アットウィキロゴ

ARMORED CORE-03


アーマード・コア -マスター・オブ・女難


 正午を告げる時計の鐘が鳴り響き、シンは掃除機を動かす手を止めた。
(もう昼か。) 確か今日はアグラーヤが食事当番だったはずだ。
テーブルでも片付けるか、そう思い掃除機を片付けながらテーブルに目を向ける。
そこにはノートパソコンを使い、インターネットの掲示板(確かDちゃんねると言う名前だったはずだ。)を見ている
レザーのズボンにトレーナーという私服姿のジノービィーがいた。
おそらく真面目な顔をして見ているという事は、シンがたまに書き込む(最もジノービーはROM専らしい)6課板ではなく、レイヴン同士の情報交換をメインにした9玉板だろう。
「……んもう昼か、シン君。悪いんだがジナを起こして来てくれないか?」
シンの視線に気付いたジノーヴィーはノートパソコンを閉じると言った。
「ええ、構いませよ。」

掃除機を片付け終えたシンはTシャツにジーンズというかっこうで答える。
「じゃあ頼んだよ。私は……アグラーヤの手伝いでもしてこよう。」
そう言うと椅子から立ち上がりアグラーヤの手伝いをするためキッチンに向かっていった。

 あの一件のもめ事も解決し、晴れて居候の身分を獲得したシン・アスカは、
グローバルコーテックスによるレイヴン試験を間近に控え、家事手伝いに勤しんでいた。
最初こそ馴れないことでミスが目立ったが、慣れた今では評判は上々で、アグラーヤからは
「レイヴンになるのはやめて(ジナイーダの)専業主夫ならない?」などと言われる始末だった。
(アグラーヤの言葉の深い意味に気付かない)シンとしてはこの世界をよく知る為、一から己を鍛え直し、
全てにおいて強くなるため、(シンとしてはみんなの)専業主夫にされる前にレイヴン試験を受けたい所だが、
日時が決められている以上どうすることもできず、只時間が過ぎていくのを待つしかなかった。


「ジナイーダ 入るぞ。」
ジナイーダの部屋の前に立ちノックをする。
寝ているとはいえ、人の部屋に入る前にノックするのは一応最低限の礼儀だ。
「ああ、勝手に入ればいい。」
眠たげな声のジナイーダは扉越しに答えた。……ほら、起きてたりするだろ?
誰にでもなく心の中で呟くとシンは扉を開けた。
「うわっ! 着替えている途中じゃないか!」
そこには寝巻きの上を脱いでいる最中の、ジナイーダがいたのだった。
顔を真っ赤にしたシンは急いで扉を閉めるとなぜか扉に張り付いた。
「ん? ああ……気にするな。私は気にしない。」
自分の状態に気付いたジナイーダは、いまだ眠たげな声で、かつてどこかで聞いたような言葉を口にする。
「少しは気にしろ! あんたは気にしなくても俺は気になるんだよ!」
顔が未だに真っ赤なシンは叫んだ。
ザフトの訓練にて羞恥心が取り払われたとは言っても彼は未だ16歳。
異性が気になるお年頃である。さらに相手が年上(確か22歳とか言っていた)で美人といったら尚更だ。

「……やっぱり胸が鉄板だと気にならないのか?」
赤い顔も収まり冷静になったシンはぼそりと呟いた。
「何か言ったか?」
「いや、なんでも。」
「まぁ何でも良いが着替え終わったぞ。 」 目が覚めたらしく先程よりもはっきりした口調だ。
「入るぞ。……その傷」 部屋に入ったシンはジナイーダを見て驚きの声を上げる。
ジナイーダはタンクトップにショートパンツというラフな服装だったが、おどろいたのは格好にではない。
ジナイーダの背中、首筋から肩口には大きな傷痕のようなものがあったのだ。
「ああ、気にするな。単なるプラス手術跡だ。」
 シンの視線に気付いたジナイーダは手術跡をさすりながら言った。
「プラス手術? 」 聞きなれない言葉にシンは首を傾げる。
「言っていなかったか、私はプラス。分かり易くいえば強化人間だ。」
「強化人間。」シンの目が大きく開かれる。
「どうしたシン?」 ジナイーダはそんなシンの様子に気付き声を掛けた。
「いや、俺の世界の事を、思い出しただけだ。」 シンは苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「……そうか。」 シンの表情から何かを察し、ジナイーダがその話を切り上げようとした時シンはゆっくりと口を開いた。

 CEにも強化人間がいた事。
それが敵でその内の一人と心を通わし、守ると誓い、そして守りきれなかったこと。
おそらく全てではないだろうが胸の内にしまい込んだ過去を、搾り出すように話した。


「なあ、ジナイーダ。」 話しを終え、場を支配する沈黙を打ち壊したのは他ならぬシン自身だった。 
「何だ?」
「何かあったら何でも言ってくれ、俺は出来る限りのことをするし、君は絶対俺が守るから。」
決意に満ちた、しかしどこか虚ろな表情でシンは言った。
「…………シン。」 ジナイーダの右手がシンの頬に伸びる。
ジナイーダの右手はシンの頬に触れ、色白な真の頬を思いっきり捻った。
「痛てぇ! なにするんだよ!」 ジナイーダの右手を払いのけると、シンは抗議の声を上げた。
「寝ぼけているのかと思ったから目を覚まさせてやった。」 平然とした表情でジナイーダは言った。
「別に寝ぼけているわけじゃない!」
「………寝ぼけていない?」 ふん、とジナイーダは鼻を鳴らした。
(あ、鼻で笑いやがった!)
「前にいた所ではエースだったのかも知れないが、レイヴンとしては雛どころかいまだ卵のお前が私を守るとは、寝ぼけていなければ血迷っているのか?」

確かにジナイーダは強い。特に高機動近接戦闘においてはシンの知るエースたちに匹敵していた。
少しの間の上司ハイネ・ヴェステンブルクやかつての上官アスラン・ザラ、
インパルスのテストパイロット時に世話になったコートニー・ヒエロニムス
状況によっては彼らを上回ってさえいた。

「うっ。」ジナイーダの言葉にシン自身一時の気の迷いであることは自覚していたので、恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。
「悪かったよそういえば ジノさんが呼んでたぞ。」
足早にジナの部屋を去ろうとするシン。
「待て。」 その言葉にシンは思わず振り返る。ジナイーダは振り向いたシンの右手を掴むと、自らの方へと引き寄せた。
「なっ、何だよ。」
ジナイーダはそっと両手をシンの頬へと添える。
綺麗な翡翠色の瞳に見据えられ、思わず目を逸らすが
「こっちを見ろ。」
あえなくひきもどされる。 ジナイーダの翡翠色の瞳に、シンの深紅の瞳が移りこむ。
「綺麗な眼だ。シン、お前は、この眼は何を見ている? 」 
今までに聞いたことのないような優しい声、姉が歳の離れた弟に話し掛けるようにジナイーダは言った。
「今は、ジナイーダ。あんただ。」 上ずった声で搾り出すようにシンは答えた。
「違うな。」 嘘をついた弟をしかるような声。
「……お前は私を通して、別の誰かを過去を見ている。」 今度な悲しげに哀れむような表情でジナイーダは言う。

 図星だった。
シンは見づからも気付かぬうちに、見掛けも、性格も、声さえも似ていない。
なのに強化人間というだけでジナイーダの中にステラを見出してしまっていた。

「私は隠し事も、それをする奴もは嫌いだ。私達に話さなかったのも、話したくないのも理由があるのだろう、
 だから、今は全てを話してくれとは言わない。」
「だけど、いつか話したくなった時で良い。私にだけは全てを話して欲しい。……一人で悩んでいても苦しいだけだぞ。
 私が言いたいのは、それだけだ。」
話し終えたジナイーダは両手を放しシンを見据える。
シンは怒られた子供のような、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「そんな顔をするな、まだ仕事も残っているのだろう? 行くといい。」
そんなシンの顔を見たジナイーダは、軽くシンの頭を撫でると優しく言った。
「ああ。」 ギュッと奥歯を噛み締めると目元を拭い、頷くと扉へと向かう。
扉に手を掛けたシンは思い出したように口を開く。
「……ジナイーダ。」

「なんだ?」 シンの後姿を見ていたジナイーダは首を傾げる。
「ありがとう。」 今までに見せたことの無い晴れやかな笑顔。
「……ジナでいい。」 
「わかったよジナ。」 シンの足音がだんだんと遠ざかっていく。
シンが十分離れたことを確認するとベッドに仰向けに倒れこみ、目を瞑った。

 シン。お前は悪夢の中にいるのか?あいつが夜悪夢にうなされているのは知っている。
…………おそらくは元の世界のことで。
いや、あいつの望む争いのない世界とは正反対のこの世界は、あいつにとっては悪夢そのものか。
あいつはにやさしい。いや、優しすぎる。
だからこそ死んだ者の想いさえも、全て背負ってしまうのだろう。
何なんだこの感情は?
私は、あいつを救ってやりたいと思っている。
…………だけれど、私にあいつは救えない。 私には、戦うことしかできないから。
あいつの為ならどんな敵でも、いくらでも戦えるのに。 戦うことでは救えない。あいつの心は救えないのだ。
だから、せめて私に出来ることをしよう。あいつの心を救う代わりに、あいつの体を守ってやろう。
いつの日か、シンが悪夢から解放されて、やさしいゆめを見れる様になる、その日まで。

 思案を終えたジナイーダは目を開ける。
「……ん、なんだ、これは?」 顔が何かで塗れていることに気付き、体を起こし鏡を見る。
「…………ああ 、私は、ないているのか。」
一筋の涙がジナの顔を濡らしていた。」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年06月24日 19:04
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。