1
――いつだったやろか、約束をしたあの夜は
デートに行くはずだったのに、気がつけば仕事に追われていた。
捌いても捌いても案件は無くならず、投げ出したい気持ちになっても、六課の長としての責任と義務。
なにより私個人の理想と想いの為に走り続けた。
けれども押し寄せる仕事は私に休ませることを許さず、望んで背負った責任と義務は確実に私を疲れさせた。
自らが望んだ環境と役職。
尽きることの無い仕事はやりがいに満ち満ちてはいるけれど、私は私が思った以上に弱かった。
少しでも現実を理想に近づけたくて、多くの人に幸せになって欲しくて、流す涙は喜びであって欲しくて……
でもこの両肩は見た目通りに弱弱しく、背中は薄っぺらだった。
だけどそれを知られてはいけない、リーダーである私は常に強くなくちゃいかんのや。
……だからお願いや、せめて君の前だけでも弱く居させてや
「まったく……えぇわ、今日はウチでごろごろしよか」
ポツポツと降り始めた雨は、やがてじっとりと濡れる霧雨に変わり、久しぶりの休日をどう過ごそうかと思案していた私は外に出ることを諦めた。
昨夜のうちは街にでも繰り出して、ウィンドーショッピングを楽しみながらブラブラしようと考えていただけに、
概ね晴れるでしょうなんて言っていたお天気キャスターに呪いの一つでもかけてやりたい。
シグナムを初めとした私の家族は、みな仕事で出払って家には一人。
まぁ10年前は歩くことも出来なかったのだから、今の状況はまだマシかもしれない。
「二度寝でもしてよ」
一人でそうごちた後、もったいないと思いながらも寝ることにした。
ある意味では二度寝なんて贅沢をさせてくれたこの雨にちょっとだけ感謝しよう。
キャスターのおじさんも万能では無い。
ついさっきまでキャスターに向けられていた呪いは感謝に変わり、あくびをしながら私は寝室へとUターンしてベットに潜り込んだ。
「ったく! 全然言ってること違うじゃないかよ」
霧雨を中、無駄だと分かってはいてもシンは走っていた。
すでに制服は肌に張り付いていて、濡れた前髪は重くなって目に掛かる。
六課の茶色い制服は水分を含んで黒く見え、
空いている手で髪の毛と水滴を払っても、容赦なく恵みの雨は落ちてきた。
「雨が降るって知ってて俺に行かせたんだ。でなきゃこれを渡したら上がっていいなんていうはずが無い」
メガネを掛けたエリート同僚は、さっきまではいい奴と先輩だなんて思っていたけど、
今ではありったけの呪詛の対象に格下げになり、制服の内ポケットには、濡れないようにビニールで包んだ封筒が入っている。
なんでも八神隊長に急ぎで届けなければいけない書類だそうだ。
転送魔法でぱっと送ればいいだろうと言ったら、あの生真面目なメガネとなぜだかその場に居た陽気なヘリパイロットの先輩に言われた。
「大事な書類なんだ、信頼出来る人間に直接手渡して欲しいんだよ。
それに届け終わったら今日は上がりでいいよ、毎日遅いんだからたまには早く帰るといい」
「そそ、いつも日が落ちてからも居るだろ? たまにゃ早く帰れ帰れ」
もっともな理由と親しい先輩の言葉、仕事が半ドンになる餌にあっさりと食いついた自分が恨めしい。
傘をどこかで買えばいい話なのだが、バイクのローンに先日コカして折ったレバー代と、傷ついたサイドカバーの購入で財布からお札は家出を敢行して戻ってくる予定は無い。
財布には金額の寂しい小銭しか入っておらず、それすらも午前中に缶コーヒーに化けた。
残された手段はただ走るだけ。
目的の玄関に立ち、インターホンを押して待つこと10数秒。
何も反応が無いのを不思議に思って、見上げた先の窓辺に肘を突きながらボーっとしている彼女を見つけると、なぜだか胸がざわついた。
「なぁシン? 明日デートしよ?」
唐突に思い出して、熱くなる顔を冷やしてくれるこの雨に俺は少し感謝した。
「……ヒマやなぁ」
二度寝といってもずっと寝ていられる訳じゃない。
ボーっとする頭で時間を確認すると、時計の針は12時を少しだけ回った位置を差していた。
ベットからごそごそと抜け出して、コーヒーでも入れよかなんて考えた。
暖房の効いた部屋から一歩出ると、冬の冷気が肌をなぞり、思わず身震いしながらリビングへと急ぐ。
いつから私はコーヒーを好きになったんやろ?
恋した瞬間は鮮明に思い出せても、同じ物を好きになったのは何時だっただろうか。
ふにゃふにゃとまどろむ頭を起こすのに、紅茶からコーヒーに変わったのは何時だっただろうか。
昼なのに雨雲のせいで少し暗くて、人の居ないリビングは静謐な雰囲気。
しとどに降る霧雨がそれを増長させた。
時折通りを走る車の飛沫が聞こえるだけで、後はお湯を沸かす火の音と、自らの吐息。
沸騰する前にやかんを火から外して、香りが好きでよく購入するコロンビアに、そろそろと
お湯を撫でるように優しく、細く置くようにしながら落とした。
ぐらぐらに沸騰した湯では、さっぱりとして苦味が強くなるけど、折角の甘味と香りが飛んでしまう。
「そや、冷蔵庫にケーキがあったはずやな。それに貰いモンのクッキーもあったはずや」
抽出したコーヒーが入ったカップを零さない様にそろそろトレイに載せ、ブラックでは流石に飲めないので砂糖ポットも載せる。
小さなモンブランと、ヴィヴィオが手伝って焼いたというクッキーも忘れてはいけない。
窓から眺める景色は雨にけぶり、口元に運んだカップから立ち昇る湯気が窓を曇らせる。
砂糖を溶かした濃い琥珀色の液体は、眠気を払ってはくれたがパジャマから着替える行動力はくれなかった。
クッキーは様々な動物を模した形になって焼かれ、サクサクと心地好く歯切れてはやてを楽しませ、疲れから来るのだろうか、
胸に僅かな寂寥感を残しながらコーヒーと一緒に咽を滑り落ちていった。
チャイムの音がドア越しにかすかに耳に聞こえた様な気がしたけれど、いまの気分では招かれざる客だ。
居留守でも使おうかとカーテンに手を伸ばして、せめてこの不運なお客の顔を一瞥しようと視線を落すと、
雨に濡れたシンと目が合って…………
なぜ来たのかなんて不思議に思いながら、嬉しくて鼓動が早くなる。
たぶん仕事絡みだろうってすぐに解かったけれど、想い人の来訪は寂寥感すらも砂糖の様にカップに溶かしてくれた。
2
シン「ライオンの子か、俺もライオンのみたいに強かったらな……」
フェイト「そうかな、シンは充分強いよ」
シン「でも……俺は、負けました……」
フェイト「違うよ、そうじゃない。 何度でも立ち上がって、痛くても辛くても頑張るシンは強いって事」
シン「……フェイトさんは歌詞みたいな人ですよね、気高くて、優しくて、強くて……まるでライオンみたいに」
フェイト「ふふふ、褒め言葉って受け取って置くよ。 でね、シン?」
シン「なんです?」
フェイト「その……やっぱりライオンはメスだけじゃ不自然じゃない?」
シン「まぁそうですね」
フェイト「じゃっ、じゃぁ……その……つがいになってくれる?」
シン「!!!!!! あっ、いや……」
フェイト「いや……だよね……」
シン「そっ! そんな意味じゃなくてですね!!」
フェイト「じゃあどんな意味?」
シン「なんていうか……フェイトさんは綺麗だし、優しいし……」
フェイト「答えになってないよ?」
シン「ははははははは、ですよね……」
どっか~~~~~~ん(壁を破壊して
はやて「騙されたらあかんよ! 傷ついたシンライオンに必要なのは獣医さんや!!」←なぜか白衣の先生
ちゅど~~~~~~ん(壁をh(ry
なのは「ついでに悪いライオンは駆除しなくちゃね、さぁ私の保護下に入るの!!」←なぜかハンターの姿
フェイト「もう一押しだったのに……私は簡単に駆除出来ないよ、なのは?」ビキビキ
なのは「知ってるよ、フェイトちゃん。
でもね、伊達でエースオブエースのカンバンは背負ってないよ」ピキピキ
はやて「そうや、負けられへん。 私の魔法は細かい狙いはつけられへん。
だから、まとめて踊ってや、不運(ハードラック)と」クワッ!
「「「さぁ、喧嘩の時間だよ!!!」」」
シン「よく喧嘩してる割に結構仲良いよな、三人とも。 お茶ありがとな」
ティアナ「どう致しまして、でも喧嘩する程仲が良いって言うしね。」
スバル「でもさぁ~野生のライオンってハーレムじゃなかったっけ? 豆大福も~らいっと」
ティアナ「…………スバル、もう少し考えてから発言してよね。
それからシン? あくまで野生の話だからね?」
シン「野生じゃなきゃどんなライオンだよ……」
ティアナ「そっ! それは……飼いライオン?」
シン「誰がライオンなんか飼うんだ、常識的に考えて」
ティアナ「わっ! 私が……飼って上げてもゴニョゴニョゴニョ……」
スバル「ティア凄い真っ赤だよ~」
ティアナ「うっさい! バカスバル!!」
シン「この二人もなんだかんだ仲良いよなぁ~」
「「「「当事者が和むな!!!!!」」」」
勿論この後、しっかりと怒られたシンでした。
最終更新:2010年06月15日 21:46