003


全くもって。僕たちの物語はいつになったら終止符を打ってくれるのか。
僕は以前から常々そう感じていた。
最終話と銘打ってからどれだけの月日が経ち、そのたびにカレンダーは捲られて、いくつもの暦が坦々として否応なく進んでいったことといったら。
そのお陰さまで僕のキャラが全力疾走でゲシュタルト崩壊を招き、負のスパイラルを巻き始めてしまったではないか。
どこをどう間違えたらニヒルなクールツッコミキャラから、
変態(じゃないけどここは崩壊の度合いを分かりやすく示すための誇張表現だ)なボケツッコミ両立キャラクターが出来上がるんだよ。
なんでドラゴンクエストの呪文で例えるところのマヒャドだった僕に、メラゾーマが加わってんだよ。
どんな二重攻撃だよ、技名にすると「凍る火柱」じゃねえか、矛盾すぎんだろ。
せめてそこはメドローアにしてほしかった。
光って主人公っぽいし。(全てを消滅させる云々は置いといてだ。決して妹のファーストキスを消滅させるとかそういう欲望の塊でいったわけではない)。

そんなわけで早く僕の崩壊を止めてほしいと願っていたところで天からの囁きで僕の耳にはとある伝聞を託された。
最終巻が出るという話を。
つまるところ僕は犯罪なんて犯しようが無いし綺麗なままで物語を終了することが叶ったのだ。
そもそもの話、欲望(性欲とは限らないが)の暴走が恐ろしいものだと身に沁みた僕にはもはや犯罪なんて無縁なのだから。
火災時の「おかし」がなんたるかを知った僕にとっては戯言も甚だしかったな。
あれだろ? 「押さない、駆けない、喋らない」だろ?
けどさ前に聞いたんだけどさ、それにも地域性があるみたいで。
場所によっては「おはしも」て感じらしいぜ。確か「幼い、はしたない、少女、戻さない」だっけ。
確かそんな感じだ。

話が何時の間にかずれていたが、そんな終了が立ちこめている中。
僕は新たな物語の火蓋を切って開けたようだ。
その名も靴物語! 副題は~こよみエンド~! 命名、忍!
ワクワクが止まらないぜ!
まあ嘘だけど。
リスペクトのリスペクトだ。

ともかくとして。
二度目の粗筋となるが(決してアニメドラゴンボール的な意味合いではない)、確かに僕の中では新しい物語は始まっている。
人殺しの話。
終わりなど見えない追いかけ物語。
語り部としてまだ完結していない物語を語るとなると些か侘しく心苦しく、先行き不安となってしまうがいた仕方ない。
ったく、たまには隣にいる忍ちゃんが語ってくれないものか。
だれだよ怪異には語り部をやらせんとか言った奴は、こっちの身も考えてほしい。
大体アニメの僕はほとんど一人称やってないだろ。
文字だよ、文字。やっぱ世間は三人称なんだって。
そうそう、主人公の主観とかはどうでもいいのさ、何が起こってどう解決したのか。これが重要。


004


さて、阿良々木暦、忍野忍一行は依然としてそこから動いていなかった。
策ともいえない奇策を練りこんで、編み出した結果がやはりその結果な訳なのだが。
地図が無い。
やはりこの失態がこの進行の遅れを表すのに一番適切なものである。
要するに云い方を変えるのであれば。地図が無いから動きたくとも動けない。
と、言うのが現状であり、その様子は阿良々木暦を幾らか苛立たせる。
こんなことをしている間にも恋人である戦場ヶ原ひたぎが死んだ――――そうなったと思うと苛立ちを回避させるのは難しかった。
そんな中、ようやくにして――――。

「ごめんなさい、僕が悪かったです」

び、びっくりしたー。
思わず声を出してしまう。
すると忍の方はこちらを向き(ちなみに体勢は僕が胡坐でその上に忍がいるままだ)不審者でも見てるかのような視線をくれる。
止めてくれよ、興奮するじゃないか。
にしても本当に三人称小説が始まるところだった。
とんだレボリューションもあったもんだな。
そんな事を思っていると忍の方から。

「……なに謝っておるのじゃ?」

なんて言われたので返す必要があろう。

「いや、どさくさに紛れて忍の身体のあちらこちらをいやらしく触っちゃったからさ」
「なんか話を逸らす魂胆は丸見えなのにおまえ様が言うとやけに説得力や納得のいく弁論じゃの」
「何を言ってるんだよ、僕はドラゴンボールを集めきった時に
 『ギャルのパンティをおくれ』と全力で答えれるほどのお約束を守り抜く自分の欲など決して見せない無欲な奴なんだぜ」
「結果的には性欲がきっちりと解消されとるの」
「しかし本当にウーロンは偉大だと僕は思うぜ。本来ああいった場面であればいち早く自分の欲のため仲間を裏切ってでもを言うべき場面なんだよ。
 それが悟空あれブルマであれなんであれだ。例えば億万長者になりたいとウーロンが言うよりも早く言えばそいつは億万長者になったんだよ。
 いわゆる争い事の種になるよな、今まで作りあげてきた友情なんて無に変えるぜ。だが、ウーロンという豚は違ったんだ。
 自らが非難の対象になることによってその争いごとを回避させたんだ。
 ギャルのパンティという誰も欲しがらないようない後腐れも残らない様なくだらいものによってな」
「長々とおまえ様はウーロンの立場を昇格させてなにがやりたいんじゃ」
「ようするにだ、時には変態的要素も必要だよな、って話をしたいんだよ」
「主人公あるまじき発言じゃな」

と。
楽しい会話をしている時間もお開きの時間が来たらしい。
瓦礫の山が崩れる音を聞いた。
近くに人がいる。
それを感じ取るには十分なものであった。

僕は忍を追い払い立ちあがる。
いよいよ――――僕の物語も輪廻に入る余地が出来たようだ。
僕は音源の方に視線をやる。
遠くはないようで案外近そうだ。

さて、じゃあ。ようやくと言ったところで。
殺し合い、バトルロワイアルへの初の乱入話を語る時が来たようだから。

精々足掻こうと思う。
反逆劇―――――第一章の始まりだ。

「いくかの―――我が主よ」
「おう、いこうぜ―――忍」


005



その道中。
轟音の根源へと辿りつこうと歩みを進めていたのだが。
僕は一つの危機的状況と遭遇する。
ていうか多分こっちが話の軸になってそうな光景を目の当たりにする。

いる人物は、妙な震え方をしているの白髪女の人を傍らに配置して。
橙色の髪を有する人物を二人の制服姿の女の子と男の子……ではなく二人の女の子が支える。
そのつかまっている奴に対面し何やら呟いている。

という言い方もまどろっこしいのでさっさと正体を明かしてしまおう。
首輪を律義に付けた五人の姿。
確か目に入る奴から順番に言っておこう。
白髪の女性―――そして奇策士、容赦姫もといとがめさん。
制服に身を包むは、病院坂黒猫さん。
違う制服に身を包むは、病院坂迷路さん。
鮮やかな橙色の髪をした奴は、想影真心さん。
そして何やら呪文みたいのを唱え中なのが―――時宮時刻

って、呪文って―――。
確か奴の呪文って――――。

「おい、忍」
「わかっておる、少々ピンチの様じゃからの」

《操想術》。
いわば、簡易的に行える催眠術。
名簿を見たときからヤバそうな奴とは思っていたが本当に乗ってやがった。

何て思っている場合ではない。
何気に色々と緊急事態である。
少なからず、お喋りをしている暇はなかろう。
忍は僕の影に隠れ、僕はその現場に急いで駆けだす。
別にこそこそと迫るつもりはない。
むしろ気を引けたのならそれで既に作戦はほぼ成功している。
呪文を止めれれば―――最重要目標は既に達成したも同然だ。

その作戦通りにことは進んだようで。
ある程度僕が近づいた時、その音に感づいたのか三人の視線を感じた。

ただ僕はその時には目を開いていない。
こいつに限っては、目を開かなければ勝てない相手ではないことを。
《操想術》に妥当することは可能なのは、名簿を見て――――知っている。

だから僕は。
不要湖の中を目をつむりながら走る。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「なっ………!」

恐らく相手、時宮が感じたことについては二つほどあるだろう。
一つに、僕が首輪をしていないこと。
二つに、《操想術》の打倒方法を知っていたこと。
つまり僕がそれなりのイレギュラーであることを感じ取ったのだろう。

「……守れ」

そう時宮のものであろう声が聞こえる。
正直言って僕は目の前の光景を知っている訳ではないのだが、それでも、もうそろそろ時宮と激突するであろう頃あいとみていた。
もしくは避けられているか。その二つに一つだと思っていたのだが。
―――なのだが。

「―――へ?」

僕がぶつかったのは、男性のごつごつした体ではなく、柔らかな女性のものだった。
さらに言うと僕にぶつかられた相手は、吸血鬼性がそれなりに上がって筋力も相応に上がっているはずの僕を受け止めた。
ようするに、時宮時刻を誰かが庇った―――それも異様な筋力を持つ奴が。

だが、まだいける。


まだ殺し合いを何とも思っていない様な奴を打倒するべく手札は残っている。



「忍――――やっちまえ」

途端。
僕の背後から気配を感じたかと思うと。

「ふはははは! ひれ伏せ! 愚民ども!」

変な高らかなる笑い声をあげながら、忍が懐中電灯で照らされて出来た影により―――現れた。
そこからは早かった。
きっと僕の頭上を越えたのだろう(僕の背が低いわけではなく、忍の跳躍力が異常なだけなのだが)。

「しのぶちゃああああああああああああん、キィィィッック!」

なんか変な方向にボルテージが上がっていることはさておいて(どうやら失敗を取り返したいらしい)。
忍は恐らく(生憎だが、万が一に備えて目は瞑っている)、ライダーキックの如く技を繰り出した―――と思う。
前々から思っていたのだが少なくとも初代の仮面ライダーたちはどのように空中からあのような方向転換しながら蹴れたのか不思議ではあったが、
生憎今回のライダーは忍である、そんなニュートンの法則がなんぼのもんだ。
ていうかおい、すげー砂煙が舞ってるじゃねーかよ。
しかし、だ。その時僕が聞いた時宮の声は、またしても。

「守れ」

の一言。
次の瞬間、ドサリ……と言った具合の効果音が僕の耳に届いた。まあそんな可愛いもんじゃなかったけど、一つの方は。
きっと、支えが無くなって真心さんの身体が地に落ちたのと、忍の奴に蹴られた―――多分病院坂のどちらかが吹き飛んでいったのだろう。
……最初見たときから少しは感じ取ってはいたものの、やはりそうだったのかな。
病院坂黒猫さんと、病院坂迷路さんが―――すでに《操想術》に掛かっている。だから、真心さんの体を支えていたのだろう。

まあそれならそうで、解かせればいい。
骨折とかしてないといいのだが。
だが、次に聞こえてきたのは忍が起こす乱闘の音かと思いきや。

「退くぞ、黒猫、迷路」

遠くの方から聞こえた時宮の台詞。
同時に僕の前にいた人物、黒猫さんは足早と立ち去ってゆき、僕はそのまま体重をかけていたせいで転び落ちることとなる。
そして次に聞こえてきたのは。

「おまえ様。逃げられたぞ」

そんな忍からの一言。

「――――は?」

と、伏せていた僕は顔だけでもぱっと上げると、
そこにはいたのは、約三つの人影。
倒れ伏す想影真心さんと、呆然としているとがめさんと、やれやれと言った具合の忍。
時宮時刻と病院坂黒猫さん、迷路迷路さんの姿は遠目でうっすらと見えた。
そして、近くにあったガラクタの山を崩壊させつつ、道を崩しながらに進んでいった。

「いやのう、儂が空中に飛んでる間に逃げ出したかと思うと、山を崩してきおるからの」
「いや、そのさせる前の時点でおまえなら何とか出来たんじゃないのか?」
「そうはいうけどのお、あの迷路とか言ったかの。あやつが邪魔して所為でな。なにかと不自由じゃたんじゃよ。本気で薙ぎ払うわけにもいかんしの」
「……成程な」

と、僕は砂埃を払いつつ。
僕は得心もいったので、この話をいったん打ち切る。
過ぎたことを言ったところで仕方がないだろう。

と、言うところで。
僕は残った二人の様子を伺おうと思って立ちあがったんだけど。
同時に駆け足の音。
そして、声。

「おい、おまえら」

乱暴な声。
振り返ると、そこにいたのは制服姿の男―――櫃内様刻。
血相変えて僕たちに迫りくる。
とはいえまあ理由は大方予想付いてるけどさ。

「なんだ、おまえは」

余所余所しいがそう呼ばざる負えないからな。
なんだかまどろっこしいがここは我慢の時だろう。

「病院坂黒猫と迷路ちゃん―――制服姿の女の子二人と一人の男を見なかったか」

案の定、予定調和。
きっとこのタイミングで現れたということはそう言うことなのだろう。
だから、僕は。

「あっちに行ったよ」

と、正直に言い、指をさしておく。
《破片拾い》、最善を尽くす人物。
殺しまでするかはどうか分からないけれど、どうやらあの人物を敵視しているのは目に見えている訳だし。
ここであの男を屈することに成功さえすれば、あの男の無力化に成功する訳だし。

「そっかありがとう」

というと踵を向けて走りだした。
僕はその背中を見ながら、一つ。

「目を合わすなよ」

と助言を一つ。
本当であれば、僕が行くべきなのは分かっているし、
そうでなくとも僕が付いて行くべきなんだろうけれども。
この意識が混濁して身体が麻痺しているような状態の二人を置いていくわけにはいかない。


それこそ、世界よりも目の前の女の子を救った方が後腐れがないし、後悔もしないだろう。


ここで僕が行ってしまったらそれはそれで僕がここにいる存在意義を見失ったも同然だ。
だから、僕はここにいよう。
せめてこの二人が立ちあがるまでは、ここにいよう。
様刻君が返り討ちにされるかもしれないけれど…………どうやらその必要もないみたいだし。



「よっ、ほっ、ふんっ、ぬ……やっと、抜けれたぜ。あー首が痛ぇ」



斑模様な髪が特徴の殺人鬼。零崎人識がここにいた。



傾物語【怪】 ~こよみゾンビ~(2) 投下順 [[]]

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最終更新:2011年12月10日 23:06