
銃を持つ手が緩み、落としそうになるライダー。
だが、その程度で撃つのをやめていては彼は英霊として聖杯戦争に呼ばれていない。
ライダーはすぐさま銃を構えなおそうとした。
――が、遅かった。
生前せっかちな事で知られていた彼が『遅かった』と言われるのは何やら皮肉な話だが、事実なのだから仕方がない。
時間にすれば数秒と満たない間に起きたライダーの葛藤、逡巡、躊躇の隙に、バーサーカーは彼からありったけの精力と魔力を吸っていたのだ――拳銃を握り直す力さえ残らない程に。
銃はライダーの手の中を離れ、重力に従って落ちて行く。
カンッ! という無機質な金属音が車内に響き渡った。
ライダーは血反吐を吐き、背凭れによりかかるようにして倒れる。
その僅か後に、彼のペニスからとてつもない量の精液が放たれ、バーサーカーの口内へと流れ込んだ。
彼女の口の中に収まりきらなかった精液は溢れ、ライダーの吐き出した血と混ざり合う。汚いグラデーションだなぁ……。
一方、TDNはライダーが落とした銃を拾っていた。
自らの手で侵入者を射ち殺そうというのだ。
しかし、彼が銃を構えた瞬間、ライダーの股間に居たはずのバーサーカーは消えていた。
何処に行ったのか、と車内に視線を泳がせるTDN。
しばらくしない内に彼はバーサーカーを見つける。
いや、見つけてしまった、と言うべきか。
バーサーカーは――TDNの股間にべっとりと貼りついていた。
彼からの視線に気がついたのか、バーサーカーは視線を上げ、TDNと目を合わせるとニッコリと笑う。
「 い ち ま ん え ん く――」
「うわああああああああああああああああああああ!」
車内に発砲音が鳴り響く。
銃弾はバーサーカーを貫き、TDNの太腿に大穴を開けた。
苦痛に表情を歪めるTDN。
だが、彼は目を閉じることなく、バーサーカーの死を確認しようとする。
しかし、彼女は傷一つ負わずに平然とフェラを続けていた。
当然だ。
ライダーの魔力を吸ったことにより、宝具『鏡合わせの怪人(デデドン!)』を十全に使えるようになった彼女は『死』と無縁である。
怪物は、不死であるものだ。
「あ、ああああ……ああああ……あぁぁぁ…………」
TDNは目の前の化物の異常性への怯えから呻きに近い声を出す。
しかし、すぐにそれもバーサーカーに魔力を吸われたことによる疲労で出なくなり、彼の身体は徐↑々↓に水気を失っていく。
やがて、無音に包まれた車中に残ったのは本来の力を取り戻しつつある喜びに顔を輝かすバーサーカーと、一つの木乃伊死体だけとなった。
【TDN&ライダー(TNOK) 死亡】
◆
たとえサングラスを掛けていようと、バーサーカーを見た者は皆平等に彼女のスキル『避顔』による精神異常を授かる。
「許してプンスカ……」
命乞いを既に始めているキャスターを一瞥する平野。
しかし、彼はキャスターを憐れみこそすれ、軽蔑や失望することはない。
バーサーカーの顔はそれほどまでに悍ましいからだ。
その上、今現在の彼女の姿は生首の下から未完成な部品が生えつつあるという、とても人間とは思えないものである。
キャスターが出会った瞬間に負けを悟るのも仕方がないことだ。
では、平野源五郎の方はどうなのかと言うと、彼は軽い吐き気を覚えるものの、キャスターのように精神に異常を来すことはなかった。
何故なら、
――慥かにバーサーカーは一瞬たりとも視界に入れば、精神が壊れかねない化物……。
――だが。
――それでも……それでも、810年前に見て、浴びた『アレ』と比べれば……遥かにマシだ。
平野源五郎――彼は810年前の聖杯戦争でバーサーカー以上の醜悪を目にしていたのだ。
故に、彼はバーサーカーの顔に対して多少の耐性を保持しているのである。
歴戦で培った経験が役に立ったというわけだ。
では、彼が810年前に見たという『アレ』は何なのかと言うと――いや、今はまだ語る時ではあるまい。
「ドジョウと俺のさ……ドジョウと俺の子供が出来たらどうする? え? 総理大臣の誕生か?」
精神が完全崩壊したのか、そのような戯言を呟くキャスター。
――キャスターくんがこんな状態では私の指示は通らまい……戦闘行為など尚更だ。
――ならば……。
平野源五郎は己が手に宿る令呪に目を向け、口を開く。
「令呪を持って命ずる――キャスター、自身が持つ宝具の全てをバーサーカーに――」
ぶつけなさい――と。
そう言おうとした時、平野源五郎は自身がいる空間に起きつつある異常に気が付いた。
その異常とは、サーヴァント一騎、マスター一人の魔力を吸ったことで『醜く悍ましき淫奔の城(おフェラごてん)』が使用可能となったバーサーカーにより、キャスターの固有結界が乗っ取られたことだ。
こうなれば、たとえ令呪を使ったとしても固有結界は解除されず、どころか宝具の使用すら不可能となる。
つまり、力を完全に取り戻したバーサーカーが固有結界内に居る今、彼らは完全に――
「――詰まされた、ということですか……」
自嘲の笑みを浮かべる平野源五郎。
彼に向かって、完全に胴体が復活したバーサーカーは歩を進める。
『野獣』と似た性質を持つキャスターも、今となってはバーサーカーにとって何ら脅威となりえない。
寧ろ、この後彼女が行われるであろう『野獣』へのリベンジマッチの予行演習としてはピッタリの相手だ。
平野はやってくる化物から逃げようとしない。しても無意味だからだ。
平野とキャスターを追い詰める為だけに組み替えられた固有結界から、逃げられるわけがない。
――せめて、私の宝具『無限の██(████████・シンセツシリーズ)』が使用可能だったら……。
――いや、今の彼女相手ではそれでも勝てるわけがなかったか……。
バーサーカーと平野――両者の間の距離が残り二メートルほどになる。
こうなったら寧ろ正気を失ったキャスターくんが羨ましい――そう平野は考えた。
まず、バーサーカーが獲物に選んだのはキャスターであった。
ただでさえ下半身が貧弱な彼は、バーサーカーの怪力に圧倒され、抵抗する間もなく怪物的なフェラを受ける。
「ウルトラマンだって……死ぬ時ゎ射精するんだょ……」
その言葉通り、キャスターは盛大な射精を終えた末、息絶え、光に包まれ消えていった。
それと同時にバーサーカーによって乗っ取られたキャスターの固有結界が崩壊を始める。
バーサーカーはそんなことを気にも留めず、続けて平野源五郎へのフェラを開始した。
彼に抵抗する気力は残っていなかったし、またする意味もない。
しかし、彼には一つだけ心残りがあった。
この下北沢聖杯――狂いに狂った宴を最後まで見届けたいという心残りが。
――810年前にとっくに死んでいたはずの私が、そんなことを願うのは欲深いですかねぇ。
平野は再び笑う。
死の淵にあるというのに、目の前にあらゆる生命と感情を飲み込む口があるというのにだ。
いや、それだからこそ彼は笑うのである。
――喜劇に対しては、最後まで笑い続けるというのが、観客のマナーというものでしょう?
長く永く続いた命が、今、終わりを迎えた。
最終更新:2016年08月05日 19:48