冒し、侵され、犯しあう(中編) ◆xzYb/YHTdI


第四話 ~零崎双識


ナイフ。
一般的に両刃タイプで小型な武器の事を指す。
知名度としては、同じ、両刃タイプの剣などと比べると若干劣るがそこそこ知れ渡っておると言えるだろう。
だが、世の中のことなんであれそれが言えるように、知名度と内実は関係ない。
まず特筆すべきは、その小回りの良さだろう。比較的どちらの性別でも、使いこなせるものも多く、その内部では競争者も多きであろう。
しかし、そういった面もありどうしても、剣や刀と比べても、攻撃的な武器ではないと思われがちである。
それは大きな誤解である。実際、ナイフには攻撃的な特性ばかりである。
まず、普通の薙ぎ払いを行ったとしても、剣などとは違い、一撃一撃の隙はとても少ない。
好きな時に、攻撃の動き(モーション)を中断して、一時撤退なども比較的簡単に行える。
だが、ナイフの一番恐ろしい攻撃は、突きである。
剣などの突きは、一度着いた後、抜くにしろ、裂くにしろ、一度、握りなおすなど。そして空ぶった時はその動きを中断出来ない。
いわいる大きな隙ができるというのが普通である。
しかし、ナイフでは、そういったことが少ない。何故ならナイフは握りなおすなんて動作を行うまでもなく、抜け。
その攻撃が空ぶった時であれ、その後ナイフには何通りもの攻撃方法が残される。
左に薙ぐ。右に裂く。上に払う。下に卸す。後ろに退く。など。
その、利便性、携帯性は他の武器には中々ない魅力である。
だからこそのこの普及度だ。
だからこそ、零崎双識は、ナイフ使いに遅れを取るなんてことはそうそうない。
ましてや《弟》が、あんなのなんだから。

 ■   ■

朝日もそろそろ昇り始めたころ、一人双識は視界は暗闇の中佇んでいる。
否―――――そんな悠長な雰囲気など微塵も感じさせはしない。
ただただ、今後の行動を思案していた。
《家族》のために行動するのは難しい話だろう。
真庭蝙蝠を始めとして、敵なら傲慢なまでにごまんといる。
その中にはたとえ視界が見え無かろうが倒せるような奴もいるはず、いてほしいと願ってる。
しかし、何にも見えない中行動するのには危ない―――なんてものでは済まされないだろう。
地図も見れなきゃ、どこにいるかも分からない。
コンパスも見れなきゃ、どっちに進んでいるか分からない。
要は何も分からない。
そんな状態ではとてもじゃないが戦いどころではないだろう。
戦いするにも、逃亡するにも、騙すにも。
視界がなければ話にならない。
だから、動かない。一歩も動かない。
そして、気配を察知するのに集中し始めた。
平然と、ヒトゴロシの少女が零崎双識の間合いに這入っていることも忘れ。


(第四話――――了)

第五話 ~零崎人識と鑢七実と貝木泥舟と球磨川禊


七花。
私は―――悲しい。
私は―――悔しい。
とても―――憎たらしい。
強力さが。
強靭さが。
過強さが。
私は―――強いのですね。
とてもとても強いのですね。
至らず。
届かず。
役立たず。
七花の手を引っ張るばかり。
いつもいつも―――七花の、邪魔ばかり。
ここで果てるのも―――お似合いというもの。
私という半端者には、相応しい。
相応しい―――引き際でしょう。
けれど、七花。
七花。
私は―――悲しい。
硬き我が身が酷く悲しい
私は―――悔しい。
強い我が身が酷く悲しい。
とても―――憎たらしい。
虚しい我が身が酷く憎たらしい。
信じていたのに。
信じ続けていたのに。

―――終わり。

 ■   ■

箱庭学園。
とうとう、着いた。
鑢七花を求めて。求めて。求めて死ぬために。

「―――ふぅ。全くもって傑作だぜ。なんたって俺はこんなに疲れているんだろうな」
「それでしたら、この辺りで休んでいたほうがいいですよ―――いえ、悪いのかしら」

静かな声。それでいてとても暴力的な「それ」。
零崎一賊の一人「愚神礼賛」をも恐れさせた「それ」。
まるで、そこらへんの雑草を貶しているようなその声。
だが、少年はそれで、動じている訳ではない。――――「戯言遣い」という元より死んだ奴みたいな「それ」を知っているから。

そんな二人でも知らない。
この学園には既に鑢七花の姿は無く、代わりに、過負荷と呼ばれる《無為式》球磨川禊が存在していることを。

 ■   ■

『………知り合い?』
「あぁ、一瞬の間だけだったが、確かに俺はこいつを知っている」

「かはは、運命の再会ってやつか。運命的だねぇ」
「―――はぁ、ならあなたはさっきから知り合いに出会ってばかりではないですか。運命的でいいですね――いえ悪いのかしら」

結果、この二つのペアは出遭ってしまった。
そこから、何も生まれないというのに。

『ふふふっ。こいつはいいね。どうもここに来てから僕は人生で初めて、運に恵まれてきたようだ』

『こんな素晴らしい過負荷を二人も見つけるなんてね』

『やっぱり普段の行いが善良な物には神様も同情してくれるんだね』

『じゃあ、二人のお名前が知りたいな』

球磨川のテンションは異常……過負荷なまでに上がっていた。
貝木は既に諦めた節がある。

「では。―――私の名前は鑢七実です。覚えておかなくてもいいですよ。すぐに死ぬんですから」
「おいおい、自己紹介なんてする魂だったか。――――まぁいいか。俺は零崎人識だ」
『ふふっ。零崎ね。僕は球磨川禊だよ。ほら、泥舟さんも!』
「――――俺の名前は貝木泥舟だ。おい、球磨川。俺は確かに-十三組になるのは妥協してやったが人の名前を勝手にさらすのは頂けないな」
『ん?そうなの?じゃあ今度から気をつけるね』

と、ここで、球磨川は再びあの言葉を発した。

『ということで、君たち二人を-十三組に招待したいんだけど。どうかな?』

すると同時に、

「かはは、傑作だな。そんなの乗るわけねぇだろ」
「そうですね。私はいいですよ」

「「―――――」」

『いいね。七実ちゃん。そういう姿勢は別に嫌いだけど、気にいってるんだ』
「どうでもいいのですが。でも条件は付けさせてもらいます」
「ほぅ。言ってみろ」

「鑢七花の情報をくれたら入っていあげてもいいですよ。―――その-十三組ってやつでしたっけ」

『………知ってる?泥舟ちゃん?』
「姿外見が分からなければ話にならんな」
「あぁ、言ってませんでしたね。そう言えば。えーとですね。
頭髪はボサボサで黒髪です。背は高い部類だと思いますよ。比べる者を知らないので何とも言えませんが」
「ならば、俺には心当たりがあるな」

この時、一徹して鉄仮面を剥がさなかったその顔にほんの少し変化が訪れた。

「!どこですか。どこにいましたか」
「あぁ、教えてやる。だが確かにお前は言ったな、鑢。言ったら-十三組に入ると」
「ええ、言いましたね」
「だったら、俺を守ると誓えるか」
「ええ、誓います」
「ならば言おう。――――鑢七花はここから南西。場所で言うなら、クラッシュクラシックか、この塾の廃墟だ」
「あら。私の予想は外れてしまいましたか。まぁいいでしょう」

「では、死んでくださいね」

瞬間。刹那。一瞬。瞬く間。なんて既存の言葉では言い表せない速さで、七実は貝木の間合いに這入った。

「…………」

―――――ただし、そのまま殺された訳では無かった。

「おいおい、さすがにそりゃねぇんじゃねぇの。七実ちゃんよぉ」
「あら、人識君。いつの間にその辺りにいたのですか」
「そりゃあんたが動いてからだろうが」
「それもそうですね」

そこには、人識の姿があった。
そこでは、人識が七実の手を掴んでいた。
七実の暴走にストップをかけた。

「それにしても、何故止めたんです?それも気分ですか」
「まぁ―――――気分ちゃあ気分だな。それでも約束は守んなきゃいけねェと思うぞ。俺はな」
「とは言いましても、もうあの人いませんしね」
「逃げ足速い奴だな………」

そう。
またしても、貝木は逃げた。
というよりも、はなから逃げるつもりでいた。
七実はうそつきだ。そう直感的な物と経験的な物と雰囲気的な物がそうさせた。
ただ一つ予想外だったといえば、七実の予想以上の実力だっただろう。
何せ彼はあの時、初めて七実と遭った時、七実の力自体はほとんど見ていない。
その前に逃亡という手を選んだのだから。
それに、江迎との再会。それができた。ならばイコールして江迎でも、最悪乗り越えられる程度の敵だった。という考えを生み出してしまった。
別に甘んじていた訳では無かった。
別に軽んじていた訳では無かった。
別に気楽めに考えていた訳では無かった。
別に気休めで考えていた訳では無かった。
ただ、七実が想像以上だったという点があったから、予定が狂いそうになった。
最終的には、命は助かった訳だが、それは偶々の偶然の奇跡的な奇跡だったというのは重々承知していた。
だから、貝木はもう二度と同じ様な失敗はしないだろう。

「かはは、それなのにこっちの学生服はまだ残っているぜ。――――まるであいつみたいな球磨川禊くんはよぉ」
『―――それはねぇ。今までね。言おうか言わないか悩んでいたんだけど。やっぱり言うことにするよ。何せ僕たちは仲間だからね』
「俺は違ぇがな」
『うん、そうだったね。でもね、今から話す話は特に人識ちゃんに関係があるんだ』
「ちゃん付け止めろ」

『それは無理だよ。僕は皆に嫌われない様にフレンドリーに接しているって証拠なんだから。
でさ、多分君の知り合いであろう人のさ、無残な姿を直ぐそこに見たんだ。死んではいなかったけどね。―――あぁ、そういえばもう一人いたね。変な子が』
「ようするに、相討ちしていたってことでいいかしら。―――いえ悪いのかしら」

『いいや』『相討ちじゃあああはならないよね』『二人が同じ様に無残に倒れてる』
『なんてどんなアブノーマルであろうと、自分で自分の視力を失わせるのは不可能だ』
『あぁこれは本人から聞いた話なんだけどね』『これは明らかに第三者の仕業に違いない』
『一体どういう目的があってこんな面白半分の惨状を演出したのかはさっぱりわからないけど』
「――――どう考えてもあなたのせいとしか聞こえないんですが」
『おおっと!』『早とちりしないでおくれ』
『僕が来た時にはもうこうなっていたんだよ』『だから』


『僕は悪くない』


『だって僕は悪くないんだから』
「で、誰が倒れていたんだよ。禊くん」
『零崎双識っていってたかな。うん、そんな名前だ』
「……………………………………………――――――――――――――――――」

人識はこの一瞬の間で様々な表情をした。
戸惑いの様な、困惑の様な、歓喜の様な、戯言遣いの様な。

「――――かはは、ほんと何て俺は恵まれてんだろうねぇ!家族みんなにこんなにさっさと会えるなんてさっ!」
「全然本気で言っているように見えないのですが」
「本気じゃねぇからな。――――――わりぃが、ちっと確認して来ていいか。その兄貴の無様な姿をさ。
出夢の約束破る訳にもいかねぇから、まぁそこで何ともなかったら合流するから」
「では、そうですね………クラッシュクラシックか塾の廃墟に行ってますので。無理してくることは無いですよ」
「つめてぇなぁ七実ちゃん。ま、でもきっとすぐ合流することになるだろうよ」
『僕の言葉なんて信じられないのかい?』
「そうはいってねぇよ。ただ今回の相手が兄貴だったそんな気がしただけだ」
『素晴らしい兄弟愛だね。羨ましいよ』
「気持ち悪ぃ事言うな!………う、うわー、本気で鳥肌立ってきた……」
「どうでもいいんですが早く行った方がよろしいのでないのでしょうか」
「ん?――――あぁそういやそうだな。じゃあ行ってくるぜ」
『今度会った時は誘いに乗ってね』
「乗るかっ!――――ただでさえあいつに似てて嫌だっちゅうのによ」
「また会えないことを祈ります」
「………何なんだ、そのお前のキャラはツンデレか?ツンデレなのか!?」
「つんでれが何なのかは、島育ちの私には分かりませんが、きっと違うと思いますよ」
「――――はぁ…。じゃあ行ってくるぜ」
『あぁ最後にもう一個。ドラクエの村人B的なヒントをあげる』
「んだよ、全く。俺にはかっこよく場を去ることすら許せれねぇんかな」
『『時宮』か『死吹』がどうたらこうたらって双識ちゃんは言ってたよ、じゃあ気をつけてね』
「あぁはいはい。フラグならもらっておくよ。じゃあな、またすぐに」

今度は本当に走り去っていった。
箱庭学園の門のすぐ近く、零崎双識とヒトゴロシの少女がいるあの場に。
本当に人識は人の巡り合わせに恵まれているようだった。
知り合いをさっさと4人と遭遇できたのだから。
それが必ずしもいい出会いとは限らないけど。
もしかしたら、人識は双識が唱える一つの概念に出遭ってしまうのかもしれない。


『悪』という概念に。



(第五話―――了)



第六話 ~零崎人識と西条玉藻と零崎双識~


弟――――零崎人識に下されている、一賊の統一見解は―――異常につかみどころがない、よくわからない子供―――といったところで、
双識も、形の上ではそれに反対し、唱えている振りをしているが、それは実に言いえて妙だと思っている。

―――(中略)―――

始まった零崎は、敵が消滅するまで終わらない。


 ■   ■

双識の右手には、グリフォン・ハードカスタム。左手にはエリミネイター・00を握られていた。
人識の両手には、千刀・ツルギを握られている。
その両者が対面する。
―――――――――ヒトゴロシの少女は、本当はすぐそばに倒れているが、
人識の位置からは、ちょうど鬱葱となる木々が陰になり見えずにいる。

「君は、誰だい」

双識は問う。
目の前の、零崎人識という人物に。
双識としては勿論のことふざけて言っている訳ではない。
ただ、人識の『空気』を纏う目の前の人物の名を問った。

「俺は、俺だろ。零崎人識だ。――――おいおいいつの間に兄貴の目はガラス玉になったんだ?それに眼鏡はどうした」
「さぁな。私としてもいつの間に私の目がおかしくなったのか知りたいのだが、人識君は知らないかい?」
「………さぁな」

人識はある異変に気付く。
双識の目については既に球磨川がポロッと零していたのでそれとはまた違う異変。
それは、感覚的な物で勘的な物で。核的なこと。
気のせいと言われれば、そんな気もするが、そうだと言われたら、やはりか。と思えるほどの小さな異変。
《弟》だから気づけたと言えるほどの小さな変異。
内容、と言えるかどうかもどうにも分からないが、その実情は、

双識が《家族》に対して、何やらよそよそしい。

あり得ない話だった。
人を殺すには『愛』が必要とまでいう双識が、よりにもよって《家族》を敬遠する理由がない。

「もう一度聞くけど、君は本当に人識君なのかい?」
「しつけぇな。俺は零崎人識だ」

双識は悩む。
双識の中で、先の球磨川の言葉が、共鳴し合う。

    『家族の何を知ってるの?知らされているの』

双識には、心当たりがある。
《愚神礼賛》零崎軋識。彼が何か重大なことを双識自身に隠していることを。
些細な問題。そういわれたらそうだろう。否定をできる話ではない。
だが、《家族》を最もの信条とする、双識にはそんな言葉も、簡単に、逃すわけにはいかなかった。
だから、《家族》に対しても、疑心暗鬼に陥っていく。
簡単に、簡素に、単純に、安易に、安々と、易々と、《家族》を信じれなくなっていく。
それでも、双識は家族を信じたかった。信じていたかった。
《家族》を受け入れたかった。

―――――――だが、ここで、最悪のタイミングで、ヒトゴロシの少女が、起きてしまった。

同時に、一瞬の攻防は始まる。

スゥゥゥゥ

毒刀が、綺麗なラインで、双識の背を襲う。
そこには、殺気もなく、敵意もなく、悪意もなく、害意もなく、善意もない。ついでにいうと気配も感じなかった。
それでも、普段の双識からしたら、取るに足らないことだろう。
だが、生憎今は普段の状況とはかけ離れている。
視界がない。真っ暗闇。暗黒の中で、背後から襲われたって、幾ら鬼とはいえその攻撃を防げれるなんて思えない。
精神状態が、犯されていた。汚されていた。障られていた。
そんな状態で、しかも思案状態にあったの言うのだから、そんな急襲に応えられる訳でがない。
ありえないことが起きた。
あってはならないことが起きた。
血は吹きあがる。
血は噴きあがる。
最悪の状態に陥る。
最高の状態を堕つ。 
双識の意識は、朦朧としていた。血液が足りていない。貧血だ。
元々見えていない
そんな状態で、双識は余計なことを考えていた。

(誰だ?誰に襲われた?人を襲う時、何も抱かずに攻撃を出せる人間はいない。いたらそれは、ただの化物だ。鬼でもない。
なのに今、何も感じなかった。敵意も悪意も害意も善意も何も感じなかった。じゃあ、忘れかけていたがあの少女ではない。
あんな狂気の塊みたいな子にそんな芸当ができるわけがない。そんなことできるのなら始めからそうしているだろう。狂気を放つ意味などない。
じゃあ、何だ?きっと斬られた感じは飛び道具では無い。刀の類だ。でも誰が誰が誰が。
しかし、人識君以外そんな芸当はできないだろう。―――――いや、待てよ。それが『人識君じゃなければ』どうだ?
―――――――――――――――――――真庭蝙蝠―――――――――――――――――――。
あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。あいつだ。
そうだ、あいつが、私の視界が消えたのを知ったのをいいことにして、目の前で、堂々と、あの変身を行ったのだろう。
無力な人間に変身した後、私の背後にまわり、斬ったんだ。そうだ、そうだ。
それにしても、零崎の《空気》や、記憶までも真似るのか?そこまでは、考えがいたらなかったな。
そういえば、もう人識君の気配もはっきりしない。でも、そしたら人識君は?間違っても蝙蝠ちゃんなんかに殺されるとは思わないが…。
私の姿で、近づかれたか?たしかにそれなら、上手く行くかもしれない。…………ダメだ。血が足りない。思考が上手く働かない。―――意識が……)

そのまま、意識は闇に落ちた。

■   ■

人識は人識で、何があったかよく理解できていない。

どんくさい、などという理由などでは無く、ただ、いきなり後ろに人影が現れたかと思ったら、双識の背から血が噴き出した。としか理解できなかった。
しかし、それも一瞬の話で片付いてしまい、ようやく理解できたと思ったら、声を荒げていた。

「おいおい――――――なんでお前さんがいるの。西条玉藻ちゃんさぁ。つーか兄貴を勝手に殺そうとしてるんじゃねぇぞ。二回も人が死んでいい道理なんてあるか」

やはり、双識の考えは何から何まで誤っていた。
何も感情が無かったのは、ただ単に人を斬った。という感覚がなかったから。
双識の手に持つ、ナイフ二本を手に入れるために『邪魔な』物体を斬ったと感覚しか残っていなかったから。
人識の《空気》を感じれなくなったのはただ単純に双識がそれほどまでに弱ったため。
その前提状態を間違えていたのなら、最後の答えだけが、当たっているという奇跡は起こらない

ヒトゴロシの少女――――西条玉藻はその人識の言葉を無視して、ナイフ二本を求めて、双識に近づいていく。
――――しかし、その前に、人識は、目の前の双識から、ナイフを奪い取り、

「―――――ちっ。ほらよ、玉藻ちゃんはこれが大好きだろ!」

エリミネイター・00を、明後日の方向に思いっきり投げ捨てた。
とはいっても、エリミネイター・00は、ナイフにしては重い。
所詮速さを主点と置く人識では、そこまで遠くには飛ばずに終わった。
が、それで充分だった。

「――――――!!」

まるで、調教された犬が、主人の投げたボールを追いかけるがごとく、それを追いかけた。
満面の笑み。百万ドルの笑顔。

「………兄貴ともあろうお方が、随分とまぁ情けねぇな」

といいつつも、その兄の身体を持ち上げて、引き摺りながら歩きだす。
傷を癒すべく、西東診療所にへと。
先ほど、人識は七実に向かってツンデレ扱いしたが、人識の方がよっぽどツンデレだった。

「……視界を失うか。――――どう考えてもあの禊くんしかいねよなぁ。
ただなぁ、案外視界だから、禊くんの言うとおり、時宮だったりするのか?死吹ってのもありえなくはないと思うが…」

「悩みどころだ」

「だけどまぁ、兄貴の視界を奪った奴は」


「殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」


「殺さねぇけどな。赤色に殺されたくないし」

人知れず、ひっそりと人識はつぶやいた。


【一日目/早朝/D‐4】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、零崎双識を背負っている
[装備]小柄な日本刀 、千刀・ツルギ×1、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×3、ランダム支給品(2~8)、千刀・ツルギ×1
[思考]
基本:兄貴の視界を奪った奴をぼこる
 1:兄貴を西東診療所に運ぶ
 2:時宮、死吹に注意
 3:球磨川に注意

【零崎双識@人間シリーズ】
[状態]気絶中、出血(中)、精神疲労(大)、零崎人識に背負われている、『大嘘憑き』による視覚異常(備考参照)
[装備]
[道具]支給品一式、体操着他衣類多数、血の着いた着物、カッターの刃の一部、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:……
 1:零崎人識の《空気》を見ても一応気をつける
 1:他の零崎一賊を見つけて守る
 2:零崎曲識を殺した相手を見付け、殺す
 3:真庭蝙蝠、並びにその仲間がいれば殺す
 4:二度目の放送の後にクラッシュクラシックに戻る
[備考]
 ※他の零崎一賊の気配を感じ取っていますが、正確な位置や誰なのかまでははっきりとわかっていません
 ※現在は曲識殺しの犯人が分からずカッターナイフを持った相手を探しています
 ※真庭蝙蝠が零崎人識に変身できると思っています
 ※『大嘘憑き』による視覚異常は、残り30分


「うふ、うふふふふふぅ」

デジャブを感じてしまった方は申し訳ない。
ただしこれこそが現実であり、誇張表現もままならない状態であるので仕方がない。
西条は、エネミネイター・00を抱き寄せてうっすらと笑みをこぼす。
ここで、とあることに気づく。
もう片方のナイフが見当たらないことを。

「――――――――――――――ゆらり」

ある意味分かりやすい人物である。
西条は再び、歩きだす。
狂気を振り撒きながら。
凶器を振り回しながら。


【1日目/早朝/D‐4】
【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態]疲労(小)、毒刀・鍍による発狂状態
[装備]毒刀・鍍、エリミネイター・00@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~3)
[思考]
 あてもなく、ぷらぷらする。が、もう一本の方も欲しい
[備考]
※「クビツリハイスクール」からの参戦です。



(第六話―――了)

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最終更新:2012年10月02日 08:39