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東方種子語-02

「ありゃ、シンじゃないか。どうしたんだこんなとこで」

魔理沙はいつものように森の中で魔法の実験のためのキノコを探しているとシンとばったりと会った。

シンが幻想郷に来てからもう一ヵ月になる。
幻想郷に来た当時は出歩くのにも自分や霊夢、アリスがついていたものだが今となっては一人で人里や博麗神社に行けるようになったとアリスから聞いていたが。

「珍しいじゃないか、ここで会うとは思わなかったぜ?」

そう、ここにいるとは思ってもみなかった。確かにシンはアリスの家、つまり魔法の森に住んではいるがそれでもこんな奥地も奥地、自分ぐらいしか知らないようなところまで来ているとは思わなかった。
シンはそう言われると一瞬困った顔を浮かべ、次の瞬間には何事もないかのように頭をかきながら笑う。

「ああ、最近この辺りを探索してるんだよ。ほら、色々見識を深めるのはいいことだろ?」
「ふむふむ」
「いやー、しかし来ては見たけど見事に何もないなー。やー参った参った。でもまあ、ほらあれだ。こういうのも探索の醍醐味っていうのか? うん、そんな感じだよなあ」

はっはっは、とわざとらしい笑い声をシンはあげ続ける。………魔理沙だって嘘はうまい方じゃない。だから嘘をついた後はばれない内に即行で逃げるわけだし。
しかし、いくらなんでもこれは。

「嘘だろ」

流石に呆れるしかない。というかこれで誰か騙せると思っているのだろうかこの男は。もし思っているんなら全詐欺師の皆さんに謝るべきだろう。
シンも無理があると思っているらしく魔理沙の一言で笑い声を止めてもう一度頭をかく。今度は恥ずかしそうだった。

「ああと、その。べ、別に嘘ってわけじゃ」
「いやいや、誰がどう聞いても嘘だろそりゃあ。別に構わんぜ、怒りゃせんから大人しく魔理沙さんにゲロっちまいな?」
「…………うう。別に嘘ってわけじゃないんだけどな」

いい加減観念したらしく地べたにドカッと腰を下ろす。

「その。アリスから逃げてたんだよ、そうしたらここに出てな」
「アリスから? お前、今度は何したんだよ。というか二、三日に一辺はアリスから逃げてないか?」

とかくシンとアリスは相性が悪い。正確に言えばアリスが一方的にシンを嫌っているのだが、シンの今一つ素直になり切れない性格と相まって小さな喧嘩はほぼ毎日起こっていた。
だとすると今度は何をしてアリスを怒らせたのか。

「うん、食事は俺が作ってるんだけど朝を和食にしたらなぜか知らんが怒ってな。優雅な朝をなんだと思ってるとかなんとか……まったく」
(朝食での喧嘩程度で逃げるとは………なんかこいつがとんだヘタレに見えてきた気がするな)
「包丁なんて持ち出すなよな」




       待て。




「ちょっと待て!? 今何か物騒な単語が聞こえたぞ!?」
「ん、ああ包丁のことか。いや、あいつ怒ると割と頻繁に包丁持って俺を刺そうとしてくるぞ。とはいえこれぐらいで包丁持ち出されてもなぁ」

シンは平然とはしている。この様子だとそう珍しくもなさそうだ。とんでもない事実に気付き魔理沙は背筋に冷や汗が伝うのを感じる。

「うぅ、確かに。それじゃあまるでヒスかなんかじゃ」
「まったく朝が和食で怒るのこれで7度目だぞ?」
「7度も繰り返すお前もお前だ!!」

こいつは命が惜しくないというのか。

「やー、最近なんかこう意地になってきてなぁ。なんとしてでも認めさせてやる」
「私としては止めてほしいなぁ、友人から犯罪者出したくないから」

なにがシンをここまで駆り立てるというのか魔理沙にはさっぱりわからない。今となってはシンにも分かってないだろう。

「しかしどうするかなぁ、ここもいつ嗅ぎあてられるか分かったもんじゃないし。どうしたもんか……」

うーん、と唸りながらシンはそのまま地べたに寝そべる。朝から逃げっぱなしだったらしく欠伸を噛み殺していた。もう日も高く昼時だ、小腹も空いているらしい。

「ふぅん……なら家に来るか?」
「え、そりゃありがたいけど。いいのか?」
「おう、問題なんてないだろう。ご飯作ってくれればもっと問題無し、だぜ」

その魔理沙の言葉に、だがシンは難しげな顔を浮かべる。
不思議そうに見返す魔理沙にため息交じりに口を開く。

「いや、問題大有りだろう。俺男だぞ?」
「……見ればわかるぜ。返事になってないぞ」

そう言い返すとシンはますます深いため息をつく。魔理沙にはその行動の意味が分からずに段々不機嫌になっていく。

「ちゃんと答えろよ、人の厚意は無下にするもんだとでも習ってるのかお前は?」
「あのなぁ……年頃の女の子がホイホイ男を家に上げるな! しかも二人っきりなんて状況で!」
「? 別に構わないだろう、減るものでもないし」

「そう言う問題じゃないだろうが! いいか、どんなに人畜無害そうな顔をしていても男ってのはいつ何時オオカミになるかなんて分かったもんじゃあないんだ、
いやむしろそういう無害そうな顔してる奴ほど心の中じゃとんでもないこと考えてるものなんだ! 
そんな男をうっかり信じて家に上げてみろ、たちまち悪のオオカミに変身して美味しく食べられてしまうんだぞいろんな意味で!!
食べられるだけじゃあない、いいように騙されて好きなようにされて最後にはポイされてしまうんだからな、だから絶対に男を簡単に家に上げるなんてことしては
なんだその呆れた様な顔は!?」

「なんで香霖と一言一句違えず同じ事をいうのかねお前は。だいたいそれじゃあお前が危険人物だって言ってるようなものじゃないか」
「その通りだッッッ」
「いやおかしい、その理論はおかしい! というかその反応まで香霖と同じだとは思わなかったぞ!?」
「霖之助さんも同じ事を言ったのか………なのに何でお前は男を家に上げようとする!?」

額に手を当てる。香霖堂店主、森近霖之助といいどうして自分の周りの男共はこうも変なのしかいないのか。
心配してくれるのは分かるがここまでずれていると頭を抱えるしかない。

「ええとさ。お前はさっきから男は危険だ男は危険だって言うけど。だったらお前は私に襲いかかる気なのか?」
「そんなわけないだろう!?」
「だったら問題ないだろうに。ほらとっとこ行くぞー」
「待てって、俺が言ってるのはお前の男に対する警戒心の無さで」

「おやあんなところにアリスが」
「ッ!?(バッ)」

一瞬で伏せる。近くにあった草を千切って体の上にかけると遠目からはそこにシンがいるとは分からないだろう。

「まあ嘘だけど」
「性質の悪い嘘は止めろよな!? まだ大して時間がたってないのに奴に見つかったら……包丁が」
「それ以上は聞きたくない! ………まあなんにしても。命の危険は回避するべきだろうよ。いいから家に行くぞ」
「うう、またなんか俺の意見が無視された気が………」

肩を落とすシンとは対照的に魔理沙は悪戯っぽくにんまりと笑う。
「まあいいじゃないか、別に襲わないんだろ?」

ため息一つ。

「………よろしく頼むよ」
「ん、よし。じゃあレッツゴー、だぜ♪」
魔理沙に聞こえないように、ぽつりと呟く。


「……しっかり気を持っておかなきゃな」



シンは箒に乗ってぷかぷかと浮かぶ魔理沙の後を歩く。

「そう言やあ、最近どうなんだ?」
「どうっていうと………まあボチボチってとこだな、最近里の方で友達もできたし。いやー、巫女ってホントに腋を出してるモンなんだな、霊夢の趣味かと思ってたけどやっとそう認識できた」
「お前にそんな認識を持たせた友人とやらが少し気になるんだがまあそれは置いとくとして。まだ霊夢のとこに通ってるんだろ?」

ああ、そういうことかと軽く頷く。
幻想郷に来て以降、シンはほぼ毎日のように博麗神社に通っていた。一つは霊夢から幻想郷の事を学ぶため、もう一つはデスティニーの様子を確認するために。

まあ、デスティニーと話すとそれだけで最低10回はツッコまなければならないから少々疲れるのだけれど。

「まあそっちもボチボチってところかなぁ。とりあえずスペルカードは使えるようになったけど」

スペルカードに興味を惹かれたらしく魔理沙の目が輝く。

「へぇ、やっとか。で、どんな感じの弾幕なんだ? 魔理沙さんに見せてみな」

その言葉にシンは頭をかく。期待はずれにさせるのが少し申し訳なかった。

「……あー、言っとくけど「弾幕」とは違うぞ?」
「ん、違うって言うと? ………ああ、もしかして符みたいなもんか?」
「そんな感じかな。まあ弾幕の方も作ってはいるけどな……どうにも俺にはあわなくて」

別に自分が軍人だから、と言うわけではない。軍人だってMSのコンペの時には派手なパフォーマンスを行う事だってあるのだから別段見た目を重視するスペルカードに拒否感は無い。
無いのだが、生憎とシンはそういった方面、つまり美的センスは今一つと言わざるを得ない。
どうにも実用性第一で考えてしまうので作り出した弾幕は霊夢からは散々な評価をもらってしまっていた。

曰く。華がない。見ててつまらない。そもそも避けられない。ワンパターンすぎ。むしろ嫌がらせ。etcetcetc。

かろうじてデスティニーのモーションパターンに流用して組み込めたのが唯一の救いだろうか。
ともかく、未だ弾幕の方は勉強中だ、見せられる代物ではない。

「でもまあ、妖怪に対する備えは必要だろ? だから念のために、な」

そう。あくまでも念のための備えだ。別に妖怪から逃げ切ればいいのだ、それだけなら弾幕じゃなくてもただの符だけで雑魚妖怪には事足りる。
倒す必要はないのだ、それなら「今の」自分でもこの符を駆使すれば逃げ切れるはずだ。

「ふーん。ちょっとつまらないなぁ。んで、その符の方はどんなんなんだよ、見せてくれ」

分かった、と答えるとシンはごそごそと懐から10枚のスペルカードを取り出す。

「10枚? 符にしちゃずいぶん多いじゃないか」
「だから言ったろ、「そんな感じ」だって。デスティニーの機能と兵装と、後まあ色々をスペルカードに落とし込んでみたんだよ、そうするとどうしても多くなってな」

シンの言った言葉に魔理沙は一瞬首をかしげるが、すぐに納得したように手を打ち合わせる。

「ああ、そういえばあれロボットの付喪神なんだったな。あんなんだからつい忘れてた」
「俺も時々忘れそうになるな。あんな性格だったとは………いや、ある意味見た目通りだったのか?」

人をからかいおちょくり弄り倒す、そんな悪魔のような性格の彼女を思い出しシンは軽くため息をつく。
確かにデスティニーは悪魔じみた外見だったが、性格だけとはいえそこは反映して欲しくなかった。
大体自分と容姿が瓜二つだというのもよろしくない、あれじゃあまるで女装した自分を見ている気分になる。

「ま、まあなんにしてもスペルカードはそういうことだよ。後は飛ぶことなんだけど」
「お、できるのか?」

かりかりと頭をかき、ゆっくりと目を閉じる。精神を集中させる。その雰囲気に当てられたのか魔理沙も止まって固唾をのんで見守っている。
やがて、ふわりと音を立てずにシンの身体が浮き上がる。そんな光景を見ながら魔理沙はぼんやりと自分が初めて飛んだ時のことを思い出す。あの時の自分もシンと同じように真剣だった。
今では飛んでいてどうということを思うわけではないが、それでもあの時の感慨は鮮明に思い出せる。
ぼんやりと魔理沙がそんな感慨に耽っていると完全に足が地面から離れ、少しずつ上昇していき、魔理沙と同じ高さまで至り、




そのままバランスを崩し後頭部から地面に激突した。



「☆●♪◎▽◆〇(ゴロゴロゴロゴロ)」
「う、うわぁ」

地面をのたうち回る。魔理沙も気の毒そうに見ている。あまりの痛みに言語がおかしなことになっていた。

「こりゃまた痛そうな………大丈夫か、おい?」
「な、なんと、か………おおおおぉおぉぉぉぉああぁ」

うめき声交じりだったがなんとか返事はできた。痛みでちょっと涙が出そうになるが我慢する、シン・アスカは男の子。

「飛べないんなら飛べないって言えよ、あーあーあー………」
「いや、一応飛べないわけじゃあないんだ。ただ、まだ疲れる飛び方しかできないだけで。疲れない跳び方は練習中だ、ぬあ、まだ痛い」
「そりゃ痛いよ……」
と言うか、後頭部を強打して痛くないんだとしたらそちらの方がよっぽど問題だろう。



そんな事をぐだぐだとしている内に。

「ああ、着いたぜ。ここが私の家だ」
「うう、ごめんなさい霖之助さんとまだ顔も知らぬ魔理沙の親御さん。今俺はあなた達の妹分と娘さんの家に上がりこもうとしています」
「お前はまだそんな事を………ほら、さっさと上がった上がった」
「待て、まずは霖之助さんに対する懺悔をだな、って、あ、ちょ、こら、押すな、押すなってー!?」

強引に魔理沙に押されとうとうシンは魔理沙の家に上がりこんでしまう。その第一声は。

「汚っ!?」
「随分な言い草だなオイ!?」

だがシンの反応の方が正常だろう。なにしろ、玄関にまで本が散乱しているのだ、廊下や部屋の惨状は推して知るべしだ。
ガラリと靴棚を開ける。当然のように本がある、靴なんか一足も入っていない。だとすると今足元に散らばっている靴を全部出してまで本を入れたのだろう。
その割には微塵も整理されていなかったが。

「………魔理沙」
「断る」
「片付けるぞ―――ってまだ何も言ってないぞ」

「いやあ、私も片付けたいのは山々なんだがな? ほら、この本たちがこう言っているのが聞こえないか? 「僕らはこのままの方がいいよぅ」とか「片付けるなんてとんでもない」って
言ってるじゃあないか、それじゃあ私が片付けるわけにはいかないぜ。いやぁー残念残念、残念無念」
「片付けるぞ」
「いやいや、私もそうしたいんだけどな。この本たちが片付けられたくないと言って」

「片付けるぞ」
「いや、だからな」
「片付けるぞ」
「人の話を」
「片付けるぞ」
「………い、いやだー! この量はめんどくさすぎるー!」
「片付けるぞ」
「………う、うふふ! 片付けたくないなー、魔理沙さんからのお願い、聞いてく「片付けるぞ」れるってうわぁん!? お前はこの美少女からのお願いを無下にするというのかこの人でなs」
「片 付 け る ぞ」



「ふう、どうだサッパリ綺麗になったじゃないか」
「ううう、私はどこに何があるか把握してたのに………お前のせいで分からなくなったじゃないかー!」

全ての本が本棚に奇麗にしまわれ、部屋の隅まで箒をかけられ、ついでに全ての家具を磨き上げられ、もはやNEW魔理沙邸と呼んでも差し支えないほどだ。
所要時間はわずかに一時間。これぞ主夫のみが成し得る奇跡なり。

「ほーう。なら靴箱の右から6番目の本のタイトルは?」
「よく分かる魔法・初級編だ」
「堂々と大嘘をつくなっ。正解は森の茸料理、ちなみによく分かる魔法シリーズはお前の部屋の窓際の本棚三段目の右から4冊目にシリーズごとに並べてある」

「なんで私より詳しくなってるんだよ!? くそう、お前のあだ名をこれから主婦にしてやるー!」
「それは悪口じゃないな。ところで性別が間違ってるのは気のせいか?」

魔理沙は答えない。まあシンも大して気にしていないが。

「……にしても、よくこんなに本をもってるな。相当な額になるだろうに」
「ああ、それに関しちゃ問題無しだ」
「問題なし? そりゃまたどういう」

「全部図書館からちょっぱって「よし、返しに行くぞ」きたって言わなきゃよかったよ!?」
霧雨魔理沙。学習しない女。

「いや、ちょっとまってくれ! 別に返さないわけじゃないぞ、ただ一生借りてるだけ「今すぐ返しに行くぞ」ってまた墓穴ッ……ああっ、やめろ、風呂敷を探さないでくれ!」




「―――ま、とりあえずはこんなもんか」
「うううう、私のコレクションが……お前は鬼か?」
「そう言うことは利用規則を守ってから言うんだな。ほら、お前はさっき作ったサンドイッチ持っててくれ」

肩をすくめながらそう言い、シンは本が大量に詰まった風呂敷を担ぎあげ、



そのまま潰れた。
「――――ぐえ」
「そりゃそうなるよなあ、なんせ150冊だもんなあ」

そう、150冊。とりあえずで返却することに決めただけでこれだけの冊数に達する。実際にはまだ氷山の一角だ。

「と言う訳で、返すのは無しだな」
「そんな、わけにっ、いく、かっ」

どうやらどうあっても意見を変える気はないということを魔理沙も悟る。だとしたらさっさと終わらせるためにも。

「分かった分かった、返すから。ほら、風呂敷よこせ」
「断、るっ」

断る意味と理由が分からない。まさか今更逃げることを心配してるのか。

「別に逃げやせんよ、腹くくった。ちゃんと返すから、風呂敷渡せって」
「だ、め、だ」

渡すのが駄目なのか自分の体力が駄目なのかどっちだろう。そんな事を魔理沙が疑問に思っているとシンは息も絶え絶えになりながらも続ける。

「こんな、重い、ものっ、お前に持たす、わけにはっ、いか、ない」
「いやだからなんでだって。理由がさっぱりわからん」
「そんなの」

足がもつれまた潰れる。


「そんなの―――お前が女の子だからに、決まってるだろ」
「――――」

魔理沙は答えない。シンは気にするでもなく立ち上がろうともがき続ける。
少女が帽子を深くかぶりなおしたことにも気付かずに。

「―――別に。別に、重さとかは、魔法で、なんとかできる、から。だから、自分で、持つ」
「気に、するな、俺は、気にっ、しない」
「持つ、からっ!」

強引に奪い取り、箒の先端に括りつける。そのまま浮かび上がり、ゆっくりと前進する。本当に魔法で軽くなっているのだろう、ふらつく様子は微塵もない。
そんな魔理沙をシンは不満げに見つめる。

「なんだよ、やっぱり重いんじゃないか。あんなに」


「耳が赤いんだから」



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最終更新:2009年10月04日 21:00
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