シン編 第2話『切り札』
- 十年前 時空管理局本局次元航行部隊 アースラ艦内 クロノの私室
海鳴大学病院を出たシンはその足ですぐさまアースラへと向かった。
前々からクロノに頼んでいた品を受け取りに行くためだ。おそらく簡単にいかないだろう事はシンも予想していた。
なにせ頼んでいた『物』は、十年に第一級捜索指定ロストロギアになる代物だ。クロノの性格を考えると、それがどんなものか既に調べているだろう。 もしかすると、持ち出せないかもしれない。 シンは自身の警戒を悟られないように、クロノの私室へ向かった。
シン 「クロノ、例のあれは見つかったのか」
クロノ「ああ、『レリック』だったね? すでにアースラの内部に保管してあるよ。しかし、なぜ、ロストロギアがあそこにあるとわかったん
だ?それにこれは極めて危険で重要度の高い代物だぞ」
シン「う、裏時空管理局にいたとき発見したものなんだ。そのときは任務優先で無視したんだけどな」
シンがクロノに依頼していたのは『レリック』と呼ばれる超高エネルギー結晶体の回収だ。
実際の歴史では、新暦71年4月ある遺跡で発見され、なのは、フェイト、はやての三人が初の対ガジェットドローンとの戦闘を繰り広げたあと、無事に回収されている。
シン「それで相談なんだが、はやてを助けるのに『レリック』が必要なんだ。少しの間だけ貸してくれないか?」
下手に言い訳すると疑われると考えたシンは、思い切って本音を打ち明けることにした。
クロノ「かまわないよ。ただし、準備に時間がかかるから、適当に待っていてくれ」
当然クロノは渋い顔をすると思っていたが、意外にもあっさり許可をしてくれた。
アースラの保管庫から転送されたレリックは、厳重に包装されてシンに手渡された。
これだけ厳重に封印すれば、めったなことがない限り暴走しないだろう。
シン 「じゃあさっき言ったとおりこれは借りていくぞ」
クロノ「もちろん貸し出しは許可しよう。だが、君の自由までは許可できない」
突然地面に現れた魔方陣が輝き、幾多の鎖がシンの体を拘束した。
クロノの使う捕縛魔法の一つ、ディレイドバインドだ。
普段ならば、起動六課でバインドに慣れているシンがこんな手に引っかかることはない。
しかし、闇の書に関する焦りと、親しかったクロノへの油断がシンから警戒心を奪い取っていた。
シン 「くっどういうことだ!今は時間がないんだぞ!」
クロノ「本当のことを話してくれれば、すぐに開放するよ」
シン 「何を言ってるんだ?俺は裏時空管理局の・・・」
クロノ「本気で誤魔化せると思っていたのか?あんな嘘に騙されるのは、よほどの天然か、お人よしくらいだ。残念だが僕はどちらでもない」
言葉に詰まったシンをほっといて、クロノは言葉を続けた。
クロノ「君にかかっているのは、ロストロギアを狙った時空犯罪者の容疑だ。」
シン 「ふざけるな!何で俺が!」
クロノ「証拠ならいくらでもある。裏時空管理局なんて存在しないのに、なぜか君はレリックのある場所を知っていた。そして、それがどんな代
物かもだ。 おまけにあの場所は時空管理局も手をつけていない未開世界だ。たとえ裏時空管理局があったとしても、君達の説明は矛盾
が多すぎる。さて、まだ続けようか?」
シン 「・・・・」
クロノ「今回の君の狙いは『闇の書』とそのレリックみたいだな。時空管理局を利用してロストロギアを回収しようなんて豪胆な奴だ。うまく入
り込んだようけど、それもここまでだね。」
シン「・・・・」
こんなことになるならデス子を連れてくるんだったと、シンは今更ながら後悔した。
このまま真相を話すわけにはいかない。だからと言ってディレイドバインドを引き千切っても、
転移魔法が使えないんじゃ地球には戻れない。
シン 「・・・・・・(くそっどうする?こうしている間にもはやては)」
なんとか脱出しようともがいていると、何故かクロノが耳元で話しかけてきた。
クロノ「・・・信用し・・いい・・か?」
シン 「何?」
クロノ「君にレリックを渡せば、はやてもリインフォースも助かるのか?」
シン 「・・・? ああ、絶対に助けて見せる!」
クロノ「・・・・・・わかった」
シンが困惑していると、何を考えたのかクロノは突然ディレイドバインドを解いた。
そしてそのまま、何もない壁に向かって氷結の杖デュランダルを構えると、躊躇無くブレイズキャノンを叩き込む。
威力はセーブしてあったようだが、それでも掛けてあったカレンダーが粉々に吹っ飛んでいた。
シン 「な、な、な????」
クロノ「こう見えても人を見る目はあるつもりだ。君は犯罪を犯す人間には見えない」
シン 「は? だってさっきは・・・」
クロノ「真相はこれだよ」
クロノは先程までカレンダーがあった場所に近付くと、燃えカスを一つ拾い上げる。
クロノ「小型の盗聴器だよ。この部屋の会話は、時空管理局の上層部に筒抜けだったのさ」
シン 「上層部って、なんでそんな奴らが俺を?」
クロノ「僕は当然だと思うけどな。闇の書に近付いた上、ロストロギアまで見つけたんだ。いやでも上の連中の目に入るさ」
クロノが言っていたように、この時代に来たシンはかなり目立っていた。
あれか? リーゼ達にツインパルマをかましたからか? それとも、デス子が本局の食料庫を荒らしたからか?
いや、伝説の三提督の一人であるミゼッタさんにパルマをかました時もだいぶやばかった!
そういえば、地上本部にいったときに、偶然レジアスと会ったとたん、
デス子がいきなり「テレビで見た通りホントに六角形ですよ、マスター」と言ったのが致命的だったかもしれない。
今考えてみると目をつけられる心当たりなど、数えてみればきりがなかった。
シン 「でも、本当によかったのか? もちろん俺は助かったけど、執務官の立場上まずいだろ」
クロノ「上の連中には散々暴れたあと、転移魔方陣で逃げたって言っておくよ。それに僕はもう見たくないんだ。親しい人が『こんなはずじゃな
い人生』を歩むのはね」
シン(そうか、確かクロノの父親は・・・)
クロノの父親であるクライド・ハラオウンは11年前、「闇の書」の輸送中に、「闇の書」に彼が指揮していたアースラ同型艦「エスティア」の制御を奪われた。そのときやむなく乗艦と共に沈められ死亡している。
クロノ「時間が無い。すぐに海鳴市に転送しよう」
デュランダルを一振りすると、すぐさま転移魔法陣が出来上がった。あいかわらず、驚異的な詠唱スピードだ。
クロノ「はやてとリインフォースは託したよ、シン・アスカ」
シン 「了解しました! 帰ったら酒でも奢りますよ、クロノ提督」
魔法陣の上に立つと、一瞬でシンの体は海鳴市に転送された。
クロノ「提督? それに僕はまだ15歳なんだが・・・」
闇の書の自動防衛プログラム再生まであと『11時間27分』
クロノ「さて、単独で犯人を追い詰めたものの逃亡を許し、レリックまで奪われた。母さんはともかく、上層部にはどう言い訳するかな?」
だが、予想に反して、エイミィは何も言わなかったし(なぜか楽しそうだった)
リンディ提督はにこにこしながら上層部を丸め込んだそうだ。 (もちろん、クロノは始末書を書く羽目になったが)
その際、上層部の何人かは希望退職(名目上)したそうだが、関係があるかどうかは定かではない。
シン編 第3話 『御神の剣士』
アースラから海鳴市へ無事に転移したシンは、そのまま真っ直ぐ海鳴市藤見町64-5に走っていた。
いきなりお邪魔するのも迷惑なので、道中リンディ提督にもらった仕事用の携帯で連絡を入れる。
幸いにも、帰宅していた恭也が電話に出てくれた。
恭也「はい、もしもし」
シン「あ、恭也さんですか?俺です、シンです」
恭也「シンか!はやてが倒れたそうだが、大丈夫なのか?」
シン「そのことも含めて、お話したいことがあります。今からそっちにいきますから・・・」
恭也「なに?一体どういうこ・・・(ピッ)」
今は説明している時間が惜しい。どうせ向こうに行ったら話すことになるんだ。
その前に、状況を確認するためにデス子に連絡しなくては・・・。走りながらだったため、二、三度番号を間違えたが四度目でようやく繋がった。
シン「デス子、俺だ。リインフォースは見つかったか?」
デス子「海鳴市の周辺から調査してるんですが、まだ見つかりません。そっちの用事は済みましたか?」
シン 「あと一つ残ってる。今度のはたぶんギリギリまでかかると思う。それまでにはリインフォースを見つけておいてくれ」
デス子「任せてください!マスターこそ、遅れたら駄目ですよ!」
数十分後、御神流剣士の正装をしたシンが、高町家の道場で静かに時を待っていた。
しばらくして、恭也が道場に入ってくる。彼もまた御神流剣士の正装を着ていた。
恭也「すまない、遅くなったな。」
シン「いえ、理由も話せないのに、無理を言ったのは俺ですから」
二人とも普段とは纏っている雰囲気が違った。荒々しいが殺気とは違う。しいて言えば闘気が一番近いだろうか。
恭也「先に言っておくが、俺だけじゃなく父さんや美由希も反対だ。君は御神流攻撃の法も『斬』と『徹』しか会得してないし、『飛針』や『鋼
糸』にいたっては触ったことすら無い」
御神流攻撃の法は三つある。
- 通常の斬撃ではなく、引きながら切り裂くように切る『斬(ざん)』
- 御神流で使われる撃ち型で、表面から衝撃を伝え内面を破壊する技『徹(とおし)』
- そして、相手の防御や回避のパターンを見切り、その隙を付いて攻撃を与える『貫(ぬき)』
【他には目を使わず、音と気配によって相手の居場所を知る『心(しん)』があるが、これは暗殺などをこなしていた不破家の技なのであえて除外】
小太刀だけでなく、『飛針(とばり)』と言われる相手へ向けて投げる小型の刃物、
『鋼糸(こうし)』と呼ばれるドイツの繊維メーカー・ゲインベルグ社製の鋼鉄の糸なども御神の剣士は武器として使用している。
シンがこの二つの武器を使えないのは、ナイフを扱っていた経験を生かして、小太刀の鍛錬を優先してやっていたからだ。
恭也「どこで体を鍛えたかはあえて聞かない。だが、逆に考えれば、基礎が出来上がっていたとは言え、たった三週間で『斬』と『徹』を会得で
きたとも言える。君の剣士の資質は十分だ。」
シン「・・・・ありがとうございます」
恭也「だからこそ君の頼みは聞けない。君を俺の二の舞にはしたくないからな」
恭也は静かに語りだした。ずいぶん昔、まだ恭也と士郎が高町ではなく、不破と名乗っていた頃の話、テロ事件で士郎さんが大怪我をしたこと、小学生だった自分は家族を支えようと無理を繰り返していたこと、そのせいで交通事故に遭い大怪我をしたこと、現在は完治したが、当時は歩行すら困難だったこと、そしてその原因が『御神流奥義』の習得するための無茶な鍛錬あったことも・・・。
恭也「俺も六つある『御神流奥義』の内、四つ会得するのに17年掛かった。父さんですら、まだ全て会得できてるわけじゃない。先に断言してお
くが、諦めたほうがいい。八時間では不可能だ。」
シン「・・・それでも、例え不可能だとしても、俺は諦める訳にはいかない!俺にも守りたい人たちがいる。そしてそのためには、あと十時間以内
に少しでも強くならないといけないんです!」
恭也(・・・・・・ふぅ、父さん、悪いが俺に説得は無理だ)
この道場に来たとき、恭也には『御神流奥義』を教えるつもりなど毛頭無かった。
三週間しか御神流を習ったことがない人間が、たった八時間で会得ほど御神流の名は軽くはない。
元々才能はあるようだし、基礎もできている。
焦らずじっくり鍛えれば、数年で美由希と戦えるぐらいにはなるはずだ。
今日は何とか説得して、すぐに帰らせるつもりだった。 だが、実際に会ってみて気が変わった。
この闘気、この決意、いまだに剣は未熟だが、その思いだけは本物の御神の剣士だ。
恭也「・・・最初に父さんが言った、御神の剣士の心得を覚えているか?」
シン「今でもしっかり覚えています。士郎さんは始めてあったとき『御神の剣士は力無き人々の牙となり、大切な人々を守るための盾だ。君も大
切な人がいるなら、その人を守るために強くなりなさい』そういって、小太刀を渡してくれました。」
恭也「・・・八時間しかないなら、多少無理をすることになるぞ」
シン「危険は承知の上です! 恭也さん、俺に『御神流奥義』を教えてください。お願いします!!」
恭也は黙って、壁にある木刀ではなく自分が持ってきた二つの小太刀をシンに投げ渡した。
見たくなってしまったのだ。わずか三週間で御神の剣士の心得を体現した男が、このわずかな時間でどれほど高みに上がれるのかを・・・。
恭也「(俺もまだまだ甘いな)来い、シン・アスカ!永久不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術。その全てを自分の体で受け止めろ!」
シン「は、はい! 全力でいきます!!」
貰った小太刀を裏十字に構え、シンはもてる技術全てを使い恭也に戦いを挑んだ。
【裏十字】
背中側の腰に二刀の刀を十字に交差するようにする刀の差し方で、柄をかなり腰の前まで持ってきている。 そのため、抜刀、納刀を繰り返すのには効果的。
そんな二人の様子を、この人達は道場の扉の隙間からジッと覗いていた。
美由希「あちゃ~、気になって身に来て見ればやっぱり始めちゃってる・・・。お父さん、止めなくていいの?」
士郎 「二人とも止めて聞くような男じゃないからね。しかしいつもクールな恭也をその気にさせるとは、さすが私が見込んだ男だけはある
な!」
美由希「うん、でもシン君が怪我しないか心配だよ。いつもどこか危なっかしいから・・・」
士郎 「・・・・・・・・・・ヨクカンサツシテイルネ」
美由希「あ、そういうんじゃないんだって、無愛想だけどホントは優しいんだ///、とかいつも真っ直ぐでちょっといいかも///、とか、全然思ってないし、むしろ守ってあげたいみたいな//////。弟! そう弟みたいなものだよ!!!」
どれだけ言い訳をしても、顔を真っ赤にしてはまったくの逆効果だ。
特にこの男には、弱効果どころか致命的だったらしい。
《士郎の頭の中》
なのは→シンが大好き=好意
桃子→シンはお気に入り=好意
美由希→シンが気になる+同じ御神の剣士として切磋琢磨=恋愛!=結婚!=孫!!!
まて、落ち着け士郎。まだそうと決まったわけでは・・・。
それに、親の気持ちより美由希の幸せが第一だ。シン君ならあと五年もたてば娘を任せられるほどになるかもしれん。
それに考えてみると、彼にははやてちゃん達がいるんだし、早々うちの子に手を出すはずがない。彼は子供にも人気があるからな。なのはも懐いてるし・・・。 ん、まさかそれって
シン+美由希+なのは=三角関係!!=家庭崩壊!!!
もしくは
シン÷美由希+八神家+リンディ家=浮気!=美由希との破局!!=家庭崩壊!!!
どの状況になっても、美由希やなのはが幸せになれる未来が浮かばないとは・・・。
なんにしろ確かなのは、あの男を生かしておけば御神流(高町家)にとって最大の脅威となる!!!!!
美由希「お、お父さん???」
シン・アスカ、あの時オーブから助けた恩を仇で返すとは・・・。(錯乱中)
再び不破家の姓を名乗るときが来たようだな。
美由希「あ、ちょっと、今入ったらまずいってば!」
士郎は殺気を振りまきながら、道場へと入っていく。
恭也「むっ、この殺気は・・・。いかん! 逃げろシン!!」
シン「なんですか、恭也さん?あ、士郎さん見てたん・・・(なんだ、息苦しい?)」
士郎「・・・うかつだったぜ。俺としたことが・・・こんな危険分子を育てていたとはな」
シン(なんだ、この威圧感《プレッシャー》は・・・。士郎さんの周りの空気がゆがんで見える!)
恭也「早く逃げろ!父さんはすでに少し錯乱している!!」
すさまじいほどの殺気だ。これが、御神の剣士の真の姿なのだろうか?さすが、二代目冥王を生み出した血筋だけはある。
シンにとっても、恐怖で体がすくむなど初めての経験だった。
士郎「シン君、君は『御神流奥義』を覚えたいそうだが?」
シン「え、はい、大切な人達を守りたいですから!」
士郎「なるほど、それなら見せてあげよう。『奥義之極み』以外の奥義を一から六まで順に打ち込んだ後、次はランダムで打ち込む。手加減する
から体で仕組みを覚えたまえ」
相変わらず無駄に殺気を振りまきながら、士郎は壁の木刀を手に取った。
ちなみにその木刀は鉄心(中に鉄)が入っている為殺傷力は十分なのだが、本人以外は誰も知らない。
シン「し、士郎さん!? (恭也さん、助け・・・いないし!!!)」
突然の命の危機に、シンは一生懸命恭也の姿を探した。
が、すでに恭也は桃子さんを呼びに、美由希と共に店に走ったあとだった。
美由希「恭ちゃん、シン君は置いてっちゃったけどよかったのかな」
恭也 「あの隙のない構えだ。もはや俺達には手が出せない!シン、俺達が戻るまで死ぬんじゃないぞ!」
はい、無理です。
士郎「では、始めるとしようか」
シン「俺は終わりそうな気がします」
士郎「いくぞ! まずは奥義之壱『虎切』(こせつ)!!」
一瞬で士郎さんの姿が掻き消えると同時に、俺の中に『あの感覚』が発動した。
どうやら今度ばかりは俺もやばいみたいだな。だが、おかげで見える! 奥義之歩法『神速』が目で追える!
後で知った話だが、奥義之壱『虎切』とは超距離からの抜刀術で、鞘走りを使用し、高速で放つ御神流でも一、ニの速度と射程距離を持つ技だそうだ。 すさまじい剣速だ。間に合うか! 鈍い音とともに、小太刀を持っている手にすさまじい衝撃が走った。
シン「・・・・・・っぐうう(なんとか防ぎきったか?)」
士郎「ほう、これを防ぐか。なら次だ!奥義之弐『虎乱』(こらん)」
勢いそのままに突撃した士郎は、密着した体勢のまま奥義之弐『虎乱』を放つ。
虎切の発展型奥義だけあって、連撃を食らったシンは一気に壁際まで吹き飛ばされた。
シン「う、がはっ(速すぎる! 反応できても体が追いつかない!)」
士郎(体を捻って、急所への打撃を避けた!まさかこれほどとは・・・)
何とか体勢を整えようとするシンだったが、士郎が連続で放つ『斬』のせいでうまく動けない。
シン(受け流すだけで精一杯だ! こんなに実力差があるなんて・・・)
士郎「埒が明かないな。ならば、これで終わらせよう!! 奥義之参『射抜』(いぬき)」
『射抜』とは御神流奥義の中で最長の射程距離を誇る超高速の連続突きだ。 そのうえ突きの発動後、薙ぎへと変化させることができる。
案の定、三撃目を受け流したと思ったシンは、徹の発展型の奥義である奥義之肆『雷徹』(らいてつ)をモロにわき腹に受ける。
シン「ごほぉっ(しまった!い、息が・・・)」
そしてそれは決定的な隙となった。
士郎「(ここまでだな)止めだ! 奥義之伍『花菱』(はなびし)」
シンはすさまじい斬撃によって、反対側の道場の壁に叩き付けられる。
それでも小太刀を離さず立ち上がれたのは、このまま終わって堪るかと言う彼の意地と根性だ。
シン「・・・・まだ・・終わってませんよ。士郎さん!」
士郎「よく立った。だがこれが最後だ! 奥義之六『薙旋』(なぎつむじ)」
相手へと突進しながら、抜刀術からの四連続の斬りを打ち込む、抜刀術の剣速に突進術の威力も含めた、高度な技だ。
もちろんフラフラのシンが避けられる筈も無く、四つの斬撃全てを喰らい、壁を突き破って道場の外まで吹き飛ばされた。
士郎「・・・・・・少々やりすぎたか?」
思いっきり奥義を放って気が済んだのか、彼はいつもの高町士郎に戻っていた。
士郎(これしきのことで冷静さを失うとは、私もまだまだ修行が足らん。というかシン君死んでないだろうな!!)
さすがに心配になったのか、士郎は道場の外にシンを迎えに行った。 しかし、心配ご無用。シンは吹き飛ばされながらもしっかりと着地を決めていたのだ。 ・・・・・・桃子さんの上に。
シン「げほっげほっ、いって~、マジで死ぬかと思った。・・・・ん、なんかやわらかい?(このもみ心地はなかなか)って、桃子さん! 大丈夫で
すか!」
桃子「・・・きゅう(気絶中)」
そう言いつつも、桃子さんの胸から手を離さないのがシンのパルマクオリティー。
幸い気絶しているだけのようだし、怪我もない。一度、木に弾かれてから落ちたせいで落下の衝撃が弱まったのだろう。
恭也「・・・・・ここまでピンポイントで落下するとは、相変わらず見事だな」
美由希「シン君! いい加減にお母さんの胸から手を離しなさい!!!!!」
さあ、ここで問題です。この状況を士郎さんが発見したら、どうなるでしょうか?
士郎「シン君、さっきは済まなかった。娘のこととなるとつい・・・・・・・・・」
シン「はっ! ま、待ってください! これは不可抗力で・・・」
A.どう見てもシンが腹いせに桃子さんを襲っているように見えます。
士郎「・・・・・・続きといこう。さっきも言ったように、次はランダムで打ち込む。今度は手加減なしだ」
士郎さんの氷のように冷たい目が俺を睨んでいる。殺気も数倍に跳ね上がり、シンの体は金縛りにあったように動かない。否、動けない。
シン(士郎さんの声が聞こえない。心臓を鷲?みにされたような感覚・・・これが殺されるという本能的な感覚か・・・)
彼はこのときほど、自分の女難を後悔したときはなかった。
士郎「さよならだ、シン君。あの世で桃子に詫びたまえ! オラァ『薙旋』『花菱』『射抜』『虎切』『射抜』『花菱』『虎乱』『雷徹』『花
菱』 『射抜』『虎乱』『雷徹』『雷徹』『虎乱』『雷徹』『花菱』『虎乱』『虎切』『花菱』『虎乱』『虎乱』『雷徹』『花菱』『虎
乱』『虎切』 『虎切』『虎乱』『花菱』『虎乱』『雷徹』『花菱』『虎乱』『虎切』『花菱』『虎乱』『花菱』『虎乱』『雷徹』『虎
乱』『雷徹』『虎乱』 『虎乱』『射抜』『薙旋』『雷徹』『射抜』『花菱』『虎乱』『花菱』『射抜』『虎乱』『雷徹』!!!」
シン「ぐぼぁぁああーーー」
シン・アスカ、現世からリタイア。
あれ、ここは・・・。そうかまたここへ来たのか。
この何もない殺風景な景色も、目の前にいるひげもじゃの大男の顔もさすがに見飽きたな。
夜摩「お主も懲りずによく来るな。三日に1度は来ているのではないか?」
余計なお世話です。そういえばあいはどうしたんですか? 今日は川にはいないみたいですけど・・・。
夜摩「今日は非番だ。三藁どもと少し出かけるらしい。おかげでわざわざ、ワシが相手をする羽目になった」
・・・ご苦労様です。
夜摩「まったく、最近は死人が増えて忙しいというのに・・・。もっと気をつけて生きられんのか?毎回送り返す我々の身にもなってみろ」
わかってるんなら、俺の女難を何とかしてください! 好きでこんな目に遭ってるんじゃない!
夜摩「おっと、だいぶ時間が経ってしまった。そろそろ送り返さんとな。」
話をそらすな! それでも地獄を仕切ってんのか、あんた!
夜摩「余計なお世話だ。では、始めるぞ」
光に包まれて、肉体の感覚が戻ってくる。
あれだけ痛めつけられたのに、今は体のどこにも痛みが無かった。
シン 「う、なんだ。もう帰ってきたのか?」
シャマル「シン君、大丈夫ですか?」
シン 「あれ、シャマル? どうしてここに?それに士郎さんは?」
シャマル「私は恭也さんから、シン君が死に掛けてるって聞いて来たんです。間に合ってホントによかった」
恭也 「父さんなら、母さんが連れて行った。そのあとは・・・・聞かないほうがいい」
なるほど、どうやら俺は桃子さんのおかげで、命拾いしたらしい。
俺あんな事しちゃったのに・・・あとで全力全開で誠心誠意謝っておこう。
シン 「って、俺は何時間寝てた! 時計は・・・よかった。まだ三十分しかたってない。恭也さん、続きをお願いします!」
恭也 「もう少し休んだほうがいいんじゃないか?」
シン 「いえ、時間がありませんから! シャマル、はやてとリインフォースを頼むぞ!」
シャマル「あの、他の守護騎士が何をしてるかは聞かないんですか?」
シン 「あれだけいわれて黙ってる奴は、ヴォルケンリッターにはいないだろ」
それだけ言い残すと、シンと恭也は再び道場で鍛錬を始めた。
シャマル「・・・お見通しってわけ、なんか悔しいな」
シャマルが病院に戻ろうとしたときだった。
シャマル「・・・え、クラールヴィントに魔力反応? これはリインフォース!」
町中に張り巡らされたようやく魔力センサーにようやく反応があったのだ。しかも、その場所は・・・
シャマル「海鳴大学病院! いけない、私達も急がないと! ヴィータ、ザフィーラ、デス子ちゃん聴こえますか?」
闇の書の自動防衛プログラム再生まであと『9時間11分』
おまけ
恭也「シン、あとで美由希にもお礼を言っておいてくれ」
シン「へ? 何でまた?」
恭也「覚えていないかもしれないが、シャマルさんを呼びにいっている間にお前を介抱してくれたのはあいつだ。」
シン「そうだったんですか。じゃあ念入りにお礼言っとかないと・・・」
恭也「それとだな。言い難い事なんだが、お前は心配停止状態でかなり危険だったそうだ。それで、美由希が・・・」
シン「ああ、わかってますよ。士郎さんの事は恨んでません。俺は気にしてませんから、って伝えておいてください」
恭也「・・・・・わかった(集中できなくなるかもしれないし、今は伝えないほうがいいか)」
美由希「人工呼吸はキスじゃない///人工呼吸はキスじゃない////人工呼吸はキスじゃない/////」
桃子 「あらあら、美由希ったら・・・(顔を真っ赤にして、かわいい?)」
なのは「(ピキ―ン!)今近親者の中から裏切り者が出た上に、とんでもないイベントが起きたせいで、ダントツで先に進まれたような気がしたんだけど・・・・」
はやて「(キュピーン!)奇遇やな。私もこれまでに無いほどの強力なライバルが現われた気がしたんよ」
フェイト「(パキーン!)便乗、便乗?」
アティ「何をやっているんでしょう、あの三人は?」
水銀燈「さぁ? また妄想じゃないのぉ?」
朝倉 「よく似た情報は前にも観測したわ。確かニュータ○プだったかしら」
リインⅡ(あの人たちの場合は唯の電波だと思いますけど)
最終更新:2008年07月04日 00:27