PERSONA4 Broken Destiny 5話 Reach Out To The Truth -First Battle-
八十神高校 体育館
4月15日金曜日、雨。 午後の授業中、急に全校集会が開かれた。 整列する生徒達の中で一際暗い顔をしている生徒が居る。
「はぁ」
シンが本日一番の溜息を吐いた。
どうしてシンがこんなに元気が無いのかというと、堂島が仕事の為に朝早く出て行き、心配していた菜々子が笑顔を見せなかったからである。
昨日の疲れをその笑顔で癒すつもりであったが、見れなかったために昨日の疲れを残していた。
「雪子、午後から来るって言ったのに…」
シンの前に並んでいた千枝が携帯を見ながら言う。 雪子のことを心配しているようだ。
隣の陽介も暗い顔をしている。 彼らの周りは空気が少し淀んでいた。
そうこうしているうちに校長の話が始まった。 白い立派な髭を蓄えた仙人みたいな校長である。
「三年三組の小西早紀さんが…亡くなりました」
シンは自分の耳を疑った。 小西早紀、一昨日初めて会ったばかりの彼女は少々お節介であるが、憎めない人物である。
近しい人の死にシンは唇を噛み締めた。
周りの生徒の話に拠ると、小西は今朝、電柱に吊るされて遺体で発見されたらしい。
「遺体で発見ってそんな…」
千枝が振り向き陽介を見る。 陽介は俯いていた。
集会が終わり、シンと千枝が教室に帰る途中にも小西の話は校舎のあちこちで話されている。
その中には小西を誹謗中傷する内容もあった。
「なあ…お前ら、昨日あの夜中のテレビを見たか?」
いつの間にか後ろに花村が立っていた。 夜中のテレビと言うのはおそらくマヨナカテレビのことだろう。
昨日あのまま寝てしまったシンは首を振る。
「あんた、こんな時に何言ってんの? 先輩死んじゃったんだよ?!」
千枝が激昂する。
「いいから聞けって!!」
陽介が声を荒げる。 陽介の真剣な瞳に、何かを察したシンは千枝を宥めた。
「…あのテレビに何かあったのか?」
「俺…どうしても気になって昨日も見たんだよ。 映ってたの…あれ小西先輩だと思う」
「まさか…」
「見間違いなんかじゃない。 先輩、なんか…苦しそうに、もがいているみたいに見えた。…それでそのまま画面から消えちまった」
「なによそれ…」
「先輩の遺体、山野アナと似たような状態だったんだろ? …前にクラスで山野アナが運命の相手だって言ってた奴がいたんだ…」
「運命の相手…マヨナカテレビに山野アナが映っていた…そう言いたいのか?」
陽介が静かに頷く。
「じゃ、じゃあ、あのテレビに映った人は、死んじゃうって言いたいわけ?」
「そこまでは言い切らないけどさ…偶然にしちゃひっかかるっていうか…テレビの中にいたクマって奴も誰かが人を放り込むって言ってたし
あそこの部屋も明らかに事件に関係性がありそうだし、繋がってると思わないか? なあ、俺の言ってることどう思う?」
「…まだ確実なことはわからない。 だけどあの場所は臭すぎる」
「お願いだアスカ、俺をもう一度あの世界に連れて行ってくれ。 もう一度あそこに行って確かめたいんだ、先輩が何で死ななきゃならなかったのか…」
陽介が俯く、どうやら泣いているようだ。 シンが陽介の肩に手を置く。
「行こうか、陽介」
「ええっアスカくん!?」
「い、良いのか?」
シンが頷く。 大切な人を失った悲しみは、シンにも良く分かる。 陽介の力になりたい、シンはただ純粋にそう思った。
「じゃ、じゃあ、準備してジュネスで待ってるからよ!」
嬉々として陽介が走り去っていった。 隣の千枝が対照的な顔をしている。
「大丈夫さ、多分」
「多分って…かなり心配なんですけど」
ジュネス 家電売り場
テレビコーナーに辿り着いたシンと千枝を待っていたのは、ロープを腰に巻きゴルフクラブを持った陽介だった。
その姿はシュールであったが、真剣な眼差しの陽介を見て、あえてそこには突っ込まないことにした。
「来てくれたのか!」
「約束しただろ?」
「ちょっと二人とも止めなって、危ないよ」
千枝が二人を止める。 しかし、二人は聞く耳を持たない。
「千枝はここに居たほうがいい。 陽介、早速行くぞ。 その格好でここに居るのは、明らかに目立つしな」
「こ、これは…里中、コレ持っててくれ」
腰に巻いていたロープの先を千枝に渡す。 戸惑いながらも千枝は受け取った。
「コレッて…花村、まさか命綱?」
「お前にはコレ渡しとく」
そう言って陽介は、手に持っていたゴルフクラブをシンに渡す。 確かに武器を持っていた方が心強いとは思うが、ここでクラブなんて持っているのは恥ずかしい。
「は、早く行こう!」
シンは陽介の手を取り、急ぎテレビの中に突入した。 画面に大きな波紋を残し、二人はテレビの中へ消えた。
その場に残された千枝がロープを少し引っ張ってみる、テレビ画面の中からロープの先が現われ床に落ちた。
「早速ダメじゃん…」
深い霧がかかった、スタジオらしき場所にシンと陽介が放り出された。
二人が周りの景色を確認する。 昨日と同じ場所に出たようだ。
「入り口と出口はリンクしているみたいだな」
「キミたち、なんでまた来たクマ」
声が聞こえた方向を二人が見る。 特徴的な形の着ぐるみを着たこの世界の住人、クマがいた。
「わーかった! 犯人はチミタチだクマ!!」
クマが突然声を荒げてシン達に詰め寄る。 怒っている様だが全く怖くはない。
「お前、クマ! ってか、今なんつった!? 犯人!?」
「それって昨日お前が言ってた、誰かが人を放り込んでいるってやつのか?」
「そうクマ。 そのせいで、こっちの世界はどんどんおかしくなってるクマ」
元からおかしいじゃないか、という突っ込みをシンは心の中に留めた。
「キミたちは自分達でココに来れる。 よって、一番怪しいのはキミたちクマ! キミたちこそココへ人を入れてるヤツに違いないクマ!!」
したり顔でクマがシン達を指差す。
『デスティニー。 こいつ殴っていいか?』
『思いっきりやっちゃって下さい』
シンがクマに拳骨をお見舞いする。 あまり手ごたえはない、着ぐるみが衝撃吸収剤になっているようだ。
「痛いクマ! 何するクマ!!」
「ここに放り込まれた死んじまうかも知れねーだろ! そんな危ねーこと…ってまてよ!!」
「どうした陽介?」
「誰かがここに入れてるって話、先輩や山野アナの話か? その誰かってのが二人をここに放り込んだのか?」
「だからそれがキミタチクマ!!」
再びクマがしたり顔でシン達を指差す。 シンの拳骨が飛んだ。
「俺達じゃないって言ってるだろ!」
「証拠あるクマか!? 放り込んでるのキミらじゃないって証拠!!」
「そ、それは…」
三度クマがしたり顔をした。 すかさずシンの拳骨が飛ぶ。
「ぼ、暴力反対クマ…」
「俺達の世界では霧が出る度に死体が上がってる。 その事件とこの世界の関係を調べに来たんだよ!!」
「霧が出る度に死体…? そっちで霧が出る日は、こっちだと霧が晴れるクマよ。 霧が晴れるとシャドウが暴れるから、すごく危ないクマ」
『シャドウ?』
聞きなれない言葉にシンが反応する。
「ははーん、やっぱりキミタチが犯人クマね!!」
本日四度目のしたり顔、今度は陽介が切れたらしく、クマの後ろに有ったジッパーを一気に外す。 顔と身体が切り離された。
「中身が無い…?」
着ぐるみの中には人もコンピュータの類も入っていない、文字通り中身が無いのである。 顔と体が別れながらもクマはまだ動いていた。
クマが落ちた顔を拾い、体とくっつける。
「もう乱暴クマね。 しょうがないクマ、キミタチが犯人じゃないって信じてあげてもいいクマ」
こんな世界があるのだ、どうやって動いているか分からない、着ぐるみがいても不思議ではないと、シンは無理矢理納得することにした。
「キミタチが真犯人を見つけるクマ。 そしてこんな事を止めさせて欲しいクマ。 約束してくれないなら出口を出してあげないクマ」
「へへん、こっちにはロープが…って切れてんじゃん!!」
陽介が腰に巻いているロープを確認する。 しかし、ロープは陽介が巻いている分と少しを除いて切断されていた。
『…なあ、デスティニー、俺をこっちに飛ばした奴が言ってた謎っていうのはこのことか?』
『さあ。 私が頼まれたのはマスターの案内だけです。 謎の中身は聞かされていません』
『案内って…それすらまともに務めてないだろ、お前』
「頼めるのキミタチしかいないクマ…約束してくれるクマか?」
先程とはうって変わり、弱々しい声でクマが言う。 シンも鬼ではない、助けを求める者がいれば放っておけない。 それに帰れなくなるのは非常に困る。
「わかった、約束する」
「よ、よかったクマ」
クマの顔に笑顔が戻る。 というかどうして着ぐるみに表情が付くのだろうとシンは心の中で突っ込んだ。
「半ば脅されたみたいなもんだけどな。 とりあえず俺は花村陽介、でこいつがアスカ・シン。 お前の名前は?」
「クマはクマクマ」
「まんまだな…」
そのままの答えに二人は苦笑する。
「でも捜すったってどうすりゃいいんだよ?」
「それはクマにもわからんクマ…でもこの前の人間が入り込んだ場所はわかるクマ」
「小西先輩のことか!?」
クマの言葉に陽介が反応する。
「センパイ? この前消えた人間クマ。 何か手がかりがあるかも知れないから、そっちに案内してみるクマ」
シンが頷く。 それに続き陽介も力なく頷いた。
「あ、そうだ、案内の前に二人ともこれをかけるクマ」
そう言うと、クマが何処からともなくメガネを取り出し、シン達に渡した。
「メガネ?」
渡されたメガネをシンがかけてみる。 すると、辺りに掛かっていたはずの霧がなくなっていた。
「視界がクリアになった!?」
「じゃあ、行くクマ。 あ、クマに出来るのは案内だけだから自分の身は自分で守るクマ」
『少なくとも、役に立つアイテムをくれた分、どこかの案内係さんよりは役に立つみたいだな』
『マスター、聞こえてますよ』
クマが先導し辿り着いた場所は、空の色が黒と赤のストライプとおかしいが、どう見ても寂れた商店街であった。
陽介の話によると町の稲羽中央通り商店街に酷似しているらしい。
商店街の出口付近、コニシ酒店と書かれた店の前で陽介が足を止めた。 店の入り口は空のように不気味なストライプがかかっている。
『コニシ…千枝が小西早紀の家は酒屋だって言ってたな。 じゃあ、ここが小西早紀の家か』
『そうみたいですね』
店先に二機並んだ自動販売機にシンは見覚えがある。 そこはマヨナカテレビで女がいた場所に背景も構図も似ていた。
「先輩の家…先輩ここで消えたって事なのか? …一体何が」
「ちょ、ちょっと待つクマ。 そ、そこにいるクマ!」
突然クマが騒ぎ出す。 シンが周りを確認してみる、シン達以外の人影も気配もない。
「何がいるんだ?」
「…シャドウ。 やっぱり襲ってきたクマ!」
クマがそう言った、次の瞬間、コニシ酒店の入り口から何かが出現した。
青い仮面を被った黒い二体の軟体動物、彼らは空中に浮かび丸まると、クマと同等の大きさの唇の化け物へと変貌した。
シンと陽介に戦慄が走る。 刹那、シンの頭の中に声が響き頭痛が起きた。 頭を抑えるシン。
『我は汝、汝は我。 双眸見開きて念じ、今こそ発せよ!!』
謎の声はそこで途切れた。 シンは謎の声に聞き覚えがあった。 マヨナカテレビを視聴した時の声と同じであった。 頭痛が治まる、シンの手にはいつの間にかカードが握られていた。
シンがカードを返す、カードには何も書かれていない。 次の瞬間、手の内でカードが突然発光を始めた。
怪物の一体がシンを飲み込もうと大口を開けて飛んで来ている。 シンが不敵に笑った。
「ペ・ル・ソ・ナ」
カードに何かが記されるとともに蒼い炎が巻き起こった。 全てを焼き尽くすかのような蒼い炎。 だが、シンは燃え盛る炎に恐怖を感じなかった。
シンが無意識にそれを握りつぶす、シンの体が発光するとともに、身体の裡から人型をした“何か”が現われた。
人型は白の仮面に赤いコート、額には黄の鉢巻をしている。 手にはシンにも見覚えがある武器、ソードインパルスのエクスカリバーを携えていた。。
「ア、アスカ!!」
怪物の一体が今にもシンを飲み込もうとしていた。 しかし、シンは動じない。
「逃げろアスカ!!」
陽介の視界からシンが消える。
「クソッ! 食われちまった…」
膝を付く陽介。 そんな陽介の耳に何かが倒れる音が聞こえた。 陽介が音の聞こえた方向を見る。 そこには、怪物の切断された死体とシンが居た。
「ア、アスカ!!」
怪物がゆっくりと消えていく。 それを見た残った怪物が、怖気づいたのか逃走を始めた。
「切り裂け“イザナギ”」
刹那、逃げ去ろうとした怪物が人型に一刀両断された。 怪物が消え去ると人型はシンの裡に消えていった。
辺りに静寂が訪れる。 唖然としていた陽介がシンに走り寄って来た。
「すっげ、何だよ今の!? “ペルソナ”って言ったよな!? あれ、どういう…ってか一体何したんだよ!?」
凄い勢いで詰め寄る陽介、シンにも何が何だかよく分からない。
「いや、何か頭に浮かんで…とにかく無意識に身体が動いて…あーもう俺も何が何だか分からない」
「落ち着け、ヨースケ。 センセイが困ってらっしゃるクマ」
「セ、センセイ?」
「いやはや、センセイは凄いクマね! クマはまったくもって感動した!」
クマがシンに擦り寄ってくる。
「もしかして、この世界に入れたのもセンセイの力クマか?」
「アスカが最初にテレビに入って、俺達も一緒に入れたんだったよな」
「やっぱり凄いクマねセンセイは!!」
クマがシンをもてはやす、正直悪い気はしない。
「ってかお前何、急に俺だけタメ口になってるんだよ! チョーシのんな!」
「は、はい…」
「はぁ、取りあえず先に進もうぜ」
陽介の提案にシンとクマが頷き、酒店の入り口に移動する。 誰もいないはずの商店街から話し声が聞こえてきた。
『ジュネスなんて潰れればいいのに…』
『ジュネスのせいで…』
「何だよこれ…」
『そういえば小西さんところの早紀ちゃん。 ジュネスでバイトしてるんですってよ』
『まあ、お家が大変だって時にねえ…』
聞こえてくる声は、どれもジュネスや小西早紀を中傷する内容ばかりだ。
寂れた商店街と大型ショッピングセンター、その間にある溝はかなり深いようだ。
「おいクマ!! 今の何だよ!!」
「ここに来た人間の現実クマ…多分」
「クソッ上等だ!! アスカ、クマ!! 行くぞ!!」
陽介が店内に突入する。 それに続いてシンとクマも突入した。
コニシ酒店 店内
コニシ酒店の中は大型の冷蔵庫数台と酒樽が数樽、それとテーブル置いてあるだけのさっぱりした場所であった。
店内に突入したシン達にまた声が聞こえてくる。 小西早紀の父親が早紀のジュネスでのバイトを叱る内容であった。
「バイト楽しそうだったし…俺にはそんなこと一言も…」
陽介がテーブルの上に有った写真立てを取る。 ジュネスでのバイト仲間と撮った一枚のようだが、無残にも切り裂かれている。
所々切断されているが、辛うじて小西と陽介が確認できた。
「何でこんなこと…」
陽介の顔が暗くなっていく。
『ずっと…言えなかった…』
また声が聞こえた。 この声にシンは聞き覚えがある。 声の主はこの酒店の娘、小西早紀だった。
「先輩!?」
『私ずっと花ちゃんの事…』
「え…俺の事?」
『…ウザいと思っていた』
小西早紀の声が残酷な言葉を陽介に叩きつけた。
『仲良くしてたの店長の息子だから、都合いいってだけだったのに…勘違いして盛り上がって…ほんと、ウザい…』
「ウザい…?」
『ジュネスも家の酒店もなくなればいい。 全部なくなってしまえばいい!!』
小西早紀が秘めた思いをぶちまける。 それは誰もが秘めているかもしれない心の闇だった。
「ウ、ウソだよ…こんなのさ…先輩はそんな人じゃないだろ!!」
陽介が叫ぶ。 シンにはかける言葉が見つからなかった。
『悲しいなあ…可哀想だなぁ、俺』
背後から突然声がした。 シン達が振り向くとそこには陽介がいた。
「よ、陽介お前双子だったのか!?」
「んなわけねーだろ!! だ、誰だお前!!」
『なにもかもウザいと思ってんのは俺のほうだよなぁ? 商店街もジュネスも田舎暮らしも全部ウゼーんだろ?」
「そんなこと俺は思ってない!!」
もう一人の陽介に駆け寄る陽介。
『お前は孤立すんのが怖いから、上手く取り繕ってヘラヘラしてんだよ。 一人は寂しいもんなぁ、皆に囲まれていたいもんなぁ
小西先輩の為にこの世界に来ただぁ? お前がここに興味を持った本当の理由は…』
「や、やめろ!!」
狼狽する陽介、かまわずもう一人の陽介が続ける。
『俺には全部お見通しなんだよ。 だって俺はお前なんだからよ。 お前は単にこの場所にワクワクしてたんだ!
ド田舎暮らしには、ウンザリしてるもんなぁ? 何かおもしろいものがあんじゃないか…ここへ来た理由なんて要はそれだけだろ?』
「違う…やめろ、やめてくれ…」
反論する陽介の声は弱々しかった。
『あわよくばヒーローになれるって思ったんだよなぁ? 大好きな先輩が死んだっていうらしい口実もあるしさ…』
「違う!! お前何なんだ! 誰なんだよ!?」
『くくく、言ったろ? 俺はお前…お前の“影”…全部お見通しだってな!』
「ふざけんな…お前なんか知らない…お前なんか俺じゃない!!」
陽介が“影”を否定する。 “影”は陽介の言葉に高らかに笑い始めた。
『ククク、そうだ、もうお前なんかじゃない。 俺は俺だ』
“影”が不敵に笑う。 次の瞬間、“影”は十メートル近くある巨大な蛙の背に、上半身だけの人型が付いた怪物変わった。
「うっ…」
突然陽介がその場に崩れ落ちる。 意識を失っているようだ。
『来ます!!』
デスティニーが頭の中で叫ぶ。 今まで聞きの一手だったシンがゴルフクラブを構えた。
「我は影…真なる我。 退屈な物は全部ぶっ壊す、まずはお前からだ!!」
怪物の咆哮で大地が揺れる。 踏ん張っていなければ確実に吹き飛ばされていた。 案の定クマは吹き飛ばされのびている。
「この野郎!!」
持っていたゴルフクラブで怪物を叩きつける。 しかし、怪物の柔らかい皮膚に跳ね返された。
『マスター、ペルソナを使ってください』
『ペルソナ?』
『さっき使ったじゃないですか。 使いたいと思えば使えるはずです』
「いつまで耐えられるかな!!」
怪物が飛び上がり派手に着地する。 着地の際の衝撃波がシンに襲い掛かった。
「なっ!?」
対人間では考えられない攻撃にシンの反応が遅れた。 まともに衝撃波を喰らったシンは吹き飛ばされ、積まれた酒樽の中に突っ込んだ。
酒樽が破壊され中身が床に飛び散る。
「くそ…」
よろめくシンに怪物が追撃する。 前足での強打、シンは壁に叩きつけられた。 インパクトの瞬間、ゴルフクラブで防御したため致命傷は免れたが、常人であれば確実に死んでいた。
「ハァハァ…コーディネーターで良かったと言うべきかな…?」
立ち上がったシンはすでに虫の息だった。 唯一の武器であるゴルフクラブも先程の攻撃で先がへし折れている。 シンの頭の中に『死』の文字が浮かぶ。
『マスターこのままじゃ死んじゃいますよ!! 菜々子ちゃんを守るんじゃなかったんですか!?」
「菜々子…そうだ…俺はこんなとこで負けられないんだ!!」
シンの中で何かが弾ける。 先が折れたゴルフクラブでシンは怪物に突進した。 ささくれだった先端が前足に突き刺さる、だが怪物には全く効いていないようだ。
すかさず怪物がシンを前足で叩きようとしたが、超人的な反応速度のバックステップで回避する。
『マスター、ペルソナを早く!!』
「だから何だよそれ!?」
シンがデスティニーに突っ込む。 その隙を怪物は見逃さなかった。 怪物の前足がシンに向かって振り下ろされる。 撒き散った酒に足を滑らせ回避は間に合わない。
「くっ…ああ、もうペルソナ!!」
“ペルソナ”。 シンがそう叫ぶと手にカードが現われた。 先程の様にシンがそれを握りつぶす。 同時に強烈な打撃音が響く。
「やっと壊れたか…な、ギャァァァァァァァァ」
怪物が悲鳴を上げる、怪物の前足はシンのペルソナによって切断されていた。
「これがペルソナか…感じる、凄い力を」
『マスター…ここから巻き返しますよ!!』
「ああ!!」
激昂した怪物のもう一つの前足が、シンに向かって振り下ろされる。 しかし、ペルソナのエクスカリバーの一振りにより、一瞬にして切断された。
前足を失った怪物が前のめりになり、人型の部分をシンの前に晒す。
「止めだ!!」
シンがペルソナを操り、怪物に突進させる。 エクスカリバーが怪物の人型の部分に突き刺さった。
シンの頭の中に、フリーダムを撃墜した場面がフラッシュバックする。
「まだだ“イザナギ”、斬り上げろ!!」
イザナギがそのままエクスカリバーで斬り上げる。 人型の部分が真っ二つに裂かれた。
怪物はそのまま崩れ去り、消滅した。 それを確認すると、イザナギもシンの裡に消えた。
「ふぅ…なんとか倒したか」
「俺は…」
陽介の意識が戻ったようだ。 シンは、いつの間にか起き上がっていたクマと共に陽介に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「あ、ああ…一体何が起こったんだ…?」
クマが陽介の後ろを指差す。 そこには陽介の“影”がいた。
「お前…お前は…俺じゃ…ない」
「あれはもともとヨースケの中にいたものクマ。 ヨースケが認めなかったらさっきみたいに暴走するしかないクマよ」
陽介は戸惑っている。 “影”を認めたくないようだ。 正直、また戦うのは辛い。
「誰だってそんなもんだ。 ヒーロー願望なんて誰だってある。 だけど先輩の死の真実を知りたいっていうのもウソじゃないだろ?」」
「お前…ちくしょう…ムズいな、自分と向き合うってさ」
「まあな」
アスランに負けたことで、シンは自分の全てが否定されたように思えた。 そんなシンも、大切な人の声で過去の自分にも少しだけ向き合えた気がした。
陽介が立ち上がり、“影”と向き合う。
「分かってた…けど、みっともねーし、どーしょもなくて、認めたくなかった…お前は俺で、俺はお前、全部ひっくるめて俺だって事だな」
“影”が静かに頷き、陽介の裡に消えていく。
「これが、俺のペルソナ…」
陽介がその場に崩れる。
「あの時、聞こえた先輩の声…あれも先輩が心のどっかで押さえ込んでる先輩の声だったのかな…ずっとウザいと思ってたか…」
「フラレたクマね」
「うるせー…はあ」
シンが座り込んでいる陽介に手を差し伸べる。
「お前がいてくれて助かったよ、アスカ。 いやこれからはシンって呼ばせてもらっていいか?」
「ああ」
陽介がシンの手を取り立ち上がる。 紛れもなく二人の間に友情が芽生えた。
「…なあ、先輩はここで殺されたって事かな。 自分の“影”に…」
「多分そうだと思うクマ。 ここにいるシャドウも、元は人間から生まれたものクマ。 でも霧が晴れると、みんな暴走する」
「それが、町で霧が出た日にこっちで人が死ぬ原因なのか…」
陽介の膝が落ちる。 どうやら疲れが溜まっているらしい。
「こっちの世界は人間にはちっとも快適じゃないクマ。 もう何の声もしなくなったし、これ以上、ココには何も無さそうクマ。 いったん戻るクマ」
「ああ、そうしよう」
元いた場所に戻ったシン達。 一息付いた陽介がクマに話しかけた。
「なあ、あの商店街って先輩が入ったから出来たのか? それにあの異常な部屋も山野アナが入ったから出来たんじゃないのか?」
「今までこんなことなかったから分からないけど…ここで消えた人たちもさっきのヨースケみたいになったクマね…」
「先輩達、たったひとりでこんなトコに…」
「二人とも、ここが晴れた日に消えたけど、それまではシャドウに襲われなかったクマ。 それなのにさっきは襲われたクマ
探索してるクマたちを敵とみなしてるのかも…危険だけどクマたちなら戦って救えるかもしれないクマ」
「俺達ならココに入れられた人を助けられる!?」
「それよりもまず犯人を見つけることに力を入れたほうがいい」
「そうだな、未然に防げば誰も危ない目にあわなくて済む」
陽介が頷く。 犠牲者はマヨナカテレビに映った人間。 当分はマヨナカテレビを確認した方がいいようだ。
「ちょっと聞いていいクマか?」
「なんだ?]
「シャドウは人間から生まれたのなら、クマは何から生まれたクマか?」
「そんなこと俺達にわかるわけねーだろ」
「自分のことはわからないクマ…ちゅーか今まで考えたことないクマ」
落胆するクマ。
「また…ここに来てくれるクマか?」
恐る恐るクマがシンたちの返事を待つ。
「約束しただろ」
シンが笑顔で返す。
「ホ、ホント?」
「じゃなきゃ出してくれないんだろ?」
「そうだったクマ、じゃあ出してあげる前に、お願いクマ。 キミタチがここに入る時は同じ場所から入るクマ。
違うところから入っちゃうと違う場所に出ちゃうクマ」
「わかったわかった。 じゃ、出口ヨロシクな」
「リョーカイだクマ!!」
ジュネス 家電売り場
「うわっと」
シン達がテレビから抜け出す。 ジュネス内にはテレビに入った時と変わらず、テーマソングが流れていた。
「あ…」
テレビの前に蹲っていた千枝が声をあげる。
「帰っでぎたぁ~!!」
千枝の顔には薄っすらと涙が浮かんでいる。 どうやら泣いていたようだ。
「里中、どうしたんだよその顔?」
千枝が立ち上がり持っていたロープを投げつける。 陽介の腰に巻いていたロープはいつの間にかなくなっていた。
「どうした、じゃないよ! ほんっとバカ! 最悪! もう信じられない、アンタらサイテー」
千枝の勢いに圧倒されるシンと陽介。 そんな二人に構わず千枝は続ける。
「ロープ切れちゃうし…どうしていいかわかんないし…心配…したんだから」
大粒の涙を流し千枝が泣きじゃくっている。 それも束の間、激昂し、走り去っていった。
「ちょっとだけ悪い事したかな?」
「いや、やベーだろ、これは…まあしゃーない、明日謝ろ」
「そうだな…かなり疲れた」
「ああ、今日はよく眠れそうな気がする…じゃあまた明日、学校でな」
「またな…あ、そういえばゴルフクラブ…」
「あ…しょうがねーよ…ああ親父に怒られる」
陽介が落胆する。 そのままシンは振り返らずに疲れた身体を引きずり、家路へと急いだ。
河川敷
『おい、デスティニー』
雨の河川敷をトボトボと歩いていたシンが、頭の中の愛機を呼ぶ。
『なんですかマスター?』
『なんでお前ペルソナのこと知ってるんだ?』
『それは…秘密ですよ』
予想された答えにシンは溜息をつく。
『お前はそれ以外に言えないのか?』
『マスターの為ですよ』
「あれ…アスカ君」
河川敷の公園にある屋根付きベンチで休んでいる女性に名前を呼ばれた。 桃色の和服を着て学校での様子と違うが、女性は雪子だった。
雪子は暗い顔をしている。 旅館の手伝いで疲れているのだろうか。 流石のシンも挨拶だけで通り過ぎるのは不味いと思い声を掛けた。
「…雪子隣いいか?」
「うん…」
力なく雪子が頷く。 雪子はかなり疲れているようだ。 雪子の隣に座るシン、しばらく沈黙が続く。
『マスター何か言わないと、かなり空気が重いですよ』
『って言ってもなあ。 こういう時どんな会話をすればいいのか分からないんだよ』
『着物を褒めたらどうですか? よく似合っていますし』
デスティニーの助言に心の中で頷く。
「着物似合ってるな」
「え、ありがと…でも、いつも着ているわけじゃないよ。 家のお使いだったから」
「そうなのか」
沈黙が続く。 耐えかねた雪子が話題を振った。
「えっと…この町とか、学校には慣れた?」
「町にはまだかな。 学校には大分慣れたと思う」
『マスターずっと寝てるじゃないですか』
『うるさいぞ、デスティニー』
「ほんと?…けど知らない場所に転校してくるって大変なんだろうね」
『俺の場合は知らない世界だけどな…』
「私は、この町から出たことないから、転校ってどんな気分か、分からないけど…あ、えっと千枝とかはどう?」
「千枝? ああ、仲良くやってるよ」
今日、泣かせてしまったけど。 と心の中でシンは付け足した。
「そう、よかった」
雪子の顔に笑顔が戻る。 それからは雪子による千枝自慢が始まった。 改めて、シンは二人の友情の深さを確認する。
「あ…そろそろ戻らなきゃ。 板長と明日の打ち合わせしないと」
「そうか、悪いな引き止めて」
「ううん、あまり話せなかったし。 ありがと」
そう言うと雪子は脇に置いてあった番傘を拾い、席を立つ。
「えと、また学校でね」
「ああ」
シンも席を立ち、雪子と別れた。
堂島家 居間
居間では夕食終え一休みしていたシンと菜々子がテレビを見ていた。 堂島はまだ帰ってこない。
やはり菜々子は心配そうな顔をしている。 そんな菜々子をよそにテレビでは明るい音楽と共にニュースが始まった。
ニュースは小西早紀の事件を取り上げていた。 山野アナの事件との関連性から警察は連続殺人として捜査を進めているらしい。
小西の死亡は昨晩の一時頃で現場には濃い霧が掛かっていたらしい。 本当だとすれば、マヨナカテレビに映った直後に自分の“影”に殺されたのだろう。
度重なる事件に、菜々子も今以上に忙しくなり、帰宅も遅くなるであろう堂島を心配している。
「俺がついてるよ」
シンの口から無意識に言葉が出る。 言ってからかなり臭いことを口走ったことに赤面する。
「だいじょうぶだよ。 いえの事やるの、手つだってくれる?」
菜々子が健気な笑顔を見せる。 シンから鼻血が噴出する。
「お兄ちゃんに任せとけ!! これからは俺がご飯を作ってあげるからな」
「おにいちゃん、おりょうりできるの?」
「もちろん!!」
力強くシンが頷く。 菜々子が尊敬の眼差しでシンを見ていた。 鼻血の勢いも凄くなる。
『菜々子ちゃんの鼻血のスルースキルは半端じゃない…菜々子、恐ろしい子!』
「事件後、女将が一線を退き、今はこちら、一人娘の雪子さんが代わりを務めています」
シンは雪子の言葉に反応し、視線をテレビに移す。 テレビには大きな旅館とテレビリポーターが映っていた。
奥に和服姿の女性が居る。 女性はどうやら雪子らしい。 雪子にリポーターが下心丸出しの質問を投げかけている。
「つまんない…おさら、あらわなきゃ」
菜々子が立ち上がり、台所へ向かう。 テレビではまだリポーターの質問が続いている。 雪子はかなり困惑していた。
「頑張れよ、雪子」
シンもテレビを消して台所に向かった。
シンの自室
午前0時前、シンは自室でゆっくりしていた。 テレビの女子アナが、稲羽市の異常気象について語っている。 どうやら、ここ最近の濃霧は異常で、原因も分かってないらしい。
テレビの音声以外に微かに雨音が聞こえている、雨はまだ降り続いているようだ。
「雨の日の午前0時…」
シンがマヨナカテレビの噂を思い出す。 もうすぐ0時だ、シンはテレビを消した。
午前0時。電源の切れたテレビが光りだす。 画面にはシルエットだけが映されている。 体つきからおそらく女性だ。
『今、手を入れたら助けられるんじゃないか?』
テレビに手を差し込んでみる。 波紋が浮かび、シルエットが消えた。 急ぎ、手を引き抜くが、テレビにはもう何も映っていなかった。
「…明日陽介に話してみるか。 ふぁ、今日はもう疲れた、寝よ」
そのままシンは布団を敷き眠りに落ちた。
???
気が付くとシンはなぜか車内のソファに座っていた。 目の前には長い鼻の白髪の老人と長い銀髪の女性が座っている。
シンがこの世界に来る前に見た、夢の
登場人物と風景に酷似している。 老人の名前はイゴール、女性の名前はマーガレットだと記憶している。
だが以前とは少しだけ違っていた、シンの隣に白いワンピースを着た、黒の長髪に紅の瞳を持つ少女が座っているのである。
「ようこそ、再び見える事が出来ましたな」
老人、イゴールがシンの隣にいる少女には触れず挨拶をした。
「ここは、どこだ…? 隣の奴は誰だなんだ?」
以前とは違い、自由に言葉を発せるようだ。 シンが早速疑問をぶつける。
「私を忘れたんですか、マスター?」
「マスター? ってお前デスティニーか!?」
「そうですよマスター。 どうです、私かなりの美人でしょう?」
シンがデスティニーの顔を見てみる。 確かにデスティニーの顔は整った顔をしていたが、美人というよりは美少女といった方が正しい。
「どっちにしろ自分で言うことじゃないだろ…というか何でお前がいるんだよ」
「ここはマスターの夢の中ですよ。 私が自由に出てきてもいいじゃないですか」
「いや、その理屈はおかしい。 って言うか夢なのかよ!!」
反射的に突っ込んでしまうシン。 デスティニーがニヤニヤしながら口を開く。
「マスターはホント突込み人間ですねぇ。 夢といってもここで聞いたり見たりしたことはホントのことですよ」
「矛盾してるじゃないかよ…」
夫婦漫才を続けるシンとデスティニー。 放置プレイされていたイゴールが咳払いをした。
「…ここは、何らかの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋…」
「契約?」
デスティニーの事は後に回して今は話を聞くことにした。
「貴方は日常の中で無意識に目覚めを促され、内なる声の導く定めを選び取った…」
「内なる声…デスティニー…いやペルソナを出した時の声か!?」
「そう…そして見事、“力”を覚醒されたのです」
女性、マーガレットが言っている“力”というのは恐らくペルソナのことを指しているのだろう。
「ペルソナって何なんだ?」
シンが二人に問う。
「あなたが手に入れたペルソナ。 それは、貴方が貴方の外側の事物と向き合った時、表に現われ出る人格、様々な困難と相対するため自らを鎧う
覚悟の仮面…とでも申しましょうか」
「覚悟の仮面…」
「しかも、貴方のペルソナ能力はワイルド…他者とは異なる特別なものだ。 からっぽに過ぎないが、無限の可能性も宿る。 言わば、数字のゼロのようなもの」
小難しい話にシンの頭が混乱する。 そんなシンにデスティニーはウィンクをする。 話を聞くのを任せて欲しいという意味だろうか。
「ペルソナ能力とは心を御する力、心とは絆によって満ちるもの。 他者と関わり、絆を育み、貴方だけのコミュニティを築かれるが宜しい」
「コミュニティーは単にペルソナ能力を強くするものだけではありません。 お客様を真実の光で照らす輝かしい道標ともなってゆくでしょう」
「それって、俺が災難に会い、謎を解くってやつか? 謎っていうのはテレビの世界のことなんだな?」
「…これを」
イゴールがシンの問いには答えずに、何かを目の前のテーブルに置いた。 シンがそれを受け取る。 どうやら鍵のようだ。
「鍵…?」
「今宵から貴方はベルベットルームのお客人だ、貴方は力を磨くべき運命にあり、必ずや私共の手助けが必要となるでしょう
貴方が支払うべき代価は1つ、契約に従い、ご自身の選択に相応の責任を持って頂く事です」
「また秘密主義か…」
「要するに謎に立ち向かい自分の行動に責任を持ちなさい、そうすれば力を貸しますよって事ですよ。 とりあえずクマくんとの約束を守るためには力が必要なんじゃないですか?」
隣のデスティニーがシンに囁く。 あの世界で行動するには確かにペルソナの力が必要だ。 ペルソナに詳しそうな二人ならば確かに力になるだろう。
イゴールはシンの返事を待っている。 正直、何がなんだか分からないが頷くことにした。
「…わかった」
「フフ…ご一緒に旅をして参りましょう。 では再び見えます時まで…ごきげんよう」
視界が光に包まれていく。 シンの意識はそこで途切れた。
最終更新:2009年09月30日 13:17