ひぐらシンのないた後に-02

部活(死闘)編

「疲れたー……」
 我が家(倉庫、もとい物置小屋)に何とか無事に、大いに恥をかいて帰還した俺は靴を脱ぐなり倒れ込んだ。
 我が家と言っても元が物置小屋であるため当然一部屋。にしてはやけに広いのは元が園崎のだからだろう。
 特別に電気を回してもらっているから冷蔵庫ぐらいはある。
 が、出費は抑えておきたいので設定温度を多少いじってある。
 水道は川で汲んだ水で補い、風呂は園崎の家の人に貸してもらう。
 多少狭いが、野宿よりはマシだ。うん。
 しかしまぁ、神経衰弱で本当に神経が衰弱するとは流石に俺も思いもしなかった。
 神経衰弱、そう、今日行われた罰ゲーム付き部活──ある人はこれを闇の遊戯と呼んだ──の内容は、神経衰弱なのだ。
 そりゃまあね、俺も若かったから神経衰弱つったら記憶力と運だけのゲームだと思ってたんですよ。まさか、あんな……

「神経衰弱、それは太古より上流貴族が盛んに行った遊戯で、それを極めた者は明鏡止水の領域に至れるとも……」
「……みぃの話は長い上にインチキすぎて飽きてしまうのです」
 神経衰弱についてそりゃ熱く、時に激しく身振り手振りで伝えようとする魅音を尻目に、梨花ちゃんがうんざりしたようにうなだれて呟いた。
 おほん。ともかく、俺達は机を並べて神経衰弱をやることになったわけだ。勉強はてんで駄目な俺は記憶力だけは良い。
 まどろっこしくなくてちょうどいいぜ!

「これが5だから……悪いな皆、とりあえず二枚、ゲットだぜぇい!」
 意気揚々と5が置いてあるはずの場所に手を伸ばし、札をめくって──俺は絶句した。
 だって、そこにあったのは2だったのだから……!
「そ、そんな……!?」
 思わず口に出してしまった。すると魅音が肩を揺らしながら、不気味に笑い始める。
「言ったよねぇシンちゃん……これは太古から続く遊戯である以上に……闇の遊戯だって!」
 闇の遊戯なんて言ってなかったぞ。さておき、魅音が教室に響き渡るぐらいの声量で怒鳴った。
 その姿はまさに、鬼だ。以前見た監督の固有結界とは違う、鬼気たるものがある。
「や、闇の遊戯が、何だって言うんだよ……!?」
 俺の呟きに応えるように、圭一が口を開く。
「つまり……ずる使い放題のゲームってことさ」
 ずる!? ずるとは詰まるところのチートですか!? ファッキンチートですか!?

 慌てて魅音を見ると、魅音は肩を揺らしながら愉快そうに、不気味に笑った。
「あ、あんたって人はぁぁ!」
「はん! 神経衰弱であろうとにらめっこであろうと受験であろうとねぇ……あたしらにとっては!」
 びしっと右手を掲げ握り拳を作り、魅音がわなわなと震えながら力説する。
「あたしらにとっては、戦争なんだよ!」
「……お姉、私とっても恥ずかしいんですけど……」
「つまりみぃちゃんは本気でやれって言いたいんだよ」
 ……そうか、ああそうか! 魅音、あんたは……あんたは……
「あんたは仲間じゃない、敵だ!」
 が、魅音は特に意にかえさず、むしろ鼻で笑って、
「今更なに言ってるんだぃ? 部活とは死闘、死闘とは戦争、それすらもわからないなんて、やっぱりあの裏山で見せた奇跡はまぐれだったのかねぇ?」
「そこんとこどうなんだい、へっぽこすちゅーでんと」
「へっぽこすちゅーでんと!? よくわかんないけどスッゴく傷つくそれ!」
 るるるーと涙を流す俺を見て、圭一がぼそりと呟いた。
「シン……おまえノリ良いな」
 ごめんなさい、こういう時、どんな表情をすればいいのかわからないの……

 その後もそりゃひどい結果だった。
 レナは『レナ、シン君の友達だよね……?』とか言って俺の照準を鈍らせるし。
 詩音は『シンちゃんそういうことしちゃうんだぁ? グギ、グギャ、クケ……!』などと人間では発音不可能な言語を口走って脅してきたり。
 梨花ちゃんは『元の場所に帰れ』などと呟いて(真相を明かしてはいないのに)思わずギクッとさせられたり。
 あと残るは沙都子だが──
「悔しいですけれど、これはわたくしの負けのようですわね……完敗ですわ。シンさん」
「シンちゃんの本領発揮かなぁ?」
「おお、あの沙都子を負かすとは、シンちゃん、やるじゃないですか!」
 わざとらしいぐらいに魅音と詩音が俺を茶化す。
 沙都子は何故か、今回のゲームで今までチートを使わず、正々堂々と戦ってきた。
 俺と沙都子のトランプは現在同点。
 残るカードは四枚。今俺は2のカードをめくった。そう2だ!
 2の場所はとうの昔に割れている。正々堂々戦ってきた沙都子には悪いが、勝たせてもらうぜ!
「悪いけど勝たせてもらう! 答えは聞いてない!」
「待てっそれは孔明の罠だ!」

 俺がカードをめくる直前、今まで黙っていた圭一が叫んだ、が。それは間に合わなかった。
 俺はカードをめくった。そう、めくった。

 9と記されたカードを……!
「な……!?」
 直後、沙都子の馬鹿にした笑い声が響き渡った。
「おーっほっほっほ! 詰めが甘いですわよシンさん!」
 い、いつの間に……!? やはりトラップ沙都子は健在だったのか!?
 魅音と詩音はお互いに笑い合い、梨花ちゃんは綺麗すぎるほど無垢で清楚で純粋でいて穢れなき微笑を浮かべていた。
 なにやら『子供の都合なので、流石に展開が早いのです』と呟いている。
 さておき、俺は、負けた。そう、負けた。
 沙都子は未だに俺のことを馬鹿にした笑い声を響かせている。
 その仕草を見ると、どうでもよくなってくるぐらいの愛を覚えますね。主に殺意混じりのドロドロとした愛憎。チョコレートみたいに。

「切り札は最後までとっておくものですこと……チェックメイト、井の中の大海に蛙を教えて差し上げてあげますわ。アテンションプリーズ!」
 そう言って(激しく違うがこの際無視する)、沙都子は俺がめくった2と、もう一枚のカード──9をめくった。
 ……ふっ! はははっ!
「……ぇ?」
 沙都子と皆のこえが見事なまでにハモった。辺りが静寂に包まれる。少し間を空けてから俺は告げた。
「何勘違いしているんだ。2はこっちだぜ」
 沙都子の顔が驚愕に塗りつぶされ、両手を頬に当ててヒステリックに叫んだ。
「ありえませんわ! だって、確かに!」
 そう、有り得ない。俺がすりかえなければな!
「残念ながら、おまえに未来はない。この罠やろう! 速攻魔法発動! バーサーカーシード! 先ず一枚目、オープン! 二枚目、オープン!」
 高らかと宣言して俺はカードを二枚めくる。2と記されたカードを!
「攻撃!」
 沙都子の体が斬られたように痙攣した。

「いやぁぁぁぁ!」
 椅子から立ち上がり、床に足を着く沙都子。だが知ったことか。
「三枚目、オープン! 四枚目、オープン! 追加攻撃!」
「きゃぁぁぁぁ!」
 沙都子が絶叫しながらくずおれる。勝負は俺の勝ちだ。
 だがこんなことで済むと思うなよ! 俺が席を立ち、更に追加攻撃と叫んでいると──
「シンちゃん、おいたが過ぎましたわね?」
 詩音の声が聞こえてきて、俺は悟った。ああ……俺死ん

「しぃ、やめるのです。シンのライフはもう0なのです。にぱー」
 未だに執拗な追加攻撃を加える詩音を梨花ちゃんが宥めている。
「結局、どの道トータルでシンは九敗だからけつから二番目じゃ意味ないんだよなぁ」
 哀れ、シン。
 骨ぐらいは拾ってやるぜ。
「ね、ねぇしぃちゃん、それ以上やるとそれが罰ゲームになっちゃうよぉ」
 未だにシンに追加攻撃してるなぁ詩音。さすがに止めておくべきか。
 そんな俺の考えを見透かしたかのように魅音が手を叩いた。
「はいはい終わり終わり。それじゃあ、今宵の罰ゲームは……これだ!」
 魅音が取り出したものを見て絶句。

 ……こいつぁひでえ。
「さあ、こっそり差し足まで初めているシンを捕まえろ!」
「や、やめろ! ただのメイド服スク水ならまだしもそれは! あんたは一体何なんだぁ!」
「さあてシンちゃん、覚悟はいいかなぁー?」
 シンの叫びを一切無視して魅音が詰め寄る。
「諦めるのです。みぃ」
「おーっほっほっほっ。十倍返しさせていただきますわ!」
 即座に足を梨花ちゃんと沙都子が両手でがっちりホールドした。
 沙都子、目がイッてるぞ、怒りL(レベル)5って感じだ。
 次に詩音とレナが腕をホールド。詩音、胸が当たってシンが前かがみだぞ。
「シンちゃん、たっぷり……味わってください……ね?」
「はぅっ!」
「罰ゲームだから、えと、ごめんね?」
 トドメに俺が羽交い締め。許せ。情けは人のためならず、だ。
「いぃやぁぁあん!」

 罰ゲームによりクラスチェンジしたシンの姿を見てまたもや絶句。瓶底メガネにふりふりメイド服、綺麗な白鳥さん。
 白鳥さんはさておきシンは白いしイケメンだ。
 そのせいあってか中途半端にマッチしていて……その、なんだか顔の赤らめ具合がまたいいのだよこれが。
「はうはうー! メイド服姿のシン君かぁいいようー! おん持ち帰りぃぃ!」
 レナが叫ぶのも無理はないぐらいに。
 結局、シンは泣く泣く帰路を歩んでいくのであった。どなどなー。





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最終更新:2008年07月11日 16:04
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