※このお話は本編とは時間軸が異なります。
※いつの間にかシンが学園に通っていることになっていますが気にしないで下さい。
2月14日。バレンタインデー。
それは菓子屋の陰謀と打算渦巻くイベントである。
C.E.出身の俺にとってはあまり良い日に思えないが、この世界では普通に微笑ましさ
と嫉妬の舞い踊る日なのだろう。
そんな日に俺はというと
「……昨日の方が大変だった訳だが」
朝一番の通学路にて、朝倉に愚痴っていたりした。
「アンタの妹の料理下手は最早才能を超えた何かだと思うんだが」
「……否定はしない、つーかできねえ」
昨日は朝倉妹のチョコ製作の手伝いで随分と酷い目に遭った。応援に駆り出された身と
してはたまったものじゃない、主に後片付け的な意味で。
「ああ、そうだ朝倉。鍋が一個減ってるから買い足しとけ――――昨日溶けたんだ」
「音夢は一体何を作り出したというんだ!?」
「お、急がないと遅刻するな」
「待てシン! 俺は一体何を食わされるんだよ!!」
喚く朝倉を無視して俺は学園への足を速めた。
何って言われても正直困る。何故なら、俺もあれが何なのかわからないからだ。
……さて、唐突だが俺は転入生となる。
当然ながら当初下駄箱は用意されていないので、端に追加の形を取っている。
そして現在用意された俺の下駄箱は『あ行』の朝倉のほぼ隣に位置している訳で。
俺は靴を取り出すと同時、下駄箱に入っていた小奇麗にラッピングされた小箱を朝倉の
下駄箱に放り込んだ。
「待てぇえい!!?」
「うわ!? いきなり大声出したら驚くだろ!」
何故か朝倉に怒鳴られた。
「今何をした?」
「いや何って……場所間違えてたみたいだから、正しい場所にシュートイン?」
「お前宛だろどう見ても!」
「――朝倉。お前は一度いかに自分がモテる人種なのか自覚したほうがいい」
「お前が言うか、お前が…………」
何故朝倉は脱力しているのだろう。俺何か変な事言ったか?
「てかやっぱお前宛だコレ。名前書いてある」
朝倉が小箱に挟まっていたカードを開く。確かにそこには『シン・アスカ君へ』の文字
が綴られていた。
「物好きもいるもんだなー」
朝倉からカードを受け取って開く。覗き込んできた朝倉と共に文章を読むと、
『二つの内一つはハズレだからね 芳乃さくら』
「「ハズレって何ィ!? てーかさくらかよ! 家で渡せよ家で!!」」
俺と朝倉の魂のシンクロ。一言一句違わないとはなかなか稀なんじゃないか。
それにしてもさくらのやつ何て無駄な仕込をしてやがる。道理で朝から姿を見ない訳だ。
「……で、どうするんだよシン」
「なあ朝倉甘いもの喰いたくないか喰いたいだろ仕方ないな分けてやるよ」
「キサマ俺に食わせる気か! こっちは音夢印の超物質を摂取する事が確定してる身なん
だぞ!?」
……超物質とわかっていてもちゃんと食うもりなんだな、音夢のチョコ。
相変わらずこういう事では筋の通った奴だ。
「まあそれとこれとは話が別だけどな! 両方ならば当たり外れも関係ない!!」
「落ち着けシン! 箱ごとは生物学的に不可能だ!!」
朝の下駄箱にて、中身が爆弾と判明した小箱を押し付けあう俺と朝倉。
結果はというと――
遅刻して先生に怒られた。
「「コイツが悪いんです」」
「黙れ」
「聞いたか……朝倉が逝ったらしい」
「まあ……アレ、だしなぁ」
「アレ、だもんなぁ。何か憑いてたぞあの超物質」
「恐るべしは朝倉音夢よ……」
昼休み。
散った戦士を悼む声が教室のあちらこちらで上がっている。
――朝倉。お前は挑んだんだな、あの超物質に
気のせいだろうか窓から見上げた青空をバックに朝倉の顔が写った気がした。
『割り切れよ。でないと――死ぬぜ?』
朝倉、それはハイネ隊長の台詞だ。
まあ大丈夫だろう。後遺症が出るかもしれないが死ぬまではいくまい。
「………………どきどき」
昼飯どうするかなぁ。いつもは朝倉か杉並辺りと食うんだが……朝倉はグロッキーだし、イベントデーなせいか杉並は姿が見えないし。
「………………わくわく」
首をぐるんと回して視界から金髪と青いリボンを強制排除する。
――即座に視界に復帰する金髪と青リボン。
もう一度首を回すも結果は同じだった。
「……何故さっきから俺に付きまとってるのか理由を言え」
「うにゃ? 別になんでもないよ?」
眩いばかりの笑顔が逆に怪しい。コイツ、おそらく楽しんでいる。
「別にシン君がハズレ引かないかなーなんて思ってないよ?」
訂正。確実に楽しんでいる。
「今絶対に喰うまいと心に誓ったんだが」
「うにゃー、シン君はボクが頑張って用意したチョコ食べてくれないんだ。酷いなぁ」
ぷうと頬を膨らませて非難の目を俺に向けるさくら。
「あのなぁ……大体ハズレとか付けるからだろうが」
「にゃはは。普通に渡したんじゃインパクトに欠けるかなぁって」
そんなインパクトは誰も求めていない。
「あーもーわかったよ。食えばいいんだろ、食えば」
これ以上面白がられるのもシャクだし、さっさと終らせてしまおう。
何のことは無い。当たりを引けばいいだけの話だ。
それにハズレを引いたとしてもどうせ激辛だとかそんなものだろう。
鞄の奥底に仕舞った小箱を開けると、中には色も形も全く同じな茶色いブロックが二個。
……見た目は完全に同じ。この時点での判別は不可能なようだ。
「ちなみに当たりの方は昨日ボクが失敗したチョコで、」
「ちょっと待て。それが何故当たりなん――」
「ハズレは音夢ちゃんの失敗チョコのリサイクルでーす」
「確かに当たりだ! いやむしろ大当たりだ!!」
ていうか爆弾どころの話じゃないぞこのチョコ! 戦術核級じゃないか!!
「ていうかアレは見た目の時点で普通とはかけ離れていた筈じゃ――ッ!?」
「ハズレの方はボクの持てるスキルを総動員して普通のチョコに偽装してありまーす」
「アンタ悪魔かぁ――!!」
何てことだ……いつの間にか命を左右するほどの重大な選択を強いられている……!!
「くっ……どっちだ! どっちが……!」
二つのチョコを手にとって物凄く間近で凝視する。
朝倉の二の舞だけは避けた――
「……シン」
「へ?」
「お前も地獄を味わええぇぇ――――!!」
「もが――――ッ!?」
凝視する為に顔に近づけていたチョコ二つが口の中にねじ込まれる。視界に入ったのは、
保健室送りになったはずの男――朝倉はやり遂げた顔でぶっ倒れていた。
コイツこのためだけに戻ってきやがったのか!?
――あ、マズイ。意識が
てか、味覚で感じる間も無く意識を刈り取るチョコってどうよ……?
「授業を始めるぞ……ん。アスカはどうした?」
『散りました』
「……はぁ?」
マユ 「マユ先生のデッドエンド道場のコーナー!」
ステラ「…………もむもむ」
マユ 「このコーナーでは選択を誤ったせいでデッドエンドしちゃったお兄ちゃんに
アドバイスを送りつつ死地へと送り返すコーナーでーす!」
ステラ「…………もむもむ」
マユ 「今回の失敗は朝倉さんとの友情度不足だねー。押し付けはよくないよー」
ステラ「…………もむもむ」
マユ 「ステラさん? 何食べてるの?」
ステラ「…………チョコ。スティングがくれた」
マユ 「どうしよう。ツッコミ所が多すぎてマユじゃ対処しきれない」
つ速報
マユ 「おや。どうやらお兄ちゃんが一命を取り留めたようなので、今回はここまで!
またね~」
ステラ「……シン、明日で待ってる」
「ステラアアァァァ――――!! ……はっ!」
目を覚ますと、そこは保健室のベッドの上。
隣のベッドには生ける屍と化した朝倉の姿が。
「アンタが悪いんだ……アンタが無茶するからあ――!」
復讐即実行。
傍に転がっていたマーカーペン(油性)を引っつかみ、キャップを引き抜く。
要らぬ毒物を摂取させられた恨みは、顔面ラクガキにて晴らさせてもらう……!
「――お、お?」
ベッドから降りようとしただけなのに、何故か体がぐらついた。さっきの後遺症かと思
ったが、身体の動作に異常は無い。どうもズボンの裾が足にひっかかっただけのようだ。
「……?」
しかしこのズボンこんなに長かったか? サイズはちょうどよかった筈なんだけど。
――直感があった。
俺はさっき未知の物質を摂取している。実際問題俺の身体に何が起こってもおかしくな
い。ベッドから飛び降りる。ズボンだけでなく袖も長かったりとか、服が全体的にダブ付
いている事から答えはもう出てるようなものだが、ハッキリするまで認めたくないのもま
た事実。
保健室に備え付けられた姿見に辿り着き、自分の姿を写す。
( ゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
_, ._
(;゚ Д゚) …?!
(つд⊂)ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
( д )
(; Д ) !!
――どう見ても身体が縮んでいます。本当にありがとうございました。
「馬鹿なあああぁぁぁ――――ッ!?」
朝倉妹が造り出す謎物質は常識すら捻じ曲げるというのか!?
てか小さいな俺! これは下手したらさくらより小さいんじゃないか!?
「うにゃ。シン君目が覚めた……の?」
「………………」
ひょっこり顔を出したさくらが俺を見て硬直する。
何て言ったものかしばらく逡巡した俺は、
「――ハジメマシテ。シン・アスカノオトウトデス」
俺であることを放棄した。
「うにゃああああああちっちゃい――――!!」
「離せえええええええぇぇぇ――!!」
ダブついてる服のせいで回避が間に合わず、さくらに捕まった。
「うにゃにゃにゃにゃ――!」
やたらハイテンションなさくらに撫で回される。
自分より小さい人間に会ったので嬉しくなったのだろうか。まあ何にせよ捕まってる身としてはたまったもんじゃない。
「HA☆NA☆SE!」
「愛いやつめー、お姉さんが可愛がってあげようー」
「ハッ! その質量でお姉さんは無理が――首のっ……骨がっ……!」
もう一回気絶することろだった。
失言には気をつけよう。
それからはもう大変の一言に尽きる。
まず教師に事情を説明するもなかなか信じてもらえない。まあこれは身近な先生を第三の犠牲者とする事で解決した。それからもクラスの男子から馬鹿にされるわ、女子に愛玩動物扱いされるわetc....
放課後になるまで正直生きた心地がしなかった。
「酷い目に遭った……」
「シン君大人気だったもんねー」
帰り道をさくらに手を引かれながら歩く。
何度嫌だと拒否しても手を繋いでくるのでもう諦めた。さくらは年齢よりはるかに小さ
いが、今日は俺が更に小さい。
他の人にはさぞ普通の姉弟にみえることだろう。
「うにゃ。お兄ちゃんもいいけど、弟ってのもいいかもねー」
「俺はさくらに見下されるのがこんなにも屈辱だとは――砕ける! 手の骨が砕ける!」
うなだれる俺を見るさくらはえらくご満悦だった。
……力関係が完全に逆転してしまっている。
「あ、そうだ。忘れるとこだった――はいバレンタインのチョコ」
「は? 朝のは?」
「あれは……余興?」
首を傾げて呟くさくら。いやこのカオスな状況を作り出した要因をそんな一言で流され
ても困る。
「その余興で俺はえらく酷い目に遭っているわけですが」
「うにゃ。可愛くなったからボク的にはオッケー」
「俺は全然オッケーじゃない……まあいいや。くれるってんなら貰っとく、ありがとな」
「うんうん。素直でよろしい」
「晩飯何にするかなー」
「てかシン君作れるの?」
「気合でどうにかする」
「お姉ちゃんが手伝ったげようか?」
「ハッ。冗談は身長だけに――ねじ切れる! 手首の関節がねじ切れる!!」
かえりみちを歩く時間が長かったのは、俺の歩幅がいつもより小さかったからだろう。
ちなみに、元に戻るまで三日かかった。
最終更新:2008年07月21日 00:22