アーマード・コア -マスター・オブ・女難
落下の重力で、体がシートに押し付けられる。
地上からは、対空砲火が上がる。 それはまるで花火のようで、一瞬、目を奪われた。
しかし、シンは知っていた。
それは死の閃光であり、心奪われたが最後、命まで奪われる光である事を。
……別に当たりはしないが、撃たれっぱなしも、あまり気持ちいいものじゃない。
何より、万が一の事と、後続を考えると、牽制程度はしておくべきか。
そんなシンの考えを後押しするかのように、FCSが敵を射程内に捉えそれをロックした事を告げる電子音を鳴らした。
……ならば撃たない理由は無い。
もっとも火線の濃い場所、つまり敵の密集している場所にライフルを向け、容赦なくトリガーを引いた。
数発の弾丸が光の軌跡を描き、暗闇の中に飛び込んでいく。
レーダーに映る、固まった光点が、蜘蛛の子を散らすように散らばって行く。
敵が回避に専念している一瞬の隙に、地上へと着地する。
上を見上げるとエネも、シンに倣い降下中に敵に向けミサイルとライフルを叩き込んでいた。
残りの敵MTの数を確かめる為、レーダーを覗き込む。レーダーは先程のシンとエネの攻撃で、二機撃破した事を示していた。
エネがシンの機体のそばに着地する。
シンがエネに通信を入れようとしたその瞬間、コックピットにロックオンアラートが鳴り響く。
「エネ、建物の影に入って援護頼む!」 真正面を見据える敵は2機。
「了解」 短い返事と共に、すぐさま援護に入るエネ。
シンは自らを囮にするかのように、敵MTに突っ込んだ。 正面からマシンガンが来る。
遅い。機体を左に振り、加速させるべくフットバーを踏み込む。 弾丸が空しく宙を裂く。
MTの左側に回り込み、左腕を振るう。 ブレードからプラズマ化したガスが放出され、瞬時に刃を形づくる。
プラズマブレードが、縦一直線に敵を引き裂いた。
続けて真横にいたMTを体勢も変える事無く右手のライフルで撃ち抜く。
敵がバランスを崩した所に、まだ刃の消えていないブレードを振るった。
高温のプラズマガスによって溶断されたMTが不愉快な金属音をたて、崩れ落ちる。
次の敵を探そうとシンが顔を上げたそのとき。
溶断されたMTの間から、後方に控えていたMTがシンの機体にグレネードを向けていた。
マズイ。 五感が危険を告げる。 久々に味わう死の恐怖。 シンの中で、何かが弾けようとしたその刹那。
「シン! 動かないで!」
エネの叫びが通信機を介し、コックピットに響く。 エネを信じ、操縦桿を動かす事無く握り締めた。
ミサイルが飛来し、敵を穿つ。 体勢を崩したところに、弾丸が叩き込まれる。
その瞬間、シンは機体を全速力にて後退させる。
発射寸前だったグレネードに引火し、大爆発を引き起こした。
「助かったよ。 ありがとうエネ。」
機体頭部をエネのいる方へと向けた。
「シンには及ばなくても、これ位はやってみせます。」
力強く、感情を込めエネは言う。
「うん、敵が二方向に別れてる。 ここは俺達も二手に別れよう。」
短い戦闘。だがその短い中、シンのエネへの評価は『守るべき者』から『共に戦う戦友』へと変化していた。
ならば分散して当たった方がいい。 軍人、パイロットとしてのシンはそう判断した。
「そうですね。 わかりました」
「……エネ、気をつけて」
言うべきではない、そう思ったが、戦闘中とはいえシンの中に残った僅かな人間が、自然にその言葉を搾り出していた。
「ええ、シンもね」 しかしエネはそんなシンの思いなど意に返さぬかのように、力強い返事を返した。
二人はコックピットの中で頷くと別方向へ機体を走らせた。
「…………思っていたよりもやるわね」
廃墟の中、周囲を見渡せる高台に愛機エキドナを待機させ、レジーナは呟いた。
コックピットの中には、モニターがいくつか分割され、それぞれ別の場所を映し出していた。
「……それはシンのことか? それともエネさんのことかい?」
通信機から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「随分、余裕なのね」
独り言を聞かれたのは、通信機をオンにしていた自分のミス。
そのことを棚に上げ、不愉快そうに若干の皮肉を込め、レジーナは声の主、フリッツに言った。
「ああ、自分の分は終わったからな」 皮肉に気付いているのか、気付かないのか、我関さずとフリッツは話を続ける。
「……ジナイーダの応援に行かないの?」 もっと働け、未だ不機嫌なレジーナはさらに皮肉を言い続ける。
「手伝おうか? って聞いたら来るな! って言われたからな。彼女にもプライドがある」
やれやれと首を振っているのが見えるようだ。
「そうね。ねえ信じられる? あの二人は一度もACに乗ったことがないのよ」
「エネはまあ新人らしい動きだが、シンの奴は明らかに戦い慣れている。 全体で見れば中堅クラスに匹敵してるな」
「だがどうにも素人くさい所がある。 多分ACに乗り慣れていないからだな」
「乗り慣れていない?」
「ああ、気づかなかったか? あれは、相当の修羅場をくぐり抜けてきてる。 まぁ…おそらくは俺とご同類だからな」
含みを持たせた口調のフリッツ。
「……あの若さで、一体何者なの?」 含みのあるフリッツにあえて目を瞑り、疑問を続ける。
「さあ? だが、いずれにせよ」
「これでラスト!」 エキドナのモニターとレーダーがシン達が全てのターゲットを撃破したことを告げていた。
「それなりの力はあるか」 おそらくフリッツもレーダーを見ていたのだろう。
一人レジーナはコックピッとの中で頷き、通信機を手に取った。
「これで終わり、なんでしょうか?」 エネは誰に言うでもなく呟いた。
「ええ、そのとおりよ」 通信機からレジーナの声が流れる。
「それじゃあ」
「ええ、これにてレイヴン試験を終了。 そしてレイヴン試験試験官として宣言します」
「認めましょう。 君達の力を、今、この瞬間から貴方達はレイヴンです」
「尚、今回貸与されたACはそのまま貴方達の機体になります。しばらく乗ることになる機体なので大切に扱うように」
「後の細かい所は担当補佐官にでも聞いて頂戴」
「そして最後に一言、合格おめでとう。新たなレイヴン、今後の活躍を祈っているわ」
「やりましたね! シン」 エネは本当にうれしそうにシンに言った。
「ああやったな!」 それに答えるかのようにシンは頷いた。
「モクヒョウタッセイ」 頭部に搭載された補助コンピューターが、合成音声で戦闘の終了を告げた。
「それからお前も御苦労さん。 そんでもって、これからよろしくな相棒」
溜息と共に全身の筋肉が弛緩する。
僅かに微笑むと、シンは新たな愛機となる鋼鉄の鎧に労いの言葉を掛けた。
「お守りはおしまい。とやれやれ、ジナイーダを迎えに行ってやるか」
試験の終了を確認したフリッツは、緩んでいた表情を引き締める。
操縦桿を握りなおし、ジナイーダのいるであろう方向に機体を向けた。
「……それには及ばん」
フリッツの呟きを聞いたのか、ジナイーダはファシネイターをアナイアレイターの隣に降り立たせる。
「お疲れさん。 遅かったな、試験終わったぞ。さぞかしシンが心配だっただろう」
再び表情を緩めるとフリッツは如何にも意地悪そうな声でジナイーダに話しかけた。
「知っているし、心配など無用だ。……アイツは私が見込んだ男だぞ」
そんなフリッツの言葉など気にも遂げずジナは言う。
「……へぇ、ベタ惚れって感じ?」 顔をニヤつかせ、からかう様にフリッツは言う。
「なっ、何を言っている! 私は別にあいつのことなど、気にもしていない。 第一……」
「まあいいさ、とりあえず帰るとしよう」
聞いてもいないことを喋りだすジナイーダを苦笑し、フリッツはアナイアレイターを飛び立たせた。
最終更新:2008年06月24日 19:21