物語の舞台は現代の東南アジア。
貧困に喘ぐ東南アジアに点在するどこかの国。
ある村に、ターニャ(14歳)という女の子が住んでいました。
この村はとりわけ貧しい地域にあり、必要以上に生まれてくる赤子は殺害処分されるような村です。
物心ついた男子は強制的に労働を強いられ、物心ついた女子は売春の商品として扱われます。
ターニャもまた嫌々ながらに売春に従事させられていましたが、ある日転機が訪れました。
あまりにもお腹が空いたので、食料として木の実や動物を捕まえようと、森の中へと飛び出しました。
そんな折、見知らぬあぜ道にて、これまた見知らぬ男達に出くわします。彼らは人攫いでした。
人身売買を主とする連中で、程よい年頃のターニャはかっこうの餌食です。
ターニャはあっという間に縄で縛られ、トラックの荷台に放り込まれ、速攻で拉致されてしまいました。
拉致された先の建物にて、ターニャは牢屋にぶち込まれます。
その牢屋には、売買されるだろう子供たちが沢山いました。
しかし、黙ったまま売り飛ばされるのも御免なので、牢屋で出会った子供達と共に脱出計画を考案します。
特に仲良くなったのは、ユラ(12歳女の子)、メメモリ(15歳男)、カリム(14歳男)の三人。
人攫いの連中が所持していた拳銃を奪い、二人ばかり殺害し、脱出開始です。
が、武装した大勢の大人相手に敵うはずもなく、最後は手榴弾を喰らって死傷者多数。
半数以上の仲間とカリムが死にました。
生き残ったのはターニャ、ユラ、メメモリの三人ですが、いずれとも負傷や発熱が酷く、人身売買はおろか臓器売買にすら使えません。
そこで、臨床実験を行っているという研究所に売り飛ばされることになりました。
この施設は、安い額ではあるものの負傷者であれ買い取ってくれるうえに、死体をもタダで処分してくれるという、人攫い達からすればありがたい取引先だったのです。
この研究所では、細胞工学を主とした実験が行われています。
いつぞやのナチスと同じような実験内容です。
三人は惨たらしい実験を受けました。
ユラは目玉をくり貫かれて節足動物(虫)の眼を移植されます。
メメモリは頭蓋骨を切開され脳みそを弄くられました。
ターニャは全身の骨・筋肉・繊維を摘出されて代わりに人工有機物を移植されました。
これだけに留まらず、想像を絶する苦痛を味わいます。
三人はこの実験によって見た目が多々人間離れしますが、その代償にただの人間だった時では考えられないほどの筋力や動態視力を得たのです。
そして、研究所で出会った友達が日に日に死に絶えることに我慢できなくなった彼らは再び脱走計画を立てました。
人攫いのアジトの時とは違い、多少便利な力を身につけた彼らは深手を負いながらも、研究所から脱出することに成功。
そんなこんなでどこに逃げようか……と、逃げ惑うって数日目。一般住民達が襲いかかってきました。
もちろん返り討ちにしたものの「なぜ襲ってきたのか」と問いただしてみたところ、「お前らの首に懸賞金がかかっている」という返答。
ここ東南アジアでは、マフィアらしいマフィアがのさばったりはしていません。
その代わり、警察などの国家機関がマフィア同然の汚職や悪事を成すのです。
逃げ出してきた研究所もまた国が有する機関でした。
「凶暴な子供らが精神病棟から脱獄した。脱獄時に罪のない職員を大勢射殺していった」という名目で、国が懸賞金をかけたのです。
彼らという実験成果が他国に流れることを恐れたのです。
三人はこの現実に驚愕しましたが、逃げるのをやめたところで殺されるか、また実験で酷い目に合うだけ。
ならば国外にでも逃げようということで、一先ずはメメモリが暮らしていた町を目指します。
彼の住んでいたところは、貧しいながらも食事には困ることのない漁師村でした。
村の人たちは良い人が多かったうえに、メメモリの親父さんは船を所有しています。
村に辿り着けば、親父がどうにかしてくれるはず……という期待を胸に、三人は長い道のりを進みます。
基本は山中を歩き進みますが、時折村や一般道に出てしまうと、住民らが銃や鉈を持って襲い掛かってきます。
最初は返り討ちとはいえ、人を殺すことに躊躇いを持っていた三人(ターニャは元よりそうでもなかった)ですが、襲われすぎて人間不信気味になり、だんだんと人殺しに躊躇がなくなっていきます。
そんなこんなでメメモリが住んでいた漁師村に到着しました。
が、メメモリの親父さんは死んでいました。
親父さんは、莫大な賞金のかかった息子の情報を吐けと住民達から罵声を浴びせられていた。
「息子はある日突然いなくなっただけだ。息子が人を殺すはずがない」と、頑なに反発した結果、金に目が眩んだ住民達から怒りを買い、嬲り殺しにされていたのです。
メメモリはこの事実を知り、我を忘れるほどに怒りました。
三人を捕らえようと襲ってきた村人達を殺害し、再び旅路を歩むことになったのです。
仕方なく、別の港町を目指そうということで、三人はひたすら歩きます。
その旅路の途中、三人は大きな町に突き当たりました。彼らは変装して住民をやりすごすことにします。
旅路の殆どは山中で、碌な食べ物を口にしていなかった三人。
人々が人間らしい食事や生活をしている風景を見てしまうと、どうしても羨ましくなってしまいます。
特にユラはそれが顕著でした。
彼女は国外から旅行として東南アジアを訪れ、人攫い達に浚われていたのです(両親は拉致時に射殺された)。
彼女はもとより、この東南アジアとはかけ離れた普通の暮らしを送っていた普通の人間なのです。
たまには人間らしい普通のことがしたい。せめて食事や寝床くらい・・・と、悲しくなってしまいます。
しかし路銀などあるはずもなく、そんな願いは叶うはずもありません。
そんな二人の様子を見かねたターニャは、金を持ってそうな男性住民に声をかけ、売春でお金を稼ぎます。
「これで食事が出来るね」と誇らしく言う彼女ですが、二人はそれを許容しませんでした。
二人は「自分達のためになんでそんなことをするの」「頼むからもうやめてくれ」と頷そうとするも、ターニャはその意図を汲み取ることが出来ません。
ターニャは物心ついた時から売春を強要されていました。
村で手にしたお金は大人達に摂取されるだけで、自分の好きには使えなかった。
しかし今、手にしたお金が手元にある。
それを二人のために使いたいだけなのに、なぜ怒られなければならないのかと……意見は反発するばかり。
この後の旅路の途中、三人が三人違う価値観をもつために度々意見が衝突します。
ですが、遅い来る住民や警察を相手にするには、どうしても背を合わせなければなりません。
考え方が違っても、背を預けて信頼し合う。三人は、次第に理解を深め合っていきました。
そんな折、暮らしは貧しくても心までは荒んでいない人達が現れました。
ある老夫婦が、うちで休んでいきなさいと、三人を匿ってくれたのです。
最初のうちは、この老夫婦を信用することが出来ませんでした。特にターニャは人を信用しない気が強かった。
しかし、懇親的に接してくれる老夫婦に、三人は次第に心を開いていきます。
おばあさんは、食費のことなど一切気にせずに、毎日手料理を作ってくれました。
おじいさんは元軍人ということもあり、昔のツテで海外への密輸船を用意してくれると言ってくれたのです。
また、おじいさんは念のためにと、三人に銃の扱いや剣術の指南、更には武器の製造と調達まで行ってくれました。
だがある日、おじいさんとおばあさんが町のマーケット出かけた後、家に残っていた三人は住民達からの襲撃に遭います。
もちろん返り討ちにしたものの、タイミングからしてあの二人が自分達を売ったのではないか・・・と、三人は考えを過ぎらせました。
とりあえずマーケットに向かってみたところ、そこには惨殺されたおじいさんとおばあさんの姿が。
作る料理の分量が増えたせいで買出しが多くなり、住民達から怪しまれ拷問されていていたのです。
それも、口を割らなかったせいで二人とも殺されていました。
ぶちキレた三人は、マーケットに居た大勢の人間を殺害します。
この一件で事が更に大きくなり、三人の首に掛かった賞金は跳ね上がりました。
おばあさんとおじいさんが死んで、密輸船のアテもなくなり、三人は再び旅路を歩みます。
血を血で洗う毎日……そしてある日の夜、死んだはずのカリムが三人の目の前に現れました。
彼は人攫いのアジトにて死んだはず。手榴弾を喰らって間違いなく死んだはずです。
が、それはカリムの遺伝子から生み出されたクローン体でした。
現れたカリムは無線機を持っており、そこから聞き覚えのある声が流れます。
研究所に居た職員。マリスという女性の声です。
彼女は、三人に研究所に戻れと指示してきました。
一体なんのつもりだと三人が聞き返したところ、「実験の成果物である君達がどれほどの力を発揮するものか実験していただけ」との返答。
一般人を金で煽り、人間離れした三人の力を試していただけ。とのこと。
マリスは、小型カメラを埋め込んだ鳥や犬に、これまでの三人の行動を追わせていたのです。
もちろん、今目の前にいるカリムも電子的に脳内を操作されています。所謂操り人形状態です。
三人はこれまでの非業が研究の一環のせいだと知りぶちキレます。研究所に戻るなどといった選択肢はあるはずもない。
こんなふざけた芝居がなければ、老夫婦もメメモリの親父も殺されることはなかったのだから。
その返答を受けたマリスは、多々改良を施したカリムを三人にぶつけてきました。
わざわざカリムのクローンを生み出して寄越したのは、彼らのかつての友達であるカリムならば手を出しにくいだろうとの奇策。
三人は出来ることならばカリムを殺さずに仕留めたいと思うものの、強力な筋力に加えて銃器を乱用する彼は恐ろしく凶悪でした。
重症を負った苦戦の果てに、三人はカリムを殺しました。
それはカリムに似た別の人間であることはわかっているものの、悲しくて悔しくて、殺した後に泣き喚いた。
三人はやはり子供です。
それでもマリスの意図は理解しています。
三人の怒りを募らせ、己の怒りに切っ先を向けさせ、海外への逃亡を阻止すること。
そして準備を万端にした状態で始末しようとしているのだろうと理解しているものの……三人は、マリスに一矢報いることを決意する。
この日より、遅い来るのは一般人や警察だけに留まらなくなった。
本職の凶手や実験成果物までが三人を襲う。三人は今まで以上に手傷を負うようになった。
そうこう返り討ちにしながらさ迷っていた三人に、声をかけてきた兄ちゃんが一人。
彼はロシアのマフィアで、三人をロシアで保護したいと言う。
ロシアからすればこの国を脅すネタとしては極上であり、互いにウィンウィンの関係を築けるのではないか。と考えていた。
仇討ちを心に決めていた三人は、迷いを見せる。
自身は死んでも構わないと思っているが、他の二人は安住の地に送ってあげたいという気持ちがあった。
そこで、意見の折れることがなかったターニャとメメモリは意見を通わせ、ユラだけを密輸船で逃がすことを決める。
この時から二人はユラに辛く当たるようになった。
ユラは、それがわざとだとわかっていても苦しい気持ちになってしまった。
仕方なく、ユラは密輸船に乗り込むと決める。
ターニャとメメモリは少し安心し、マフィアの兄ちゃんから得た情報と銃器を手に、研究所へと襲撃をかける。
やはりと言うべきか、苦戦が続いた。
戦力が一人減ったこともあるが、敵数が更に増え出して負傷が激しくなる。
ある日、二人はいよいよ追い込まれる。
だがその時……ユラがその場に駆けつけて、二人を手助けした。
ユラは確かに密輸船乗ったものの、二人だけを死地に向かわせることに耐え切れなかったのだ。
二人はユラを激しく叱咤するものの、本当は、その気持ちが嬉しかった。
ユラも二人の心を理解していて、嬉しくて涙していた。
三人は決める。
仇討ちはやり遂げる。
けれど、絶対に誰一人死なずに、やり遂げようと。
成るべくして決戦が始まった。
研究所側の準備は万全を期した状態。
三人は裏を掻いてマリスの首を落とそうとするものの、その壁は厚かった。
考えが甘かったこともある。
彼らは瀕死に追い込まれても、それでも尚後ずさることをしなかった。
後ずさったところで死ぬだけなのだから。
一息入れることすらままならない鬩ぎ合い。
いつしか、互いの背を守るという想いのみで、各々が体を突き動かしていた。
銃弾を喰らい過ぎて臓器がいくつか壊れている。血液が抜けすぎて体が冷えきる。
それでも尚、体が硬直を始めても尚、手足を止めることをしなかった。
激戦の末、三人はようやくして仇を討った。
だが、一息入れようにも、呼吸することすらままならない。
身動き一つすら取れないのは、完全に壊れた肉体を更に酷使していたからだ。
思考だけが勝手に走っている状態で、三人の肉体はとうに死んでいる。
この直後、三人は膝をつき、寄り添うように倒れた。
誰一人かけることなくやり遂げようという約束は、互いに守れなかった。
だが、この一瞬を駆け抜けた達成感と、短いながらの今生の充実が、走馬灯のように駆け巡った。
三人は息を引き取った。
その表情は、到底死人に相応しくない、満足そうな面持ちで。
貧困に喘ぐ東南アジアに点在するどこかの国。
ある村に、ターニャ(14歳)という女の子が住んでいました。
この村はとりわけ貧しい地域にあり、必要以上に生まれてくる赤子は殺害処分されるような村です。
物心ついた男子は強制的に労働を強いられ、物心ついた女子は売春の商品として扱われます。
ターニャもまた嫌々ながらに売春に従事させられていましたが、ある日転機が訪れました。
あまりにもお腹が空いたので、食料として木の実や動物を捕まえようと、森の中へと飛び出しました。
そんな折、見知らぬあぜ道にて、これまた見知らぬ男達に出くわします。彼らは人攫いでした。
人身売買を主とする連中で、程よい年頃のターニャはかっこうの餌食です。
ターニャはあっという間に縄で縛られ、トラックの荷台に放り込まれ、速攻で拉致されてしまいました。
拉致された先の建物にて、ターニャは牢屋にぶち込まれます。
その牢屋には、売買されるだろう子供たちが沢山いました。
しかし、黙ったまま売り飛ばされるのも御免なので、牢屋で出会った子供達と共に脱出計画を考案します。
特に仲良くなったのは、ユラ(12歳女の子)、メメモリ(15歳男)、カリム(14歳男)の三人。
人攫いの連中が所持していた拳銃を奪い、二人ばかり殺害し、脱出開始です。
が、武装した大勢の大人相手に敵うはずもなく、最後は手榴弾を喰らって死傷者多数。
半数以上の仲間とカリムが死にました。
生き残ったのはターニャ、ユラ、メメモリの三人ですが、いずれとも負傷や発熱が酷く、人身売買はおろか臓器売買にすら使えません。
そこで、臨床実験を行っているという研究所に売り飛ばされることになりました。
この施設は、安い額ではあるものの負傷者であれ買い取ってくれるうえに、死体をもタダで処分してくれるという、人攫い達からすればありがたい取引先だったのです。
この研究所では、細胞工学を主とした実験が行われています。
いつぞやのナチスと同じような実験内容です。
三人は惨たらしい実験を受けました。
ユラは目玉をくり貫かれて節足動物(虫)の眼を移植されます。
メメモリは頭蓋骨を切開され脳みそを弄くられました。
ターニャは全身の骨・筋肉・繊維を摘出されて代わりに人工有機物を移植されました。
これだけに留まらず、想像を絶する苦痛を味わいます。
三人はこの実験によって見た目が多々人間離れしますが、その代償にただの人間だった時では考えられないほどの筋力や動態視力を得たのです。
そして、研究所で出会った友達が日に日に死に絶えることに我慢できなくなった彼らは再び脱走計画を立てました。
人攫いのアジトの時とは違い、多少便利な力を身につけた彼らは深手を負いながらも、研究所から脱出することに成功。
そんなこんなでどこに逃げようか……と、逃げ惑うって数日目。一般住民達が襲いかかってきました。
もちろん返り討ちにしたものの「なぜ襲ってきたのか」と問いただしてみたところ、「お前らの首に懸賞金がかかっている」という返答。
ここ東南アジアでは、マフィアらしいマフィアがのさばったりはしていません。
その代わり、警察などの国家機関がマフィア同然の汚職や悪事を成すのです。
逃げ出してきた研究所もまた国が有する機関でした。
「凶暴な子供らが精神病棟から脱獄した。脱獄時に罪のない職員を大勢射殺していった」という名目で、国が懸賞金をかけたのです。
彼らという実験成果が他国に流れることを恐れたのです。
三人はこの現実に驚愕しましたが、逃げるのをやめたところで殺されるか、また実験で酷い目に合うだけ。
ならば国外にでも逃げようということで、一先ずはメメモリが暮らしていた町を目指します。
彼の住んでいたところは、貧しいながらも食事には困ることのない漁師村でした。
村の人たちは良い人が多かったうえに、メメモリの親父さんは船を所有しています。
村に辿り着けば、親父がどうにかしてくれるはず……という期待を胸に、三人は長い道のりを進みます。
基本は山中を歩き進みますが、時折村や一般道に出てしまうと、住民らが銃や鉈を持って襲い掛かってきます。
最初は返り討ちとはいえ、人を殺すことに躊躇いを持っていた三人(ターニャは元よりそうでもなかった)ですが、襲われすぎて人間不信気味になり、だんだんと人殺しに躊躇がなくなっていきます。
そんなこんなでメメモリが住んでいた漁師村に到着しました。
が、メメモリの親父さんは死んでいました。
親父さんは、莫大な賞金のかかった息子の情報を吐けと住民達から罵声を浴びせられていた。
「息子はある日突然いなくなっただけだ。息子が人を殺すはずがない」と、頑なに反発した結果、金に目が眩んだ住民達から怒りを買い、嬲り殺しにされていたのです。
メメモリはこの事実を知り、我を忘れるほどに怒りました。
三人を捕らえようと襲ってきた村人達を殺害し、再び旅路を歩むことになったのです。
仕方なく、別の港町を目指そうということで、三人はひたすら歩きます。
その旅路の途中、三人は大きな町に突き当たりました。彼らは変装して住民をやりすごすことにします。
旅路の殆どは山中で、碌な食べ物を口にしていなかった三人。
人々が人間らしい食事や生活をしている風景を見てしまうと、どうしても羨ましくなってしまいます。
特にユラはそれが顕著でした。
彼女は国外から旅行として東南アジアを訪れ、人攫い達に浚われていたのです(両親は拉致時に射殺された)。
彼女はもとより、この東南アジアとはかけ離れた普通の暮らしを送っていた普通の人間なのです。
たまには人間らしい普通のことがしたい。せめて食事や寝床くらい・・・と、悲しくなってしまいます。
しかし路銀などあるはずもなく、そんな願いは叶うはずもありません。
そんな二人の様子を見かねたターニャは、金を持ってそうな男性住民に声をかけ、売春でお金を稼ぎます。
「これで食事が出来るね」と誇らしく言う彼女ですが、二人はそれを許容しませんでした。
二人は「自分達のためになんでそんなことをするの」「頼むからもうやめてくれ」と頷そうとするも、ターニャはその意図を汲み取ることが出来ません。
ターニャは物心ついた時から売春を強要されていました。
村で手にしたお金は大人達に摂取されるだけで、自分の好きには使えなかった。
しかし今、手にしたお金が手元にある。
それを二人のために使いたいだけなのに、なぜ怒られなければならないのかと……意見は反発するばかり。
この後の旅路の途中、三人が三人違う価値観をもつために度々意見が衝突します。
ですが、遅い来る住民や警察を相手にするには、どうしても背を合わせなければなりません。
考え方が違っても、背を預けて信頼し合う。三人は、次第に理解を深め合っていきました。
そんな折、暮らしは貧しくても心までは荒んでいない人達が現れました。
ある老夫婦が、うちで休んでいきなさいと、三人を匿ってくれたのです。
最初のうちは、この老夫婦を信用することが出来ませんでした。特にターニャは人を信用しない気が強かった。
しかし、懇親的に接してくれる老夫婦に、三人は次第に心を開いていきます。
おばあさんは、食費のことなど一切気にせずに、毎日手料理を作ってくれました。
おじいさんは元軍人ということもあり、昔のツテで海外への密輸船を用意してくれると言ってくれたのです。
また、おじいさんは念のためにと、三人に銃の扱いや剣術の指南、更には武器の製造と調達まで行ってくれました。
だがある日、おじいさんとおばあさんが町のマーケット出かけた後、家に残っていた三人は住民達からの襲撃に遭います。
もちろん返り討ちにしたものの、タイミングからしてあの二人が自分達を売ったのではないか・・・と、三人は考えを過ぎらせました。
とりあえずマーケットに向かってみたところ、そこには惨殺されたおじいさんとおばあさんの姿が。
作る料理の分量が増えたせいで買出しが多くなり、住民達から怪しまれ拷問されていていたのです。
それも、口を割らなかったせいで二人とも殺されていました。
ぶちキレた三人は、マーケットに居た大勢の人間を殺害します。
この一件で事が更に大きくなり、三人の首に掛かった賞金は跳ね上がりました。
おばあさんとおじいさんが死んで、密輸船のアテもなくなり、三人は再び旅路を歩みます。
血を血で洗う毎日……そしてある日の夜、死んだはずのカリムが三人の目の前に現れました。
彼は人攫いのアジトにて死んだはず。手榴弾を喰らって間違いなく死んだはずです。
が、それはカリムの遺伝子から生み出されたクローン体でした。
現れたカリムは無線機を持っており、そこから聞き覚えのある声が流れます。
研究所に居た職員。マリスという女性の声です。
彼女は、三人に研究所に戻れと指示してきました。
一体なんのつもりだと三人が聞き返したところ、「実験の成果物である君達がどれほどの力を発揮するものか実験していただけ」との返答。
一般人を金で煽り、人間離れした三人の力を試していただけ。とのこと。
マリスは、小型カメラを埋め込んだ鳥や犬に、これまでの三人の行動を追わせていたのです。
もちろん、今目の前にいるカリムも電子的に脳内を操作されています。所謂操り人形状態です。
三人はこれまでの非業が研究の一環のせいだと知りぶちキレます。研究所に戻るなどといった選択肢はあるはずもない。
こんなふざけた芝居がなければ、老夫婦もメメモリの親父も殺されることはなかったのだから。
その返答を受けたマリスは、多々改良を施したカリムを三人にぶつけてきました。
わざわざカリムのクローンを生み出して寄越したのは、彼らのかつての友達であるカリムならば手を出しにくいだろうとの奇策。
三人は出来ることならばカリムを殺さずに仕留めたいと思うものの、強力な筋力に加えて銃器を乱用する彼は恐ろしく凶悪でした。
重症を負った苦戦の果てに、三人はカリムを殺しました。
それはカリムに似た別の人間であることはわかっているものの、悲しくて悔しくて、殺した後に泣き喚いた。
三人はやはり子供です。
それでもマリスの意図は理解しています。
三人の怒りを募らせ、己の怒りに切っ先を向けさせ、海外への逃亡を阻止すること。
そして準備を万端にした状態で始末しようとしているのだろうと理解しているものの……三人は、マリスに一矢報いることを決意する。
この日より、遅い来るのは一般人や警察だけに留まらなくなった。
本職の凶手や実験成果物までが三人を襲う。三人は今まで以上に手傷を負うようになった。
そうこう返り討ちにしながらさ迷っていた三人に、声をかけてきた兄ちゃんが一人。
彼はロシアのマフィアで、三人をロシアで保護したいと言う。
ロシアからすればこの国を脅すネタとしては極上であり、互いにウィンウィンの関係を築けるのではないか。と考えていた。
仇討ちを心に決めていた三人は、迷いを見せる。
自身は死んでも構わないと思っているが、他の二人は安住の地に送ってあげたいという気持ちがあった。
そこで、意見の折れることがなかったターニャとメメモリは意見を通わせ、ユラだけを密輸船で逃がすことを決める。
この時から二人はユラに辛く当たるようになった。
ユラは、それがわざとだとわかっていても苦しい気持ちになってしまった。
仕方なく、ユラは密輸船に乗り込むと決める。
ターニャとメメモリは少し安心し、マフィアの兄ちゃんから得た情報と銃器を手に、研究所へと襲撃をかける。
やはりと言うべきか、苦戦が続いた。
戦力が一人減ったこともあるが、敵数が更に増え出して負傷が激しくなる。
ある日、二人はいよいよ追い込まれる。
だがその時……ユラがその場に駆けつけて、二人を手助けした。
ユラは確かに密輸船乗ったものの、二人だけを死地に向かわせることに耐え切れなかったのだ。
二人はユラを激しく叱咤するものの、本当は、その気持ちが嬉しかった。
ユラも二人の心を理解していて、嬉しくて涙していた。
三人は決める。
仇討ちはやり遂げる。
けれど、絶対に誰一人死なずに、やり遂げようと。
成るべくして決戦が始まった。
研究所側の準備は万全を期した状態。
三人は裏を掻いてマリスの首を落とそうとするものの、その壁は厚かった。
考えが甘かったこともある。
彼らは瀕死に追い込まれても、それでも尚後ずさることをしなかった。
後ずさったところで死ぬだけなのだから。
一息入れることすらままならない鬩ぎ合い。
いつしか、互いの背を守るという想いのみで、各々が体を突き動かしていた。
銃弾を喰らい過ぎて臓器がいくつか壊れている。血液が抜けすぎて体が冷えきる。
それでも尚、体が硬直を始めても尚、手足を止めることをしなかった。
激戦の末、三人はようやくして仇を討った。
だが、一息入れようにも、呼吸することすらままならない。
身動き一つすら取れないのは、完全に壊れた肉体を更に酷使していたからだ。
思考だけが勝手に走っている状態で、三人の肉体はとうに死んでいる。
この直後、三人は膝をつき、寄り添うように倒れた。
誰一人かけることなくやり遂げようという約束は、互いに守れなかった。
だが、この一瞬を駆け抜けた達成感と、短いながらの今生の充実が、走馬灯のように駆け巡った。
三人は息を引き取った。
その表情は、到底死人に相応しくない、満足そうな面持ちで。