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悠久幻想曲ネタ-12


 紅の翼が、どさりと地に堕ちた。
 その音にシンは慌ててデスティニーへと視線を戻す。直撃こそしなかったものの、炎の壁を破ってきたこともあっ
てかすぐには立ち上がれないようだった。

「よォ、どうだ? サイコーな気分だろ?」
「お前と一緒にするな。しかし認めなければならないようだ」

 卑しい笑みを向けるシャドウを一瞥し、黒いデスティニーはよろよろと立ち上がるデスティニーを睨みつける。

「この耐え難い不快感、抑え切れない衝動……なるほどな、嫌というほどに自分という存在を思い知ってしまう」
「お前の好きにすりゃあいい。『汝の欲することを成せ』、ってな」
「言われなくてもそうさせてもらう」

 両肩から漆黒のフラッシュエッジを引き抜かれた。サーベル状に光の刃が伸び、鋭利な輝きを放つ。

「う……」

 足元をふらつかせながらデスティニーは呆然としながらゆっくりと近づいてくる影を見つめていた。
 シンと同じく、信じられないもの見たというように目を見開いて。
 トン、と軽く地を蹴ると同時に黒い翼が広がり、地面を滑るように飛んだ。刹那の間にデスティニーにを間合い
の内に捉えた二つの刃が光の弧を描く。

「っ!?」

 我に返ったデスティニーがアロンダイトでフラッシュエッジを受け止める。
 本来ならばビームの粒子同士が干渉することはないのだが、この世界でのビームは物理魔法に類似するもの
となったためにこのような現象が起こるのだった。
 突進の勢いは殺されることなく、二体は鍔迫り合いの状態のまま天窓の近くまで昇っていった。

「デス子っ!?」
「アイツを心配してる余裕があんのかァ? テメェだって変わんねェだろうがッ!」

 ハッとシンが視線を戻した瞬間、旋風のような蹴りが飛んできた。上体を反らしてギリギリのところで直撃を免れたシンの前髪が数本散る。

「コイツっ!」
「なァに睨んでやがる。こんなときに余所見してる方が悪いんだろ!?」

 癇に障る笑い声をあげながらシャドウはさらに手数を増していく。上下左右、あらゆる場所から自在に振るわれ
る刃に怖気すら感じつつシンは紙一重という危うい状態で避け続けていた。

「なら、これでっ……!」

 間合いを取るために背後へと飛びながらシンはベルトからダガーを抜き撃つ。瞬時に放たれた刃は動きの止まったシャドウの眉間に向かって突き進み、
 ――空中で止まった。

「ハッ、残念だった……!?」

 左手の二指でダガーを挟み取ったシャドウの言葉が途切れ、頭を仰け反らせた。
 ……シンはダガーを二本持っていた。うち一本をバックステップしつつ投げ、そのまま手首のスナップを利かせ
て二本目を連続して放ったのだ。
 相手の動きが止まった瞬間を狙い、一本目を防いだ直後の油断を突いた連撃。本命である二本目を顔面から
生やしたシャドウはゆっくりと仰向けに倒れていく。

「これでっ!」
「――ひまった(決まった)、ってか?」

 倒れかかったシャドウの上半身がピタリと止まり、弾かれたバネのように跳ね戻った。顔に突き立ったかと思わ
れたダガーは歯の間に挟まれ、プラプラと揺れていた。

「おふぃかった(惜しかった)、なァ!」

 ブッ! と吹き出されたダガーが今度はシンに向かって飛ぶ。首を振って避けたシンに肉薄したシャドウが叩き
つけるように黒刃を振り、掲げられた白刃と火花を散らす。

「なかなかイイ線いってたな。けどまだ足りねェ、もっともっとお前の憎しみをぶつけて来い! もっと! もっとだ!
もっともっともっともっともっとォ!!」
「くっ……!」

 ギリギリと押し付けられる刃に抗いながら、シンは目の前で哂う相手を倒す方法を必死に考え続けていた。

 ――シンとシャドウの頭上、燃え盛る壁から舞い散る火の粉を浴びながら二体のデスティニーたちもまた激戦を繰り広げていた。
 紅と漆黒の翼が交差する度に光が弾け、時折赤や緑の光芒が放たれる。

「……フン、大剣に頼り切った粗雑な攻撃だ。動きに無駄がありすぎる」

 振り下ろされたアロンダイトを最小限の動きで避け、黒いデスティニーはフラッシュエッジでその間隙を切り裂く。
 針の穴を通すような正確な反撃に徐々にではあるがデスティニーの装甲に傷が目立ち始め、生身の部分から
は血のように淡い光が飛び散っていた。
 何合目かの打ち合いの最中、痛みからか顔をしかめながらデスティニーは叫んだ。

「っ、どうしてこんな……貴方はいったい!?」
「説明の必要などないはずだ。お前にも分かることだろう? それとも認めたくないだけか!」

 光の刃を互いに押し合わせたまま膠着状態が続いていたが、表情を変えないまま黒いデスティニーは相手を
蹴り飛ばして右手のフラッシュエッジを投げつける。

「何の話を……」

 ビームのブーメランを避けた先を狙い、黒いデスティニーはビームライフルを連射する。完全に防戦一方となったデスティニーはビームシールドを展開しながら放たれ続ける光の雨をなんとか凌いでいた。

「まだとぼけるか。それとも本当に分からないのか……まぁいい」

 わずかに眉間に歪めながら、黒いデスティニーは高エネルギービーム砲を展開する。

「それでも構わん。私は私の存在を証明するだけだ……貴様を完全に破壊してな!」

 砲口に光が集束し、放たれる。赤く輝く光の束はビームシールドに直撃し、デスティニーはその場に縫い付け
られたように動きを止めた。

「このっ!」

 反撃の糸口を作り出そうと自身もビームライフルに手を伸ばしたデスティニーだったが、突然襲いかかった
背後からの衝撃に空中でバランスを崩した。

「え……?」

 唖然とするデスティニーの視界に飛び込んできたのは回転しながら主の元へと戻っていく光の輪、そして砕け
た自身の羽根の一部だった。

「――散れ」

 再び両手に刃を携えた黒い影が躍り出た。

 ――どうする?
 変幻自在に襲いかかってくる黒刃を避け、受け、弾きながらシンは自問する。
 ――こっちに残った得物はナイフ1、ベルトのダガー2、左の袖に隠してる投げナイフ1……相手は手持ちの
ナイフだけ。だけどまだ魔法を温存してる。
 シンの背中に悪寒が走る。こめかみを掠めていった刃の冷たさではなく、相手がまだ余力を残しながら自分を
翻弄していることに気付いたからだ。
 既にシンの身体はかなりの傷ができていた。対してシャドウは無傷、シンのナイフはその影すらも捉えられずにいた。
 ――こっちの癖まで読まれてる……?
 そこでシンは自身の中で膨らみかけた疑惑を押し殺した。
 過度な思案は動きを鈍らせる。まして今考えても仕方がないことに思考を割くわけにはいかない。
 この場で求めなければならないことは、どう凌ぐか、どう倒すか、どう逃げるか。
 既にシンの頭の中に逃亡の案はなかった。目の前の相手は、どうしても倒さなければならない相手だと本能が
訴えていたからだった。

「ハッ、悩め悩め。考えるのをやめちまったら頭と身体が別れ話始めちまうぞォっ!」

 挑発と共に鋭い中段蹴りが飛んでくる。肘と膝で蹴り脚上下からを挟むように受け止めたシンだったが、衝撃を
殺しきれずに弾き飛ばされてしまう。

「ぐっ……!?」
「まァ、考えたところでどうしようもないもんはどうしようもないけどな」

 口の端を吊り上げながらシャドウはクルクルとナイフを弄ぶ。その態度には変わらぬ余裕があった。

 油断。目的までは分からないものの、シャドウはシンをすぐに殺すつもりはないようだった。強者が弱者を相手
に自らの力を誇示するかのように、じわじわと痛めつけている。
 隙があるとすればそこだ。自らの優位を疑わない心理には必ず死角ができる。
 そして、シンが勝てる要素があるとするならもうひとつ。
 ――あのときの感覚。
 連合の大型MAと戦ったときに掴んだあの感覚。そしてフリーダムを倒したときにも生じたあの感覚。
 周囲に意識が広がり、敵MSの細かい挙動まで感じ取ることができた、あの感覚。
 ――あれが、あれさえ来ればコイツにだって……!
 あくまで仮定の話だ。そもそもMSに乗っていたときにしかその状態になったことがないのだ、生身でも同じよう
になるのかはシン自身にさえ分かっていない。
 だが、そんな不確定なものにも頼らなければならないほどにシャドウは強かった。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 シンは雄叫びを上げて強引に攻め込む。五体すべてを総動員した連撃、さすがのシャドウもこのすべてを避け
ることはできずに身を守ることに徹した。
 一転して攻勢、しかしシンは余裕を実感することなくシャドウが握るナイフの動きに集中する。
 攻めるにしろ守るにしろこの動きを見逃してしまったが最後、すぐに勝負は決まってしまう。シンにとって最悪の形となって。

「ハッ! 盛り上がってきたじゃねェか。だがァ……」

 突き出された白刃と黒刃が交差し、動きを止めた。シャドウのナイフ、奇妙に折れ曲がった中心の内側にシン
のナイフが絡み取られたのだ。

「はしゃぎすぎるとこうなっちまうんだぜっ!」

 ブン! とナイフが振られ、絡まったナイフごとシンの身体が引っ張られてバランスを崩した。

「くっ……!?」

 背中に冷汗が浮かぶのを感じながらもシンはシャドウのナイフから目を離さなかった。不利な体勢とはいえ、
最悪腕一本を犠牲にすればこの窮地は避けることが出来る。
 だからこそ、シンは視線をシャドウのナイフに集中させたのだ。
 だが、
 ――動かない?
 この決定的とも言える隙を前にしてシャドウは動かなかった。
 微動だにしない右腕、まるで動きを悟られないためにじっとしているかのような……
 そこでシンは気付いた。視界の端、唯一動きを見せていたシャドウの左手。
 その中に握られた、小さな刃に。
 ――あれは、俺の……?
 紛れもなく、シンのベルトに差してあったスローイングダガーの一本。おそらくは先程の連投、二本のうち左手
の二指に止められた一本。

「――首、もらったぜ?」

 シャドウの呟きを聞いたシンは反射的に首を守ろうと両腕を交差しようとし、一瞬早く、鮮血が舞った。


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最終更新:2008年07月11日 17:29
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