冒し、侵され、犯しあう(前編) ◆xzYb/YHTdI


<<<<<人生は
パズルゲーム
なんです>>>>> 心当たりが無くなりました。



第一話 ~零崎人識と鑢七実~



「『人が死ぬとき、そこには何らかの『悪』が必然、『悪』に類する存在が必要だと思う』―――っつーんが、まぁ、俺の兄貴の口癖でな」


その森の中には小柄な二人組の姿がしかなかった。
しかしそれは、別段特別特殊な状況というわけではなくて、こんな広大なエリアの一つ、皆それぞれ当初の目的地に到着できた頃あいだからこんなものである。
むしろこんな時間にこんな場所にいるのが珍しい、とまでは言えば、少々言い過ぎではあるだろうけど。
一人は、顔面に刺青が入った少年だった。上半身は軍服の様な長袖コートで、それにセットで釦の光るズボン。
小洒落たサングラス、右耳には三連ピアス、左耳には携帯電話用のものだと思われるストラップ。髪は少し短かった。
もう一人は、小柄な体格に合わせた地味に清楚な着物姿で、後ろで髪をまとめている。
他には洒落ッ気の見当たらない姿なりをしており、手には無骨な何かが握られているぐらいか。
しかし、残念ながら他に描写すべき外観がありもしない。
少年と少女は―――。
朝日の差し込む森の中で会話を交わしていた。


「あら、兄がいたのですか。あなたのような『欠陥品』がもう一人もいるのですね……。それこそ『悪』です」
「はっきり言ってくれるなぁ!オイ!」


うんざりとした表情を浮かばせる少年に、特に変わらない無表情の少女。
彼らの足取りは小柄なくせに異様に早い。
正確に言うのであれば、七実の足取りが早く、人識がそれに合わせている。といった具合だった。
この分ならば、あと30分もしない内に到着するだろう。


「―――――つーか『欠陥品』は俺じゃねぇよ」
「あら、では出夢さんがおっしゃっていた『厭世観まるだしのアホ』って人ですか?」
「―――――?まぁ――――そうだな。そんなやつだ。っつーか肯定なんかしたら俺がそんな奴みてぇじゃねぇかよ!!」
「…………楽しそうでいいですね。いえ、悪いのかしら」
「楽しくねェよ。なんかな。ちなみにそいつは『戯言遣い』なんてダセェ名前を名乗ってるらしいぜ」
「らしい?」
「俺は『欠陥製品』って呼ぶからな」


って何で俺があいつのことを話さなきゃいけねんだ。といまさらながら少年は言う。
勿論少女には少年がこんなに嫌そうにする理由なんて分かるわけないし、少年はそれ以上話そうともしない。
しかしただ、一つ分かったことがあった。理解できたことがあった。


「ふふっ。ますますお会いしたくなりました」
「ぁあ?何か言ったか?」
「いえ、なんでもありませんので気になさらないでいいですよ。―――いえ、悪いのかしら」


ともあれ、少年と少女は走っている。
囲われて、壊れているような学園を目指して。



(第一話―――了)


第二話 ~球磨川禊と西条玉藻と零崎双識




「………………ゆらーりぃ」


男は計画で人を殺し、女は突発で人を殺す。
しかし残念ながらこの場合はどちらにも当てはまらない。
何故なら、ヒトゴロシの少女は、『何も殺せてはいないのだから』


『いてて、全くもう。痛いなぁ』
「………………ゆらり?」


確かにヒトゴロシの少女は傷を与えた。
ただしこの場合だと与えただけ。


『全く……。せっかくいい瞳の少女がいたと思ったら。ただの狂人かよ』
『まぁでも安心してよ。この恨みは君とは違う誰かに晴らしでもするからさ』


その割合浅く済んだが、傷を与えられた瀕死の少年は、平気で立ち上がり、スタスタと背中を見せて歩いて――――。


『行くとでも思ったかい』


螺子。
そうとしか呼べないそれが彼の両手から突如として現れる。
不思議に思われようが、あり得ないと言われようが、化物かと考えられようが。
それは事実。
そして、少年は、少女を、螺子で、


螺子伏せる。


勿論、それはヒトゴロシの少女に対してだ。
だけども、それは無為に終わった。


「ゆらぁり―――――――!」


キィィン


無骨で不気味な金属音が響く。
螺子と、グリフォン・ハードカスタムが、交差し合い、その両方が弾かれた。
毒に支配されても腐っても《狂戦士》。むしろ毒に支配されているからなのだろうか。
そのヒトゴロシの少女は、その一筋の攻撃を、手に持つナイフで防御した。
しかし、『闇突』と呼ばれ、《狂戦士》として恐れられるヒトゴロシの少女の肉体でも、
自称人類最弱を名乗るが、その実力は確かな瀕死の少年では、絶対的で圧倒的な力の差はあった。
結果的に言うのであれば、グリフォン・ハードカスタムは弾き飛ばされてしまった。


「……………………」


そしてヒトゴロシの少女はそれを追いかけた。
先ほどの詐欺師の青年と対峙した時と同じ様に。
瀕死の少年に背を向けながら。
勿論、詐欺師の青年とは違い、この瀕死の少年は逃走などしない。
それがあたかも普通であるように。
ヒトゴロシの少女の背中には、鋭く、冷たい感触。
制止。
静止。
動かない。
混乱してなお、動かない。
というよりは、動けなかった。


バサァァァァァ。


なんて大層な効果音の元。
足元を縄で縛られて、刹那のうちに空に上がってしまったから。
いわいる宙吊りと言う格好で捕まってしまったから。
目の前で作動したこのトラップに瀕死の少年は心当たりがなかった。


『…………』
「…………」


唖然。
――――――――としている風でも無く、嫌味なまでに二人の少年少女は落ち着いていた。
ちなみにヒトゴロシの少女は、スカートは隠そうとせず、もろにその、一部の人間からは聖域と称されるそこは、惜しみ気もなく晒される。
その描写をするのであれば、そこにあったのは、漆黒と表すが相応しいスパッツ。俗に言うパンツじゃないから恥ずかしくないもん!―――というものなのか。
残念ながら違うと思われるが。とにかくそれはパンツという代物ではなかった。
それをしっかりと(危険かどうか)確認してから瀕死の少年は一回身を引く。
左、右、左。とまるで何も疑うことを知らない無垢な子供が信号を渡る時の様に首を振り続けて、最終的に、ある一点に留まっていく。
ヒトゴロシの少女の後ろ側。そこを瀕死の少年は凝視する。そこから男が現れたから。
その視線の先に現れた―――――否、始めからそこにいた風に演じる細身の青年は姿を現した。


「チッ。なんでどいつもこいつも最近のやつらは皆スパッツなんだ!!」
『…………』
「…………」


変態だった。


 ■   ■


そこからの話の展開は次々と終わっていく。
まず最初にこの話で脱落していったのは、ヒトゴロシの少女だった。


「悪いけど、ちょっと寝ててくれるかい?」


一応は質問の形こそとってはいるが、実際の行動は有無を言わせないほど、返答を待つまでもなく、
よく漫画か何かで見かける首筋への手刀。素人がやればそれは、何の意味を成さないことが多い。
しかしこれでも、細身の青年はプロのプレイヤー。その中でも群を抜くほど実力の持ち主。
その辺りの技術で抜かりを取ることは無かった。
それでも、そんな細身の青年でも、一つだけ失念。―――いや、これは知れなければどうしようもない話ではあったが、ミスを犯しておいた。
それは、エリミネイター・00という凶器。それをヒトゴロシの少女に一瞬でも見せてしまったこと。
確かにヒトゴロシの少女は毒に身体を犯された。人を斬りたいという毒に。
でもだ。逆に言うのであれば先ほどから、ヒトゴロシの少女がグリフォン・ハードカスタムに固執しているのには理由がある。
例えば、プロのゴルファーが上手くなるためにも、徐々に高くて良質なクラブを求めていくのと同じ様に。
ヒトゴロシの彼女も、自分が人を殺すのに最適である使い慣れたこの二つのナイフを求めていたのだ。
今のヒトゴロシの少女の目的は何て言ったって、人殺しなんだから。
そう言う理由から、そのナイフの所持者には容赦無く叩き斬るだろう。今はまだ夢の中だが、いつかはきっと―――――。


「――――さてと、全くもって。こんな可愛らしい少女をそんな螺子で刺しつけようとするなんて何考えているのさ」
『あなたこそ、何やってくれるんだよ。全くもって。先に攻撃仕掛けてきたんだよ。そう言う風に考えるなら僕は被害者だ!』
「――――ふぅん。まぁきみは『普通』――――――――――ではなさそうだね」
『ん?そりゃまぁ僕は『過負荷(マイナス)』だからね』
「『過負荷』……。聞かない名だな。呪い名の一つか?………えー……と、きみのお名前って何だっけ」
『球磨川禊――――の弟の球磨川雪――――じゃなくって、正真正銘、球磨川禊だよ☆』
「名前は大切にしときない。――――さもないと鬼が襲いかかってくるかもよ」
『それってあなたのことでしょ。―――それに人が名乗ってあげたんだから自分も名乗ったらどうかな。人としての器がしれちゃうよ』
「それは失礼したね。―――でもね、私、私たちは分類上人ではなく鬼とされているのでね。そこらの理解がほしいね。
では、遅れたが私の名前だ。零崎双識。これが私の名前だ、どこにも恥じるべきところは無いさ」


二人の自己紹介が終わる。
しかし、沈黙など訪れず、話題は尽きず、話は続く。


『―――ったくさ。今から僕はこの子の制服を裸エプロンにしようと洗脳作業を始めようとしていたのに。余計な真似してくれちゃって』


そこで、気付いたのか、双識はヒトゴロシの少女を吊り上げていた縄を、近くに落ちていたグリフォン・ハードカスタムで切り裂き、
丁寧にヒトゴロシの少女を受け止める。そのまま地面に置いておいた。
おそらくは貧血か何かを気遣ってのことだろう。――――ならば始めから拘束などしなければよかったのに。


「おいおいおい。禊くん。裸エプロンなんて邪道だよ。あのスカートから見えそうで見えない。そんな緊張感と緊迫感と緊縛感がたまらないんじゃないか」


この二人は何について話しているのであろうか。
恐らく、今後の展開的には何も関係はなさそうなのだが。


「そもそも、裸エプロンは男の夢だのほざいているが、そんなものはほとんどの男はそれをできるわけがない。
そうなってしまったのなら、それは夢ではなく妄想だ。それは私としては望むべくことではないな。勿論人には人の趣味嗜好があるのは認めるけどね。
でもだ、それに比べたらスカートの中身と言うのは非常に現実的で理想的だ。定番こそ一番であり、初心がナンバー1だ。
そこらの痴漢にだって叶えられる夢なんだ。だったら私にだって叶えられる夢ということで同義ではないのかな。
でも、そこらの痴漢と私を一緒にされても困りものだけどね。うふ、うふふ。本当につくづく私の家族には女ッ気が全然全くないのが辛いよ。
家族を辞めるなんてことは絶対ないけどさ。あれは、私の誇りであり、私のただ唯一の仲間なんだから。
ちなみにね。私はスカートという衣服に関してはね、ニーソックスとミニスカでできるあの、神秘の少しだけ見える太ももが一番の至高だと思うのだよ。
そりゃ、パンツだって私は好きだよ。特に女子高校生なんかが着ているパンツ何かもね。でも私はそれでもあの太ももは素晴らしいと思うんだ。
あの張りのありそうで、柔らかさも兼ね備えていそうで、汗ばんだように少し湿り気もあり、それはそれは最高な物だよ。きっと。
私の語彙力では語りつくせない何かがそこにはあるし、あってほしいと私は日々望んでいるんだ。
素晴らしい。素晴らしき新世界。最高だ。太もも最高。抜群だ。効果は抜群だ。神々しい。目が眩む神々さ。
あり得ない。こんなのってあり得ない。神秘。神もが跪くその神秘さ。エロい。下手な裸よりエロい。
なんて言ったところで、その不思議なあの空間のことは禊くんには理解できないだろうな。そこのところどう思う?禊くんは」
『僕はねぇ。やっぱり裸エプロンがいいよね。それで傅かせるのが僕の夢であり、双識ちゃん的に言うのなら妄想だよ。
だってさなんか、僕が上の立場みたいで、見下すのって楽しいじゃん。勝者の様な気分になれて。実際にはなれないから夢なんだよね。
夢は悪夢だけじゃないんだよ。もちろん淫夢だってそうなんだよ?夢精とか出すのはあまり僕の趣味ってわけじゃないけどね。
僕はあのヌけた時の絶頂の気持ちよさよりも、ヌいた後の、何とも言えない虚無感が最高に好きでね。まぁこんな話はこの辺りにしないと規制されちゃうからね。
さすがに世界が週刊少年ジャンプじゃなくたって守らなきゃいけない秩序とかってあると思うんだ。人殺しなんてもってのほかだよね。
でも、人は欲望には負けられない動物だからね。食欲、睡眠欲、性欲、殺人欲エクストラエクストラ。
僕はいつも自分に甘い人間なんだよね♪だからさ。基本女の子だったら誰でも惚れちゃいそうだ。けど、唯一嫌いな女の子がいるけど今回は引っこんでおいてね。
だから僕には特別に好きな部位とかないんだ。けど強いて言うなら、合法ロリな医者とヤンデレの女の子に最近はまっててね。
その子たちの無茶苦茶になる顔見たら、ホントゾクゾクしちゃうよね。――――こんな感じでいいかな。それで観察は終わったかい』


「あぁいいよ。――――――どうにもカッターナイフは忍び持っている様子もないし。それにしてもよく気づいたね」


『僕は他人の目っていうのは気になり過ぎて困っているところなんだけどね。まぁいいや。大事そうなことらしいし覚えておくね』
「禊くんには関係なさそうだけどね」


一応説明しておこう。
こうやって、今までよく分からない話をしていたのは、双識が球磨川禊と言う人物を観察するためである。
ただ一つ、カッターナイフを忍び持っているか否か。それを調べていたのである。
もっと簡単に言うと、球磨川は零崎曲識を殺した犯人か否か。といことである。
人と言うものは何か隠し持っていると、どうも無意識のうちに、その隠し場所を意識してしまう。
それが例え、カッターナイフの様な小型のものでも。もっというのであれば、ただの小石なんかでも同じで。
庇う。視線をやる。ごまかす。慌てる。等など。
だが結果として、双識の診断結果では、そういったものはないと判断された。
ちなみにヒトゴロシの少女に関しては、後で『じっくりと』調べる予定であるという。


「――――で、禊くん。最初の話に戻らせてもらうが、きみは家族に関してどう思うかな」
『家族――――ねぇ。家族って何。
あ、いやいや、忘れるところだった。あの人たちだね。
僕を毎日ひっぱたいてきて、挙句の果てに児童虐待で逮捕されちゃって僕が一人強く育ったと言えば萌えストーリーかな?
あぁ、でもなぁ。家族はみんなね、エリートなんだ。だから僕も賢く生きようとしたと言えばもっともらしいかな~。
ん~。こういうのはどうかな。親は何もしなかったんだ。ご飯(えさ)も水も光も何もくれなかったんだ!酷いと思わない!?』


「つまるところ、きみは家族を何とも思わないんだね?」
『うん!そうだね!』


球磨川は清々しい笑顔。
双識は決意の真顔。



「ならばきみは『不合格』だ。――――それでは零崎をはじめ―――よ……う!?」



決め台詞。
決まらなかった。


『おいおい。双識ちゃん。君の目は節穴かい。――――まぁ節穴にしたんだけど』


「大嘘憑き(オールフィクション)」。
それは現実(すべてのもの)を虚構(なかったこと)にする能力(マイナス)。
それは、無関係でも関係なく。無抵抗でも抵抗なく。没交渉でも交渉なく。
意味もなく、台無しにする能力。
誰かの視界とて、その限りでは無い。


「―――――なっ………あ………」


勿論双識は油断をしていた訳では無かった。
むしろ、これから『零崎』を始めようとしていたのだから、警戒に警戒を重ねていたに違いない。
だが、球磨川禊という人間は、《暴力の世界》風にいうのであれば、呪い名。
戦わない人種である。―――――だから勝てない。だから負ける。何もかも。


「―――――呪い名……『死吹』か………いや、この感じは『時宮』?――――いや………何だ、これは」


現在、零崎双識には、視力がない。
いつかの、生徒会選挙編の庶務戦にて、人吉善吉にやったときと同じ様に。
あの時は、思わぬ助け船が出た。
今回、助け舟自体は存在している。
能力制限による、時間制限の存在だ。
だが、そんなこと双識には知るすべなどあるわけでもない。
そういったわけで、行きつく先は、恐怖である。
―――人は以外でも何でもないが、大半の行動を視力に頼る節がある。
だから、もし、視力が唐突になくなったとなれば、歩くことすらままならない。
この先には何があるのだろう。など、畏怖の気持ちが先回る。
零崎双識という人間は本来ならば、そのようなことは馴れてるとは言わずとも、
そこまで驚くことではないだろう。
ならば何故、ここまで、戸惑っているのか。それは―――――。
球磨川禊という人物が、《謎》だから。
言葉に本心を感じない。
行動に真意を感じない。
能力に仕掛を感じない。
そんな人物に、突如視力を奪われたというのだから、戸惑うだけで済んでいる分、双識は強いと言えるだろう。


『全くさ、人を勝手に『不合格』なんかにしないでよね』
『でも安心して』
『僕は弱い人間と愚かな人間には優しいんだ。あとついでにいうと可哀相な人間とか』
『だから安心して』


『悪いようにはしないから』
「―――――――――ぐっ!」
『でもさ、やっぱりこれだと後味も悪いさ。一つゲームをしようよ』
「ゲーム?」
『そう、ゲーム。あなたが勝ったら、視力を返すのと、そうだなぁ、僕の腕でもあげるよ。
ただし、僕が勝ったら、その視力はもう二度と返さないし、そうだなぁ――――じゃあ双識ちゃんの脚力でも奪ってあげようかな』
「―――――――――ッ!!」


はったり。
球磨川の吐いた言葉はどれもはったり。
虚言。妄言。戯言。大嘘。
一度奪った視力を返すなんて芸当は球磨川にできる訳もなく、腕をあげたところで、なかったことにされる。
視力を二度と返そうとしなくても、時間が経てば勝手に戻って行く。――――ようは双識にこの勝負を受ける義理などさらさらないのだ。


―――――その事情を知っていたのであれば。


『勿論双識ちゃんに有利な条件にしてあげる。なんたって僕の罪滅ぼし的なゲームだから。
じゃあ、そろそろ、ゲームの内容を発表しようかな。ゲームの内容は』


『僕が少しの間お話をするから、その後、ただ一つ頷けば、双識ちゃんの勝利だ』



「――――それだけか」
『やだなぁ。僕のこと疑っているの?』
「当たり前だ」


『――――ぶぅ。じゃあやらないの?』
「いや、そうは言っていないさ、禊くん。ぜひその勝負をやろうではないか」



そして、また一つ。らしくもなく。ミスを犯す。


 ■    ■


『うん、じゃあそういうわけで試合開始だね。いや、試験開始かな?どっちでもいいけど。どうでもいいし
―――うん、というわけで僕がお話をするのは双識ちゃん大好き、《家族》とかの話しさ。
とはいってもそんな深い事言う訳もないし、気張らずに挑んでね。僕の方が困っちゃうからさ。
で、家族。そう、家族。僕はこれほどまでにくだらないものは無いと思うんだ。だってさ、うざいだけじゃない?
現にさ、僕の初恋の相手もさ、家族なんてくだらないものがあるから僕に構ってくれないし。
酷い話だよね。そんなに家族なんてものが大事かな?過負荷の僕からしたら邪魔以外何者でもないけどなぁ
そういえばさ、双識ちゃんの《家族》ってことは皆化物じみた鬼ばかりなんだよね。憎まれ役の僕の立場からしたら迷惑以外何者でもないけどさ。
でもさぁ、週刊少年ジャンプではさ、そういう強いとされる人物ってさ、噛ませ犬になるってのが常套手段なんだよね。
ドラゴンボールのピッコロやべジータ辺りがいい例だよね。最初は強く登場したはずなのに主人公の強さに追い付けなくなって、
最終的に、新たに出てきた強い奴にドガン。――――双識ちゃんの家族はそんなことになってないことを祈るよ。まぁ精々海で気持ち良く泳いでいるのかな。
いいねぇ。そう言う優雅な生活ってさ。僕には不可能なだけに憧れるよね。妬ましくなるよね。それも生まれついた何かだから仕方ないって僕は割り切っているけどね。
そう言う意味ではさ、確かに家族ってさ大事だよね。衣食住。それらを支えるのは所詮所属諸悪家族なんだから。
双識ちゃんはどうだった?………聞くまでもなく君は恵まれてないよね。君から感じる雰囲気は本当は『過負荷』のそれに似ているんだから。
それなのに双識ちゃん、双識ちゃんたちはさなんか開き直って幸せそうに暮らしちゃって。僕としてはよくやった、って誉めてあげたんだけど。
きっと飛沫ちゃんたちは否定するだろうなぁ。結局それは幸せ者だって。感じでさ。そのあたりは限りなく同感なんだけど。
でも現に君たちは幸せそうに暮らしているんでしょ。『幸せ』『そう』にさ。所詮紛いものの最後の足掻きって感じで醜く汚く劣情らしくね。
けど安心してね。そんなんが家族なんだら。変に気を遣い。変に強引使わされ、変にご都合主義な存在が家族なんだから。
今だって、本当は君を殺そうと動いているかもしれないよ。だって殺しやすいしね。いたらの話だけど。
それにさぁ、双識ちゃんは家族の何を知っているの?何を知らされているの?まさか全部はありとあらゆることを家族として信用、信頼して話してくれているとでも思っているの?
そんなわけないじゃん。誰にでも話したくない者だってあるし。家族なら尚更だよ。全くもって使えないね、ストレスの逃し口にもならない。
別にピンチに颯爽と助けてくれるわけでもなければ、別に僕たちのことを真剣に考えてくれるわけでもないし、
別に普通に自己中心的な人たちが造り上げるのが家族なんだし、別にいなくたってそんなに変わらないし、
特に親っていう種族は、ただお金という概念から、自分たちが上の立場にいると錯覚しているようだけどさ。そんなのはバイトすればいい話。
もっと極論的なことを言うとさ、殺して奪ってもお金としての価値が下がるわけではないし。僕たちが親を跪かせれば問題は無い訳だ。
そんな形だけな存在なんて僕にとってはいないも同然だし、というかむしろ邪魔だよ。邪魔。
それなのに君は家族を必要とするの?過負荷な君なのに?おかしい話だね。
現実問題それはありえない。双識ちゃんにはそんなことを思えるだけの事に至っていないだけなんだよ。
きっとそれはね、双識ちゃん。君は人恋しがりなだけなんだ。人がいれば誰でもいい。
家族である必要なんてどこにもない。身近にいたのが偶々家族であって、それが僕だったら僕のことをきっと今の家族と同じ様に考えたはずなんだ。
だけど家族にすがり行くうちに、それが大切な物と勘違いしちゃったんだよね。異論は無いはずだよ。心当たりがないともいわせない。
双識ちゃんにとって家族なんてホントはどうでもよくて、どうにでもなればよかったし、どうしようもなかったんだよ。』


『では聞くよ。双識ちゃん。君にとって本当に家族と言う物は大事な物じゃないはずだ。認める?』


そして双識は簡潔に即断で答えた。


「いいや、私にとって家族とは大切な物だ」


その時の双識は、正直にそう答えたと思っていた。
だが、のちに知ることとなる。それはただの意地であって、球磨川の言葉が頭の奥底に螺子込まれたことを。


『あっそ』


逃げた。
球磨川は特に何もせずにただ逃げた。
球磨川は、この場を立ち去った。
もちろん、そのゲームの報酬など、ある訳もなく。
だからといって、罰があるはずもなかった。
つまるところ、意味のないゲームであった。


球磨川は、すぐ近くにある、箱庭学園の門を潜る。
そして、その場には球磨川の影が消えた。



(球磨川禊―――試験開始)
(零崎双識―――職務怠慢・処罰執行)
(第二話――――了)


第三話 ~貝木泥舟と江迎怒江と球磨川禊~



江迎怒江――――15,6歳、女の子。
その手は夏でも、何でも腐らす。
背丈は低め。目方は軽め。
生年月日不明。血液型不明。
家族構成不明。
愛情表現を上手にするのが苦手。
惚れっぽいのが少し悪癖。
現在は箱庭学園に転校しており、生徒会選挙に参加している。
彼女の人生は、本人が自覚している通り、杜撰なものだった。
主観的にも、客観的にも極少の幸せがあり、膨大な不幸せ、腐幸せがあった。
ようするに、その15,6年の人生は



確実に、ごく『過負荷』の、ものだった。



 ■   ■


詐欺師の青年たちは現在箱庭学園旧校舎(通称「軍艦塔(ゴーストバベル)」)の捜査をしている。
結局、江迎は、最初に訪れたということもあり、ここぐらいしか思いつかなかった。


「病んでますね」
「お前が言うほどか」
「――――はいぃ?どういう意味でしょうぅ」
「いや、何でもない。捜索を続けてくれ」
「はぃぃ!」


………しばらく捜査を続けていくにつれて、ある部屋を見つけた。
黒神めだか部屋。そして黒神くじら部屋の事である。
その部屋の全貌はというと、最初に目に入るはこの沢山の人形だろう。
人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形
人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形
人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形
人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形
人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形人形ニンギョウがニンギョウ。
よほどの特定的な理由でもない限り、いくら黒神めだかや、黒神くじらであるとはいえ、人形化で世間に販売されることなど叶わないだろう。
となれば、黒神真黒のオリジナルの手作りという可能性が高い。――――確かに病んでると言われるのもいたしかたないのかもしれない。
他にもポスターなり、なんなりとあったのだが、それを全て紹介するとなると、時間が足りないという物だ。
なので、一つの戦果だけ持って、この二人はさっさとこの場を立ち去った。


一つの戦果。それは黒神くじら部屋にあった、《ノーマライズ・リキッド》。
生徒会選挙書記戦において、実に無意味でこそあったがその効果は凄まじく、
天才(アブノーマル)を凡人に(ノーマル)に変える劇薬。異常封じの異常殺し。
そんなものが注射器の中に入っていた。
実に恐ろしい話であった。


劇薬を見つけた後、二人は外に出て、次の行動を思案していた。
ここで、球磨川禊に会うこととなる。


 ■   ■


『ふぅん。僕は君みたいな目を知っている。まるで、全てを同じと考える、その目を。
まるで道具の様に。まるで奴隷の様に。まるで下僕の様に。まるで空気の様に。
人をそんな風に見て、そんな風に動かせるその目を僕は知っている。
そうだね…………あの人風に言うのであれば、きっとこう名付けるだろうな。『悪平等(ノットイコール)』って感じだな』


二人の前に、さも当然の様に現れて、当たり前かの様に二人の前でその口を開いていた。
病んだ少女という、元の世界での仲間がいたから。というのもあるかもしれないが、そうでなくてもこの男ならこうしたであろう。


「怒江。こいつは知り合いか?」
「はいぃぃぃぃ。この人は最初に言った球磨川さんですぅ」
「はん。なるほどな。これは確かに確かだな」
『………あれ?なんで江迎ちゃんはこの人の事愛してるっぽいの?善吉ちゃんはどうしたの?』
「何を言っているんですか?球磨川さん。私は最初っから泥舟さんしか愛せれませんし、そもそも人吉くんは敵じゃない」
『……あれはフラグだと思ってたけど人生はやっぱ上手くいかないものなんだね』
「当たり前じゃないですか。球磨川さん。それだから『過負荷』なんですもの」
「――――まぁ、思い出話は他でやってくれ。で、結局俺に何か用なのか」
『いや、別に用ってわけでもないんだけどね。君を勧誘に来たんだよ。』


『何にって、そりゃ-十三組にさ』


「…………怒江、説明を頼む」
「…………一応言っておきますけど、泥舟さんは学生じゃありませんよ?球磨川さん」
『ははっ。やだなぁ。それぐらい見れば分かるよ、見ればさ』
「ではなぜ、俺を誘おうなんて真似するんだ」
『さっきも言ったけど、えー……泥舟ちゃんは僕たちになる素質がある。ただそれだけだよ?他に理由なんているかな。僕たちに』
「いりませんねぇ。私たちですし」
「………ならば、俺に信用させて見せろ。本当に仲間に誘いたかったのならな」


転ばずともただでは済まさない男。貝木泥舟。
一方的な情報交換を要求してきた。
この手際はさすが、と誉めるべきなのか。狡賢い、と貶すべきなのか。


『じゃあ、そうだねぇ。あの校門の前には、意識もはっきりしてない痛た気な少女と、目の見えない可哀相な青年がいるよ』
「まだだ」
『むぅ……。じゃあ………時計台とか行ったかな?僕も詳しくは知らないけど何か面白いものがあるかもよ』
「具体的には、どういう意味だ」
『全くもう、泥舟ちゃんは貪欲なんだから。僕はそういうところにはまったんだけどね。
うん、そうだねぇ具体的には、何かみんな仲良しそうに時計台の中からね。そこで僕は思ったよ。きっと時計台には何かあるとね!』
「―――――怒江。知っていたか?」
「い、いえ。知りませんでしたぁ。すいません………」
「そんな改まって謝罪などしなくてもいい。俺とお前はそんな仲ではないはずだ。
―――でもな、お前が本当に俺のことを思っているのであれば、その罪滅ぼしとして、急いで時計台まで確認して来てはくれないだろうか」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。行ってきますぅぅ!」


走る江迎。
そのスピードはとても水分不足に悩む少女のそれとは思えないものだった。
二人はそんな江迎の姿を見送って、何事もなかったかのように話を再開していった。
その内容にはあまりに意味のないものだらけだったので省略させていただこう。


『それにしても怒江ちゃんもいい人みつけたね』


恋人じゃねぇよ。



(第三話―――了)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年10月02日 08:35