「げほっ、ごほっ……がふっ!」
明かりの消えた部屋の中に、苦しそうな咳の音が断続的に響く。
厚い布団の中に蓑虫のように包まり、シン・アスカは焦点の合わぬ虚ろな瞳で薄暗い天井を見上げた。
迂闊だったとしか言い様が無い、身体が資本の軍人である自分がまさか風邪でダウンしてしまうとは。
医務室で診て貰ったところ、どうやら宇宙インフルエンザに感染しているらしい……近頃急に冷え込んできたとは思っていたが、油断していた。
「俺もまだまだ、だな……」
掠れた声で自嘲するようにそう独りごち、シンは気だるげに持ち上げた片腕で目元を覆った。
額に触れる手の甲は熱を孕み、直に触れ合う肌の温かさが朦朧とした意識を眠りへと誘う。
風邪による欠勤をウォルコットに申請したところ、「この際だからどーんと休んでしまいなさい」というありがたい言葉と共に一週間の休暇を貰った。
思えばエンジェル隊に来てから一度もまともな休みを(休暇という意味で)とっていなかった、自分の予想以上に疲れが溜まっていたのかもしれない。
だからと言って、それはダウンする言い訳にはならない、過労で倒れるなど軍人として――否、大人として失格だろう。
まるで熱い紅茶の中に落とした角砂糖のように、溶け、薄れ、拡散していく意識の片隅で、シンは己の迂闊さを猛省する。
その時、空気の抜けるような音を立てながら入口の自動扉がスライドし、誰かが部屋の中に入ってきた。
廊下から差し込む明かりが逆光となり、部屋の奥で横たわるシンには侵入者の顔は見えない。
靴音を響かせながら部屋を横切り、ベッドの前にやって来たのは――、
最終更新:2010年12月13日 00:35