シン編 第4話 『夢』
闇の書の自動防衛プログラム再生まであと『2時間37分』
ようやく高町家での修行を終えたシン。彼は現状を把握するために、翠屋でデス子と合流していた。・・・というより、無理やり奢らされていた。
デス子「それで(むぐむぐ)リインフォースさんは(もごもご)いまだ捜索中です。
だいぶ範囲が狭まったので(むしゃむしゃ)あと一時間ぐらいで(ぱくぱく)発見できますよ(ごっくん)」
シン 「物を食べながら喋るな! それにしても、少し時間が掛かりすぎじゃないか?」
デス子「病院から(むしゃむしゃ)転送先を割り出したんですけど、(ぱくぱく)もういなかったんですよ。
おまけに、意図的に魔力を(もごもご)隠してるみたいで・・・。」
話を聞いて、シンにはリインフォースが何故隠れているか予想が付いた。
仲間に心配を掛けまいとするのは、はやてと良く似ている。さよならさえも言わせない気なんだろうが、そうはいかない!
あいつは俺が救うんだ! 今日! この町で!
デス子「それより、御神流の奥義は(むしゃむしゃ)どうなったんですか?(ぱくぱく)いくつ習得できました?
マスターの(もごもご)ことですから、もう全部会得したとか?」
シンが今まで一生懸命言われまいと話題を変えていたのに、相変わらず空気を読めないMSだ。
さっきから、シンが不機嫌な顔をしているのに全く気付いていないのだろうか?
シン「ゼロだ」
デス子「・・・・・・はい?」
シン 「一つも出来なかった。」
デス子「かんっぜんに、無駄足じゃないですか!!何遊んでたんですかマスター!!!」
シン 「あんな人間離れしたことが、一朝一夕で出来てたまるか!!!理屈は分かったからいいんだよ!!!!」
桃子 「二人とも仲がいいのは判るんだけど、店の中だから自重してね」
桃子さんの目が笑ってない笑顔にビビリながら着席する二人。
案外、冥王の血は桃子さんが大元かもしれない。
デス子「あ、『苺のミルクシャーベット・フルーツ添え』と『チョコレートムースのキャラメルソース・パイ添え』と
『シュー・ア・ラ・クレム・スペシャル』と『レモンヨーグルトとフルーツミックス・グラス盛り』
あと、『フルーツソースのブラマンジェ』『ハニービスケットのレアチーズ添え』『いちごのホットチョコタルト』
追加でお願いします! それで? 何で(むしゃむしゃ)ヴォルケンリッターを(もごもご)ほっといて私を(ぱくぱく)呼んだんです
か?」
シン 「・・・・・・(もはや語るまい)リインフォースのいる場所に心当たりがあるんだ」
シンの考えはこうだ。
この時間軸に三週間滞在して、歴史の修正力の恐ろしさは身をもって知った。
ならば、リインフォースが消える場所も本来の歴史と同じである可能性が高い。
なのはとフェイトがどこにいるかわからないのも、リインフォースを閉じる儀式を準備しているからと考えればつじつまが合う。
デス子「なら、ヴォルケンリッターも連れてくればいいじゃないですか。仲間はずれはいじめですよ! かっこ悪いですよ!!」
シン 「まず、確かめにいくのが先だろ。もしいなかったらどうするんだよ! 連絡はそのあとにすればいい」
デス子「なるほど。・・・って私は連絡役ですか! そのためだけに呼ぶなんてひどいですよ、マスタ~!!」
シン 「俺の財布を滅ぼしたくせに、今更、ひどいって言うな!!! 一体いくつ食べる気だ!!! いつもいつも食ってばっかいないで、たま
には・・・」
桃子 「ふ~た~り~と~も~?」
十分後、シンとデス子は店の奥で説教食らった挙句、追い出される羽目になった。
平日だから、人が少ないのは納得できる。だが、雪が降っただけとはいえ、今日のように誰もいない日は極めて珍しい。
いつもならジョギングしているおじいさんや、チョコやチーズが入った、たこ焼きやらたい焼きやらの屋台が店を出していたはずだが・・・。
それにシンは、前にもこの違和感を味わったことがある。
シン 「デス子、何かわかるか?」
デス子「この公園全体に、巧妙に偽装された結界魔法が張られています。遠距離ならまず間違いなく気付きませんね」
シン 「どうやらここみたいだな。俺は探しに行くからヴォルケンリッターへの連絡は頼むぞ」
デス子「了解です」
リインフォースが病院から転移してから既に6時間近く経っている。もしかすると手遅れになっているかもしれない。
シンは焦りに駆られて、公園中を走り回った。
シン「くそっ、どこにいるんだ! この公園広すぎるぞ!」
がむしゃらに走っていたシンの頭の中に、死んだはずの親友の声が唐突に響いてきた。
レイ(もっと先だ、シン。お前が最初に来た場所を思い出せ)
シン「レイ! レイなのか!」
生死を共にしてきた一番の戦友の声を、シンが聞き間違えるはずが無い。
シン(何を今更・・・。レイはもう死んだだろ! でも確かにさっきの声は・・・)
しばらく待ってみたが、聞こえてくるのはゆるやかな風の音と積もった雪が落ちる音だけだった。
魔法なんてものがある世界だ。幽霊の声が聞こえてきたところで驚くことでもないかと、シンは素直に納得した。
もっとも、いまだに心配を掛けているのかと少しへこんではいたが・・・。
シン「ありがとな、レイ。そっちの皆にもよろしく言っといてくれ」
どの道探す当てがない以上、空耳でも何でも頼るしかない。 彼は最初に自分がここに来た場所へと走り出した。
シン「はぁはぁ、ここら・・・辺か? ・・・・いた! 」
あの人影は、なのはとフェイトとリインフォースに間違いない。
まだリインフォースが消えていないところを見るとなんとか間に合ったようだ。
リインⅠ「海・・り深く愛し、・・・の幸福を守りた・・・思える・・・と」
コーディネーターの聴力でようやく聞こえるほどかすかな声。
初めて聞くはずなのに、なぜかシンには聴き覚えがあった。
リインⅠ「出会えればな」
悲しそうで、寂しげで、顔も知らないのに俺は守りたいと思った声。思い出した。これはこの世界に来るきっかけになった言葉だ。
シン「ぜぇぜぇ、もう・・・やめろ、リインフォ・・・ゲホッゲホッ!!!(しまった、声が!)」
ペースを考えずに走り続けていたせいで息が乱れて、この肝心なときに大声が出せなくなっている。
いつものシンならこの程度のことで息が乱れるわけはないのだが、慣れない雪に足を取られて、自分で考えていたよりもはるかに多くの体力を消耗していた。高町家で大幅に体力が減ったときも、まともな休息は取っていない。
ここに来て本人も気付かないうちに、シンの体力は限界に近付いていたらしい。
シン(くそっ、後一歩なのに、このままじゃ間に合わない。なにか・・何かないのか!)
フラフラと走り続けながらも必死で辺りを探すシン。そこへ最高の(最悪の?)タイミングでデス子が戻ってきた。
デス子「マスター、ヴォルケンリッターに場所を知らせてきましたよ~」
シン 「見つけた!!!」
デス子「へ?」
今のデス子は、機動性を重視するためリインⅡみたく妖精サイズだ。これならいける、と思ったシンは迷わずデス子をその手に掴んだ。
シン 「デス子! 10秒足ったら子供モードになれ!!」
デス子「え? え? 何ですかマス・・・」
シン 「(力がないのが悔しかった!俺はこのデスティニーで運命を薙ぎ払う!!)いっけぇぇーーーー-っ!!!!デス子ミサイル!!!!」
ザフトのエースとして培った技術を、全て込めた投球によって、デス子は時速150キロ以上のものすごいスピードでリインフォースへ向かっていった。さながら大砲で発射されたピエロのごとく・・・。
デス子「うぎゃぁぁぁぁぁ~~~~~!!! マズダーのばぁがぁーーーーー!!!!!」
一方、全く気付いていないリインフォース達は、シリアスな最後を迎えていた。
リインⅠ「ひとつ頼まれてくれないか?」
なのは 「なにを・・・ですか?」
リインⅠ「私は消えて、小さく無力なカケラへと変わります。もしよければ、私の名はそのカケラではなく、やがて生まれるだろう私の妹に送っ
てやってください、そう主はやてに伝えてくれ。私の魂はきっとその子に宿るだろう」
フェイト「・・・リインフォース」
何もできない悲しみ、自分が無力なことへの悔しさ、そしてどうすることもできない理不尽がなのはとフェイトに涙を流させる。
はやてを助けるためとはいえ、リインフォースを閉じる決断は、まだ9歳の彼女達にはあまりに荷が重かった。
リインⅠ「そんな悲しい顔をしないでくれ。お前達はよくやってくれた。これは誰のせいでもないんだ」
儀式も最終段階に入っている。おそらく、これが最後の言葉になるだろう。
リインⅠ「主はやて、守護騎士達、小さな勇者達、そしてシン・アスカ、ありが・・・」
デス子「ギャァァァアア~~~~~!!!」
リインⅠ「んっ、何のお・・・ぐほぁぁぁぁっ!!!!」
強烈な一撃をモロに側頭部に受けたリインフォースは、(デス子と一緒に)数メートルも吹っ飛ばされた。
子供モードになり、体重もO十キロに増えたデス子が時速150キロで突っ込んできたのだ。
避ける隙も、かわすひまもない。
後に管理局中に恐れられた『紅き砲弾』と呼ばれる合体必殺技の誕生である。
シン 「ぜぇぜぇ、リイン・・・フォース、あんたって・・・・人は・・・」
なのは 「えっ? えっ? シンお兄ちゃんどうしてここに!?」
フェイト「リ、リインフォース、デス子、・・・ひっ、白目むいてる!」
リインフォースとデス子は、仲良く? 雪まみれになって気絶していた。
なのはとフェイトは驚きながらも、リインフォースとデス子を雪の中から助け起こす。
デス子「まぁすぅたぁ~~~。ひどすぎますよぉ~~~」
シン 「・・・・・・ごめん、さすがにやりすぎた。それは一旦置いとくとして、なのはにフェイト、ちょっと席をはずしててくれないか?」
リインⅠ「・・・・・・んっ、ここは?」
シン 「ようやく気が付いたか」
リインⅠ「シン? そうか、私は何かよく判らないものに吹き飛ばされて・・・」
シン 「ひ、一人で勝手に消えようとしたから、ばちが当たったんだろ」
儀式を食い止めるためとはいえ、デス子を投げ飛ばしたとは口が裂けても言えないシンであった。
デス子「マ~ス~タ~、まったく反省してないなんて、どうやらお仕置きが必要なようですね~」
シン 「ええい、黙ってろデス子! (本当に空気読めないな、こいつは!)」
今のやり取りで、自分に何が起こったか大体想像が付いたが、話が前に進まないのであえてほっておくリインフォース。
リインⅠ「なのはとフェイトはどうした?」
シン 「ヴォルケンリッターを迎えに行った。まぁ、俺のせいで居づらくなったんだろ」
本当は、リインフォースを説得するために席をはずしてもらったのだが、それに気付いていないリインフォースは
シンが怒っているため二人は居づらくなったのだろうと勝手に解釈した。
リインⅠ「シン、やはり怒って・・・いるだろうな」
シン 「ここまでくると怒るの通り越して呆れたよ。お前のことだからみんなに心配かけたくないとか、
悲しませないように黙って消えようとか思ってたんだろ」
リインⅠ「・・・よくわかったな」
シン 「いい加減にしろよ、どいつもこいつも! 前に『あんた達は俺が守る!』って言っただろ。少しは俺を信用しろ!」
デス子「(ぼそっ)まぁ、大嘘付いた正体不明のらき☆えろ居候男を信頼しろってほうが無理がありますけどね」
シン「・・・・・(デス子の今日の夕飯は無しだな)」
リインⅠ「主はやてにも同じことを言われた。私がしたことは・・・そんなに間違っていたのだろうか?」
シン 「・・・・いや、やり方は間違ってない。一を捨ててでも九を救えって考えはあるし、俺が消えて皆が助かるなら、俺もリインフォースと同
じことをしたと思う」
どんな強大な力があっても全てを守ることはできない。それは戦争に幸せを壊され、守りたかったものや、帰る場所を失ったシンの出した悲しい結論だった。
デス子「・・・・マスター」
シン 「でもな、リインフォース。その人のために正しいと思ったことをしても、その人が幸せになれるとは限らないんだ」
シンは今でもザフトにいた頃の自分は間違ってなかったと思っている。
軍人である以上、兵士は指揮官の駒であり、私情と独断で行動してはならない。上からの命令に背くことなく、命じられた敵をうち、守れといわれたものを守る冷酷な殺戮機械。それが軍人の正しい姿だし、そうすれば戦う力の無い多くの人を救えると思っていた。
何も間違っていなかったはずだ。だが、人の幸せを守ろうとしたシンが生み出したのは、不幸や憎しみ、そして多くの屍だけだった。
シン 「はやてだって、助かったとしてもたぶん一生自分のことを攻め続ける。例えそれが仕方がないことでも、どうしようもなかったとしても
だ。立場が逆だったら、お前だってそうなんじゃないか」
リインⅠ「そ、それは・・・」
気にしていたことを言われ、言葉に詰まるリインフォース。
シン 「はやてに全てを背負わせて、自分だけ消えるきか、リインフォース! そんなことは俺が許さない!どうしても消えたいなら、はやて
のためにもお前のためにも俺とデス子があんたを叩きのめしてでも止めて見せる!」
リインⅠ「・・・できると思っているのか? 私が本気を出せば、何の力も持たないお前など・・・。」
シン 「簡単にねじ伏せられるだろうな。けど、ヴォルケンリッターが来るまでの時間稼ぎぐらいはできる!」
リインⅠ「・・・・・。(守護騎士達まで味方につけているのか!)」
ここで、デス子の嘘が始めて役に立った。
ユニゾンデバイスの所持に加え、持ち前の頑丈さなどがリインフォースにシンは相当の実力者だと誤った認識を植え付けていたのだ。
そのことが、シンの再評価に大きく繋がっていたのだから、世の中はわからない。彼女が本気を出していれば、シンなど一分も持たなかっただろう。
シン 「俺の計画に手を貸してくれ! あんた達は絶対に守る! くだらない『運命』なんて俺が壊して見せる! 」
リインⅠ「・・・・・」
シン 「・・・・・頼む、俺はもう大事な人たちを失いたくないんだ!!」
リインⅠ「・・・手を貸すかどうかは内容で決める。先に何をするつもりか話してくれ」
シンは自分の考えた作戦を、メリットもデメリットも包み隠さずリインフォースに話した。この作戦にはリインフォースの協力が不可欠だ。
信頼を得るために、シンは必死で説得を続ける。
リインⅠ「・・・・・成功率が低すぎる。本音を言えば、そんな無謀な賭けに主はやてを巻き込みたくない。いざとなったら、お前を巻き込んででも
儀式を強行するぞ」
シン 「それでもいいさ、確かに可能性は低いけど俺も死ぬつもりは無い。必ず成功するとやくそくする!リインフォース、俺と一緒にはやて
たちの居る八神家に帰ろう!」
リインⅠ「・・・そうだな、私もお前達ともう一度生きてみたい。シン、私の命をお前に預けよう(これでいいんですね、主はやて)」
シン本人は知らないことだが、儀式が中断されたとき、既にリインフォースの決意は半ば固まっていたのだ。
このまま消えるようならそれでも構わない。だが、もしもシンが儀式を止めに来ることができれば、全てをシンに託す。
結果的にシンは眠りにつく前にはやてが言った通り、二度もリインフォースの運命を覆えしてくれた。
もっとも、デス子を投げつけてきたのは予想外だったが・・・。
リインⅠ(私もこの男に賭けることにしました。元をたどればシンに救われた命です。それで、消えたとしても恐らく後悔はしないでしょう)
シン 「よかった。これだけ言って駄目ならどうしようかと・・・・?」
安心したとたん、急に眠気に襲われるシン。
足にもまったく力が入らない、気を抜けば腰から崩れ落ちそうだ。
何とかリインフォースの懐柔に成功したものの、シンの体はこれまで溜め込んだ極度のストレスと『御神流奥義』の習得に関わる身体的な疲労などで、肉体も精神も限界を通り越しズタボロになっていた。
シン「(やばいな、今のうちに体力を回復しておかないと)リインフォース、悪いけど守護騎士達が来たら起こしてくれ。・・・・・限界・・・だ。少し
寝る・・・」
シンは言うが早いが近くにあったベンチに横たわると、五秒弱で眠りについた。
リインⅠ「シン、そんなところで寝ては風邪を・・・・・。(遅かったか、もう寝ている)」
リインフォースがシンの寝ているベンチに近寄ると、既に規則正しい寝息を立てていた。
どんな場所だろうが、眠れる時にすぐ眠られるのは彼ら戦士には必要な技能だ。
それをわずか十七歳の少年が身につけているのは、彼のこれまでの人生がどれだけ血にまみれているかを物語っているかのようだった。
リインⅠ「悲しい技能だな。この歳でどれほどの戦場を潜り抜けてきたのか・・・。しかし、この硬いベンチは疲れが取れまい」
リインフォースはシンの頭をそっと浮かせると、ベンチとの間に自分の太ももを滑り込ませた。
伝説に語られる『膝枕』である。
リインⅠ「これで少しは楽になるだろう。ふふっ、ここまでやって起きないのは信頼されているからか、単に疲れているからか。どちらだろう
な」
幸いヴォルケンリッター達が到着するには、まだ時間が掛かりそうだ。
元々基礎体力の高いシンなら、すぐに回復するだろう。
リインⅠ「(膝枕をしたのは、主はやてに続いて二人目か)そういえばまだお礼を言ってなかったな。シン・アスカ、私が幸福になれたのは全て
お前のおかげだ、ありがとう。」
シン 「・・・ん・、・・・どう・・・いたしまして・・・・」
寝言で返事をするシン。リインフォースは幸せそうに微笑みながら彼の頭をそっと撫でなでた。
リインⅠ(真っ直ぐな男だ。そして、とても暖かい。主はやて、あなたがこの男を信頼した理由がなんとなくわかった気がします)
最終更新:2008年07月04日 00:40