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悠久幻想曲ネタ-44



 ――ここ数カ月の間で、このエンフィールドという街は穏やかながらも劇的な変化を見せていた。
 元より遠方からの旅人や商人が来ることはあったが、最近では観光と称して別の物を見に来る者も多いようだ。
 幼児にしか見えない少女たちが宙に浮くどころか空を自由に飛び回り、さらに自由に魔法――厳密に言えば
違うのだがここではあえてその認識のまま記す――を操るとなれば噂も広まるというものだろう。
 この少女たちは召喚された精霊のようなものであり、自らの意思を持ち住人と生活を共にする姿が見られる。
 一部を除き比較的友好的であることからすぐに人々もその存在を受け入れ順応していったようだった。
 一方で、街の自警団は新たな対応に追われている。
 少女たちは時に戦闘行為に走ることがあり、街中で騒動を起こすことも度々報告されている。
 そのため周辺住人の避難や戦闘の鎮圧のための出動が増えているのだ。避難専門の部隊を編成しているという
噂もある。とある晩に起こった一人の少女が酔った勢いで暴れまわった事件が関係していると囁かれているが、
真偽のほどはさだかではない。
 奇跡的に今まで死者は出ていないものの、巻き込まれて怪我をした住人も少なからずいたためこういった対応
も当然と言えよう。

 ……こうした変化にも順応できている街と住人は素晴らしいと思う反面、今後についての不安を感じてしまう
こともある。
 先に挙げた案件を含めても、少女たちが起こした事件は大きく影響を残すことはなかった。
 しかし、これから先もこの程度の規模で事態が収束するという保証はない。
 この騒がしくも平穏な街に深い爪痕を残すような事件が起きないことを、心から祈るしかない。

――エンフィールド新聞 記:アウトフレームD



 カオスたちの襲撃から早くもニ週間が過ぎた。
 幸い見てくれよりも派手な傷ではなかったため魔法治療との併用のおかげですぐに仕事に復帰できる程度で
済んだのだが、魔法治療に対して否定的なスタンスのクラウド医師からは苦い顔を返された。

 ――毎度のようにこんな怪我をされると医者でも困る。

 まったくもって正論なのだが好きで傷だらけになっているわけじゃないという虚しい弁護だけはしておいた。

「――お? これはまたお久しぶりで」
「……ダークダガー?」
「いやんそんな他人行儀なフルネームなんて。私のことは親しみを込めて『ダークさん』もしくは『ダーク様』
でいいですよん」
「何の用だダーク?」
「ふおおおお!? 呼び捨てとかまるで恋人みたいな扱いを!?」
「なんでそうなるんですか!?」
「極端な奴だなコイツ……」

 久々のさくら亭でのブランチタイムに唐突に現れ遠慮もなく隣の席に座るダークダガーを半目で睨みながらシンはソーセージをつっつく。何故だか分からないが、期待に満ちた視線が返ってきた。

「……なんだよ?」
「いえいえどーぞお気になさらず。欲を言えばこう端の方から咥え」

言い終わる前に口へ運ぼうとしたソーセージを隣の皿へと放る。「やったー!」と喜ぶデスティニーと対照的
にダークダガーは悔しそうな顔で舌打ちを漏らしていた。何故だか他の客の対応をしていたフォースも残念そう
な顔をしていたが、その意味については考えないようにしておく。怖いし。

「で? 久々に会ったのはいいけど何の用だ?」
「用がないと会ったらいかんの?」
「そうは言わないけど……」
「まぁ用があって来たわけですが」
「……マスター」
「斬るなよ、店に迷惑だから」

 アロンダイトに手をかけるデスティニーを制してシンは「さっさと本題に入れ」と促す。

「せっかちですな~。まぁいいでしょ。ちょっとした情報でもいかがです?」
「情報?」
「――私らの同族の話、とか」

 イエローのバイザー越しに反応を楽しげに窺う視線が向けられる。デスティニーがハッとした表情で見つめて
くる気配を感じつつ、シンは先を促すようにダークダガーを見つめる。

「ついぞ何日か前の話です。森の中で怪しい影を見た、という話があったもんで興味半分で探してみたんですよ」

 情報元は定かではないが、ストライクフリーダムやレジェンドのことを考えれば森の中というのは納得できる
話ではある。彼女たちが襲撃を受けた場所も確か森であったはずだ。

「まぁ結局見つけられなかったわけですが、湖のおじいさんに話を聞いたんですわ」
「カッセルの爺さんに?」

 意外な名前に反射的に聞き返す。あまりあの場所から離れない人物なだけにこの話の中で出てくるとは思わな
かった。

「なんでも、夜中に湖の傍に人のようで人ではない何かを見たそうで。月明かりもなかったのではっきりとは
見えなかったようですが」
「湖、か」
「水でも飲みに来たんですかね?」
「さぁ、理由は分かりませんが……ま、そんなところです」

 よっと、と椅子から下りたダークダガーはそのままスタスタと出口へと向かう。

「最近襲われたばっかと聞いたもんでまた変なのに絡まれないようにってー忠告ですわ、どうかお大事に」
「……今まさにその『変なの』が帰ろうとしてるわけだけど」
「HAHAHA! ナイスジョーク! HAHAHAHAHA!」
「マスター」
「投げるな危ないから」

 フラッシュエッジを振りかぶったデスティニーを抑えつけながらダークダガーを見送る。
 去り際に見せた「てへぺろ(・ω<)」にやっぱ止めない方がよかったかもしれないと思いつつもなんとか理性で
踏み止まり姿が見えなくのを確認してデスティニーを解放した。

「……いったい誰なんでしょうね、その湖に来てたのって」
「さぁな。害がなえりゃ誰でもいいって言いたいけど」

 口ではそう言いつつもシンの頭の中ではシャドウの影がちらついていた。デスティニーもあの黒いデスティ」ニーのことを思い出しているのだろう、珍しく表情を険しくしていた、
 あれから街の外に出ること自体が少ないせいか、現れる気配がまるでない。だから襲われることはないと考え
るのも早計なのだが、現状では人前に出てくることを避けているのは確かだろう。
 ――ならば、今はどこで何をしているのか?

「なーに難しい顔してるんだよ。揃って似合わないにもほどがあんぞ」

 振り向くとピークを乗り越えて疲労を溜めた顔のソードがいた。手に持った御盆でデスティニーの頭を軽く
叩きそのままシンの鼻先に突きつける。

「何かあったらアタシらに相談しろよな。いつでも力になってやるからよ」
「……あぁ、そのときは頼む。今は多分大丈夫だから」
「ふむ、大丈夫……か」

 何か考え込むように呟くブラストの様子に違和感を覚えてどうかしたのかと尋ねようとしたシンだったが、
外から響いてきた鐘の音に思っていたよりも長居してしまっていたことに気付く。

「もうこんな時間か、いくぞデス子」
「はーい」
「それじゃ、これお代な。ごちそうさま」
「は、はい! あ、でも、あのマスター……」
「ん? どうかしたのかフォース?」
「いえ、えっと……なんでもない、です」

 そう言いながらも視線を背けるフォースの視線の先を見やると、先ほど放り込んだソーセージがあった。
 ……シンは気付かなかったフリをして店を後にした。

「なぁブラスト、さっきなんか言おうとしてたみたいだけど何を話そうとしたんだ?」
「気付いていたか……マスターに伝えるべきかどうか迷ってな」
「伝えるって……何の話?」

「我々の、第4のシルエットに関してだ」




「……あれは本気でどうにかした方がいいのかもなぁ」
「? どうかしたですか?」
「フォースの……いや、やっぱなんでもない」

 どこか遠い存在のようになってしまったフォースに頭を抱えつつシンは街の広場を歩いていた。
 エンフィールドの広場はその広大な敷地に見劣りしない程度に多くの人で賑わっていた。所謂ストリート
パフォーマーから露天商、画家など各々の時間を過ごしている。今日は休日なのか家族連れも多い。
 和やかな光景だった。そう、他愛のない平和な景色。それがどれほど価値あることなのか、シンは今さら
ながら思い知らされていた。
 ――ズキリ、と久々に古傷が痛む。それは自分とは縁遠くなってしまったこの風景のせいだけではなく……

「おーっほっほっほ! おーっほっほっほっほ!」

 聞き覚えのある馬鹿っぽい高笑いが響いてきたからでもあった。

「……なぁデス子」
「残念ですけど現実です……」

 デスティニーもぐったりと嫌そうに視線は向けずに上を指差していた。どうやらまた高い所に登って見下して
いるらしい。煙と何とやらは高い所が好きとはよく言ったものである。

「おーっほっほっほ! おーーーっほっほっほ!」

 アピールの仕方を変えてきた。そろそろ何かしらの反応をするべきだろうと判断したシンはわざと声を張り
上げて告げる。

「よし! 帰るぞデス子!」
「はいです!」
「って無視すんなコラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 精一杯の無駄な抵抗が不発に終わったことに少し落胆し――無駄なことと分かっていたのでそれほどショッ
クでもなかったのだが――、うんざりしながら仰ぐように声の方を見上げる。

「……またお前らか」
「ハッ! スルーしてやり過ごそうたぁいい度胸してんじゃないか。調子こいていられるのも今日まで……」
「カオス! 地が垂れ流しのまんまだぞおい!?」
「あ、あらやだ……オホホホ」

 取り繕った上品な笑みで場の雰囲気を変えようとするがすでに広場に響き渡るほどの怒声を上げてしまった
後では虚しいだけだった。傍らに立つガイアが無表情に肩をすくめているあたりフォローするつもりはないらしい。
 コホンとひとつ咳を払い、カオスは改めてシンを見下ろす。

「お久ぶりですわね。傷はもういいのかしら?」
「あぁ、もうすっかりな。それで、そんなお節介なことを聞くために来たのか?」
「いえいえ、ただせっかく治ったそのお身体を今度こそブッ壊してさしあげようと思いまして」

 にこやかに言うカオスに溜息をつきながら、シンは腰のナイフに手を添える。周りの人間も剣呑な気配を察し
たのか慌ててどこかへと走り去っていった。正直手間が省けて助かる。

「……いい度胸だな。もううんざりとは言ったけど何度も襲いに来るっていうなら話は別だぞ」
「あらあら怖いですね。でも安心なさい、相手は別に用意しています」

 スッとカオスが指差す方に目を向ける。
 誰もいない。注意を逸らそうとしただけかと視線を戻そうとして。

 ――ズン!

 重々しい足音に地面が揺れる。
 建物の影、その向こう側から何かが歩いてくる気配にシンの背筋に嫌な汗が流れる。
 足音が続く度に何故かは分からないがシンの中に奇妙な予感が膨れ上がってきていた。

「マスター、下がってください!」

 危険を察知したデスティニーがシンの前に立つ。だが、その言葉も耳に届くことはなくシンはじっとやってく
る何者かへ釘付けになっていた。
 ――そして、その姿が現れる。
 身を包む色は漆黒。背丈はデスティニーの倍以上はあり、さらに背中の円盤状のバックパックに付いた巨大な
砲身がさらに全長にプラスされシンの背すらも超していた。
 バックパックだけでなく全身に備えられたビーム砲はその少女が純粋なまでに『破壊』を行使することに特化
した存在であることが見てとれた。
 無機質な瞳は何を見つめているのか定かではなく、目の前にいる自分たちすら見えているのか疑いたくなるほ
ど何の色も映していなかった。
 その姿、初めて見るというのにとてもよく知った……忌むべき名前がすぐさまシンの脳裏に浮かんでいた。

「――デストロイ」

 その呟きに応えるように巨大な少女はゆっくりと手を掲げる。反射的にナイフを抜こうとして……

「……がおー」

 あまりに気の抜けたその声に、思わず膝を着きそうになった。



<次回予告>

エンフィールドにやってきた破壊の化身
その凄まじき火力はデスティニーを圧倒し、長閑な広場を戦場へと変える
被害を広めまいと苦闘する少年、だがそんな想いも虚しきものと破壊の傷跡は刻まれていく
そのとき、現れた少女は・・・?
次回、『三位一体』

――悲しき運命を貫く衝撃が疾しる

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最終更新:2011年03月11日 12:03
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