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DESTINY単発-08

◇HQl8QtWhX氏の作品

 生前私は幸せだったのだろう。
 私のことを可愛がってくれるお父さんとお母さんに、私を小突いてばかりのお兄ちゃん。
 私がくだらない冗談を言ってもお兄ちゃんは笑ってくれた。
 眠れない時には隣に来て抱き締めてくれた。
 傷ついた時には優しくしてくれた。
 私はお兄ちゃんのことが好きだったんだ。
 兄妹としてではなく異性として。

 初恋……と言えるのかもしれない。
 時には愛おしさで胸が熱くなり、もどかしさで枕を濡らしたりした。
 私はお兄ちゃんの気を引くために色々なことをしでかしたものだ。
 お兄ちゃんの大切にしていたCDを壊したり、部屋を散らかしたりたくさんのことをした。
 お兄ちゃんが困った顔をするのを見たい一心だった。
 子ども心という奴だ。
 今考えるとお兄ちゃんに悪いことをしたとは思う。
 一度友達から貰ったという写真を破った時には本気で怒った顔してたっけ。
 あの時は確かずっと泣いていた。

 私は本気で怒る兄を前にして泣くことしか出来なかった。
 そんな私を見かねたのか知らないけど、お兄ちゃんは私のことを抱き締めてくれたんだ。
 ごめん言い過ぎたって私の耳元で呟いた。
 私は結局泣いてばかりで謝ることも出来なかったんだ。
 でも、今なら言えるよ。
 お兄ちゃん、ごめんなさいって。
 私に悔いがあるとすればそれだけ。
 お兄ちゃんに謝ることが出来なかったことだ。
 お兄ちゃんに好きって言葉も伝えたかったけど、良いんだ。
 この思いは私の心の中にしまっておく。
 その方がお兄ちゃんも幸せだもんね。

私はお兄ちゃんのことを見下ろす。
 辺りは静寂している。
 今は深夜二時。草木も眠る丑三つ時だ。
  隣には赤毛の女の子がいる。
 愛し合った二人はシーツにくるまってベッドですやすやと眠っている。
 お兄ちゃんのことはずっと見てきた。
 死んだ私のことをずっと想って携帯を弄る姿は嬉しくもあったが、同時に悲しくもある。
 お兄ちゃんは私が死んだ時からずっと止まったままなんだ。
 どうにかしてあげたかったけど、幽霊の私にはどうすることも出来ない。
 ただ見守ってあげることしか出来なかった。
 そんな無力な自分が凄くもどかしくて、許せなかった。
 そんな時だ。彼女──ステラさんが現れたのは……。

 お兄ちゃんはステラさんのことか好きだったかは定かではない。
 きっと、異性としては見てなかったんだと思う。
 私のことを見ている時の目に凄くそっくりだったから。
 でも……それでもお兄ちゃんの止まった時を動かしてくれた。
 私は感謝しても感謝仕切れない。
 だから、彼女が死んでしまった時は今度こそダメだと思った。
 もう立ち直れないってそう思っていた。
 でも現実は違っていた。今お兄ちゃんの隣で眠っているルナマリアさんがお兄ちゃんを支えてくれた。
 こうして今もお兄ちゃんが笑っていられるのはこのルナマリアさんのおかげだ。
 さっき一つだけ悔いことがあるって言ったけど、実はもう一つある。
 私は二人のことを祝福して、ルナマリアさんにお姉ちゃんって言って抱きつきたかった。
 ルナマリアにも私のことを抱き締めて貰いたい。

 ……これ以上考えるとマユの弱い心じゃ辛くなるだけだ。
 もう一度お兄ちゃん達を見る。
 何だかこう無防備な姿を見ていると悪戯をしたくなってくる。
 どうせだし、私はお兄ちゃんの顔を間近でのぞき込む。
 私の好きな人の顔だ。
 ……うん、別に減るものじゃないし、私自身へプレゼントをしても良いよね。
 ここまでお兄ちゃんを見守ってきたプレゼントだ。

 私はゆっくりと顔を近づけていく。
 夢にまで見たお兄ちゃんとの口づけ……自己満足だとは分かっていても心臓の高鳴りは抑えられなかった。
 有り得ない感覚だった。私に感覚なんてないから何も感じるわけないのに……そのはずなのに私はお兄ちゃんの体温を感じることが出来た。
 唇と唇が触れ合う感覚を感じることが出来たんだ。
「……マ……ユ……」
 お兄ちゃんの声が聞こえた。私は驚いてすぐに物陰に隠れた。
 お兄ちゃんはきょろきょろと辺りを見回す。
 ……私は何をやっているんだ。お兄ちゃんが私に気づくはずないのに……。
 ほら、お兄ちゃんは気のせいだと分かったのかすぐにベッドに横になった。
 私は自分のくだらない考えに嫌気が差し、眠ることにした。

 翌日目を覚ますとそこは修羅場だった。
「だから、マユは妹だって!」
「なら妹相手にキスをする夢を見たっていうの! 最低!」
 お兄ちゃんは私とキスをする夢を見たらしい。
 無意識的に私は唇を押さえていた。
「だからそうじゃないって」
「言い訳は聞かないわ。このシスコン! ロリコン! 変態!」
 そう言ってルナマリアさんは素晴らしい連撃をお兄ちゃんにプレゼントしていた。
 プロボクサーも真っ青だ。
 お兄ちゃんはまけぼののように無様に地面に突っ伏した。
 私はその光景を見て笑わざるにはいられない。
 そして、うれしかった。夢とはいえお兄ちゃんが私とキスしたことを認識してくれたことが嬉しくてたまらなかった。
 今日も良い日が迎えられそうだ。
 ……これからもずっと見守ってるよ、お兄ちゃん。





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最終更新:2008年07月15日 18:18
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