Broken Destiny 01
4月11日(月) 八十稲羽駅 改札口
「改札口…」
シン・アスカの目の前にあるのは駅の改札口。駅から出るにはここを通過しなければならない。
だが、訳もわからずに今の状況に直面させられたシンは切符など持っていない。
「強行突破するか…?」
改札口の隣にある個室には中年の駅員が一人、改札口に面した窓口からシンを見ている。
ほとんど人がいない駅で立ち尽くすシン。その気が無くとも目立ってしまう。
全力で走れば逃げられるだろうが、面倒事を起こすのは状況が掴めない時分、するべきではない。
「どうしようか…」
『ズボンの右ポケットに切符がありますよ』
「ポケット…お、あった。って、誰だ!?」
頭の中に響く声。本日何度か聞いているが、この声は今までと違う声だった。
『私のこと忘れたんですか? ひどい、あんなに激しく私の中で私を弄んで、挙句の果てには
ボロボロにされ捨てられたのに、ひどいですマスター』
自分の今までの人生を思い返してみる。思い返すまでもなく、シンにはそんな経験は無い。
「な、何言ってんだよ。 俺はそんなこと誰にもした覚えないぞ!」
『ぷっ…クククククク。 やっぱりマスターはいいですね。 いじりがいがあります。
私はデスティニー。 正確にはZGMF-X42Sデスティニー、マスターが搭乗していたモビルスーツです』
デスティニー。ここに来る前に確かに乗っていて撃破された愛機。頭の中で響く声はその愛機の名を名乗った。
「は、はぁぁぁ?」
『ある御方にマスターのナビゲートを頼まれました。
あ、オペレータではないので、ソードシルエット等は呼べません。 あしからず』
「まだ夢見てるんだな、俺は」
『夢ではありませんよマスター。 マスターにはこの世界の、この町で、一年間過ごして貰います。
そして、ゆくゆくは世界を救ってもらいます』
「世界を救うって…中盤をかっ飛ばしすぎだ!!」
『最初から全てがわかっていたらつまらないじゃないですか。 それに、それじゃあマスターの為にはなりませんよ』
「こっちは今の状況が何もわかってないんだよ!! なんでお前が喋ってる? ここに飛ばした奴は誰だ? ある御方って誰だ?」
『と・に・か・く、マスターはこの町で一年間生活して、世界を救ってください。 これ以上、乙女にしつこく質問すると叫びますよ』
モビルスーツに乙女も糞もないだろと心の中で思うシン。
『聞こえてますよ、マスター』
「…はぁ、もういい。 それで、俺はこれからどうすればいいんだよ?」
『駅の外を見て下さい』
シンはこれ以上の言及は諦めて、言われたとおり駅の外を見た。
寂れた駅前の広場には中年の男性と、その娘らしき女の子が居る。二人ともこちらを見ていた。
『これから一年間、あの人達の家の居候になります』
「居候になりますってなんだよ!! 全然知らないぞあの人達」
『今のマスターは、あの男性の甥っていう設定なんですよ』
「設定ってなんだ設定って!!」
『ホント突っ込みの鬼ですね~マスターは。
マスターをここに飛ばした御方が、元々居た人物とマスターの情報を入れ替えたんですよ。
あ、でも安心してください。 マスターが世界を救えば全部元通りになりますよ』
「入れ替えたって…元の奴はどうしたんだよ?」
『安心してください。 彼なら今、CEで大活躍してますよ。 あ、あとミネルヴァの皆さんはほとんど無事ですよ』
無事ではないクルー。シンにはそれが誰なのか、なんとなく分かってしまった。
「……元の世界に戻りたければ世界を救ってみろってことか」
親友だった彼の冥福を祈るためにもシンは帰らなくてはいけない。
『そういうことですマスター。 ほら、早く行かないと、さっきから駅員さんがずっとこっちを可哀想な瞳で見てますよ』
駅員の方を見てみる。 確かにデスティニーが言うように可哀想な人を見る瞳でこちらを見ていた。
「し、失礼しました~」
改札に切符を入れ、シンは足早に立ち去った。
駅を出たシンに中年の男性は声を掛けた。
「おーい、こっちだ」
『ほら、マスター呼んでますよ』
「あ、ああ」
『大丈夫ですよマスター。 私がサポートします』
それが不安だ、と心で思いかけて止める。
歩み寄ったシンに男は握手を求め、シンはそれに応じる。
「俺は堂島遼太郎。で、こっちが娘の菜々子だ」
「…にちは」
少女はよく聞き取れない声で何かを言い、堂島の後ろに隠れた。
「ははっ、こいつ照れてんのか」
図星だったらしく少女が堂島の太股を叩く。
『マスター、鼻血出てますよ』
「はっ…」
いつの間にかシンの鼻から血が流れ出している。
「お、おい、大丈夫か?」
「あ、はい。 よろしくお願いします」
「そ、そうか。…じゃあ行くか。 こっちだ付いて来い」
駐車場へ歩いていく堂島にシンも付いていく。
『マスター。くれぐれも犯罪者にはならないでくださいね』
『うるさい!!』
家に向かう途中、菜々子のトイレのついでにガソリンを入れるために、ガソリンスタンドに寄ることにした。
「らっしゃーせー」
声の大きい店員が堂島車を迎え入れる。菜々子はトイレに、堂島は一服するために店内に入って行った。
一人残されたシンに店員が話しかける。
「ここ、なーんもなくてビックリっしょ?」
「はぁ…」
「そうだ、ウチ、今バイト募集中なんだ。 ぜひ考えといてよ、高校生でも大丈夫だから」
店員が握手を求めてきた、シンもそれに応じる。いつの間にか店員の後ろに菜々子がいた。
シンをじっと見つめている。
「うっ…」
眩暈がした。
『また鼻血出ていますよ。 マスター』
鼻の下を拭ってみる。確かに鼻血が出ていた。
『なあ、デスティニー。 俺って避けられてるのか?』
『初対面で、突然鼻血を流す人にあまり好い印象は受けませんね』
『いや、すごく可愛かったから…』
「大丈夫?」
眩暈を見て流石に心配だったのか、菜々子から話しかけてくれた。
「ああ、大丈夫だよ」
「本当?」
「本当だよ」
シンの顔は満面の笑みであった。
『マスター、キモイです…』
堂島家に到着し、夜を迎えシンはささやかな歓迎パーティを開いてもらった。
途中で堂島が仕事の為に抜けたために、今はシンと菜々子、あとデスティニーの二人と一機だけである。
「「…」」
会話のない、異様な空気に耐え切れなかった菜々子がテレビを付けた。
美人お天気お姉さんの天気予報が放送されている。
「お、お父さんって仕事何してるんだ?」
「ジケンのソウサとか」
「警察なんだ」
「うん、ケイジ」
「へぇ~…」
間が持たない。シンは元々、会話が得意な人間ではない、赤の他人、しかも別世界の少女と会話を弾ませる能力は無い。
先程まで喧しかったデスティニーも、ワザとらしく黙っている。
テレビからは議員秘書のスキャンダルが放送されている。当然シンにはよくわからない。
菜々子もよくわからないらしく、チャンネルを変えた。写ったのは大型ショッピングセンターのCMだった。
感じの良い声のお姉さんが爽やかなフレーズを歌っている。
「エブリディ・ヤングライフ! ジュネス!」
菜々子がテレビの後につけ歌った。
「ふえっ!?」
『マスター変な声~』
「どうしたの?」
「い、いや…」
異世界の子はわからないと思いつつ、鼻血を拭くシンであった。
霧が視界を奪う奇妙な場所でシンは目覚めた。
シンは歓迎パーティーの後、後片付けをしてすぐに部屋に戻り就寝したはずである。
当然部屋に霧などかかっていなかった。
『デスティニー!!』
就寝する前まで鼻血のことで大爆笑していた愛機を呼んでみるが、返事が無い上に、気配も感じられない。
「度々変な事が起こるな、この世界は。 …とりあえず進んでみるか」
霧に包まれた通路を進んでみる。しばらく進むと扉があった。
シンが扉の前に来ると中に人の気配がした。 扉を開け中に入る。 相変わらず霧に包まれているその場所には人がいた。
姿は見えない。 しかし、確かにそこに人がいるのを感じる。
「…霧は何処までも深くなるよ。 君は面白いね。 いつかまた、会えるのかな。 フフ、楽しみにしてるよ」
その“人”が喋り終えた時、シンの意識は遠くなっていった。
最終更新:2009年09月09日 05:24