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DESTINY単発-01

レイが墜ちシンは敗れた。
 戦争の終わりを肌で感じながら私はシンの頭ををあやすように抱いていた。
 メイリンは今頃私の事を嘲笑っているだろう。
 私達は仲の良い姉妹ではない。私はメイリンの事を嫌いでは無いが好いてもいないし、あの娘はきっと私との能力差に引け目を感じている。
 しかし今立場が逆転した。あの娘は紛れもない勝ち組なのだ。

 彼の傍らに寄り添い誇らしげに笑うメイリンを想像しただけで吐き気がしてきた。
 悔しくて涙が込み上げて来る。けれど誰も私を慰めくれやしないのだ。
 シンは相変わらず私の腕の中で泣き続けている。女々しくて嫌になる。
 ━━アンタが負けたから悪いのよ。甲斐性があったら私を慰めなさいよ。
 罵詈雑言をぶつけたくなるがそれは出来ない。
 シンにはまだ可能性があるのだ。腐ってもデスティニーのパイロット、上手くラクス・クライン━━ラクス様に取り入って立ち回ればいいのだ。利用価値は残っている。
 シンは短気で餓鬼だからこそコントロールし易い。私の体に溺れさせてしまえばどうにでもなる。
 その為に思わせぶりな態度を取ってきたのだ。抱き締められても拒絶せずにいたのだ。
 さあ、ルナマリア。勝負を付けるわよ。
 シンの頭をわざと私の胸に当たるようにしてシンの顔を覗き見た。先程の悔し涙はシンには違う意味で見えているだろう。
 私はぎこちなさそうに口角を上げた。シンは朦朧とした目つきで私を見つめてくる。
 私はシンの頭をヘルメット越しに優しく撫でた。私の母性を刷り込むようにいつまでも撫で続けた。
 精々私の駒になりなさい。私の為に全てを捧げなさい。
 心の中で呟いただけだがシンは何度も頷き始めた。

「……ですから、プラントの危機管理はなっていないんです! 危機管理の必要性の認識が甘いんですよ!」
 テレビの中では暑苦しい体格の男が暑苦しい口調で熱弁している。
 シン・アスカはソファーに背中を預けてぼんやりとテレビを見ている。
 プラントはラクス体制になってから厳重な危機管理が出来ている。アイツ、元ザフトらしいけどなんにも解っちゃいないな、などとテレビに向かい心の中で毒を吐く。

 今ではザフトのトップエースとなりキラ・ヤマト率いるラクス・クライン議長親衛隊となったシンは、並の芸能人以上に有名であり人気がある。
 もっともキラより人気がある訳でもないが。

「ねえ、シン。今夜の夕飯は何にする?」
 エプロンを着込んだルナマリアがパタパタとスリッパの音を響かせてリビングに現れる。
「ああ、サッパリしたのが食べたいな」
 彼女と結婚したのは正解だったな、と独りごちる。
 遠い幼い日に失った温かい家庭を手に入れる事が出来た。それは大切な宝物。
 宝物と言えばもうすぐ新しい家族も増える。
 仕事も順風満帆、やる事なす事全てが良い方向に向かっている。
 下らないニュースに飽きてチャンネルを変えるとシンの瞳に信じられない物が入って来た。

 ――ザフトレッド、シン・アスカ不倫!? 夜のバットはホームラン王!?――

 毒々しいテロップが画面に大きく映っている。
 見た事がない女性が涙を流しながらシンを非難している。
 怒りのあまりにテレビを消してリモコンを投げ捨てる。 腕の立つ弁護士を用意しないと。下手を打ったら法廷で泥仕合になるな、と思いこの前知り合った弁護士の名刺を探す。
確かナルホドとかいっただろうか。

「ねえ、シン……」
 ルナマリアが穏やかな声で呼んでいる。
 振り向くと、そこには瞳から光を失い虚ろな表情のルナマリアが立っていた。
 その異様な光景にシンは固唾を飲む。
「……男っていつもそう……私を裏切ってばかり……」

「次のニュースです。昨日午後六時半頃、ザフト所属のシン・アスカさんが妻のルナマリア・アスカさんに……」

 ザフトの栄えある赤備えにして天下にその人ありと謳われし白面の赤眼児、シン・アスカは呆然としている。
 四方より響くはラクス・クラインの歌声。同胞達は望郷の念に駆られハラハラと泣いている。
 ラクス・クラインの圧政により虐げられた民の為に僅かな手勢を率いて兵を挙げたが、所詮は多勢に無勢で戦にはならない。
 天を仰げばとめどなく涙が溢れる。
 小クルーゼと謳われた名将レイ・ザ・バレルがこの場にいればナア……とシンは思うが、人の命は散りゆく仇花。 戻って来る事はない。

しかし忌々しきはラクスの歌声である。
 力で攻めずに心を攻めるとは猪口才な真似を。
この様な姦計を計ったのは黒旋風ディアッカであろうか。
流石は湧き出る知謀は泉の如し、鬼神すらをも欺くと謳われただけはある。

 シンは意を決して仲間に呼び掛けた。
 自分達はもはや此所までである。此所に到っては後世に汚名を残さぬ様、見事に散って天下に我等が志を見せつけよう。

 シンがこんこんと言葉を紡ぐと、仲間達は黙って頷く。
 すると、歌声に混じりシンを呼ぶ声がした。
 声の主を探して見れば、親殺しの逆臣徒アスラン・ザラその人である。
 話を聞けば、今降るのであれば罪一等減じるというものである。
 しかし、アスランの言動を知る物は誰一人彼を信じる事はない。
 更にアスランは自分に嘘偽りなく、自分を殺せる者はあるかと三度言えたら、この命を差し出そうなどと言う。
 シンはこいつは愉快と三度、俺を殺せる者はあるか! と大喝としたが、悲しい事にそれは果たせなかった。
 二度目を言った時にルナマリアに背後より斬り捨てられたのである。

 なんと! ルナマリアはラクス・クラインの密命を受けし間者であったのである!

 かくしてシンは英雄となり損ね、女の兇刃に倒れた。




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最終更新:2008年07月11日 04:57
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