放課後、恒例の京一と小蒔の漫才を見た後 俺は職員室に向かっていた。
なぜかというとマリア先生に呼ばれているからだ。
何かまずいことしたか? いや、思い当たる節はない。
それよりも胸の痛みだ。教室で先生に呼ばれたと美里たちに言ってから胸が痛い。病院に行ってみようかな…
あれこれ考えを巡らせている内に職員室の前に辿り着いた。
引き戸を開け職員室に入った。もちろん、 失礼します という言葉も忘れない
「あれ…」
職員室には誰もいなかった。この時間は誰かいつもいるはずの部屋に人影はない。
「マリア先生もいないな…」
俺がそう言った瞬間、後ろの引き戸が開き俺を呼びつけた人物が現れた。
「飛鳥くんもう来たの。こっちに来てくれる」
先生の誘導に付いて行く。イスに座れと言われたのでそのままイスに座った。
「話ってなんですか?」
「…飛鳥くんちょっとここで服を脱いでくれる?」
えーと、俺の聞き間違いかな。とんでもないこと言われたような気がする。
「上だけでいいの、お願い」
目的がわからない。どうして服を脱がなきゃ…待てよ。
もしかしてこれがこの世界では普通なのか?
…郷に入っては郷に従えっていう言葉を習ったな。ここは従うしかないじゃないかッ!!
「わかりました…」
正直恥ずかしい。だけど後々面倒なことになるくらいなら脱ごう。
しょうがないので夏服のシャツを脱いだ。先生は俺の身体を見ている。恥ずかしい…
先生も先生でミニスカートで組んだ足を組み替えたりしている。
こんなとこ見られたら…
「何してるんですかマリア先生?」
突然男の声がした。条件反射でシャツを羽織る。
「犬神先生…何でもありません」
声の主は俺達の生物担当の犬神先生だった。
「飛鳥、また悪さでもしたのか?」
「飛鳥くんありがとう。もう帰ってもいいわ」
マリア先生が犬神先生の声を遮る。気まずいので俺は急いで職員室を出た。
真神学園 校門
職員室から逃げ…いや出た俺は足早に靴箱に向かった。
いつもならおなじみのメンバーがいるんだけど、今日はみんな忙しいらしい。
まあ俺も今日はバイトにいく予定だから早く帰りたいと思っていたけど。
みんなで帰るとラーメン屋に行ってしまうんだよな。靴を履き玄関を出る。
「あ、飛鳥さん…」
校門の手前に差し掛かった時、誰かから声を掛けられた。
「アンタ…比良坂」
「はい、この間のお礼が言いたくて…あの時は本当に助かりました。ありがとう」
「俺は何もしてないだろ。礼を言うなら京一に言ったほうがいいんじゃないか?」
京一が追っ払ったみたいなものだからな、実際。
「でも飛鳥さんも私を助けようとしてくれましたから」
まあ、見て見ぬ振りはできないしな。
「それで、今日はお願いがあるんです」
「お願い?」
う、その髪色と髪型、マユに似てるな… その髪型でお願いって言われると昔を思い出す…
『お兄ちゃんマユ一生のお願い。そのゲームさ・せ・て♪』
『お兄ちゃんマユ一生のお願い。あのぬいぐるみ取って♪』
『お兄ちゃんマユ見たい番組があるの。み・せ・て♪』
…一生のお願いを何度も叶えさせてあげてたよな俺。
「今からわたしとデートしてくれませんか?」
えーと。今日は奇想天外な発言をよく聞いてしまうな。
「ちょっと待って!! 助けたのは京一だろ? だったら京一に…」
「飛鳥さん…わたしとじゃやっぱり嫌ですか?」
ひ、卑怯だそんな潤んだ瞳で俺を見るなんて…
「い、いいよ」
「本当ですか!? …嬉しい」
デートってやっぱり俺持ちだよな。財布の中が寂しくなる…
ハア、バイト行けないから今夜はカップラーメンか。
品川 水族館
「かわいい…」
水族館の水槽の魚を見て比良坂が一喜一憂している。
なんか本当にマユみたいだな…
「あ、すみません。自分だけ楽しんじゃって」
「いや、俺も楽しんでるから」
「飛鳥さんにわたしの住んでる街を見てもらいたくて。 …そろそろ外に出ましょうか」
「え? わかった」
足早に水族館を出る比良坂に付いて行くと池のある公園に出た。
池の魚を見て比良坂がはしゃいでいる。
比良坂とマユが重なってしまう。マユもピクニックに行ったりするとはしゃいでたなあ。
「気持ちいい…」
急に比良坂の顔が今までの微笑みに満ちた顔から一転、真面目な顔になる。
やっぱり違うな…それもそうか俺の中のマユの姿は幼いまま止まってしまったんだからな。
「飛鳥さん、ひとつ聞いてもいいですか…」
真面目な顔のまま比良坂が俺を見る。
「飛鳥さんは奇跡って信じますか?」
奇跡か、フリーダムを倒したのは…違う、断じて違う。あれは実力。
「わたしは…奇跡なんてないと思います。だって奇跡があるなら大切な人を失うことなんてないじゃないですか」
大切な人を失うか…胸が痛くなるな。
「わたしね夢があるんです。あの笑わないでくださいね……看護婦さんになることなんです。あ、あの変じゃないですか?」
「なりたいものがあるってことはいい事だと思うけど」
俺だってザフトレッドになりたかったし…まあ、あんなことが無かったらなってなかったけど。
「…ありがとう。わたし……小さい頃に両親を亡くしているんです。飛行機の事故で…たくさんの人が死にました。わたしは両
親に護られて怪我もありませんでした。でも両親は…だからかもしれません看護婦さんになりたいのは」
「…なれるよ比良坂なら」
俺だってなれたんだしな。
「飛鳥さん…ごめんなさいこんな話して。でも飛鳥さんには聞いて欲しかったんです。
だってわたしッ――…いえなんでもないです。今日は付き合ってくれてありがとうございます。もう、帰ります。本当にあり
がとう…ごめんなさい」
そう言って比良坂は走り去った。
ごめんなさいってなんだよ… 何か嫌な予感がする。
すぐに比良坂のほうへ向かった。
「くそッ見失ったか…ん?」
地面に何か落ちていた。拾い上げて見ると一人の青年と青年に抱きついている女の子が写っている。
女の子の方は多分比良坂か。もう一人は誰だ?
…写真は今度返すとしよう。時間もある、バイトに行こうか。
翌日 放課後
「今日もみんないないか…」
昨日に続いて今日もいつものメンバーは所用でいない。
か、勘違いするなよ!! 別に寂しくなんかないんだからな!!
いなかったらバイトに行く時間ができるもんな。バイトに向かうべく早めに学校を出るようにしようか。
校門に差し掛かった所で昨日と同じく声をかけられた。昨日と違うのは声の主が小さい子どもだということ。
「ねえ兄ちゃん、飛鳥シン?」
「そうだけど」
この呼ばれ方にも慣れてきたな。
「じゃあ、これ」
子どもが封筒を押し付けて去っていった。封筒にはDr.ファウストと書かれている。
「見覚えがない名前だな」
封筒を開けて中身を読んでみる。中身は新聞を切り貼りした文字で書かれていた。
「なんだよこれッ!!」
紙に書かれていたのは唐栖との戦いのこと、美里が桜ヶ丘に入院したこと。
そして、手紙の最後には彼女は預かっている護りたければ地図の場所に来いとあった。
「美里か!? それとも小蒔!? クソッ!!」
考えてもしょうがない、急がないと誰かの命が危ない!!
地図に描かれた場所には廃屋があった。その廃屋の壁にDr.ファウストの封筒が貼ってある。
中身は廃屋に入れという指示、罠かもしれない。でも、俺は見過ごすわけにはいかない。
もう…大切な人を失うのはごめんだ。
廃屋に足を踏み入れる。廃屋の中にも封筒があった。破って中身を取り出して読む。
中身は、俺は一人じゃ何もできない。もし違うならば力を見せろと書いてあった。
『ガタン』
読み終えたのとほぼ同時に奥にあった扉が開き何者かがゾロゾロと入ってくる。
「なんなんだよコイツは…」
俺が見たのは、いわゆるゾンビと呼ばれる生き物だった。いや死んでるから死者か。
ゾンビが俺に攻撃を仕掛けてくる。だけど遅かった、軽く避けて裏拳を後頭部に放った。
「うわっ」
ヌルヌルしてるぞコイツ。素手で戦うのは嫌だ…
追撃してくるゾンビの攻撃を避け、傍に積んであった角材を取る。
「アンタたちがその気ならッ!!」
5分後全てのゾンビを倒すことができた。休んでいると、また奥の扉から何者かが入ってきた。
入ってきたのは白衣を着た男。…ゾンビじゃないよな?
「はじめまして。僕の手紙を受け取ってくれてありがとう」
どうやらゾンビじゃないみたいだ。なら話は早い。
「アンタがDr.ファウストだな?…人質を出せ!!」
「あれは嘘さ、君の力を見たくてね」
やっぱり罠か…いや誰も危険にさらさなくてよかった。
「でも君は力を見せてくれなかった。今までの戦いでもそう。一度もね。さっきの生物はね、僕が病院で手に入れた死体にちょ
っと手を加えた物なんだけど君には弱すぎたみたいだね。ところで君はブゥードゥーって知ってるかい?」
一人でよく喋る奴だな…というかバカにしてるのかよ。ブドウくらい知ってるに決まってるだろ。
「そのくらい知ってる!!」
「そうか…そういえば挨拶がまだだったね。僕の名は死蝋 影司。品川にある高校の教師をしている。君の力を必要としている
者さ、よろしく」
「ゾンビなんか作ってる奴と仲良くなんかしたくない。俺は帰るからな」
「ふふふふ、かわいいよ君って…僕と君はいいパートナーになれるよ」
気持ち悪い。鳥肌が立ってきた。こんなところに長居は無用だ早く帰ろう。
「ククク、君は犯罪や戦争を失くしたいと思わないのかい?」
死蝋の言葉に俺は歩くのを止めた。
「戦争が…なくなる?」
「そう、君の超人的な力があれば戦争なんてものすぐになくなる」
「…俺には力なんて無い」
「あるさ。どうだい協力してくれないか?」
力があれば戦争がなくなる? じゃあ、どうしてあの世界では戦争がなくならなかったんだよ。
「君の力だけで仲間が護れると思っているのかい?君のエゴで仲間が命を落とすことだってあるんだよ」
俺のエゴで命を落とす…?
『死なせたくないから帰すんだ。だから絶対に約束してくれ!優しくて暖かい世界に彼女を帰すって!』
『ステラ…死ぬの?』 『エゴだよそれは!!』
俺のエゴでステラは死んだのか…? 違うッあのままじゃいずれ…
「ここの地下に僕の研究所がある。ついて来たまえ僕の研究を見せてあげよう。
そうすればそんな甘いことは言えなくなる」
そういって死蝋は奥の扉に入っていった。
「…見るだけだからな」
案内されるままに階段を降りる。そこには重厚な扉があった。扉を開ける。
その部屋には異様な光景が広がっていた。異常な形態の生物が数え切れないくらい居た。
「これは全部僕が作ったんだよ。この技術を人間に応用すれば死を恐れることもなくなるんだ」
「そんなの人間じゃない ただの化け物だ!!」
こんな風に弄られた人間なんて…弄られた? じゃあコーディネータも化け物?
クローンであるレイも? ステラも? 違う俺達は人間だ!! ナチュラルもコーディネーターも同じ人間なんだ…
『この化け物め!!』『コーディネーターなんて!!』『ザフトのコーディネーターは化け物か!?』
そんな差別があるから戦争が起こるのか…?
「…まあいいさ いずれ君にも理解してもらえるだろう。君自身の身体でね。…ククククク感謝してるよ紗夜」
死蝋が誰かに向かって語りかけた。そこにいたのは俺のよく知っている人物。
「比良坂?」
「飛鳥さん…あの飛鳥さん、わたし…」
「うっ…なにを…」
死蝋に何かを刺された、意識が薄れてゆく…
最終更新:2008年06月25日 03:33