『決意と絆と覚悟と思い 前編』
シン 「・・・痛っ! 」
デス子『だ、大丈夫ですか、マスター!』
シン 「右手のフルゴールは完全に逝ったか。けど、骨は折れてない。まだやれる!」
先の場面、シンは攻撃が届くか届かないかのぎりぎりのタイミングで、長距離ビーム砲をパージし盾として使用していた。
中に蓄えていた高密度の魔力が爆破、拡散したことで、魔力素同士が干渉し合い
ブラストカラミティの威力を大幅に減衰させたのだ。
だが、酷使のし過ぎでボロボロになったソリドゥス・フルゴールには、
驚異的な威力を誇る合体魔法を相殺するだけの余力は残されていなかった。
他の武装もいくつか損傷し、防ぎきれなかったダメージは確実にシンの体に蓄積している。
そのまま身を隠さず二回戦に突入していたら、確実にそこらを漂う残骸の一つになっていたに違いない。
この一帯には戦闘で生じた闇の書の闇の肉片の一部がスペースデブリのように漂っている。
それらは全てシンの最初の一撃で生じたものでありシンの魔力を帯びていた。
これなら、シンの発する魔力も中に紛れて見つかることはないだろう。
シン(残った防御手段は、左手のフルゴールと対ビームシールドだけ。
おまけに衝撃で手甲にまでひびが入っている。右手のパルマフィオキーナも使用不能だろうな。
長距離ビーム砲も・・・俺の魔力精製技術じゃ再構築は無理か)
残された攻撃手段は、フラッシュエッジが二本と腰にマウントしたビームライフル、背中のアロンダイト一本だけ。
議長の前では言えなかったけど、もう少しデスティニーには武装を積んどいて欲しかったな、と
シンはぼそっと呟いた。
シン「デス子、俺はいいからヴォワチュール・リュミエールの損傷を教えてくれ。
ここで飛べなくなったらシャレにならないからな」
この空間は、空中は無重力でも地面に降りればしっかり重力がある。
ただでさえ遮蔽物が少ないというのに、この上重力の網に捕まれば格好の餌食だ。
(力場の形としては円筒形コロニーが一番近い)
デス子『大丈夫です。被弾はしていますが機能に問題ありません。きっと、体が合体攻撃のタイミングを覚えていたからですね』
デス子は魔法を喰らい慣れてることが逆に幸いしましたね、と笑っているが、
実際に地獄を見てきたシンは苦笑いを返すことしかできなかった。
シン「・・・素直に感謝できないぞ、それ。・・・・現在の状況は?」
デス子『残骸にのこった魔力がチャフの役目をはたしますし、私たちの魔力反応は
ミラージュコロイドを散布して拡散させてますから、視認されない限りはまず見つからないと思います。
けど、これも後何分持つか・・・』
淡々と会話しているが、デス子は内心でシンの成長ぶりに驚いていた。
昔なら考えなしに突っ込んでいたはずなのに、今ではあらかじめこの事態を想定して逃げ道を作っておく周到さまで獲得している。
何も遮蔽物のない空間で広域攻撃型の相手を相手にするのは自殺行為である。
ならば、電光石火の一撃でこの空間に奴の肉片をばら撒き、身を隠す場所を作り出せばいい。
バリアが完全に展開される前に、シンが長距離ビーム砲で闇の書の闇の胴体を吹き飛ばしたのは、
小手先のダメージではなくこれを狙ったものだった。
デス子(CEにいた頃とはまるで別人のように冷静に・・・。
あのマスターがここまで調教されるなんてどんな訓練をされたんでしょうか?)
まぁ、毎日毎日生と死の境目を彷徨っていれば勝負度胸も付こうというものだろう。
機動六課の地獄の訓練によって、シンの戦闘スタイルは昔とは真逆といっていいほど大きく変化している。
それもこれも、訓練の際に彼を鍛える担当になったシグナムがシンが数々の強敵を破ってきた大元である『激情の力』を、
彼の最大の長所であると同時に最大の弱点でもあると見抜いたからだ。
敵をすばやく倒すことが大勢の人間を救うことに繋がる。
そのためなら(自分も含めた)多少の犠牲には目をつぶるべきではないのか。
そう主張するシンに対して、シグナムは否定も肯定もせずただ静かな口調で答えた。
敵を殺すだけなら、怒りや狂気に身を任せてもいい。
しかし管理局では犯罪者はあくまで生きたまま捕縛することが原則だ。
殺すことが目的の軍隊とは違う。
第一闇雲に突っ込むだけでは、味方を混乱させ被害を増やすのが関の山だ。
『それでは何も守れない』
シグナムの言葉が親友のいった言葉と重なって聞こえ、シンは何も反論できなかった。
シンの『それ』はシグナムの言うとおり『守るための戦い方』ではなく『殺すための戦い方』。
激情に任せただただ目の前の敵を狩り続ける。そんな『強さ』で誰を守れるというのか?
そう、実際に守れなかったのだ。なにもかも。
――――――その事実が他の何よりも深くシンの胸に突き刺さった。
結局、そのことが原因でシンは戦闘の基礎中の基礎から徹底的に叩き直されるはめになったと言うわけだ。
(他にも短気や単純など弱点がぽんぽん露呈していくたび散々矯正されたのだが、それはまた別の話)
例:シグナムの教え
- どんな状況下でも『冷静さを失わない』こと
- 相手をよく観察し『動きの癖と弱点を分析する』こと
- 戦いは常に読み合いである。必ず『二手、三手先を読んで行動する』こと
- 『地形をうまく利用、征すること』『周りの状況を把握し続けること』etc・・
シンが戦闘中に自分を見失うことなく、冷静に状況を判断できるようになったのも、
シグナムに散々しごかれたおかげである。
デス子『でも、その程度の強さじゃ闇の書の闇にはとうてい及ばない。・・・・引き際はわきまえるべき・・・だよね』
シン「・・・・デス子?」
デス子『あ、はい! 何ですかマスター!』
シン 「戦闘中にぼーっとするなよ。フィールドの分析は終わったのか?」
デス子『え~と、それならもう済ませてあります。魔力反応を分析した結果、物理と魔法が交互に合わさった
複合四層式バリアと判明しました。十年後の情報どおりですね』
シン「なら、計算上『こいつ』で奴をコアごと破壊できるはずだな」
シンは懐にしまった『厳重封印されたレリック』をじっと見つめた。
不気味に赤い光を放つ『それ』は、下手に弄れば奴もろともこの空間をまるご
と破壊できる威力を持っている・・・らしい。
(シンはその威力を資料でしか知らない)
この戦い、この切り札をどう使うかが鍵になるはずだ。
シン「さて、真っ向勝負じゃ勝ち目がないって身をもって知ったことだし・・・」
シンは残骸の陰からそっと闇の書の闇の様子を窺ってみた。
――――――いる。デス子の言うとおり、闇の書の闇はこちらを見失ったらしく
周りから生えた触手と共にしきりに辺りを探っている。
こちらを死んだと確認するまで、まず引っ込むことはないだろう。
(もっとも、こちらもこのまま引っ込ませるつもりなどなかったが)
シン「あの様子なら、あと数分は時間が稼げそうだな。さてと、これからどうしようか
とりあえず魔力はまだ残ってるから・・・」
デス子「・・・・まだやるんですか、マスター?」
シン「当たり前だろ。デス子も何かないか考えてくれ」
シンはこれまでの戦いから対処法を考ようと頭をめぐらせる。
奴の魔力量はほぼ無尽蔵だから魔力エンプティは期待できそうに無いとして・・・。
広域攻撃魔法をまとめて撃った後はしばらくチャージが必要みたいだから、その隙を突けば接近できそうだな。
問題はどうやってあの弾幕をくぐり抜け、奴に近づくかだ。
シン(いや、ダメージを気にしないなら行けるかもしれない。闇の書の強大な魔力が生み出す破壊力は確かに強大だ。
でも、幾ら魔力量があったって収縮して撃てないなら勝機はある)
幸いにも、闇の書の闇のスタイルは広域攻撃型。
より多くの敵を一度に倒すために、圧縮不可能なほどの魔力を一撃に込め、わざと攻撃を
拡散させ敵全体を一掃するスタイルをとっている。
シン(そして『俺』なら・・・。いや、俺だからこそ突破できるはずだ)
これまで多くの強力な魔法をその身に受けて、魔法に対し圧倒的な耐性を
持っているシンなら下手な魔導師よりもはるかに頑丈だ。
現に直撃が無いとはいえ、あれほどの攻撃を浴びてもシンはまだ生きている。
シン(武装も魔力も心許無いけど・・・。ここまで来れたんだ、やってみせるさ!)
何とか闇の書の闇を倒そうと躍起になるシン。しかし、それを見るデス子の目は非常に冷ややかだった。
デス子(・・・・マスター、やっぱりあなたは前と同じ轍を踏むつもりなんですか・・・?
あなたがもしそうするなら・・・私は・・・。)
そして、デス子は最後まで戦おうとするシンと全く逆の選択肢を選んでいた。
――――――リインフォースを見捨てるという、避けては通れない選択肢を。
最終更新:2011年01月04日 12:15