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DESTINY単発-03

 メサイア戦役から数年後。なんだかんだで世界はある程度落ち着きを取り戻し始めていた。
戦後なし崩し的に付き合い始めたシンとルナマリアは今、たまの休暇を地球で過ごしている。

「あー楽しかった。日本がこんなにいいところだっただなんて」
 夕日に映える真紅の髪を、潮風になびかせながら白い砂浜を歩くルナマリア。
二度と失ってはならない、かけがえの無く愛すべきその姿を忘れる事の無いよう目に焼き付けながら共に歩く。

「世界で唯一、空想キャラクターとの結婚が認められた"オタク"の国だとは思えないわ」
「それは……特殊すぎて有名になった、歪んだイメージだって」
 そんな真実を含むささやかな誤解もあったが、正に百聞は一見にしかず。
日本語が話せて資金力もあるシン達にとって、サービスの充実した日本は過ごしやすかった。
 黄砂の吹きつける時期をちゃんと外したので、人口が減って環境再生の行き届いた日本は、
プラントに比べても空気の味がさわやかに感じられる。

 ――これが、この安らかな一時こそが俺の欲しかったものなんだよな。

 砂浜に点々と残る二筋の足跡が、引いては寄せる波に流されて消える。
 並んで歩く二人をフレームに収めれば、"恋人同士"とタイトルがつく絵になるだろう。
 今日の散策を終えた二人の足が向かう先は、少し陸に行った坂の上の伝統ある老舗旅館だ。
旅館から一時は女子寮となり、それからまた旅館という奇抜な経緯に惹かれて部屋を取っている。
当然ながら、布団は一つで枕は二つだ。

 逸る気持ちが歩調にまで表れてしまったのだろうか、ルナマリアが手をささやかに
握ってくるまで、シンは先行してしまった事に気付かなかった。
「シン。もう少し……ゆっくり歩こう?」
「……うん」
 しっかりと握り返してペースを合わせる。
 純白のワンピースに黄昏時の日差しを受ける恋人は、殺人的なまでに美しかった。

 シンがずっと待ち望んでいた。手に入れたいと願っていた。守りたいと誓った。
 優しくて、暖かな世界に二人は居る。

 そこへ、
「ひどい……」
 悲しみを滲ませる響きで二人を呼び止めたのは、十人中十人の男が振り返って追いかけて
ファンクラブに入って親衛隊を結成してしまいそうな、ボブカットの美少女だった。
「へ……?」「はあ……?」
 シンが見た事も無い学校の制服だ。目じりに涙を浮かべた端正な顔つきは一度みたら
忘れる事は無いだろう、詰まり初対面だ。
「あの時、あんなに優しい言葉を掛けてくれたのに嘘だったんですね! 
私との事は遊びだったんですね!」
「シン! アンタまさかこの子と――!」
「し……知らねえよルナマリア!」
「知らない――!」
 冷え切った目のルナマリアに詰問されてしどろもどろになっている内に、涙を散らしながら少女は走り去った。
足が目茶苦茶早かったから呼び止める暇も無い。

 其処へ別の少女がよってきた。黒髪を背中まで伸ばしたスレンダーな、これまた人目を引く美少女だ。
 ――まさか。
 大きな瞳を迷いと照れに満たした少女は二、三秒息を整えて何やら迷って居たが、
シンの予想通り大声を張り上げて、
「"ひどいですゥ! 私との事は、遊びだったのですね!"」
と、追撃をくれた。
 冷静に考えれば状況的にありえない。しかし最初の打撃で大きなダメージを負った二人にはそんな判断力が残されていなかった。
「"知りませんッ!"」
 そうして少女もまた、シンが呼び止める前に陸のほうへと走り去って行く。海に身を投げるわけには
いかないから当たり前だが、先ほどの少女が去った方向と同じだった。
 後に残されたのは、破滅的な雰囲気を帯びた恋人二人。背中に突き刺さるルナマリアの視線が
氷点を遥かに越えて絶対零度に達しているのがひしひしと感じられた。奪われた熱は何処に行った?
決まっている、心が沸点を越える為に使われているのだ。
 アホ毛天を衝くルナマリア――恐すぎて後ろが向けねえ!

 打ち拉がれたシンに、追い討ちが来る。
「えっと……"僕との事は、遊びだったんですね! 知りません!" 御免なさい!」
 男装の少女にも見紛う中世的な顔だちを羞恥に赤く染めた少年が、精一杯の感情を交えて
それだけの台詞を吐くと、足早に去って行った。
「アンタ……男にまで――!」
「誤解だ誤解。確かにレイからはそれとなしに誘われていたけど――!」
「非道いわ――!」
 説明する暇も与えずに現れたのは、二頭身のクリーチャーだった。マジックで適当に
塗りつぶしたような極太の眉毛、ハート型の唇。学ランに纏った小学生以下の身長、
その半分をニキビだらけの不細工面が占めている。
「ヒロミとの事は遊びだったのね! 貴方が、そんなオンナと一緒に歩いているところなんてヒロミ、見たくなかった!」
 不細工な二頭身チビのはずなのにその演技は真に迫っており。全く記憶の無いシンですら
『もしかしたら付き合ってしまったことがあるかもしれない』と思ってしまうほどだ。

「あーー……勘違いさせてすいません。僕達は近くの高校の演劇部です。
先刻のは練習で、この生物は恥ずかしながら演劇部の部長で――あの、聞いてますか?」
 走り去ったはずのショタな少年が近くまで寄ってきて説明しているが――
「はっきり説明しなさいよシン! こんなナマモノにまで手ぇだしてどういう積もりなの!?」
――怒りの大魔神と化したルナマリアをなだめてから言ってくれ。

「酷い! アタシとの事は遊びだったのね!」
「酷いわあ――! ウチとの事は遊びやったン?」
「ひどいですね、私との事は遊びだったというわけですか」
 ぞろぞろ来た。そして"練習"。恋人に襟首を掴まれてブンブンと頭をゆすられながら、
シンは視界の端に一番最初の少女を発見する。
「ちょっと待てよルナ。そこの君、どうか君から彼女に説明してくれえ!」
「あ! 触っちゃ駄目です――!」
 ショタ少年の忠告を無視して、申し訳なさそうな顔をしていた彼女の肩を掴んだ瞬間――

「きゃああああ――!」
 コクピットでミサイルの直撃を受けたような衝撃が襲い掛かり、シンは水平方向に舞った。
どうして殴られた、と疑問する前に海面に叩きつけられる。
 ――二度と、日本になんか来るもんか!
 ごぼごぼと自分の口から溢れる空気が泡になって赤い海面へと昇っていく様を見て、
そう確信しつつシンは意識を手放した。





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最終更新:2008年07月15日 16:33
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