なのはクロスの作品集-05


  • 十年前 海鳴市病院の一室(シンが消えてから74時間58分後)
デス子から聞いた事実はとんでもないものだった。
 俺が消える? ミットチルダが崩壊する?
冗談じゃない!俺は彼女たちのおかげで変わることが出来たんだ!
こんなことで、かけがえのない仲間たちとの大切な時間を失ってたまるか!

デス子「どうするんですか?十年前の隊長達に思いっきり顔を覚えられてるじゃないですか。このままじゃ・・・」
シン「隊長たちもそのへんのことは考えてるはずだ。デス子、何か預かってるものはないのか?」
デス子「あ、スカリエッティさんとシャマルさんからならあります」
シン「この宝石か。ん、手紙がついてるな」

シン・アスカ君
これを使わないときが来ることを願っている。
闇の書のカケラに共鳴したというなら、おそらく君は地球の海鳴市にいるはずだ。
おそらく、そのカケラには消えていった闇の書の『主と共に生きたい』という願いがこめられていたのだろう。

シン「そうか、それで俺はあの時・・・。」

過去の八神部隊長たちと遭遇しても、絶対に記憶に残るようなまねをしてはならない
そうなった場合、このまま君を連れ帰っても歴史が君を『存在してはいけないもの』として、消去するかもしれないからだ。

デス子「もう遅いですけどね。でも、かもしれないってことは、このまま帰っても消えない可能性はあるんですね」
シン 「あのな『軍人は常に最悪の状況を想定して行動すること』だって、軍の教官が言ってただろ。」
デス子「私は軍人じゃなくMSですから」
シン 「最近はMSかどうかも怪しくなってきてるがな」

 わずかでも帰還できる可能性を上げたいのなら、これを使うといい。闇の書の修正プログラムだ。完成にはあと一ヶ月かかるが、
これを使えばリインフォースを救うことができる。もしも、リインフォースが生きていたのなら、君が闇の書のカケラに感応することはない。
よって、このような事態にはならないし、歴史の修正も少人数の記憶の改ざん程度で済む。
(矛盾が生まれないように、無限書庫で見つけたとでも言っておくこと)

シン「無限書庫か、今の俺じゃ入るのも厳しいな」

 だが、この方法は実現が難しい。
それに、リインフォースの存在が歴史にどれほどの影響を与えるかは未知数だ。
まあ、君のことだから実行するかどうか聞くまでもないと思うがね。

シン「すごいな、スカリエッティ。唯の電波じゃなかったのか」
デス子「さすがは歴史に名を残すとまでいわれた大天才ですね。」

 追伸
私も早く孫の顔が見たいものでね。余計なお世話と思ったのだが、
結婚式の日取りと重婚が可能な次元世界を見つけておいた。なに、何も心配はいらない。籍はもう入れておい…《グシャッ》

シン 「くそ、やっぱりいつものスカリエッティだった!早く戻って叩きのめさねば・・・」
デス子「趣旨変わってますよ。それからマスターが居候するんならわたしはどこに住めばいいんですか!」
シン 「そ、それは・・・」
やばい、すっかり忘れてた。外のはやて達をあんまり待たせるわけにも行かないし、いったいどうしたら・・・。
デス子「ふっふっふっ、マスター。ここはひとつ私に任せてください!」
シン 「そんな恐ろしい事が出来るか!」
デス子「じゃあ、何か思いついたんですか?」
シン 「・・・・・デス子、任せた」
デス子「・・・・・・マスター、情けないです」


  • 十年前 海鳴市はやての家リビング(シンが消えてから78時間33分後)
現在、デス子は、なのはとフェイト、クロノにユーノ、そしてはやてとヴォルケンズに囲まれている。
情けない話だが、俺はその様子を少しはなれた場所で壁にもたれかかって見物していた。
それというのもこのデス子が、俺に自分が説明している間、絶対に口を挟まないでと約束させた上に
デス子「ついでだから、一度で話してしまいたいんです。他に伝えておきたい人がいれば呼んでください」
 などと言い出したからだ。これで失敗したら三日は昼飯抜きだぞ。
デス子「さて、今から話すことは超極秘事項です。他の誰にも話さないでください」
 その場に集まった全員がうなずいたことを確認すると、デス子は再び話し始める。
デス子「実は、私は人間じゃありません。ユニゾンデバイスです」
 ちょっと待て!そこからばらすのか?みんな目が点になってるぞ。
デス子「私のロードはシン・アスカ。『裏』時空管理局局員です。」
シン 「はあ?」
 勝手に管理局を作り上げるな!なんだよ、その『裏』時空管理局って、。
ユーノ「ま、まさか、彼があの『裏』時空管理局の人間だったなんて・・・」
クロノ「知っているのか、ユーノ!」
 いやいやいやいや、そんなもの在りませんから。何を言ってるんですかミナサン。
なのは 「『裏』時空管理局って?」
ユーノ 「僕も噂でしか聞いたことはないんだけど、時空管理局が対応できないほどの事態が起こったとき動き出す闇の管理局があるらし
     い。」
シグナム「くだらん噂だと思って聞き流していたが、まさか実在したとは…」
 ないない。そんなものは過去にも未来にも全く存在しない唯のうわさです!
あんた達も簡単に信じるなよ。
デス子 「闇の書が発動したという情報を得て、マスターが一人で向かったのですが交信が途絶えてしまって…。それで私もこっちに来たので
     す。」
リインⅠ「なるほど、それならあの場所に潜めたのも、シグナム達の連携攻撃を受けて三日の入院ですんだのも、全て説明がつくな。。」
ザフィーラ「今はもう存在しないはずのユニゾンデバイスを従えていることが何よりの証拠か」
 当事者置いてけぼりですか、そうですか。って、無理がありすぎるだろ。
俺は隠れながら、身振り手振りでデス子に指示を送った。
シン(もう、そこらへんに、しとけ)
 ふう、ちゃんと伝わっただろうか
デス子(まかせてください、ここからが本番ですよ♪)
          • どうやら伝わったようだな。かなり間違った方向に。

ヴィータ「しかし、おかしくねーか?シンはどう見ても未成年だ。『裏』時空管理局ってーのはそこまで人手不足なのか?」
デス子「良くぞ聞いてくれました!実はマスターは聞くも涙、語るも涙の人生を歩んできたのです。」
 デス子、もうそれ以上余計なことを言わないでくれ、と俺は心の中で声が枯れるほど叫んでいた。
ばれたらばれたで、ここには居られない。ばれなかったらばれなかったで、嘘をつき続けることになる。
そうか、これがチェックメイトにはまったという奴か。
      • もう、好きにしてくれ。
デス子「マスターは幼い頃両親と妹を目の前で殺され、生き残るために『裏』時空管理局に入って、人を殺すための訓練をひたすら受けてきまし
    た。魔力が全く無いにもかかわらず、訓練学校を優秀な成績で卒業したマスターは『裏』管理局にはいっても大活躍でした。」
あながち間違ってはいないが、何かが決定的に間違っている気がするぞ。
デス子「ところが、戦っていく中でマスターの胸にはむなしさが募っていったのです。親しかった同僚に裏切られ、信頼していた上司を手にか
    け、最後には家族を殺した男に親友と恋人を殺され、全てを奪われました。戦いに疲れたマスターは『裏』時空管理局を抜けて、時空管
    理局に入ろうと考えました。その男に命がけで復讐するよりも、復讐を捨て、人々の幸せを守ることを望んだのです。」
はやて 「うう、私こうゆうの駄目なんよ。涙が止まらへん」
フェイト「そんなの・・悲しすぎる・・・」
なのは 「ひどいよ、なんでシンお兄ちゃんだけがこんな目にあうの?」

 ほんと、なんで俺だけがこんな目にあうんだろ(いろんな意味で)
今考えてみれば、俺って本当に不運な人生を歩んでるんだな。
でも、後悔はしていない。もし俺が自分の進んできた道を否定すれば、死んでいった、俺が殺した多くの人の生き様を否定することになるから。
デス子「今回の任務が終われば、晴れて時空管理局に入れるはずでした。『俺は、この力を人々を守るために使いたいんだ』そう言って笑ってい
    たのに、まさかこんなことになるなんて…。」
 デス子のうそ泣きにつられて、みんな泣き出している。
どうやら完全に信じ込んでしまったようだ。まあ、ところどころ事実だったから
完全に嘘というわけじゃないんだけど、騙しているというのはどうも居心地が悪い。
デス子(どうです、マスター?うまくいったでしょう♪)
シン (ああ、だけど俺は人として何か大切なものを失った気がするよ)
 もう手遅れだが、こいつに任せるべきでは無かったとあらためて思う。
俺が一人で自責の念に捕らわれていると、はやてが泣きながら抱きついてきた。

はやて 「シン兄、記憶が戻った後もいつまでもこの家にいていいんやで」
シャマル「ええ、あなたはもう私たちの大事な家族です」
シグナム「色々とすまなかった。私に出来る事があったらなんでも言ってくれ」
ユーノ「僕は、記憶を蘇らせる方法がないか。無限書庫で調べてくるよ」
クロノ「時空管理局に入りたいなら、口利きは任せてくれ」
なのは「私達は皆、シンの兄ちゃんの味方だからね」
シン 「あ、ありがとう」
 俺は何もかもぶちまけたい衝動を必死で抑えた。
ここで真実を喋れば、未来にどういう影響が出るかわからない。
心苦しいけどスカリエッティに言われた通り、あと一ヶ月誤魔化しきらないと。


  • 十年前 海鳴市 はやての家 シンの部屋(シンが消えてから78時間53分後)
 デス子の苦しい言い訳によって辛くも窮地を逃れた後、俺ははやてにあてがわれた部屋で布団に横たわっていた。
シン 「こちらにいられるのはあと一ヶ月か。それまでに片をつけないとな」
 オーブにいた頃以来だな、こんなに暖かい空間にいられたのは・・・。
あのあとすぐに軍に入ったし、機動六課は・・・なんというか殺伐としている。
デス子「マスター、本当にリインフォースさんを助けるんですか?こういっては何ですけど、歴史ってあんまり弄ったらまずいんですよね」
シン「確かにそうだろうけど…。それでも俺は、助けられるなら助けたい。」
 俺はこちら側へ飛ばされたときのことを思い返していた。
はやて部隊長がデバイスを見詰めていた時の、あの寂しそうな顔はもう見たくない!
シン「俺は、それができる力を持っていたんだ。」
はやて「シン兄、ちょっとええか?」
 噂をすればご本人の登場か。
しかし、シン兄か。なのはのお兄ちゃんもいいが、はやての呼び方も悪くないな。
シン「ああ、大丈夫だぞ」
部屋に入ってきたはやては少し泣き疲れているようで、いつもの覇気が感じられなかった。

シン 「どうかしたのか、はやて。」
はやて「シン兄、少し話があるんや」
デス子「・・・・・(ばりぼり)」
シン 「・・・・・・・」
はやて「・・・・・・」
デス子「・・・・・(ムシャムシャ)」
シン「デス子、ポテチ食ってないでいい加減席をはずしてくれ」
デス子「は~い(ぱりぽり)」
 空気を読めない奴だ。それにあのポテチは一体どこから?
あとで厳しく追求する必要がありそうだな。
はやて「その、シン兄に聴きたい事があってきたんや。」
シン 「俺に聴きたい事?」
はやて「リインフォースの事なんやけど、なんであの日、みんなと公園に行ったんか、シン兄は知ってる?」
 どきりとした。やっぱり子供だからって、はやてははやてだ。
この勘の鋭さは変わってない。
シン 「いや、俺は海鳴市に来たばかりだったから知らないんだけど・・・。」
はやて「そうやったんか・・・。ごめんな、変なこと言うて」
シン 「何か気になることがあるのか。俺でよかったら相談に乗るぞ?」
はやて「・・・・・・うん、じゃあ聴いてくれる?」
 はやては少し考え込んでいたが、決心したように喋り始めた。
リインフォースが防衛プログラムの再生で悩んでいる事、そのせいで自ら消滅しようとしている事、俺が知っていたことも知らないことも全て話してくれた。


はやて「さっきはもしかしたら、私はリインフォースを見張っておくためにシン兄を利用しようとしたんかもしれんて、少し自己嫌悪になっとっ
    たんや」
シン 「・・・・それで元気がなかったのか」
 こうして話を聞いていても、はやてのリインフォースを思う気持ちは痛いほど伝わってくる。
シン「気にするな、俺は気にしてない。まあ、これは俺の親友が言ってたんだけど。 それに俺だってはやての好意を利用してるんだ。へんな言
   い方だけどお互い様だよ。」
はやて「そやけど・・・」
シン 「それにリインフォースだって、はやてに黙って消えたりしないさ、お前が認めた大事な家族なんだから、信じてあげような」
俺は隣に座っているはやての頭をやさしくなでた
これは嘘だ。はやて部隊長に聞いた話では、リインフォースははやてに何も言わずに消えようとしていた。
だが、例え未来に影響がなかったとしても、真実を告げる勇気は俺には無い。
はやて「うん、私がリインフォースを信じんで誰が信じてやれるんや!シン兄ありがとう、なんか楽になったわ。お礼にお風呂沸しとくから早め
    に入ってしっかり疲れを取るんやで♪」
シン 「ああ、わかった」
 はやてが部屋を出て行ったのを確認して、俺も自分のすべきことをするために動き出した。
さあ、まずは当事者に話を聴いとかないとな





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最終更新:2008年07月03日 23:36
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