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Galaxy Destiny-04a

「シンくーん、今起きてるー?」

 そう言ってベッドの前までやってきた不法侵入者は、シンもよく知る少女だった。

「みる、ふぃーゆ……?」
「えへへへへ。お見舞いに来ちゃいました」

 掠れた声で名前を呼ぶシンに、来訪者の少女―――ミルフィーユ・桜葉が朗らかに笑う。
 まるで太陽のような笑顔だった。彼女の顔を見ているだけで、風邪で滅入っていた気分が少し楽になった気がする。

「ごめんね、いきなり押しかけちゃって。ひょっとして寝てた?」
「いや、起きてた」

 シンはそう言ってベッドから上体を起こした。身体はまだキツいが、ミルフィーユの前で情けない姿を見せたくない。ちょっとした意地だった。

「シン君、ご飯はちゃんと食べてる?」

 ミルフィーユの問いに、シンは「いや」と首を振る。食欲もないし、そもそもベッドから起き上がれもしなかったのだ。朝から何も食べていない。

「風邪がもう少しマシになったら何か食べるよ」
「駄目ですよシン君! そんなんじゃ治る風邪も治りませんよ?」

 シンの言葉に、ミルフィーユが叱るように口を尖らせる。

「そんなことだろうと思って……じゃーん! お昼ご飯を作ってきましたぁ」

 そう言ってミルフィーユがどこからともなく取り出したのは、中からぐつぐつと音がする一つの土鍋だった。
 蓋を開けると、白い湯気がもわっと部屋の中に広がる。いいにおいだ。

「ミルフィーユ特製七草粥でーす!」

 言われて覗き込んだ土鍋の中には、米や野菜の他に肉のようなものも見える。これではお粥と言うよりおじやだ。
 ミルフィーユがお粥をスプーンで掬い、ふーふーと息を吹きかけた。火傷しない程度に程よく冷まし、ひょいとシンの口元へスプーンを運ぶ。

「はい。シン君、あーんして」
「ええっ!?」

 シンが躊躇うのも無理からぬ話だった。これでは子供扱いされているようなものだ。「はいそうですか」と素直に従えるものではない。
 ちらりとミルフィーユの顔を覗き見ると、満面の笑顔でシンを待っている。葛藤の果てに、シンはぱくっとスプーンを口に咥えた。

「どうですかシン君? 今回のはいつも以上の自信作なんですけど」

 期待するような表情で尋ねるミルフィーユに、シンは咀嚼しながら「美味いよ」と返す。
 実際、美味い。あまり食欲はないが、これならば今の弱った胃腸も抵抗なく受け入れてくれるだろう。

「ホントですか!? よかったぁ」

 シンの返答に、ミルフィーユの顔に喜色が浮かぶ。

「……わたしってドジだし、トロいし、いっつもシン君やエンジェル隊の皆に迷惑ばかりですから、こんな形でもシン君の力になれるのは嬉しいです」

 どこか自嘲するような陰のある笑顔でそう零すミルフィーユに、シンは「そうじゃない」と言ってやりたかった。
 そうじゃない。ミルフィーユのおかげで、自分がどれだけ救われたか分からない―――と。
 だがいざ口にしようとして、シンは自分の気持ちを言葉にできないことに気づいた。己の感情表現の不器用さを改めて呪いたくなる。
 シンはミルフィーユの手から土鍋を奪い取った。指先や掌が火傷しそうなほど熱いが、気にしない。土鍋を抱え、中のお粥を豪快に平らげる。

「あのさ、ミルフィーユ」

 空の土鍋を膝に置き、シンはミルフィーユに声をかけた。

「こんなこと頼むのも図々しい気がするけど……夕食も頼んでいいか?」

 その言葉にミルフィーユは驚いたように目を瞬かせ―――満面の笑顔で「はい」と頷いた。

「腕によりをかけて作っちゃいますから、夕食も期待してて下さいね! モリモリ食べて、ぐっすり休めば、宇宙インフルエンザなんてバーンって治っちゃいますよ!」

 憂いの消えた、まるで子供のように無邪気な笑顔で励ますミルフィーユに、シンの顔にも自然と笑みが浮かんでいた。

「あ! そうだ、もう一つ“とっておきのお見舞い”を持ってきたんでした」

 そう言ってミルフィーユが取り出したのは、一本の長ネギだった。太く、長く、立派な長ネギだった。すごく……大きな長ネギだった。
 その瞬間、シンの表情が凍りついた。民間療法に疎いシンは、ネギの使い道など食べるか振るかの二択しか知らない。
 尻の穴に座薬よろしくぶっ挿すなんてマニアックな使い方なぞ全く知らない。断じて知らない。知 ら な い っ た ら 知 ら な い の だ !!

「ミ、ミルフィーユ……? ネギなんかどうするつもりだ?」

 さりげなくベッドの端へ逃げながら尋ねるシンに、ミルフィーユはネギを片手に満面の笑みでにじり寄り―――、

「はーい、シン君お尻出してー♪」

 ミルフィーユの目は本気だった。

「ま、待てミルフィーユ。落ち着け! やめろそれ以上近づくな放せパジャマを脱がすなやめてパンツに手をかけるな頼むネギだけはあああああっ!!」






 その日、「アッー!!」という謎の悲鳴がエンジェル隊基地に響いたとか響かなかったとか。

 ここは地球から遥か何万光年も離れた銀河の果て、トランスバール皇国。
 古代文明の遺産〝ロストテクノロジー〟の回収を主な任務とし、銀河の平和と安全を守るために日夜戦い続けるギャラクシーエンジェル隊は今日も平和だった。



――BAD END 1:ソウシツ






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最終更新:2010年12月13日 00:38
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