なのはクロスの作品集-10


はやて編1話『死亡フラグと暗躍する影』

  • 現在 時空管理局本局次元航行部隊 アースラ艦内 会議室(はやて失踪から3日)
 中破ついでに(提督権限で)大改修を施していた『クラウディア』がyagamiに強奪されてからすでに三日がたっていた。
時間跳躍システムを作った博士達に設計させたせいで、個人趣味大爆発の「ぼくのかんがえたさいきょうせんかん」となっていた『クラウディア』だ。三連装アルカンシェルに、全方位に展開する四重の物理魔法混合バリア、副兵装は光子魚雷、ドリル、極大ホーミングレーザー・・・etc

おまけに何がなんだかわからなくなった動力炉とシステム、自己再生にエネルギー回復(∞)、人型に完全変形など、もはや「聖王のゆりかご」など歯牙にもかけないくらいの超絶魔改造を施していたのだ。赤子にピストルならぬ、ジブリールにジェネシスである。
それだけにyagamiの手に渡ったのは重大な失態だった。
クロノ「はやてはあんな厳重な警備網をどうやって突破したんだ?」
ユーノ「時空管理局の警備はCE世界並だからね。あってもなくても同じことだよ」
アルフ「というかSSランクのはやてには警備なんて意味が無いと思うけど・・・」
 そんなくだらない会話を繰り返しながらも、穏健派は着々と準備を進めていた。
既に名のある人物や起動兵器をいくつも呼び寄せ、過激派筆頭yagamiの捜索に全力を尽くしてる。もっとも報告があるまでは暇なので、こうして三人でコタツを囲んでいるわけだが・・・

アルフ「ん~、普通の暖房もいいけど、こういうのも悪くないねぇ~」
クロノ「あんまりピリピリしすぎるなって、エイミィから送られてきたんだ。しかし、これはいいものだ」
ユーノ「和むなぁ。ん、誰か来たみたいだよ」
 定時連絡だろうか?いや、それなら通信ですればいいことだ。足音がこの部屋の前でぴたりと止まり、短いノックが三回続く。
ギンガ「時空管理局 陸上警備隊第108部隊所属のギンガ・ナカジマ陸曹、入室します」
クロノ「よし、入っていいぞ」
 この部屋のドアは個人個人で設定された名乗り方で名乗らないと、開かないようになっている。
過激派のスパイを司令部まで通さないための処置だ。

ギンガ「クロノ提督、話が・・・?」
 コタツに並んで入っている三人を見て、少々困惑するスバル。
クロノ「ああ、かまわないから君も入ってくれ」
ギンガ「あ、はい。・・・・・・失礼します」
 最初は戸惑っていたようだが、徐々に慣れてきたのか顔もほころんできた。
ユーノ「それで?何かあったの?」
ギンガ「はっ、そうでした!実は、スバル達の午後の訓練が終わった後のことなんですが・・・」
 なんでも、スバル達が訓練(隊長達はいないので、ギンガが指導している)を終えた後、部屋に戻ろうとしたら、偶然ヴィヴィオと会って手紙を渡されたそうだ。 ティアナ・ランスター二等陸士とも相談して、検査で異常が無かった為アースラに持ってこようとしたが、丁度アースラに用事があったため、ついでにギンガが持ってきたらしい。
アルフ「確か今ヴィヴィオは過激派のみんなと一緒にいるんじゃなかったっけ。はい、みかん」
ギンガ「あ、ありがとうございます。それでティアナ・・・二等陸士が言うには、これ過激派からの手紙じゃないかって。ヴィヴィオも八神部隊長
    から預かったって言ってたそうですし・・・」
クロノ「はやてから?どれどれ・・・」

拝啓 穏健派筆頭 クロノ・ハラオウン殿
このまま周辺への被害が広がれば、減給ではすまなくなるのでここらで決着をつけようと思うんよ。
表向きは起動六課の訓練ということにして、上層部には許可を取っといたから問題はあらへん。
私の集めた最強軍団と正々堂々勝負や!
  • 場所は第119管理外世界の座標軸AAK9396のUSG8434
  • 時間は五日後の○○月△■日の正午から
  • 事前の罠設置などの小細工は無し
  • 死人が出るとまずいので武器は基本的に非殺傷設定
  • 医療班は両陣営から必ず何名か派遣すること
  • 胸と背中に風船を一つずつ付け、全て割られたものは失格
  • 勝敗は両陣営の持っている旗をとったほうが勝ちや
追伸
スレで『空気』の諸君、『クラウディア』はいつか返すから、堪忍な~。


クロノ「ぐあ~!!!あのキチガイ狸、人をコケにしやがって~!!!!」
 怒り狂ったクロノはアースラの訓練ルームに突撃していった。
恐らく気を静めるためにガジェットドローンのコピーを破壊しまくるのだろう。
ギンガ「うん、おいしい!それにしても、真正面から来るなんて、過激派もよほど自信があるみたいですね」
ユーノ「(クロノはスルーなのか)まあ、そうなんだろうね。アルフ、僕にもみかん頂戴」
アルフ「はい、ユーノ。実際、前の時は穏健派の勝利といってもぎりぎりだったしね」
ギンガ「穏健派は基本的に非戦闘員が多いですからね」
 ユーノが三つ目のミカンを剥いていると、クロノが荒い息をしながら戻ってきた。
アルフ「おかえり~。結果はどうだった?」
クロノ「・・・・・・自己新記録だった」
ギンガ「喜ぶべきか、悲しむべきか・・・」
ユーノ「さて、ほどよく頭も冷えたことだし、会議を始めようか」
 コタツから出たがらなかったギンガを交えて、yagamiの手紙に対する極秘会議が始まった。
ちなみに傍から見ると、コタツで雑談しながらみかんを食っているだけにしか見えないだろう。会議の内容は大方の予想通り、内容は提案を受け入れる方向で決定した。

ユーノ「ところでクロノ、僕はちょっと単独行動を取りたいんだけど・・・。」
ギンガ「この大変なときにですか?」
ユーノ「どうしても気になることがあるんだ。今回の過激派の行動、変だと思わないかい?」
アルフ「いつも変だから気づかなかったけど(フェイトも便乗の権化みたいになってたし)・・・」
ユーノ「あまりにも行動が的確かつ速すぎる。どうも僕には誰かが裏で糸を引いている気がするんだ」
クロノ「確かにな。最初の戦いからたった三日で行動を開始したのも気になる。ユーノ、調査を頼めるか?」
ユーノ「ああ、まかせてくれ!」
 この時、二つ返事を返したユーノが彼らにはとても眩しく見えた。 ぶっちゃけ、死亡フラグ確定である。


  • 現在 過激派 クラウディア艦内 会議室(ほぼ同時刻)
はやて「ふっふっふっ、いい加減穏健派もしぶといなぁ。『空気キャラ』が『メインキャラ』に勝てるわけ無いのに・・・」
リインⅡ(本編でははやてちゃんもほとんど空気でしたけどね)
 穏健派がコタツでみかんを食っているころ、はやては強奪したクラウディアで次元世界を彷徨っていた。
すでに集めた人員の総戦力は、時空管理局すら軽く叩き潰せるほどだ。おまけに、超絶魔改造のおかげで最大搭乗可能人数も格段に上がっているため、衣食住に困ることは無い。
なのは「はやてちゃん、早く穏健派を倒してシンを救おうね(その役目は私だけで十分なの)」
アティ「この調子なら穏健派なんて、余裕で叩き潰せます。(あなた達もね・・・)」
 だがはっきり言って、チームワークは致命的に無い。むしろ表面上は笑っていても、裏では牽制し合っているのだ。
閉鎖空間にいるため、一度火が付くと穏健派と戦う前に全滅する可能性もある。 過激派にとっては、開戦は早いほうが都合がいい。
そんなとき、管理局の制服を着た青髪のロングヘアーの女性が一人、会議室の扉をノックした。

はやて「だれや!今はまだ会議中やで!」
???「すいません。ですが、穏健派からこれが・・・」
 謎の女性が差し出したのは、一通の手紙だった。 クロノのところに届いたものと全く同一の封筒でもある。
なのは「送り主はクロノ君みたいだね?」
アティ「なんて書いてあるんですか?」

拝啓 過激派筆頭 八神はやて様
 いい加減にしてくれ。これ以上、君達の馬鹿騒ぎに付き合っていられるか!
シンのためにも、次の戦いも我々穏健派が勝つ。 表向きは起動六課の訓練ということにして、上層部に許可を取っておいたから
なんの問題もない。 思う存分僕達に叩きのめされてくれ。
  • 場所は第119管理外世界の座標軸AAK9396のUSG8434。
  • 時間は五日後の○○月△■日の正午から
  • 事前の罠設置などの小細工は無し
  • 死人が出るとまずいので武器は基本的に非殺傷設定
  • 医療班は両陣営から必ず何名か派遣すること
  • 胸と両肩に風船を一つずつ付け、全て割られたものは失格
  • 勝敗は両陣営の持っている旗をとったほうが勝ちだ
追伸
君達ももうすぐ二十歳なんだから、大人しく仕事してくれ! あまりシン一人にこだわると、行かず後家になるぞ。

はやて「余計なお世話や!あの真っ黒クロノ助~!!既婚者がなんぼのもんや~!!!!」
 怒り狂ったはやては外の管理外世界に突撃していった。
恐らく気を静めるために、何もない地表を破壊しまくるのだろう。 反応がクロノと一緒なところをみると、案外二人は似たもの同士なのかもしれない。
なのは 「武器は非殺傷設定、ちょっと不自由だね。(せっかく思いっきり撃てると思ったのに)」
アティ 「戦略を練り直さないといけませんね(余計なことを・・・)」
リインⅡ「そういえば便乗さんが来ませんでしたね・・・。今日はどうしたんでしょう」
 彼らが考え込んでいる間に、いつの間にか管理局の制服を着た女性は居なくなっていた。
よく観察すれば気付いただろう。そんな女性がこのクラウディアにいるはずがないと・・・。

誰も居ない格納庫で女性は変装を解く。
ドゥーエ「ふふ、単純な連中ね」
 ナンバーズの2番、ドゥーエは別任務に従事していたが、今回の事態に急遽召集されていたのだ。
ドゥーエ「さあ、ドクターの指示通りに動いたけど、これからどうなるかしら?」
 しかし、ドゥーエはクラウディアから長距離転送で帰還するまで自身を見ている人陰に最後まで気付かなかった。
朝倉 「へぇ、面白い情報が観測できそうね♪またとない機会だわ♪」

激突する思い、それぞれの思惑、そして暗躍する影、幾多の次元世界を巻き込んだ戦いは終局を見せ始めていた。
はたして、勝つのはどちらか?そして置いてけぼりのシンに未来はあるのか?

???「ふふふ、全て私の計画通り。穏健派も過激派も私の手の内で踊り続けなさい(微笑)

シン編 第一話『希望』

  • 十年前 海鳴市 海鳴大学病院 
病院に着くとシンは士郎さんにお礼を言って、一目散にはやての病室に向かって走っていった。
シン  「はやて! 大丈夫か!」
シグナム「静かにしろ、主はまだ眠ったままだ」
 ドアを開けると、はやてのベットの周りには既にヴォルケンリッター達が集合していた。
しかし、シンが来たというのにだれもがうつむき、一人として顔を上げようとはしない。 たったそれだけのことが、シンに逃れられない現実をつきつけた。
シン   「・・・再生が・・・・始まったのか?」
ザフィーラ「すでにリンカーコアへの侵食が始まっている。早ければ、あと10時間ほどで再び自動防衛プログラムが再生され、主はやて
      は・・・・」
デス子  「は、はやてちゃんが死んじゃうなんて絶対だめです!」
ザフィーラ「しかし、主はやてを救うには、自動防衛プログラムが再生する前に、闇の書を破壊するしかない」
デス子  「それって・・・」
シャマル 「つまり、リインフォースごと・・・破壊するってことよ」
デス子  「そんな、前やったみたいに自動防衛プログラムだけ分離すればいいじゃないですか! そうすれば・・・」
シグナム 「残念だが、それは無理だ。前の時は主はやてが『闇の書』の内部に取り込まれても、自我を保っていたから出来たことだ。おまけ
      に、テスタロッサが中から、なのはが外から魔力を叩き込んでようやくな」
ザフィーラ「だが、二度の侵食で主のリンカーコアは酷く傷ついている。この状態ではユニゾンどころか、自動防衛プログラムを抑えることすら
      かなうまい。 もし無理にでも実行すれば、逆に主が防衛プログラムに取り込まれる」

 シグナムはベットに寄り添うと、そっとはやての頭をなでた。
ぱっと見た限りでは、とても安らかな寝顔をしている。だが、注意深く見ればその顔色は普段より青く、呼吸も速い。
主と繋がっているヴォルケンリッターは、今このときもはやての命が削られているのを感じていた。
シグナム「情けないことだ。主を守るはずのヴォルケンリッターが、主の危機に手も足も出ないとは・・・」

ヴィータ「ちくしょう! なんでだよ! なんでこうなんだよ!」
 堰を切ったようにヴィータが泣き出した。
シグナム「・・・ヴィータ」
ヴィータ「こんなのありかよ!シンも家族に加わって、修正プログラムも見つかって、これからって時に!」
ザフィーラ「もういい、ヴィータ。リインフォースはこうなる運命だったんだ!」
ヴィータ「そんなんで納得できるか!あいつの思いがそんな軽い言葉で・・・。ちくしょお!ちくしょお!」
シャマル「・・・ヴィータちゃん」
 泣き崩れたヴィータをシャマルが支える。そのヴィータにシグナムは非情も取れる言葉をかけた。
シグナム「言うな、ヴィータ。我々は主はやての騎士だ。主のためにこの命を使えるなら本望。そうだろう、鉄槌の騎士よ!」
 彼女も正しいとは思っていない。だがそうとでも思いこなまければ「夜天の書」を改造したものたちに運命をもてあそばれ、ようやくつかんだ小さな幸せすらも許されなかったリインフォースがあまりにも哀れだ。
ヴィータ 「けど、けどよ! リインフォースだってきっと・・・」
ザフィーラ「無理だ、ヴィータ。我々にはもうどうすることもできん」
シグナム 「リインフォースも、あの時既に覚悟を決めていた。私達にできるのは、せめて最後に幸福のまま閉じてやること。それが今できる最
      善の選択だ」
デス子  「そんなことない!・・・うまく言えないけど、そんなことをしても、はやてちゃんは絶対喜びません!マスターも何とか言ってやって
      くださいよ」
 だが、シンは何も答えずに、ただ唇をかみ締めているだけだ。
デス子 「マスター? 何で黙ってるんですか! なんで何も言い返さないんですか!」

デス子にはシンの意図が読めなかった。いつもなら、守護騎士達の言葉に真っ先に「そんなことはない!」と否定してくれるはずなのに・・・。
シン 「・・・・・・シグナム、肝心のリインフォースはどこへ行った」
シグナム「朝、公園を出て行ってそれっきりだ。リンクも切っているらしく居場所はわからない。じきに向こうから連絡が来るだろう」
シン 「そうか、ならいい。」
デス子「何がいいんです。マスターいい加減に・・・?」
 よく見ると、シンの肩が小刻みに震えている。拳も握り締めたままだし、なによりその目は怒りで真っ赤に燃えていた。
デス子 (もしかしてマスター怒ってる?)
シグナム「デス子、悲しいのはみな同じだ。だが、こうなってしまってはもはや私達は無力だ。諦めるしかない」

 シグナムの一言に、とうとうシンの堪忍袋の緒が切れた。
シン  「少し出てくる。行くぞデス子!」
シグナム「待て、どこに行く気だ!主はやての傍に・・・」
シン  「いい加減にしろ!泣き言も言い訳も、もうたくさんだ!あんた達は本当にそれでいいのかよ!リインフォースを見殺しにして、はやて
     が喜ぶとでも思ってるのか!」
シャマル「そんなこと・・・、他に方法がないなら仕方がないでしょう!」
シン  「なら、探し出せばいいだろ!はやてならそう言う筈だ!あいつはやさしいから、家族を犠牲にしてまで生き残ったらきっと死ぬまで後
     悔し続ける。はやての騎士の癖に、そんなあいつの気持ちもわかんないのかよ、あんた達は!!」
 現に、はやては十年たってもリインフォースのことが心の傷になっていた。
決して表には出さなかったけど、リインフォースを思い出すたびに辛かった筈だ。
シン 「何もかもわかったような口調で・・・悔しいと言いながら何もしないで・・・。本当にリインフォースが大切なら最後まで諦めるな!!!」
ヴォルケンリッター「「「「・・・・・・」」」」
シン「俺は一人になっても絶対リインフォースを助けて見せる!あんた達はそこであいつの不運を延々と嘆いてろ!」
 誰一人反論する間も無く、シンとデス子は病室から出て行った


デス子はマスターに話しかけるべきか、ほっとくべきか迷っていた。
なにせ廊下を突き進むシンは、不機嫌が具現化したように黙りこんでいる。 しかしこのままではいっこうに前に進まない。デス子は意を決して話しかけた。
デス子「あの、マスター?何であそこまで・・・」
シン 「・・・デス子、お前はカルネアデスの船板って知ってるか?」
デス子「カルネアデスの船板・・・ですか?確か・・・」
カルネアデスの船板・・・・船が難破し、ある男が命からがら、一片の板切れにつかまったが、そこへもう一人、同じ板に掴まろうとする者が現れた。しかし、二人も掴まれば板が沈んでしまうと考えたその男は、後から来た者を突き飛ばして、おぼれさせてしまったという例え話だ。
シン「今の状況と似ていると思わないか? デス子、お前ならどちらを助ける?」
はやてを犠牲にすればリインフォースは助かる。リインフォースを犠牲にすればはやてが助かる。つまり、どちらかが救われるためにはどちらかを必ず犠牲にしなければならない。

デス子「そんなの・・・選べるわけないじゃないですか!溺れて大変なら私の翼で両方助けます!」
 シンは病院について初めて笑った。デス子の答えはあまりにも幼稚だ。 そう、自分と同じくらいに・・・。
シン 「小学生の解答だな。だけど、それでこそ俺の愛機だ」
デス子「やった~って、それ、褒めてるんですか?けなしてるんですか?」
シン 「もちろん褒めてるぞ。あいつらが出せなかった答えだからな」
デス子「あいつらって・・・。ヴォルケンリッターのことですか?」
 さっきのことを思い出し、急にシンの顔が険しくなる。
シン 「・・・・あいつらはリインフォースを助けられないって諦めてた。それが、どうしても許せなかったんだ。」
 はやてが倒れたと聞いても、本当は心のどこかで安心していたのかもしれない。
リインフォースを助けようとするのは俺一人じゃない。ヴォルケンリッターや皆もきっと手伝ってくれると・・・。
だが、予想を裏切るヴォルケンリッターの情けない姿に、シンは失望よりも先に怒りがわいてくるのを感じていた。
それを我慢できるほど、シンは大人ではないし、今度ばかりは我慢する気もなかった。
シン「言い過ぎたとは思ってるし、あいつらも色々遭ったんだって知ってる。でも、俺はシグナム達にだけは簡単に諦めてほしくなかったんだ。 だって俺と違って、まだ間に合うかもしれないんだぞ!相手が死んでしまったあとで後悔しても、手遅れなんだ!!」
 そういってマユの携帯を握り締めるシンを見て
何故彼が怒っていたのか、ようやくデス子にも理解できた。

デス子「・・・マスターはやっぱり私の最高のマスターです♪」
シン 「なんだそりゃ?」

シン「それよりデス子。真面目な話、俺がこれから言うことは可能か?」
シンは修正プログラムを渡したときから、完成が間に合わなかった場合をずっと考えていた。
はやてがいないなら、防衛プログラムは分離できない。 ならどうやって、分離せずに再生を止めるのか・・・。
考え抜いた挙句、シンの出した答えはデス子の常識を覆すものだった。
デス子「・・・・・マスターも私を笑えないと思います、無茶苦茶にも程がありますよ」
シン 「・・・・・無理・・だったか?」
デス子「絶対に不可能でないのが恐ろしいところですね。かなり低いですが、可能性はあります。危険ですしお勧めはできませんけど・・・」
 シンはホッと胸をなでおろした。さっきは守護騎士達にああ言ったものの、このやり方の他には何一つ思いついていない。
これが駄目だったら、方法を考えるとこからやり直しだった・・・。
シン 「できるなら問題ないさ。俺はこれからクロノに会って、もらってこなきゃならない『物』がある。お前は・・・・・」
デス子「わかってますよ。リインフォースさんを探すんですね」
 さすが、長い間生死を共にしただけはある。普段はバラバラでも緊急時は息がぴったりだ。
シン 「あいつに勝手に消えてもらっちゃ困るからな、頼むぞ!」
 C.E世界にいたときは、ただ目の前の敵を倒しているだけでよかった。
機動六課にいたときだって、ただ皆の手伝いをしているだけでよかった。
だけど、今度は流されるだけじゃ駄目だ。全て自分で考えて行動しなけりゃならない。
一度でも、たった一つでもミスをすれば、恐らく全ては水泡に帰す。 それでも・・・
デス子「マスター! ヘマしないでくださいよ!」
シン 「今の俺は昔の俺とは違うんだ!絶対に二人を『闇の書の呪い』から助けだしてみせる!!」

 シンがデス子と別れたころ、ヴォルケンリッターの面々はシンの言葉で自分を取り戻していた。
そこには先程までの絶望感も徒労感もない。 一対一なら敗北は無いと言われた、古代ベルカの守護騎士達が威風堂々と立っていた。
シグナム 「まったく、とんだ醜態をさらしたものだ。新参者のシンに説教をされるとは・・・・」
ヴィータ 「ああ、あそこまでいわれて黙っているわけにはいかねぇ」
ザフィーラ「我々としたことが、主が再び倒れたことで気が動転していたようだな」
シャマル 「はやてちゃんなら、きっとシン君と同じ事を言ったでしょうね」
 意識が戻らないはやてに別れを言い、ヴォルケンリッターは病室を後にした。
リインフォースを見捨ててもはやてを助ける考えなど、もはや頭から消えている。
シャマル「私ははやてちゃんを看病しながら指示を出します。シグナムは時空管理局のフェイトちゃん達に協力を仰いでください。
     ヴィータちゃんとザフィーラはリインフォースの捜索をお願いします」
シグナム「わかった、行くぞお前たち!ヴォルケンリッターの名誉にかけてもリインフォースと主はやてを救って見せる!」
ヴォルケンズ「「「おう!(はい!)」」」
 ヴォルケンリッターが、再び希望を取り戻し行動を開始する。リインフォースのことを諦めていた元の歴史からは、考えられないことだ。
シグナム  「我等、夜天の主の元に集いし守護騎士」
シャマル  「主あるかぎり、我等の魂、ひとつたりともつきることなし」
ザフィーラ。「この身に命があるかぎり、我等は御身と仲間のために」
ヴィータ  「我等が主…夜天の王八神はやての願いのもとに!」
 ここでもまた少しずつ、しかし確実に歴史がずれ始めていた。

闇の書の自動防衛プログラム再生まであと『12時間35分』





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最終更新:2008年07月04日 00:12
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