さていつも平和なミネルバであるが、どうも今日はいつもとわけが違う。
艦の人々はなにやら落ち着かない様子、整備班はMSほったらかしでなにやら奇妙な機械をいじっているし、医療班は医務室の天井に色紙のリボンを貼り付けている、廊下には『決戦の日まであと一日!』などと三頭身程度の赤目の少年が言っている絵が書かれた張り紙が張ってある。
今日は八月三十一日、ミネルバMS隊きってのエース、シン・アスカの
誕生日を翌日に控えているのだ。ちなみにたかが一人のためになぜ
ここまで大それたことになっているのかであるが……単に皆が騒ぎたいだけだ。
そんな中医務室の片隅で少女が三人顔をつき合わせていた。
「どうしたもんかしらね……」
「うん……」
「やっぱり、まずいよね……」
上から順にルナマリア、ステラ、メイリンである。周りの微妙な興奮の中でこの三人だけがどうにも暗い、もちろん、
シンの誕生日がいやなわけではない。 ただ、ひとつ大きな問題に直面してしまったのだ。
「シンのほしいものって、なんだろ?」
誕生日といえばやはりプレゼントだろう。そう思ってみたまではよかったのだが、シンの好きなものというのがこれっぽっちも思いつかないのだ。 まだシンと出会って間もないステラはともかく、アカデミーからの付き合いがあるホーク姉妹でさえ、まったくわからないのである。
「前、シンに貝殻渡したら、すごく喜んでくれた」
とはステラの弁である、要は気持ちが大事ということなのだろうが、それでも変なものを渡したら怒るだろうということは想像に難くないわけで。
「想いだけでも、(金の)力だけでもだめだってピンク語録にもあるし、喜んでもらえないとプレゼントとはいえないのよね……」
そんなこんなでもうずっと悩みっぱなし、三人もそろってああでもないこうでもないと当ても無く言い合っていた
「あー!」
と、何の前触れも無くメイリンが大声を上げ、
「そういえば、前シンのほしいものについて聞いた!」
……そういうのはもっと早く言うべきではないだろうか、
ともあれそれさえわかればこちらのものだ、二人がメイリンに期待のまなざしを向ける。
「たしか、シンは皆を守る力がほしいって言ってた」
残り二人、一気に落胆。
「うん、すごくシンらしい、でも……」
「そんなもの、どうやって渡せって言うのよ……」
せめてはっきり目に見えるものならよかったのだが、如何せん力などというあいまいなものだ、プレゼントなんてしようがない、
「…………」
いや、ひとつある、力を目に見える形でプレゼントする方法。
バースデイパーティーという名目の馬鹿騒ぎも最高潮を迎え、ついには主賓のはずのシンのことさえも皆気にとめなくなったころ、彼はこっそりと会場を抜け出した。 朝部屋に届いていた匿名の手紙に書かれていた場所、格納庫へと向かうとそこには、本来ならばここにあるはずのない桃色の姿があった。
「あんた、いったい何しに出てきた?」
シンは一気に警戒の色を強める、この女には幾度となく煮え湯を飲まされてきたのだ、何かたくらんでいると考えるのも当然だろう。
一方のラクスというとシンのそんな姿にも全く動じず、むしろ気味が悪いほどの笑顔を彼に向けている、若くして一勢力の長なだけはあるということか。
「はい……今日はあなたの誕生日を祝いに来ました」
「は?」
予想外だった、先ほどマッドに半ば強引に飲まされた酒のせいで頭がどうにかなったのだろうか、
「お誕生日、おめでとうございます」
いやどうも本気らしい、シンもラクスもおかしくなったわけではない、わざわざ敵地に誕生祝いのためだけに現れるのはまともとは言いがたい気もするが、相手はあのラクス・クラインだ、常識が通じるとは到底思えない。
「それで、プレゼントを持ってきたのですが……少し、あちらを見ていただけますか?」
ラクスが示したほうを見る、するとそこには、
「な……!MSだって!?」
見たことの無いMSが一機置いてあった。
「はい、ちょっとファクトリーにお願いしてあなた専用のガンダムを作ってもらいました」
「いやまてそれはさすがにおかしすぎるだろ!何で誕生日のプレゼントにこんなもの送る!しかも敵のあんたが!」
「お嫌でしたか?」
間違いなく異常なのはラクスのほうであって、シンは正しいことを言っているはずだ。
しかし明らかに潤んだ瞳でみられるとなぜだか悪いことをした気になってしまう、
「私にはこの力しかありません、卑しい、惨めな女だと思われるかも知れません、しかしそれでも、あなたの為になら如何なる事でもして見せよう、そうおもったのです」
「そ、それはいったい、どういう……」
「私は、あなたを一目見たときから、ずっと……」
「まずい……!」
普通なら考えられないことだろうがラクス・クラインならやりかねない、もとい、あのピンクなら多分やる。そして強引にシンを洗脳……いや、納得させ、その上で一線を越えることさえやって見せる、あれはそういう女だ。
「なんとか、それよりもインパクトのあるプレゼントを……!」
決戦の日は、あと一日に迫っていた。
時空のゆがみが発生しました、これより『ルート分岐』が行われます。
最終更新:2008年07月22日 17:38