アーマード・コア -マスター・オブ・女難
「ん………」 左頬に痛みを感じシンは目を覚ました。
(白い天井。パイロットスーツはそのままか、デスティニーのコックピットじゃない? ああ、そうか)
今までのは全て夢であったと信じたいが、左頬の痛みが全てを物語っている。
「それにしても。」 シンは寝かされていたであろう簡素なベッドから起き上がる。
いい平手だった。以前アスランに殴られた拳とは比較にならない威力。
つーか本当に人間なのか? 軍人のコーディネーターがよけられないスピードって一体?
「目が覚めたみたいね。」
扉が開き、掛けられた声に、体に染み付いた本能から僅かに身構え、声の方へと振り向いた。
シンはその顔を見た瞬間、思わず後ろに飛び退く。
その声の主は、シンに平手打ちをした女と、髪が腰の辺りまで延びている事、
『鉄板』とシンが評した薄い胸とは、似てもに似つかない豊満な胸以外、瓜二つだったからだ。
「そんなに驚くことはないでしょう? 」 白いワンピースを着た女性は、優しげな冗談めかした口調で言った。
「いや、その、ごめんなさい。」
良く見れば、平手打ち女と目の前の女性は、顔立ちこそ似ているが、なんというか目の前の女性の方が優しそうな感じだ。
「まあ仕方ないわね。 ……ジナの平手打ちは痛かったでしょう?」
そういうと女性はシンの左頬に、そっと左手を触れた。
「ジナ?」 聞きなれない名前に、シンは思わず首を傾げる。
「あの子、名前も名乗っていなかったの?」 整った眉を歪ませ女性は言った。
「はい。」 あの子というのは、あのパイロットスーツの女だと判断し、頷くシン。
「…………あきれた。」
「起きたのか。」シンに平手打ちをした女は、着替えたようでジーンズの上に、青いジャケットを羽織り扉から顔を出した。
「 あ。 」思わず間抜けな声を上げる。
「……先程はすまなかった、何分不測の事態だったものので、錯乱してしまった。」 心底申し訳なさそうに彼女は言った。
「いや俺も、事故とはいえあんなことをしてしてしまった。」 シンは心に負い目もあり素直に謝る。
「あんなこと?」 一人事情を知らぬワンピースの女性は首を傾げる。
「………何でも無いか、ら気にしないでくれ、姉さん」
姉さんと言った、ジナと呼ばれた女の言葉に、シンはどこか納得したような表情を浮かべた。
姉妹ならば瓜二つでも、何の不思議も無い。
こうして二人が並んでいると、姉の方が優しそうな感じだと思った理由も分かった。
ジナは吊り目で、ややキツい印象だが、姉は垂れ目で、左目の下に泣き黒子があり、温和そうな印象を人に与えていた。
「私はあのことはもう気にしていない。だからお前も二度と口にするな。」
唐突にシンの方を振り向くと、ジナ吐き捨てるように言った。
押し付ける様なジナの口調と、名も名乗らない、ほぼ初対面の相手にお前呼ばわりされ、
自分の置かれた状況も分からず、ただでさえ精神の不安定なシンは、
奥底に閉まったはずの反骨心に、久しぶりに火がついたのを感じた。
「自分の名前さえ、まともに名乗れない人間に、お前呼ばわりされる覚えはないね。」
「何だと!?」
「聞こえなかったんだったら、何度でも言ってやる。人の事張り倒しておいて、名前も名乗れないのかよ、あんたは!」
「……貴様。 そこまで言って只ですむと……」シンを睨みつけ、ジナは怒気を含んだ口調で言った。
「じゃあ、どんな目に逢うってんだ。」 挑発するような口調でシンは言う。
その時二人は同時に殺気を、感じとり、顔を振り向けた。
「二人共、いい加減にしておけ……。」
そこには、にこやかな笑みを張り付かせたままの姉がいた。
彼女の放つ殺気は、歴戦の戦士であるはずの二人を、圧倒していた。
( 何なんだ一体!? 俺が震えている? )
(こんな殺気はあのフリーダム、デストロイ、ザムザザーと戦ったときでさえ感じたことがない……。)
「すっ、済まなかった 。」
辺りが緊張に包まれる中、もっとも早く口を開いたのは、ジナだった。
「私の言い方で気を悪くしたのなら謝る。許してくれ。」
そもそもシンの怒りは、いつもの癇癪と、八つ当たりに近いものだったこともあり、
向こうから謝られては、もう怒る理由はなかった。
何より、アカデミー時代、自分も初対面の相手に対する態度で、度々トラブルを起こし、
そのたびに、レイやルナのフォローを受けてていた事を思いだした。
彼女も自分と同じように、人付き合いが苦手でついあんな口調になったのなら、シンに彼女を怒る資格など無かった。
「……いや、俺こそ済まない。 そうだ。名前聞く前に、俺が名乗って無かったよな。」
「俺はシン。シン・アスカだ。」
「シンか、私はジナイーダ。レイヴンだ。 こっちは姉の……」
「アグラーヤよ。 よろしくね。」
「ところで、聞きたいことが有るんだけど。」
「なんだ?」 首を傾げるジナイーダ。
「ここどこ?」
「 ? 旧レイヤード第一地区だが?」 何を当たり前の事を聞くのかと、ジナは顔を歪ませ答えた。
「レイヤード?」 今度はシンが顔を歪ませる。
「……地球なのか? それともプラント?」
「プラント? なんだそれは。」
「じゃあ、オーブとザフトの戦いは!?」シンは自分でも意識しない内にジナに詰め寄り、半ば悲鳴のような声を出していた。
「シン。お前は何を言っているんだ?」
「今はCE何年だ!?」
「新西暦189年だが……?」
膝から崩れ落ちるシン。
シンは自分の知っている限りの、世界の歴史を話した。
しかし、ジナイーダとアグラーヤは其れを知らないと言い、それどころか、ジナイーダの口から語られたのは、シンにとって信じがたい事実。
大破壊と呼ばれる最終戦争
人が住めないほどに荒廃した地上
全てが定められ、自由の存在しない閉塞された地下世界、レイヤード
衰退した人類を管理するAI、管理者 DOVE
国家に変わり、群集を纏めあげる存在企業
利益を求め、企業同士が、レイヴンがぶつかり合う、争いの絶えない世界
「…………信じられない。」 あまりにもショックな出来事に、僅かな頭痛を感じ、右手で頭を押さえるシン。
「でも事実よ。」 シンの顔を見据え、アグラーヤは言う。
まるで漫画か映画、小説みたいな話
別の世界に飛ばされるなんて。
「ん?……そういえば、レイヴンって何なんだ?」
先程のジナの話、今の話に出た『レイヴン』という単語が頭の片隅に引っ掛かり、
どうにもすっきりしないシンは、聞けるうちに聞くことにした。
「簡単に言えば傭兵だ 。」 ジナイーダは誇らしそうに言った。
「……閉塞された地下世界において、唯一自由である事を許された存在。」 ジナイーダは言葉を続ける。
「企業同士のパワーバランスを保つ為の調停者………」
「何者にも従わず、只依頼と報酬によってのみ任務を遂行する、地下世界の異端者。」
一呼吸おいたジナに変わり、アグラーヤが続ける。
「死を喰らい、戦場を渡る屍肉食い━スカベンジャー━。」
「納得した?」
「その、管理者は今どうなっているんだ?」
「数年前、突如狂いあるレイヴンに破壊され、地上が開放された。」
「そうか、有難う。」 シンは姉妹に礼を言うと、思考を始めた。
何てこと、事象だけ上げればこの世界はCEにそっくりじゃないか。
全てが管理された世界。それを壊した者達。
…………見極める必要がある。
いや、見てみたい。俺とアスランどちらが正しいいか。………そんなものはどうでもいい。
ただ、この世界を、自分の知らない、自分の望む争いの無い世界とは、真逆なこの世界を。
「…なあ、ジナイーダ。」 数秒の思案の後、シンはゆっくりと口を開いた。
「その傭兵、レイヴンってのはどうすればなれるんだ?」
CEに帰れるのか、帰れないのか、そんな事はまだ分からないが。
この世界でしばらく生きるために、世界を見て回るのにも先立つものは必要であり、
何より自分の中に、アスランに敗れた事で、もっと強くなりたいと願う自分がいる。
自分を一から鍛え直し、強くなる為にも、生活費を稼ぐ為に、
どうせ機動兵器に乗り、戦う事ぐらいしか出来ない自分にとって、傭兵という仕事はうってつけだろう。
「そうか、では歓迎しよう、シン・アスカ。」 ジナイーダはにやりと笑うと右手をシンに差し出した。
「ああ、よろしく頼む。」 シンは頷くと、ジナイーダの右手を強く握り返した。
「アグラーヤ、どこにいるんだ?」 決意を固めたところに聞き慣れない男の声がし、扉の外に振り向くシン。
「いっけない!」アグラーヤはあわてた様子で大声を上げる。
「ああ、姉の恋人のジノーヴィーだ。外にACがあるから間違いない。」
そう言うとジナイーダは扉とは正反対の位置にある窓を指差す。
「ああ、」と気の無い返事をし窓に向かい振り向くと、なぜかそこには扉に向かい、走りよるアグラーヤの姿があった。
マズイ。シンの本能が危険を告げた瞬間、二人は正面から激突した。
「痛たた、ん? やわらかい?」
思わず目を閉じ、床に倒れたシンが目を開けると、
そこにはアグラーヤの、(ジナイーダとは比べ物にもならない)豊満な胸があった。
顔面パルマである。
えっ、何で?と疑問を口にする前に
「姉さん! シン、貴様っ!」 見るからにご立腹のジナさんがいました。
「一度ならず、二度までも、しかも人を鉄板扱いしておいて、姉さんのは柔らかいだと!?」
絶対違う所に怒っているだろう、あんた! などと叫ぶ前に
「////////////// シン君………とりあえず、退いて/////////////」
アグラーヤは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに、しかも上目使いでシンに言った。
「うわぁーーーーーホンとすみません!!!!」
慌てて顔を上げるも、その右手は『しっかりと』アグラーヤの胸を掴んでいた。
このときシンはミネルバの友人がお空で「ナイス、ラッキースケベ。」 といっている光景を幻視した。
「アグラーヤ、上にいたのか、、、、」
さらにタイミングの悪い事に、扉が空けっぱなしで声が駄々漏れの部屋に、長身の短く刈り込んだ黒髪の男が入ってくる。
「「「あっ」」」 シン、ジナ、アグの声が重なる。
男からすれば馬乗りになったシンがアグラーヤを襲っている様にも、
見えなくもない(しかもシンの右手はアグラーヤの胸をホールドしたままだ!)
「…………キサマ何者かは知らんがちょっと表に出ろ」 男は真の首根っこを掴むと部屋の外に引きずっていく。
部屋には未だに真っ赤な顔をしたアグラーヤと、
怒っているような、哀れむような表情で窓の外を見るジナイーダが残された。
窓の外には一体のAC。全身を黒鉄色に染められ、背に二門の巨砲を持つ義兄のACデュアルフェイスがあった。
暫く眺めているとシンがデュアルフェイスの前まで引きずられてきた。
これから何が起きるか察したジナイーダはカーテンを閉め、シンの無事を祈ると姉を慰めるため、窓から目を離した。
──────以後音声のみでお楽しみください。
「やらないか?」
「えっ、うそ、無理そんなの死んじゃう!!」
「……大丈夫。 男は度胸なんでもやってみるもんさ。」
「いやそういう問題じゃ……」
「まぁ、人の女(スケ)にてを出したんだ、どうなるかは分かっているね」
「わざとじゃないんです…………ってなにその笑顔!!?」
「無理ですって!そんな長いの無理!壊れちゃう!」
「弾切れするまでは付き合ってくれよ?」
「だから無理ですって!ああああアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
その後シンはデュアルフェイスの全ての武装の弾がきれるまで乱射されたそうな。
最終更新:2008年06月24日 18:59