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悠久幻想曲ネタ-13


 迫り来る二つの光刃を見た瞬間、デスティニーは空中で『故意に』転倒した。
 スラスターを閉じ、翼も畳んだ状態でビームシールドを展開、フラッシュエッジの一閃を受け止め
た反動でデスティニーは後ろに弾き飛ばされ、重力に従って地面へと落下する。

「チッ!」

 黒いデスティニーは舌打ちする。一の太刀を避けた先に二の太刀を叩き込んで止めを刺すつも
りだったのだが、このような避け方をされてはそれも不可能だ。
 しかしこれはデスティニーにとっては最悪一歩手前の状態。すれすれでブレーキをかけたようだ
が、それでも地面に叩きつけられた衝撃で苦しそうに呻いていた。

「……小賢しい真似を」

 不快そうに眉根を歪めながら黒いデスティニーはフラッシュエッジを収め、漆黒の大剣を引き抜く。
 対艦刀という名の示す通り、アロンダイトは対MSの武装とは言い難い。まして対艦刀の中でもと
りわけ大型な、あまりにも大雑把すぎるその刃は凄まじい威力を発揮する反面一撃毎の隙が大きすぎるのだ。
 しかし、その無理を押し通すことが出来てこそ最強のMSの一角と呼ばれる所以である。
 翼を展開し、構えは刺突。最大加速で身動きの取れないデスティニーを貫こうと翼の先端から光が漏れ……

「――?」

 目標の様子が妙なことに気付き、黒いデスティニーは動きを止めた。
 デスティニーは地面に倒れたまま、あらぬ方向を向いて大きく目を見開いていた。
 口は半開きのまま痙攣するように開閉し、小刻みに身体も震えている。
 何を見ているのか、目だけを動かして黒いデスティニーはデスティニーの視線を辿る。

「……そういうことか」

 無感情に呟きながら、黒いデスティニーもシャドウとシンの戦いの決着を悟った。

 小さな刃が皮を裂き、肉を貫く。
 シャドウの宣言に反射的に両腕を首の防御に回したシンだったが、その動きは半秒ほど遅かった。
 スローイングダガーは両腕をくぐり抜け、首筋へと向かい……
 すんでのところで軌道を変え、右肩に突き立てられた。
 刺さった衝撃でシンの身体が後ろに傾いたところで足を払われて転倒する。地面に叩きつけられ
る瞬間にナイフがさらに押し込まれ、切っ先が間接の間に捻じ込まれた。

「ぐっ……!」

 喉から飛び出しそうになった絶叫を噛み殺し、シンは胸中で自分に問いかける。
 ――何故だ?
 あきらかに止めを刺せるタイミングだった。だというのに 刃は強引に標的を首から肩へと移したのだ。
 安堵よりも疑念がシンの中で膨れ上がる。同時に目の前で亀裂のような笑みを浮かべる相手に
底知れぬ『何か』を感じ取っていた。

「……お前、どうして」
「ヒャハハハハハハハ! つまんねェだろうがよ、この程度で終わっちまうのは!」
「こ、のっ……!」

 激痛に耐えながらシンはシャドウの脇腹に蹴りを打ち込む。マウントを取られた状態だったため
威力こそ得られなかったが、シャドウの体勢を崩すだけなら十分だった。浮いた片足の隙間を
強引にこじ開け、地面を転がりながらシャドウから距離を取る。

「ハッ、悪あがきしやがって。どォせその傷じゃナイフなんざマトモに振れないだろ? せいぜい
一回か二回が限界ってとこだなァ」

 血塗れのダガーを脇に放りながらシャドウは余裕たっぷりの笑みを口元に湛えている。
 シャドウに忠告されるまでもない。火箸を突っ込まれたように肩の傷は熱を帯び、その熱がシンの思考に霞をかける。
 ――マズイ、このままじゃ……
 じわじわと迫ってくる死の予感、そして焦り。今までとは違う状況のせいか、フリーダムと戦った
ときの感覚が起こる気配もない。
 右腕に力を込める。そのあまりにも頼りない感覚にシンはゾッとした。

「――どんな気分だ? 誰かに自分の命を握られてるってのは」

 そう、まさに八方塞がりだ。
 逃げ道は炎の壁に遮られ、助けを呼ぼうにもリサたちは壁の向こうでデスティニーも未だ戦っている。
自身の身体ですら利き手を八割方潰され、手持ちの武器もわずか。
 そして今のシンに、この状況を打破することができるほどの冷静さは残っていなかった。
 ――どうする? どうする? どうする!?
 考えれば考えるほど沼に沈んでいくように思考が深みにはまっていく。
 そのせいか、半ば意識が薄れてきた頭で先ほど浮かんだ疑問がシンの中で蘇ってきた。
 ――なんでコイツは、すぐに止めを刺さない……?
 シンにとってはほぼ手詰まりのこの状況、ただ片をつけるだけなら一瞬で終わるはずである。
いや、何度も繰り返してきた攻防の中では明らかにその機会は複数回あった。最初の一撃のときもそうだったのだ。
 狩場に追い込んだ獲物をいたぶるためというシンプルな理由も思い浮かんだのだが、シンには
それだけはありえないという確信が何故かあった。

「ハン、なんだァ? 血を流しすぎて逆に落ち着いてきたか? つまらねェ、つまらねェなオイ」

 大げさな動作でため息を吐き、シャドウは上体を前に倒したまま顔だけをシンへと向ける。

「まだそんな余裕があるなら仕方ねェ……腕一本いっとくか」

 不自然な前傾姿勢からシャドウは再び獣の速さで駆け出した。
 向かう先は当然シン、右手には高々と掲げられた歪なナイフ。
 ――腕……!
 迎え撃とうとシンも動き出すが、感覚が鈍く反応が遅れる。
 狙いはおそらく左腕。だが先程から続いているように言葉で縛りをかけ、意識を背けたところで狩り取ることも十分考えられる。
これ見よがしに掲げられたナイフすら囮であるかもしれない。
 またもシンは思考の迷路に惑う。それこそがシャドウの狙いであるのだが、それを悟ることが出来る精神状態ではなかった

「いただきだ」

 シャドウの口の端が釣り上り、ナイフが時計回りに弧を描きつつ下段からシンを襲った。

 シンとシャドウの決着が時間の問題と見た黒いデスティニーは視線をデスティニーへと戻す。
相も変わらず呆然と窮地に陥った主を見ていることに微かな苛立ちを覚えたが、それを一切表に出さず漆黒のアロンダイトを構え直した。

「向こうも直に決着が付くようだな」

 聞こえているはずなのだがデスティニーに反応はない。声も届かないほどにショックを受けているようだった。
 黒いデスティニーは失望したように息を吐き、まるで興味をなくしたように先程まで発していた気迫を幾分か薄めた。
 呆気ない幕引きだ、と黒いデスティニーは胸中で呟いた。彼女自身は戦いに酔い狂うような性分
ではないのだが、動きもしない無抵抗な相手を破壊することに物足りなさを感じていた。

「……この程度で戦意を失うような半身ならば、早々に斬って捨てるのが最良か」

 背中のスラスターが唸り声を上げ、広がった黒い翼から光の粒子が溢れ出す。

「――終わりだ」

 分厚い壁を叩きつけるような音と同時に黒い影が疾走する。大剣の切っ先が瞬時に音速を超え、
並のMSならば避けられない一撃が半秒に満たない間に目標に到達する。
 衝撃と共に地面が爆ぜた。鮮やかな芝と土が巻き上げられ、土煙が広がる。
 ――だが、黒いデスティニーは失念していた。
 自分の真価を。そして只の木偶と化したと思い込んでいた相手も同じ能力を持っていることを。
 相手が、並のMSではないことを。

「何っ……!?」

 地面に突き立てた刃が獲物を捕らえられなかったことを知った黒いデスティニーは初めて驚愕の
感情を宿した表情で周囲を素早く見渡す。
 いつの間にそこまで移動したのか、地面に手足を投げ出していたはずのデスティニーが空中に
浮かんでいた。顔の向きと表情は変わらず、しかし真紅の翼から煌く光の翼を広げて。

「EBMか!」

 叫びながらも黒いデスティニーは半ばまで埋まったアロンダイトを振り上げ、大地ごとデスティニーを切り裂いた。
 だが不発、両断されたトリコロールカラーの影は蜃気楼のようにかき消えた。
 舌打ちをしながら黒いデスティニーも翼を広げ飛び立つが、そこから光の翼が飛び出す直前に
ミラージュコロイドが作り出した残像を引きずりながらデスティニーが折りたたまれたままのアロンダイトを叩きつけた。

「ぐっ!?」

 かろうじて黒いデスティニーは右腕の実体盾で防ぐ。峰にあたる部分の刃によってアンチ
ビームシールドに一条の傷がつけられた。
 振り抜かれたアロンダイトはその反動で折りたたまれた刀身を展開し、発生器から光の刃を伸ばす。
 構えは大上段、背に付きそうなほどの位置から真正面に振り下ろされた大剣はそれ自体の重量
に遠心力が加わり、瞬間的にではあるがMSサイズであればその名の通り戦艦をも両断しかねないほどの威力まで高まった。
 黒いデスティニーは実体盾をパージし、両手の甲からビームシールドを発生させて頭上で交差させる。
二重のビームシールドに渾身の力を込めて叩きつけられたアロンダイトは阻まれたが、その
強烈な一撃によって生じた衝撃によって今度は黒いデスティニーが地面に墜落した。
 ――不味い!
 地面を一度バウンドするほどの勢いで落下した黒いデスティニーの身体は一時的に機能不全に陥った。
 先程とまるで同じ、しかし立場は逆の状況。となればこの後の流れも自ずと定まるはず……
 だった。

「――なんだと?」

 自身が見た光景を信じられず黒いデスティニーは思わず呟いていた。
 致命的な隙、絶対的な勝機を前にしながら、デスティニーはアロンダイトを放り捨て、シンとシャドウの元へと飛んでいったのだ。
 瞬時に黒いデスティニーは理解する。デスティニーにとって、自身はただの障害物でしかないのだと。

「…………」

 自由の利かない身体にありったけの力を込め、なんとか拳を握る。そうでもして誤魔化さなけれ
ば湧き上がる怒りを抑えられそうになかった。

「まぁ、いい。まだ想定の内だ」

 平静をつとめ抑揚のない声で呟いたが、固く握り締めた拳――爪が食い込んだ手のひらから光の雫が垂れていた。

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最終更新:2008年07月11日 17:38
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