<ソードインパルスの憂鬱~いつか来る日のために~:中編>
――自警団の訓練場にて、二人の少女は対立していた。
一人はデスティニー、両手で大剣を構え切っ先を相手に向けていた。
一人は∞ジャスティス、同じく連結したサーベルをだらりと下げたまま半身で構えている。
そして、二人から少し離れた位置でセイバーが不安そうに二人を見つめていた。
しばらくして、スッと∞ジャスティスが左手を挙げる。
「――往くぞ!」
「ッ!」
気合いと同時に地を蹴り∞ジャスティスは真っ向からデスティニーへと突撃する。
瞬く間に間合いに飛び込んだ相手にデスティニーはアロンダイトを振り下ろす。その一撃をビームシールドを
発生させた左手の盾で受け止め、∞ジャスティスは横薙ぎにサーベルを振るう。
防がれたことを知るや後ろに飛び斬撃を避け、腰のライフルを抜き連射する。特に狙いを定めない威嚇目的で
あることは見抜かれていたのか。盾を構えたまま∞ジャスティスは再び距離を詰める。
「このっ!」
先ほどの反省を活かしデスティニーは横に剣を振るう。地面がある故にふんばれる上からの一撃とは異なり、
力任せに押し切れば体勢を崩すこともできる横の斬撃は効果的と言えた。
だが、∞ジャスティスの行動はデスティニーの予測を超えていた。
デスティニーの剣撃の方向を確認した瞬間、振られる剣に向かって地を蹴り飛び込んだのだった。
「なっ!?」
自滅同然の行為に思えたその飛び込みは、しかし直後にその真意が判明する。
一瞬の加速の後に∞ジャスティスの身体は沈み、アロンダイトと地面の間に滑り込むようにすり抜けた。
スライディング、その単語がデスティニーの脳裏に浮かんだ。
斬撃をやり過ごした∞ジャスティスは刃を消したサーベルを地面に突き立て急ブレーキをかけ、そのまま片手
で逆立ちをして無防備な背中に蹴りを叩き込む。
「ぐっ……まだっ!」
バランスを崩しかけたデスティニーはなんとか踏み止まり、振り向きざまに剣を振るう。
しかしその一撃も脚のビームカッターで受け止められる。互いに不利な体勢であるというのにも関わらず∞
ジャスティスは体勢を崩すことなく受けきっていた。
攻め続けろ、本能が告げる警告に従いデスティニーは構うことなく斬撃を続ける。
三撃を避け立ち上がった∞ジャスティスは反撃に移ろうとして……思わず目を見開いた。
剣を振った反動をそのままに次の一撃を繰り出し、さらにそのままもう一撃。
受け止めてその流れを断ち切ろうとするが、斬撃の重さに∞ジャスティスの左腕に激痛が蓄積され耐え切れず
避けてしまう。
そしてまた回転連撃が始まる。避け続けるほどに速さと威力を増す竜巻のような攻撃に∞ジャスティスの顔に
焦りの色が浮かぶ。
(このままでは……!)
回避し続けたところでいずれは捉えられてしまう。それを感じた∞ジャスティスは強攻策に出た。
斬撃を放ち、回転して次の一撃に移るコンマ数秒の間。
その戦法故に横の振りしかできないという欠点。
二つの隙を突き、∞ジャスティスはアロンダイトの柄に蹴りを放った。
「あっ!?」
デスティニーの両手から大剣が弾き飛ばされる。好機と見た∞ジャスティスは連結させたサーベルを分離させ
両手に持つが、その間にデスティニーも両肩のフラッシュエッジを抜きサーベル状にビームを伸ばす。
お互いに一気に押しきれずに反撃を許してしまったこともあり、ここで引くわけにはいかないという判断を下す。
つまり、真っ向からの斬り合いである。
「うおおおおおおおあああああああああああああああああ!!」
「はああああああああああああああああああああああああ!!」
サーベル同士のぶつかり合いに無数の光が両者の間で弾け飛ぶ。
いつかと同じ脚まで用いた怒涛の攻めを繰り出す∞ジャスティスに、しかしデスティニーは一歩も退くことな
くフラッシュエッジで捌き続ける。
「そこです!」
「ぬうっ!?」
刹那の隙を突きデスティニーはサーベルの一本を∞ジャスティスの手から弾き出す。だが直後に振り切った
サーベルを狙った一撃にデスティニーもフラッシュエッジを一つ失った。
返す太刀で放たれた斬撃をかろうじて受け止め、鍔迫り合いの形のままデスティニーは翼を開きスラスターを
全開にして吹かす。圧倒的な推力に耐える間も与えられないまま∞ジャスティスは引きずられるように押し出さ
れ、背中から訓練場の壁に叩きつけられた。
「がっ、は……!」
肺腑からすべての空気が抜け出るような声をあげ、∞ジャスティスは倒れこそしなかったものの残ったサーベルを落としてしまう。その姿を見たセイバーは思わず目を覆った。
(今度こそ!)
止めのフラッシュエッジを振るうデスティニーだが、完全に意識を失っていなかった∞ジャスティスの放った
蹴りが手首を打ち、フラッシュエッジは宙を舞った。だが無理矢理放ったせいか∞ジャスティスは体勢を崩し膝
を着いていた。
「まだまだぁ!」
デスティニーの右掌に光が宿る。そのまま隙だらけになった目の前の相手に右手を突き出し、
――その腕に、巻きつくように腕が絡みついた。
虚を突かれたデスティニーは状況を把握する前にパルマフィオキーナを撃ち込んだが、そのときには懐まで
潜り込んでいたジャスティスの髪に掠ることすらせず壁に突き刺さる。
右手を取った∞ジャスティスはそのまま背後に回りデスティニーを押し倒した。
「いたたたたたたた痛い痛い痛い!」
「……勝負ありだな」
折れる寸前まで極まっていた腕を放し、満足げな顔で∞ジャスティスは立ち上がる。
「まぁ、以前に比べれば随分と腕が上がったではないか。日々の鍛錬が窺えるな」
「……一応、褒め言葉と思っておくです」
「む? 普通に褒めたはずだが何かおかしかったか?」
首を傾げる∞ジャスティスから目を背けてデスティニーは嘆息したが、正直に言えば悪い気はしなかった。
出会いこそ殺伐としたものだったが、今では∞ジャスティスに対してそう悪い感情は抱いていなかった。この
少女はストライクフリーダムほどシンやデスティニーに干渉しようとはしない。というよりもあの騒動から今日
まで顔を合わせることなかったのだからまったくと言っていほど縁がなかったのだ。相対的にとはいえ事あるご
とに呼んでもないのに現れるストライクフリーダムと比べればまだマシだった。
加えて、少々度が過ぎているものの自警団として真面目に働いているという点も意外ではあったがそれなりに
印象が良くなった理由だった。人づてに聞く噂を聞かなければ今日のように街をブラついているときに出会って
訓練に混ぜてもらうこともなかっただろう。
より端的に言うなら、
「部下1号! 今の手合わせを見て貴様は何も感じなかったのか!?」
「え、えぇ!? いきなりそんなこと言われても……」
「ブッたるんどる! 今日はいつも以上にみっちりしごいてやるから覚悟しておけ!」
「あうぅ……」
――弩がつくほどの熱血バカなだけなので警戒する気も失せていた。
「む、そうだデス子。貴様あの大剣を使うよりニ刀を主に使った方が良いのではないか?」
「え……?」
「先ほどのことで貴様自身も実感しただろうが、やはり対艦刀では隙ができる。フラッシュエッジならば
近接も中距離も対応できる。何より振りがコンパクトになる。対艦刀はある程度相手の動きを封じてから
使うようにすれば避けられにくくなるはずだ、違うか?」
……確かに、デスティニーも同じことを感じていた。
思い返せば黒いデスティニーはその通りの戦法を取っていた。それが最も最適な戦い方なのだろう。
しかし、
「それでも、これが私の……マスターの戦い方です。変えるつもりはないです」
シンは元の世界でフラッシュエッジよりもアロンダイトを使うことが多かった。そして「すべてを薙ぎ払う」
という言葉の通りに数多の相手を断ち伏せてきた。
ならば、自分もそうしよう。そう在ろうとすることが必然だろうとデスティニーは決意していた。
∞ジャスティスは虚を突かれた顔をしていたが、すぐにフッと笑みを浮かべた。
「ならば、もうひとつの方法を取るしかないな」
「もうひとつ?」
「長所を更に伸ばし、短所を克服しろ。だがその道は決して容易ではないぞ」
まるでその身で経験したかのようにジャスティスは告げる。あの蹴りを始めとした体術の数々を考えれば、
彼女にも似たような意地があったのかもしれなかった。
「さぁ! 休憩は終わりだ! もう一度だ!」
「え? でも全然休んでな……」
「私は平気だ! 部下1号、貴様も少しは戦え! 何なら二人がかりでも構わんぞ!」
「え? そ、そんな」
「意義は認めん! 大体何をそんなに心配しているのだ? サーベルもライフルも出力を最低限まで抑えてい
るから少し痛い程度だ。見ろ、訓練用の人形もこの通りまったく切れない程度の……」
――バシュッ。
無造作に振るわれたサーベルが、あっさりと木製の人形を斬り裂いた。
どさりと落ちる上半身。辺りに木が焼け焦げる臭いが広がる。
痛々しい沈黙が続いた後、ぼそっと∞ジャスティスは呟いた。
「……まぁ、たまにはこんなこともあるが大丈夫だ、問題ない」
「大問題じゃないですかぁ!」
「というか、それもし私に当たってたらどうする気だったんですか!?」
「うむ、スマン!」
「すごく堂々と謝られた!?」
ただでさえ腰の引けていたセイバーは瞳いっぱいに涙を溜めながら隅に縮こまりながらガタガタと震え、対照
的すぎるほどに腰に手を当て胸を張る∞ジャスティスにデスティニーは頭を抱える。
「えぇい、そんなところに逃げるな部下1号! 今度こそ貴様を真っ当な自警団の団員として鍛え上げてやる!」
「あううううううう……た、助けてください~」
……シンとソードインパルスのデートの間することがなかったとはいえ、これは骨の折れるどころか満身創痍
な暇つぶしになりそうだとデスティニーはいろいろと諦めたように重い息を吐いた。
「……で? なんでこんなことになってるんだよ」
「ソードの尻拭いのはずがそのソード自身に足を引っ張られた。何を言ってるのか分からないと思うが(ry」
「アタシにはテメェが何を言ってるのかがわかんねぇよ!」
「お、落ち着いてソードちゃん」
やれやれと呆れるブラストとそれに怒るソード、それをたしなめるフォースといつもの光景が繰り広げられて
いた。派手な色のドレスは置いておくとして。
「とりあえず、その服はどうしたんだ?」
「うむ、とある酔っ払いに押しつけられたものを引っ張り出してきた」
「……アイツか?」
「あぁ、奴だ」
二人の脳裏に青い羽を持った変態な方の少女が浮かんだ。聞けば飲み代の替わりに置いて行ったらしい。
いっそ仕立屋にでもなればいいんじゃないかと考えるシンだったが、アレがまともに働いている姿がまったく
想像できなかった。
「あー、まぁそっちはいいや。それで相談があるって話だけど」
「あぁ、ソードがな。ではフォース、そろそろ二人きりにしてやろう」
「え? あ、うん」
「ちょっとまて! お前この状況で引っ込むとかふざけんな!」
「ソード、最後にひとつ言わせてくれ……死ぬなよ」
「何縁起でもねぇこと言ってんだよ!? っておい! 返事しろこら!」
悲壮感の漂う一言を告げたブラストと入れ替わり出てきたソードが見つかるはずもない姉妹の姿を求めて
左右を見渡す。そしてシンと目が合うと、顔を赤くして俯いてしまった。
「えー、と……立ち話もなんだしどこか行くか?」
ソードがコクリと頷いたのを見てシンは考えを巡らす。
すんなりと話が聞ける雰囲気ではないらしいのでどこか落ち着ける場所にした方がいいだろう。
(とはいえ、どこにするかな……)
シンにしろソードにしろ、居候という形ではあるがすでにエンフィールドに定住して何ヶ月も経っている。
仕事の関係でそれなりに交友関係もできたのだが、逆に言えば少し外を歩けば知り合いに会う確率が高いという
ことだ。ソードの相談というのがどんな内容なのかはまだ分からないが、せっかくブラストとフォースが気を
利かせてくれたというのに誰かに割り込まれてしまっては台無しだ。
もっとも、今の格好のソードは知り合いと会うだけでも逃げ出しかねないが。
「――あ」
そこまで考えてシンの中に閃くものがあった。
あそこならば知り合いに会うこともないだろうし、ソードの気も紛れるかもしれない。
即断即決、シンは迷いが生まれる前にソードの手を取った。
「え……ちょ、ちょっと元マスター!?」
「せっかくだ、普段行かないようなとこに行ってみよう」
不安な表情を浮かべるソードにそう言って、シンはイーストロットへと足を向けた。
――リヴェティス劇場。
その昔存在したとある高名な女優の名を冠したこの劇場をこの街に住んでいて知らない者はいない。
もっとも一般層の住人にとっては年に数度訪れるか否かという場所なのだが、ピアノ演奏会などの催しの際に
は貧富の差に関係なく多くの人間で賑わうこともある。
そして今日、この劇場では演劇が行われるとのことだった。
「ジャンルは活劇か。面白そうだし観てみるのも……っておい、どこ行くんだソード?」
「帰る」
「早っ!? せめてもう少し悩めよ!」
「無理! 絶対無理! どう考えても場違いだってアタシは!」
「そんなこと言ったら俺だってそうだ!」
「じゃあなんでここに来たんだよ!?」
「……なんとなく?」
「理由が雑っ!?」
――風が吹いていた。
それが虚しく感じるのは劇場の前でコントのようなやり取りをして息を切らす二人と、それを遠巻きで眺めな
がらひそひそと話す見た目セレブな方々が作りだす痛々しい雰囲気のせいではないと思いたかった。
無理だけど、そうあがいても無理な話だけども。
「……とりあえず、このままここにいるのツライから中に入らないか?」
「……アタシもこの状況でずっと見られてるよりはマシな気がしてきた」
ソードの羞恥心を少しでも紛らわすためという本来の目的から激しく逸脱してしまったこの展開から少し
でも持ち直すためにシンはと並んで早足で劇場へと足を踏み入れた。
辺りを見渡すとかなりの人がいた。見た感じでは富裕層の人間ばかりではないということもあり、二人揃って
ほっと胸を撫で下ろす。多少だが場違いな感覚は薄れた。
壁に貼られたポスターに書かれた今日の舞台の大雑把な説明を読み上げる。
「今日は……一応活劇って書いてあるけど」
「50年前の戦争で起こったとある国の話か。まぁ、なんでもいいけど」
やはりまだ居心地が悪いのか、ソードは「観るなら早くしてくれ」という気配を発していた。
それを察したシンはさっさとチケットを二枚買い、一枚をソードへと渡す。
「で、飲み物とかいいか?」
「あー……じゃあ元マスターと同じので」
「了解」
売店で適当に飲み物と、ついでにポップコーンをひとつを買う。ソードの元に戻ると何故か眉根を寄せられた。
「なんでポップコーン?」
「いいだろ別に。一緒に食おう」
「い、一緒に……」
何故か頬を染めるソードの様子を訝しげに思いながらもシンは観客席へと向かう。
その途中、ふと思いついたことを呟いた。
「なんか、デートみたいだなこれ」
「……!?」
奇跡的にソーダとポップコーンは無事だったが、シンは不意に背中を蹴っ飛ばされ数秒ほど宙を舞った。
最終更新:2011年01月22日 06:50