全速力で紅魔館を脱出した魔理沙はそのままの速度を保ち、真っ直ぐ自分の家へのある魔法の森へと向かう
いつもどおり紅魔館からの追っ手もなく、道中に邪魔をするものもいないため、あっという間に魔理沙は自宅に到着した
「到着っと・・・・・・ん?」
到着したことで速度を落とし、そこでようやく違和感に気づく魔理沙
「なんか後ろのほうが重いような・・・・・・うぉ。」
違和感が気になり、魔理沙が後ろを向くと
そこには片手だけで箒を掴み宙ぶらりんになってゆらゆら揺れるシンの姿があった
「まさか掴まってるとは思わなかったぜ・・・・・・て気絶してるのかこいつ?」
気絶しながらもその手を離さないシンに呆れたように息を吐く魔理沙
とりあえずゆっくりと降下して、シンを地面に下ろす
そしてうつ伏せになるように倒れているシンから箒を引っぺがす
「さて、どうしたもんか。」
引っぺがした箒を片手に、困り顔で悩む魔理沙
とりあえずその手に持つ箒でつついてみる
「・・・・・・」
はんのうがない、ただのしかばねのようだ
「ムゥ・・・・・・」
ピクリとも動かないので更に困ってしまう魔理沙
うんうん唸りつつ、どうしようかと考える
そして思案した結果、一つの答えに至った
「ほっとくか。」
「ほっとくのかよ!!」
あんまりな魔理沙の言葉に、ガバリと跳ね起きつっこみを入れるシン
「お、起きたか、まったく反応がなかったから死んだのかと思ったぜ。」
「勝手に人を殺すな、たった今起きたんだよ。」
シンはこう言ってるが、魔理沙の箒の速度はかなり速い
それこそ全速力で飛べば、一般自動車に敵う程度の速度は出せる
その状態の箒に片手のみで掴まっていたのだ、生きているほうが逆に不思議である
「ところで、何で私の箒になんか掴まってたんだ?」
そんな状態にさらされながらも、涼しい顔をしているシンに呆れつつ、気になっていたことを尋ねる魔理沙
「・・・・・・お前がそれを言うのかよ。」
魔理沙の質問に今度はシンが呆れる
「ん?私は別にお前に用なんかないぜ?」
「お前な・・・・・・俺の務め先から強盗働いたのはどこのどいつだ!」
惚ける魔理沙に少し声を荒げ凄みを利かせるシン
「盗んでなんかいないぜ、死ぬまで借りてるだけだって言ったろ?」
「世間ではそれを泥棒とか強盗って言うんだよ・・・・・・」
それでもまったく動じず、先ほどとまったく同じことを言ってのける魔理沙に、シンは肩を落として呆れ返る
「とにかく、命令だから、盗ってったもん返せ。」
シンは落としていた肩を直すと手を差し出し、改めて本の返還を要求する
「いや、まぁそれは置いといて、とりあえず中に入らないか?結構重いんだよこれ。」
魔理沙はそういって背中に背負っている風呂敷を指差す
その風呂敷の中には持ってきた本が大量に入っており、確かに重そうだった
「む・・・・・・それもそうか、だけどいいのか?今日あったばかりの俺なんか入れて。」
魔理沙の言葉に納得しつつ、少し遠慮がちに尋ねるシン
「別にかまやしないさ、どうせ客間に入れるだけだし、見せて恥ずかしいものなんて持ってないしな。」
そう言いつつ、魔理沙は家のドアへと歩いて行き、ドアを開けてシンを手招きする
「ほれ、そんなところに立ってないで来いって。」
手招きしつつ、自らは家の中へと入っていく
「・・・・・・まぁ、お前がそういうならお邪魔するけど・・・・・・」
シンも魔理沙の手招きに応じて、家の中へと入っていった
「うわ・・・・・・」
家に入りシンはその有様に絶句する
とにかく物が多いのだ
収納するためのタンスや棚などいろいろ家具は揃っているにも関わらず、その中から溢れ出している
「お前・・・・・・少しは整理しようとか思わないのか?」
客間の椅子に座り、散らかっている周りを眺めつつ、台所に立つ魔理沙に尋ねるシン
「失礼な、これでも整理してるほうだぜ、捨てる物もあまりないしな。」
台所で紅茶の用意をしつつ、シンに答える魔理沙
お盆に用意したカップを載せるとそれに紅茶を注ぐ、そしてそれをシンのいる客間へと運ぶ
「ほれ、紅茶だ。まぁ紅魔館のには劣るがそれでも十分おいしいぜ。」
そういって二つ運んできた片方をシンの前に置き、もう片方を反対側の席に置き自分はそこに座る
勧められるがままに紅茶を一口、口に含むシン
「・・・・・・確かに美味い・・・・・・俺にはこんな美味い紅茶入れられないよ。」
その紅茶のおいしさに、ホゥっとため息を漏らすシン
「紅茶なんて茶葉さえ良ければおいしいもんだろ?」
シンの言葉に不思議そうな顔をして問いかける魔理沙
「いや、それが結構ちがくてだな・・・・・・ってこんな話をするためにお邪魔したんじゃねーーー!!」
本を取り返しにきたはずなのに、段々と紅茶の話で盛り上がってしまっていることに気づいたシン
「ち、気づいたか。」
「って確信犯かよ!」
魔理沙の言葉に耳聡く反応し、すかさず突っ込むシン
「さぁ、借りていった本返してもらおうか。
って言うかだ、これだけ物が散らかってるんだったら読み終わった本くらい返したらどうなんだ?」
当たりに散らばっている本を見ながらシンは魔理沙に言う
「読み終わっても読みたくなる時ってあるだろ?そんなときに手元に無かったら困るじゃないか。」
「いや、借り物なんだからそこは返せよ。」
さも当然だというように言いのける魔理沙に呆れるシン
「とにかく、こっちも命令受けてるからな、一部でも返してもらうまでここは動かん。」
そういってシンはドカッと椅子に座り込む
「むぅ、それは困るぜ・・・・・・」
頬を指でかきつつ、困った表情でシンを見る魔理沙
見る限り、彼は本気である
ぶっちゃけた話、スペカの一つでも発動すれば彼一人くらい吹き飛ばすのはわけないのだが
一般人相手に使うのは憚れるし、何より自分の家を壊す趣味は魔理沙には無い
どうしたもんかと考える魔理沙の頭の中に、一つ妙案が浮かんだ
「わかった、私もここに居座られちゃ溜まらないからな、読み終わった本は返すぜ。」
「本当か!?」
魔理沙の言葉に険しく歪めていた眉間を解き、にわかに明るい表情になるシン
「あぁ、ただし一つ条件をつけさせて貰う、これが飲めないってんなら仕方ない、実力で排除させてもらうぜ。」
そういって真面目な顔でシンを見据える魔理沙
シンもその顔に本気の色をみてとる
「・・・・・・わかった、それくらいならこっちが妥協しよう。」
そういって肩の力を抜くシン
しかし、この発言をやめるべきだったと後悔することを、彼はまだ知らなかった
「よし、契約成立だな。」
シンの言葉に快活に笑って言う魔理沙
「で、その条件ってのはなんなんだ?」
改めて、条件の内容を確認するシン
「あぁ、ちょっとした実験に付き合ってもらおうと思ってな。ちょっと待て。」
そういって、なんだか魔法瓶がたくさん入っている棚を開け、その中から一つを取り出す
「あったあった、ほれ、これ飲んでみてくれ。」
取り出した魔法瓶からこんぺいとうのような物を一粒手に取ると、シンに手渡す
まじまじと、手渡されたこんぺいとうのような物を見るシン
「これは・・・・・・飴か?」
「いやたしかにこんぺいとうに見えるけど・・・・・・れっきとした薬だぜ。」
シンの言葉に少し微妙な顔をして答える魔理沙
「薬って・・・・・・まさか飲むと性別が変わるとかそういった類のものじゃないよおな?。」
嫌な予感がして更に魔理沙を追求するシン
「いや、特にお前の体がどうにかなるって薬じゃない、そこは安心していいぜ。」
ニコニコといい表情をしながら言う魔理沙
だがしかし、彼女は嘘をついた前歴がある
そのせいで半信半疑になり、飲むことをすこし躊躇するシン
それでもこれを飲まない限り、本が返ってくることはない
「えぇい、考えてても仕方ない!ままだ!」
そういってシンは勢いよく薬を口の中へと放り込み、噛まずに一気に飲み込んだ
しかしシンの予想と違い、体が特に変化するなどということは起きなかった
「・・・・・・何もおきない?」
「だからどうもならんっていたっだろ、お前信用してなかったな?」
魔理沙はジト目でシンのことを睨みつつ、その場から動き出す
「どこ行くんだ?」
「外だ、お前もついて来るんだぞ?」
「外・・・・・・?」
魔理沙の言葉を疑問におもいつつも、シンはその後ろについていく
外にでた二人はお互い対峙する形で向き合う
「で、これからどうするんだ?」
「まぁ、ちょっと私の話を聞いてくれ。」
そういって、魔理沙は常々思っていたことを話し始める
「弾幕ごっこって知ってるか?あれって相手の弾幕を回避し続けるのが普通なんだが、回避するにも限度ってもんがあるし、何
より疲れる。そこで私は考えた、『1~2発食らった程度じゃ落ちないように体を強くすればいいんじゃね?』ってな」
「・・・・・・まぁ、確かに耐えられる攻撃なら耐えてちゃったほうが戦闘は楽に進むよなぁ・・・・・・」
魔理沙の言葉に頷くシン
「だろ?そんな訳で私は体を強くする薬を作った、それがさっきお前に薬だ。」
「そうだったのか・・・・・・ん?ちょっと待て、この流れから行くとまさか実験って・・・・・・」
ここまで来て実験の内容に気づいたシンが冷や汗だらだら流して魔理沙に尋ねる
「ご想像の通り、実際に体が強くなってるか私の弾幕を受けてもらうぜ。薬がしっかり効いていれば死ぬこたないから安心して
いいぜ。」
そういって魔理沙は一枚のカードと小さな八卦の形をした物を取り出す
「ちょっとまて!それって効いてなければ死ぬってことじゃ・・・・・・「問答無用!恋符『マスタースパーク』!」ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シンの叫びも空しく、白い閃光と共にシンの悲鳴が魔法の森に木霊したのであった
「遅いわね・・・・・・」
時は夕刻、紅魔館の前に広がる湖の畔で一人、パチュリーがつぶやく
彼女はレミリア達に図書館で起こった出来事を報告した後、すぐに戻って本を読みふけっていたのだが
シンが湖を渡れないことを思い出し、こうして迎えに来たのだが
「いい加減帰ってきてくれないと本が傷んでしまうんだけど・・・・・・」
パチュリーは傍らに積んである本に目をやる
待ってる間暇つぶしにと持ってきたものなのだが、あまり日にさらすのも良くない
「あら・・・・・・?」
何気なく空を見上げると、ふよふよとこちらに飛んでくる影があった
目を凝らして見るが、元々目が悪いほうなので影が一体なんなのか判断できない
影はそのままふよふよとこちらに向かって飛んでくる
近づいてくるにつれ、その姿がパチュリーの目にもはっきり見えるようになっていた
「おっす。」
「あら、貴女だったのね。」
影の正体は魔理沙だった
彼女は常の黒白の服装に、去っていったときのように大きな風呂敷を背負っていた
箒の先に白い紐が結わえてあり、その先を見ると見知った新人執事がぐったりとぶら下がっていた
「おう、私だぜ。それにしても珍しいな、お前がこんなところにいるなんて。」
「ちょっと貴女に攫われたうちの執事の帰りを待っていたのよ。」
「攫ったわけじゃない、ただ単にこいつが勝手についてきただけだぜ。」
パチュリーの言葉に不満そうな顔をする魔理沙
「で、彼はどうしたのかしら?」
そんな魔理沙の態度を無視し、吊るされているシンに目をやるパチュリー
よく見ると所々何故か焦げている
「あぁ、ちょっと実験に付き合ってもらったら、な・・・・・・」
やっちゃったZE☆っという表情をしながら頬を書く魔理沙
「別にいいけど、あんまり無茶しすぎるとレミがキレるわよ?」
「それは勘弁してほしいぜ。」
パチュリーの忠告を聞いて、冷や汗をかく魔理沙
「そうそうこれ、今まで借りてた本だ。読み終わったから返しにきたぜ。」
そういって箒を降りると、背負っていた風呂敷を下ろしパチュリーに差し出す魔理沙
因みに魔理沙が箒を降りると同時に箒は浮くのをやめ地面に落下、それと共にシンは地面へとダイブしていた
「え・・・・・・?」
魔理沙の台詞に驚きすぎて目が点になってしまうパチュリー
「なんだその心底驚いたって顔は・・・・・・」
「だって、貴女が本を返すなんて・・・・・・明日は嵐でも来るかしら?。」
「お前は私を何だと思ってたんだ・・・・・・」
あまりのパチュリーの言いように肩を落としてため息を吐く魔理沙
「まぁそんな話は言いとして、一体どういう心境の変化?」
「それが聞いてくれ、こいつ私が本を返さないならうちに居座るって言い始めてな。
そんなのごめんだから実験に付き合うならって条件出したらすぐさま了承してきたんだ。
こんなお人好しははじめて見たぜ、まったく厄介な奴を雇ってくれたもんだ。」
ウンザリした様子で事の次第を話す魔理沙
「へぇ・・・・・・そんなことがあったの・・・・・・」
その魔理沙の話を聞いてパチュリーも多少なりとも驚いた
彼は半ば無理矢理ここで働かされている
なので彼がそこまでしてここの仕事に尽くす義理など無い
だというのに彼はパチュリーの命令を忠実に実行して見せた
自分勝手に生きている彼女達妖怪には考えられない思考である
「まぁ、そんな訳で約束は約束だからな。こうして本を返しに来るついでにこいつも運んできたわけだ。感謝してほしい
ぜ。」
そういって魔理沙は再度大きなため息をついた
「あ、えぇ、そうね、ありがとう。」
少し惚けていたパチュリーは魔理沙の言葉にあわてて礼を言う
「それじゃ、私は帰るぜ。」
そういうと魔理沙は箒を拾い、結んでいた紐をほどくと箒に跨り、空へと舞い上がる
「あ、そうそう、そいつが意識取り戻したら伝えといて欲しいことがあるんだが。」
ふと、思い出したようにパチュリーへと体を向ける魔理沙
「内容は?」
「『契約は続行中、そのうちまた実験に付き合ってもらうから覚悟しておけ』だ、よろしく頼むぜ。じゃな!」
内容を告げると、魔理沙は快活に笑い、そのまま魔法の森へと飛んで行った
「・・・・・・まったく、なんだかんだ言って彼のこと気に入ったのね・・・・・・」
素直じゃない、そう思いつつも飛んで行く魔理沙を見送るパチュリー
「さてと・・・・・・とりあえずつれて帰らなくちゃ。」
そういってシンの方へと向き直るパチュリー
「それにしても、まさか魔理沙を折らせるなんてね・・・・・・」
彼女は蒐集癖があり、気に入った物は相当なことでない限り手放さないはずである
それを折らせたのだから、シン自身も相当の頑固者なのだろう
「そこまで頑なになる必要も無かったのだけど・・・・・・お陰で本も戻ってきたしお礼は言っておくわ、ありがとう。」
倒れているシンに、まるで独り言のように礼をいうパチュリー
「さてと、それじゃぁ行きましょうか。」
そう言って、懐から一枚のカードを取り出し、一言つぶやく
「木符『シルフィホルン』」
言葉と同時に、彼女らの周りに風が巻き始める
その風はシンと魔理沙の置いていった風呂敷に収束していき、彼らをゆっくりと空へと運んでいく
それを追うように、パチュリーも空へと舞い上がる
「まぁ、そのお人好しな性格のせいで、これからもトラブルに巻き込まれないよう気をつけなさい。」
湖を飛びつつ、いまだ気絶しているシンにつぶやくように語り掛けるパチュリー
魔理沙と同様、パチュリーもシンのことを案外気に入ったようなのであった
最終更新:2008年06月25日 01:48