俺がここに来てから数日が立った。
記憶喪失の振りをしてなんとか乗り切り、マリア先生に自分のことを聞くことができた。
話によると俺は…いやこの人物は両親を幼い頃に亡くし叔父夫婦に引き取られていた。
そして、この真神学園に入るために転校して独り暮らしをしている。
俺に姿も名前も境遇さえも似ている人物…それと大きな事件が起こった。
旧校舎に行った生徒が失踪している事件を調査することになった俺たちは異様なものと出会った。人を喰らう巨大な蝙蝠。
その蝙蝠が失踪した生徒を食っていたとういうことだ。
さらに旧校舎で美里・京一・小蒔・醍醐が不思議な力を使えるようになった。
この世界の人たちはすごいな俺にもそんな力があれば…
だが、今の俺に大事なのはそんなことよりも『金がない』という事だ。
「シンくんおはよー」
「おはよう」
元気の塊のような小蒔と真逆のシンが挨拶を交わす。
シンが元気がないのはアルバイトが見つからないからである。
「どうしたの浮かない顔して?」
「いや、アルバイトを捜してるんだけど高校生はほとんどダメみたいで
それに履歴書がな…」
「大変だねーん、そういえば雛乃が…お掃除のバイトなら紹介できるけどどう?」
「本当か?!ぜひお願いします!!」
シンが断る理由はない。
「うん、じゃあ…明後日の放課後いい?」
「大丈夫だ」
『♪』
校内に始業ベルが鳴り響く。
「あ、それじゃあまたねシンくん」
「ああ、またな」
放課後 校門
授業が終わり帰る用意をしていたシンに醍醐が話しかけ、あれよあれよという間に
シンの歓迎会を兼ねて花見に行くことになった。
メンバーはシン・京一・美里・醍醐・小蒔・遠野・マリアである。
「それじゃあ中央公園に6に集合だよねッ」
「飛鳥君よかったら私と
「あ、シンくん中央公園の場所わかる?」
シンは学園と自宅の周りならある程度わかるが中央公園の位置は知らなかった。
「いや、わからないな」
「じゃあボクと一緒に行こうよッ」
「お願いするよ」
「うん、準備ができたらシンくんの家にいくね」
「ああ、じゃあ後で」
そういってシンと小蒔はその場を後にした。
「…うふふ」
「な、なあ醍醐。あの旧校舎の事件から美里、変じゃねえか?」
「あ、ああ。なんというか恐ろ…」
「京一君、醍醐君何か言ったかしら?」
「「い、いや何も言ってません」」
「うふふっ…」
シンの部屋
「ここがシンくんの家か…すっきりしてるんだね」
「ああ引っ越してきたばかりだからな、悪いな何も出せなくて」
いくらシンでも客が来たときはお茶くらい出すが、金もなく物もない今の状況ではどうしようもなかった。
『よく考えたらボクたち二人きりだ…』
「そろそろ行こうか」
「え、あ、う、うん」
「小蒔大丈夫か?顔が赤いけど」
「だ、大丈夫行こうよ」
小蒔が立ち上がり歩き出す。
「そこはトイレだぞ。もしかして行きたいのか?」
「ち、違うよ!」
「あ、待てよ小蒔」
中央公園
中央公園の桜は満開でとても綺麗だった。こんな綺麗な桜を見たのは何年ぶりだろうか
オーブにいた頃は家族でよく花見をしたな。
紅葉の綺麗なところでバーベキューもした…マユに落葉をかけられたなあ
あの時と変わらないくらい楽しいけれど、疑問なのはなぜ京一は半裸なのか…
「お、シン。俺に見とれてるな、こりゃあ見物料をいただかねえとな」
なんてアホなことを言ってるし。
「飛鳥君」
マリア先生が俺に話しかけてきた。
「犬神先生から強いって聞いたわよ。なにか武道を習っているの?」
犬神先生…ああ生物の先生か。
武道と言えるのかわからないけど一応軍で空手を習っていたな。
「ええ、少しですけど」
「もう飛鳥くんったら相手が美人だとデレデレしちゃって、すこし頭冷やそうか…」
「!?」
「今度あたしの取材も受けてね」
あれ…今なんか聞こえた気がする
「なあ遠野」
「何?」
「今なんて言った?」
「今度あたしの取材も受けてねって言ったけど」
「その前は?」
「飛鳥くんったら相手が美人だとデレデレしちゃってって言ったけど」
「…そうかありがとう」
「?」
俺は疲れているんだな。
ベッドがないから床で寝てるのが悪いんだ、うんきっとそうだ。
「キャー!!」
突然奥のほうから女の叫び声がしてきた。
花見客が騒然とする。
「飛鳥、俺たちで様子を見に行こうか」
「わかった」
中央公園
俺たちは声が聞こえた方に走っていった。
そこにはスーツを着た男が血のついた刀を持って立っていた。
周りには俺たちと男以外誰もいない
「てめえ…その刀で人を斬りやがったな」
京一が男に問う。答えない、男はただ唸っているだけだった。
「遠野、先生を連れてさがってろ」
「だけど私は」
このままでは戦えない遠野と先生は明らかに危ない。
俺はもう誰も失いたくない。もう、誰も!!
「さがってください先生!!」
「飛鳥君…わかったわ」
遠野とマリア先生がさがったのと同時に茂みから多数の野犬が出てきた。
どの犬も血走った目、口にはだらしなく涎が滴っていた。
「醍醐は美里を守っていてくれ、小蒔と美里は援護を頼む京一と俺はあいつを」
「私は飛鳥くんに守られ…」
「あーーーーーー!」
小蒔が素っ頓狂な声を上げる。当然視線は小蒔に集まる。
「弓がないと力が使えないよー」
「小蒔お前なあ」
「ごめん…あ」
小蒔の視線の先には小蒔に向かって走っていく男がいた。
ヤバイ、このままじゃ小蒔が…死ぬ。
また守れない…大切な人を。たった数日だけど小蒔は俺に親切にしてくれた。
美里も京一も醍醐も傍にいてすごく楽しかった。俺の大切な人…また失ってしまう。
「小蒔!!」
まだ間に合うこの距離なら走れば…
『ザクッ』
肉が斬れる音がする。誰のだ…?
「シンくん!!シンくん!!」
目の前には泣いている小蒔の顔があった。
俺の背中に激痛が走る。よかったなんとか間に合った…
「シン、後ろだ!!」
後ろ?そうかもう一回斬るつもりなのか…
次斬られれば確実に死ぬな。
そしてどうなるんだろうか。
天国でマユたちに…いや地獄行きかな。俺は自分の意思で多くの人を殺したもんな。
「シンくん!!」
小蒔の声がする。
…俺を斬れば…次は小蒔を狙う!!ここで死ねない。俺はまだ死ねない!!
何かが弾けた。頭の中がクリアになる。
男の方へ振り向く。男は次の一撃を繰り出そうとしている。
男の動きがスローで見える。
手を蹴り上げて刀を落とし、腹に膝蹴り、さらに頭に頭突きを繰り出し。
「これで終わりだ!!」
体制を崩した相手を踵落しで沈ませた。
俺の意識はそこで途切れた…
シンの部屋
「う、う~ん」
俺が目を覚ましたのは自分の部屋だった。
「あ!シンくん…よかった」
目の前で小蒔が泣いている。
よかった無事だったんだな。
「お、シン目を覚ましたのか?」
「ああ、あいつらはどうなったんだ!?」
「俺たちで片付けちまったよ。
あのオッサンは警察に連れていかれたしな」
「そうか…あれ?傷が痛くない」
確かに俺は背中を斬られたし、血もかなり出ていた。
しかし、どうだろうか全く痛みがなくなっている。
「私の<<力>>で治したの…」
「美里の…ああ癒しの力か」
「そう、私の愛の力で
「ごめんねシンくんボクのせいで…」
小蒔が俯いて泣いている。こういうの苦手だな…
「気にするなよ小蒔。小蒔には借りがあるだろ」
「え?」
「アルバイト紹介してくれるんだろ?」
「そんなことで…」
「俺にとってはどっちも死活問題だよ」
「…ありがと」
小蒔が笑顔を見せる。やっぱり小蒔は笑っているほうがいいな。
「ボクなにか作るね!!ちょっと待ってて材料買ってくる」
「あっ…」
「うふふ…」
「「み、美里が怒ってる」」
「うふふ…うふふふふ」
美里の笑い声が部屋に響いた。
最終更新:2008年06月25日 03:11