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東方種子語-03(前編)

「―――ぬあ、この絶妙のマスタード加減の憎らしさったら」
「食いながら喋るな、はしたない」

箒に乗りながらもぐもぐと手渡されたサンドイッチを頬張る魔理沙とそれを嗜めるシン。
二人は魔理沙の大量の盗品を返却するべく湖に囲まれた館、紅魔館を目指していた。
出発した時点では大量の荷物を魔理沙が持つことに反対していたシンもいい加減に諦めたらしく、今は魔理沙の隣でサンドイッチを食していた。

魔理沙はサンドイッチを食べ終えると指をぺろりと舐め、シンを半眼で睨む。

「なんだ、鳥の照り焼きは気に食わなかったか。それともトマトか? 水気がパンにしみ込まないようにしてたはずだけど」
「全部美味しかったよ、嫌味かっ。なんで私よりも料理が上手いんだよお前は!」

照り焼きチキンサンド。サラダサンド。玉子サンド。
どのサンドイッチも魔理沙は口にするたびに絶妙な味加減に舌鼓を打ち、同時に敗北感を感じていた。

「くそー、なんだよなんだよ! 家の掃除の事と言い………お前はあれか、お嫁さんかっ!」
「性別がおかしいってことに気付いてくれ」

言われ慣れているので別に気にはしてないが。昔から料理を振舞うといつもこんなフレーズを言われている。
それ以外にも嫁に来いだの嫁に貰うだのシンは俺の嫁いや違う私の嫁よだの。


今にして思うと女性陣からも嫁呼ばわりされていたのは非常に引っかかるのだが。


「別にこれぐらい普通だろ?」
「これで普通なら世に花嫁修業なんて言葉は無くなるぜ。うう、悔しいなぁ」
「んな大袈裟な………ところで、その紅魔館ってところまではあとどれぐらいなんだ?」

魔理沙が盛大に落ち込んだためにシンは話題を変える。歩いている間に目的地のことは聞いたが、どれだけ遠いのかまでは聞いていなかった。
もし日帰りできないようだとしたら今晩の食事を作ることができない。そうなったら。

「死を、覚悟しなければ……………ッ」
「森抜ければすぐだよ、そうやってすぐ命の危機に結びつけるのはやめてくれ」
「食事が気に入らないだけで包丁持ち出すようなやつだぞ? 食事の時間に遅れたらどうなるかなんて………樹海、いやそれとも湖の底」
「それに関しちゃお前も悪い気がするけどなぁ」
「何言ってる、だからって包丁なんて持ちだすなんて非常識にもほどがあr(ゴッ」



シンの顔面に氷がめり込んだ。



「………は?」
「痛い! 顔面になんかがめり込んだように痛い!!」
「いやそりゃめり込んだからな……じゃなくて大丈夫か!?」

なんとか、と答えると同時にさらに森の奥から氷が飛んできた。どれも握り拳ほどはある、そこまで速度はでてはいないが当たり所によっては痛いでは済まないだろう。

「なんだ!? 幻想郷ってのは森で氷が飛び交うのか!? それがここの常識だって言うのかよコンチクショー!?」
「そんな常識私も知らん! だが、この森で氷って事は………突っ込むぞ、シン!」

氷の発生源を目指し二人は急ぐ。途中飛んでくる氷を魔理沙は華麗にかわしながら進み、開けた場所に出るとそこには。

「大ちゃんの、ぶわぁぁあかああああぁあぁああ!!!!」
「いや俺は大ちゃんって名前じゃな(メシャリ」

先ほどまでの氷の三倍以上はある巨大な氷がほとんど氷を避けられなかったシンに少女の罵声と共に直撃した。


………ツッコまなければ避けれた、と言うのは言わないでやるのが華か。
そんな中、向けられる氷をひらり、ひらりと避けている緑の髪に鳥とも虫とも違う羽をもつ、大ちゃんと呼ばれた少女は向かい合う少女に言い返す。

「わ、私はバカじゃないもん! なによチルノちゃんのバカー!」

涙目になりながらも緑と青の棘を四方八方に乱れ撃つ。


………とりあえず、魔理沙と青髪の少女は避けられた。

「俺はこんなんばっかか!?」
「まあとりあえず伏せとけ、そろそろお前の命が危険で大ピンチだ。妖精の喧嘩かー、にしてもあの二人とは珍しいな」
「知り合いか?」

「ってぇ程でもないけどさ。あの緑のが大妖精で、あの青くてバカなのが「⑨ですっ!」おい大妖精、人のセリフを取るなよ?」
「あたいはバカじゃないっ! バカっていうほうがバカなんだぞバーーーーカ!」
「………じゃあ、君が馬鹿ってことになr(グシャリ」

こうなると分かっていながらもツッコまずにいられないのはシン・アスカがシン・アスカだからだろうか。

「やーれやれ。ま、なんにしても怪奇現象の原因は分かったわけだし、喧嘩なんかほっといて行こうぜ」
「俺としてもそうしたいんだけどな(ヒュンッ」

今度はかわせた。

「………間違いなく氷が後頭部に当たるだろうな」
「ああそうだな、お前の後頭部に。だが私は仲裁なんてする気はないぜ?」

では、誰がやるのか。

「………分かってるよ。とりあえず、俺が何とかしてみる」

そう言うとシンは二人の間に立つ。飛び交う氷と棘が怖くもあったがこうでもしなければ二人は止まらないだろう。

「わ、ちょ、ちょっと、そこの人、危ないですよ!?」
「そう思うんなら撃たんでくれ………君もだ! 撃つなよ、撃つんじゃあない」
「…………むー。人間が何の用よ。あたいの邪魔するな」

青髪の少女はむくれながら氷を周囲に浮かべる。
(威嚇かよ……けど?)

僅かな違和感。その正体を探るがなかなか出てこない。そうしている間にも青髪の少女がますます険悪になっていることに気付きひとまず違和感を探るのは中止する。

「自己紹介しとこう、俺はシン・アスカ。君は……ええと?」

自分の名前を聞こうとしていることに気付き少女はふふん、と鼻を鳴らす。

「なに、あたいの名前知らないの? いいよ、教えたげる! あたいはこの幻想郷さいきょーの妖精、チルノよ」

最強、にどう反応したものか困り魔理沙に視線を送る。流せ流せとアイコンタクトを送られる。
確かにこんな子供らしい言葉に大人げなく言い返すこともないだろう。

「ちゃんと一回で覚えなさいよー、あんたバカっぽい顔してるもん」


前言撤回したい。


子供の言うこと子供の言うことと何度も心の中で繰り返し、なんとか平静を保つ。

「ええ、と。それで最強の君はなんで、えーと「大妖精です」大妖精と喧嘩してるんだ?」
「喧嘩じゃないもん! 私悪くないもん、大ちゃんが悪いんだもん!!」

ちらり、と大妖精の方を見る。首を振っている。まあそうでなくてもチルノの反応を見ればどちらが悪かったのかは一目瞭然ではあるが。
こちらの方に寄ってきて大妖精はチルノに聞こえないよう小声で喧嘩の原因を話し出す。

「その、チルノちゃん私のおやつを食べちゃって。ちゃんと話して謝ってくれればよかったんですけど……認めてくれないから、その、私も意地になっちゃって」
「やっぱあっちが悪いか………でも、君からも謝った方がいい。意地を張るべきじゃあないってことは分かってるんだろ?」

それは、と呟き大妖精は目を伏せる。仕方ないなぁと言いたげにシンは頭を撫でる。

「ま、気持ちは分からないでもないけどさ。でも、つまんない意地張って、ちゃんと言うべきことを言わないで。それで後になって後悔するのは寂しすぎるからな」

友達なんだろ? そう言ってシンは笑う。大妖精は少しだけ考えて、こくりと頷く。その反応にシンは頭をよし、とでも言いたげに軽く叩いた。

「むぅ~、さっきからなにコソコソと話してんのさ!」
「ああ、悪い悪い。実はちょっと―――――」


それに気づいたのは、果たして誰が最初だったのか。

森の中に灯る無機質な桃色の輝き。人間の顔の高さに灯っているそれは、だが決して人間の瞳の輝きではない。何故なら、顔の真ん中に一つしかその桃色の輝きは存在していなかったからだ。
その桃色の輝きが右へ、左へと揺れる。炎のような不規則な揺らめきではない、機械が周囲を探知するような規則正しい揺れ。

ざく、ざくと草木を踏み分ける音に混じってがしゃりがしゃりと金属が詰まった袋を落としたような音や鉄の擦れる嫌な音、そして獣の唸り声のようなぐぉん、ぐぉんという異音。
やがて、草木を踏み分ける音はがしゃりがしゃりという音に取って代わる。異様なまでにその足音は規則正しい。

もう完全に草木を踏み分ける音が聞こえなくなると、それの全容がはっきりと分かる。

鉄鎧を着込んだ人間。傍目から見ればそう見えるだろう。だが、目を凝らして見てみればその認識は間違いだと気付くだろう。
まず、鉄鎧が完全に密着している。どんなに薄い鎧でも着込めば何らかの隙間が生じる。それは構造上避けることができないものだ。だが。それには隙間が存在していなかった。鉄の鎧の下に存在しているものは同じ鉄。それが一つ目。
さらに、動き。あまりにも規則正しすぎる。歩くときには全く同じモーションで歩くなど、どんな達人であろうとも成しえないことだ、そこには必ず僅かな差異があるはずなのに、それは同じ事を繰り返すように歩き続ける。それが二つ目。
最後に。その顔の中心に存在している一つきりの桃色の輝き。一つ目妖怪は珍しいわけではない。だが、どんな妖怪であっても眼は必ず眼の形をしている。だと言うのに、それの目は。それだけを見せられたらだれも目だとは分からないただの桃色の輝き。
頭部に鶏冠を持った姿。腰には西洋剣を携えている。左手に握っているのは突撃機銃。

その姿を、シン・アスカだけは知っている。

(間に合え)
突撃機銃を構える。狙いは先ほどから箒から降りて座り込んでいた魔理沙。

(間に合えっ)
少女二人を抱きかかえる。なにか喚いたが無視。魔理沙に向かって突撃とすら言えるほどに走り寄る。

(間、に、合、え――――!)
魔理沙を押し倒し覆いかぶさる。瞬間、破裂音と共に銃弾が背中の上を掠めていく。

改めて少女たちを見る。大妖精は抱きかかえられたことに驚いているのかえ、え、と意味のない言葉を繰り返している。
チルノはと言えば、シンと森から現れたそれを何度も何度も忙しなく見比べている。
そして、突如押し倒された魔理沙は。

「うぇ、ちょ、え、あ? う、うぇえ!?」

パニックを起こしていた。状況を確認しようと立ち上がり、
「伏せてろこの馬鹿!!」

そのままシンに力ずくで地面に伏せさせられる。だが、その行動に文句をいう暇もなく強引にシンにチルノと大妖精とまとめて抱きかかえられてそのまま木の陰に動かされた。
今度こそ状況を確認するために木陰から顔を出そうとする。だがもう一度シンに腕を掴まれ強引に引き戻された。荒すぎる行動に文句を言おうとシンに向き合い―――絶句した。
いつものように半眼で睨んでいると思っていた。いつものように呆れた顔をしていると思っていた。いつものように苦笑いしていると思っていた。だが、その表情は。

「死にたいのかよ、お前は………っ!」

本気で怒っている。普段のどこか呑気な顔は完全に無く、眉間を歪めて赤い目で睨みつけている。
その怒りに体がびくりと震える。ただ睨まれているだけなのに息ができない。妖怪と対峙した時でもこんなに体が動かなくなったことは無かった。
そんな魔理沙を見てシンは自分の行動の迂闊さに舌を打つ。こんな時には睨むのではなく状況をしっかりと説明すべきだと言うに。自分の未熟さが嫌になる、どうして自分はいつもこうなのか。

成長しない自分に後悔するが、軽く頭を振って思考を切り替える。今はそれどころではない、あの機体を何とかする方が先決だ。
ここから動くな、と三人に言い残してするすると音もなく木を昇って行く。突き出した枝に乗り、眼下にある機体を改めて確認する。周りにある葉で向こうからはこちらには気付かないだろう。
細かい兵装の違いはあれども、あの機体はダウンサイジングされた「アレ」以外に他ならない。だが、念には念をいれる必要がある。

(………デスティニー)

頭の中で自らの相棒を呼ぶ。程なくして頭の中に自分以外の声が響く。
スペルカードの一枚にはデスティニーとの通信機能を持たしておいて正解だった。
視覚情報も送信されているため、自分が見ている光景はデスティニーに映像として伝わっている。

『いったい何の用―――あれは?』
(見ての通りだとは思うんだが。念のためデータベースとの照会を)
『ン……ああ、間違いないね。サイズは違うがジンだよあれは。人が操ってる……と言うわけではなさそうだね、動きが無機質すぎる。とするとAI制御だろうが……ふむ?』

ZGMF-1017、ジン。今となっては生産すらされていないが、民間への払い下げや宇宙海賊などがジャンクから修復し利用されている。
そのため、C.Eにおいてはただ単にMSと言われれば殆どの人がGタイプかこの機体を思い浮かべるだろう、それほどに有名な機体だ。

だが。

(なんだって幻想郷に? 俺たちと同じように紛れ込んで変化したと考えるべきなのか……いや、それにしては?)

妙、ではある。霊夢やアリスからはおろか、人間の里の住民からもジンのことなど噂に挙がったことすらなかった。
もしもこのジンがここに紛れ込んだのならばこれまでに一度も目撃されていないなどということがあり得るか?
仮にあり得たのだとしても、それならば何故今になって現れる? それも、自分という幻想郷に紛れ込んだ人間の目の前に。
考えるたびに分からなくなってくる。だがそんなシンの思考はデスティニーによって遮られた。

『考え込むのはいいがね。まずはこの状況を何とかするべきじゃあないか?』

眼下のジンは魔理沙達が隠れている木に向かってがしゃん、がしゃんと足音を立てながら迫ってきている。急がなければ魔理沙達が見つかり、そして。

(…………やらせるもんかよ。デスティニー、サポートを)
『了解、だ』

ちらり、と銃弾を受けた木を見る。銃痕が刻まれているが、別段倒れるでもなく立ち続けている。

(突撃機銃の威力は落ちてるか……デスティニー、索敵は?)
『うん? 問題なく動いているが』
(こっちじゃない、向こうのだ)
『ああ、そういう………熱源は使ってないだろうね、僕らに気付いていないようだから。後は音と電波だが』
(熱源探知はないか、それが分かれば十分だ、これが使える………フラッシュエッジ)

懐からスペルカードを取り出し心の中で宣言を行う。次の瞬間にはシンの左手にはスペルカードの代わりにビームブーメラン、フラッシュエッジⅡが握られていた。
フラッシュエッジのスイッチを入れる。ヴン、と僅かな音とともに短い光の刃が形成される。
ビームブーメランモードならナイフと同様に取り回せる、ひとまずはこれで渡り合えるはずだ。

(ビームライフル……いや、なくてもいけるか。デスティニー、奴との距離は?)
『六秒後に真下だ』
(ん………よし)

音を立てずに太めの枝を切る。あと五秒。

すう、と息を吸う。あと四秒。

はあ、と息を吐く。あと三秒。

ジンを見据える。あと二秒。

こくり、と唾を飲み込む。あと一秒―――――仕掛ける。



折った枝を放り投げる。ばさり、と予想以上に大きな音をたてて地面に落下した。当然ジンは振り向いて突撃機銃の照準を何もない空間に向ける。

(いまっ)
枝から飛び降りる。葉鳴りの音にジンがこちらを振り向く。だが突撃機銃の照準は先ほど投げた枝の方。こちらに合わせようとするが、僅かに遅い。

「シ・ウ・スーーーーッ!!」

元々はデスティニーの頭部に備えられていた近接防御火器システムを宣言、即座に起動し極小の弾丸を模した霊力で作られた弾が発射される。
威力は殆ど無いに等しく、これで撃墜されたMSなど聞いたことがない。だが、牽制としては十分な効果を発揮する。

ジンがモノアイを右手で庇う。たとえ装甲が頑丈でもカメラ部位はそうではないためだ。再び突撃機銃の発射が遅れる。
その一瞬で、シンは地面に到達し。
突撃機銃はフラッシュエッジの刃によって切り裂かれた。

CIWSを尚も発射し続ける。いくら貧弱な威力のCIWSと言っても当り続ければいずれは装甲に穴を開ける。堪らずにジンが後退するが、シンはさらに追撃を行う。
心の中ですでに宣言を行ったビームライフルを右手に持ち、三連射。一発は命中せず、一発は回避され。一発は肩部装甲を吹き飛ばした。

だが、その結果はシンにとっては意外なものだった。

「避ける? AIにしちゃ動きがよすぎやしないか!?」

確かにAI制御のMSは存在しないわけではないが、未だ未成熟な技術だ、動きも判断も実践を経験したパイロットには全く通用しない。
だと言うのに、このジンはあの状況で反応していた。本来なら二発目で頭部を潰し、三発目で動力部を貫くはずだったのだ、それを覆されたとなると。
ジンが距離を詰める。確かに突撃機銃を失ったこの状況で行う行動としては正しい、正しいが。

(こいつ本当にAIか? 判断が的確すぎる、大体AIの動きじゃあ―――)
『正面、来るぞ!』

考えは、デスティニーの叫びと目の前で振りかぶられた重斬刀を見て破棄。フラッシュエッジを構えて切り結ぶ。

「ん、くぅっ!? 流石に、重いか!」

MS、というより機械と人間では力に差がある、例え相手がジンだとしても圧倒的に不利だ。
即座にバックステップ、同時にビームライフルを撃つ。


―――だが、体を捻って避けられる。確かに狙いは甘かったが有人相手でもかわすのは困難な一発だったはずだ、それを避けられるということは。

(まさか、エース? エースの行動パターンを組み込まれた? ただのジンじゃあない!?)

戦慄。例え旧式の機体であろうと歴戦のエースが搭乗すればそれは即座にこちらを撃墜し得る脅威と化す。それはユニウスセブンの破砕作業で嫌と言うほどに思い知っている。場数を踏んだ今でもあの時生き残れたのは奇跡としか思えない。あの時の脅威が、今また目の前にあると言うことか。
だとすれば、どうする。一枚目の「切り札」を切るか否か。逡巡の間にもジンは距離を詰め、こちらに重斬刀を振りおろそうとしている。
フラッシュエッジで捌くが態勢が崩れる。ジンはその隙を逃すわけもなくすでに使い物にならなくなった突撃機銃を投げ捨てて空いた左手でこちらを殴ろうとする。MSの腕力を以てすれば人間の内臓はおろか骨すらも容易に砕くだろう。
無様に地面を転がって避ける。距離が開くが、ジンはこちらに寄るでもなくただ重斬刀を構え直した。

一見無防備に見えるが、こちらが隙を見せたのならば一瞬で距離を詰められて重斬刀で骨を砕かれるだろう。思考は止まらず、フル回転を続ける。

(ライフルとビーム砲は無理、詰められるか。なら、アロンダイト……いや、同じか。ありゃあ取り回しにくい。ン……いや、ブラフには使えるか? 使えないんなら捨て置くって手も有るな……出すだけは出すか)

右手のビームライフルを一瞬でスペルカードに戻し、次の瞬間には展開させれば身長を超える長い水色の刀身を持つ大型ビーム対艦刀、アロンダイトを起動させる。あくまで起動させただけだ、まだ刀身を展開させない。
ジンのモノアイがフラッシュエッジとアロンダイトの間で微かに揺れている、企みは成功しているらしい。

(デスティニー、奴の重心は? どちらに寄ってるか知りたい)
『僅かに右寄り………いや、変えてきた。今は左寄りだよ』

それは、向こうもこちらに対するひっかけを仕掛けているということ。

(考えることは同じ、か。さて、どちらから来るのか……)

緊張で息がつまりそうになる。ジンはそのような素振りは見せることもなく重斬刀を静かに構え続けている。
ふぅ、ふぅ、と知らず知らずの内に息が荒くなってくる。次に何が来るのか、何に備えるか。頭の中で行った何十通りのシミュレーションは、ジンのモノアイを見ているとどれも通用しない気がしてくる。
そんな張りつめた空気は。



星形の弾と氷を横から受け、よろめくジンの姿で吹き飛ばされた。




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最終更新:2009年10月04日 20:55
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