学園ネタ ◇o77ehnrsws氏時空-02

 『猫っぽい何かs』によるスピリチュアルアタックからようやく立ち直ったシンは変わらず重い足を引きずりながら
学園へと向かっていた。
「まだ時間に余裕はあるな」
「早く出たんだから当たり前だけどな」
 溜息を吐きつつシンはどんよりとした目で坂道の頂上を見上げる。
「――オレはようやく登りはじめたばかりだからな。このはてしなく遠い男坂をよ……」
「打ち切りフラグを立てようとしても無駄だと思うが」
「チッ」
 唾をはき捨てるフリをしつつシンは視線を外す。その先に眼鏡をかけ詰襟を着た男子学生がいた。
「あれ?」
「どうした」
 シンの呟きに反応してレイもその学生に気付いた。俯いているためか
「遠野か」
「だな。でもこんな時間に珍しいな」
 新学期ということで間違いなく普通の登校時間に出ては学校に辿り着くまでに、いや部屋から出た時点で何度
厄介ごとに巻き込まれるか分からない――主に大学部の女性陣から――と考えたシンはいつもより早く起床し、
寮を出たのだった。ちなみにレイにとってはいつも通りの時間らしい。
 対して彼――遠野志貴はそういった事情があるということは聞いたことがなかった。学年は一つ上なのだが『と
ある事情』によって知り合ってからというもの、呼び捨てで語り合うくらいの仲にはなったのであった。
「まぁ聞けば分かるか……おーい志貴!」
 その声でようやく志貴の顔が上がった。
「シン、それにレイか。久しぶり」
「ああ、夏休み以来だな」
 夏休み、という単語を聞いたところで志貴の顔が複雑そうな笑みに変わった。
(……そういえば志貴の身の回りも相当だったっけ)
 伝聞で知っただけでもかなりのものであったことを思い出してシンは志貴に軽く同情していた。
「それにしても志貴がこんなに朝早いのは珍しいな」
「ああ、まぁなんというか。秋葉と琥珀さんがね」
 その名前を聞いただけでシンとレイは「ああ……」とすべてを納得した。
 ――遠野屋敷には魔物が住まう。
 その噂をすでに彼らは身をもって体験していたのだった……


「さて、着いたわけだが……シン、いい加減に諦めろ」
 学園内、途中で志貴と別れ第四校舎、通称『一年校舎』の三階の教室の前で来たレイは数歩離れた場所で二
の足を踏んでいるシンを振り返った。
「……この扉を開けない、って選択肢は表れないんだろうか」
 未練がましく扉を睨みつけるシンに対してレイはやれやれといった様子で嘆息する。
「無理だな、それでは何の解決にもならない。それに……」
「それに?」
「この物語が進まない」
「ぶっちゃけすぎだろそれはっ!!」
 怒鳴ったところでシンは観念したように扉を開けた。
 ……二学期、長い夏を越えて新しく始まる日常を迎えた学び舎は、
「諸君! 君らにとってシン・アスカとは何かッ!?」
 ――殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!
 殺意という言葉すら生易しいほどの感情が渦巻いていた。


「君らにとってシン・アスカとはどんな男かッ!?」
 ――殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!
 教壇の上でヨウラン・ケントとヴィーノ・デュプレが拳を振り上げながら問い掛け、それに対して他の男子が叫び
ながら答えを叫んでいた。
「君らはシン・アスカをどうしたい!?」
 ――殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!
「よろしい、ならば戦争だ! 皆武器を取れ! そして我らが悲願の成就を!」
 ――ウォォォォォォォォォォォォォォォ……!!
 バタン、と扉を閉じる。シンとレイは相変わらず教室の外にいた。
「…………」
 レイは表情をピクリとも変えずにシンに目を向ける。シンは青ざめた表情でその目を見返し、
「――教室を間違えた、っていうか学校間違えたとかはダメ?」
「無理だ。ここ数キロに渡ってここ以外に学校はないしな」
「っていうかありえないだろあれ! なんだよ俺が何かって聞かれて殺せとか日本語明らかにおかしいだろ!?
日本語おかしいって言ってるだろ!? 日本語おかしいって言ってるだろって言ってるだろ!?」
「落ち着け、三度繰り返されても正直困る」
 ぜぇはぁと息を乱しつつもシンはようやく正常な思考能力を取り戻す。
「とりあえず、もう一度確かめてみたらどうだ?」
「……またカルト集団モドキな連中がいたら?」
「その時に考えろ」
 うぅ、と呻きつつもシンはそろそろと扉を開ける。
 そこに広がる光景は、
「あれ? シンとレイじゃん。今日は早いんだなシン」
「一学期は遅刻の常習犯だったってのにどういう風の吹き回しだ? このラッキースケベ」
 いつもと変わらぬ彼らだった。各々が思うままに過ごし、HRが始まるまでの暇な時間を潰している。
「ヨウラン、ヴィーノ」
「なんだぁ? 信じられないものでも見たみたいな顔して」
「いいから早く席に着けよ、ほら」
 シンは肩を叩かれながら席へと導かれる。レイが傍らで呆れたように溜息を吐いていた。
 やがて半ば強引に席――ちなみにシンの席は窓側の最後尾である――に座らされたところで、シンは口を開いた。
「……なぁ」
「ん? どうかしたかシン」
「――なんでみんな右手を後ろに隠してるんだ?」
 その一言で、教室内の温度が一気に低下した。
「……ふ、ふふふ。さすがシンだな、もう気付くとは」
「いやだってバレバレだろうが! 俺とレイ以外みんなそうしてたら誰だって気付くわ!」
 よくよく見渡して見れば今教室の中には男子しかいない、むしろ多すぎるほどだ。おそらくは他のクラスの男子
も何割か混ざっているのだろう。
「お前らいったい何がしたいんだ!? さっきの怪しい軍隊式宗教とかも含めて全部まとめて説明しろ!」
 と叫んだシンの言葉に男子連中の表情がグニャリと歪んだ。
「ほう、そんなに聞きたいのか。そうかそうか」
「何がしたいんだと聞かれたら答えてやるのが世の情けだよな」
「ゴメンやっぱいいや説明っていうかやめてこれ以上何も言わないで」
 懇願するシンの言葉を華麗に受け流し、再びヨウランたちは叫びだした。
「名前があるから幸せか!? 顔があればマシなのか!?」
 ――でもそんなの関係ねぇ! でもそんなの関係ねぇ!

「名前もある、顔もある、だけどそれでも報われない! どっちもない奴はさらに報われない!」
 ――力もない! お金もない! ナイナイばっかでキリがない!
「俺たちだって男だ! この青春の刻を鮮やかに染め上げたい! 主に恋とか愛とかで!」
 そのためには、と一拍置いて……彼らは背後に隠していた得物をシンに突きつけた。
 ――お前が邪魔だ! シン・アスカッ!
「……………………」
 様々な武器――竹刀やら警棒やらスポーツチャンバラの小太刀やら――を突きつけられたままシンはポカンと
口を空けたまま呆然としていた。
 やや間を置いて、シンの口が開かれた。
「えっと、何で俺?」
「とぼけるか貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 稲妻の如き男たちの雄叫びが教室を震わす。
「お前が初等部、中等部、高等部から大学部まで手を出してるのはもう分かってるんだよ!」
「いや、特別学科もだ! 動物からロボットまでとはどんだけ煩悩まみれなんだ!」
「女と会う度会う度フラグを立てまくりやがって……貴様それでも人間か!?」
「しかも胸を触るのがファーストコンタクトが当たり前と来た! テメェの血は何色だッ!?」
 いや赤だけど、という返答をかき消すかのようにさらに声は続く。
「そうして俺たちは団結した! ここにいる連中だけじゃない、全学部から集いに集ってその数いまや827人!
今後も増加の見込みアリ!」
 嘘ぉ!? というシンの叫びはやはり無視されてヨウランとヴィーノが男たちを代表するかのようにシンの前へと
進み出た。
「我らその名も『大嫉妬団』!」
「シンの幸せ許すまじ! そう、嫉妬こそ我らが原・動・力!」
 ビリビリと教室が震える音が響く。あまりの気迫に気圧されたシンは頭を抱えて俯いていた。
「……朝から騒がしい奴らだ」
 通路側の席に座ったレイは我関せずという態度で呟く。シンを助けるつもりは皆無らしい。
「はぁ…………」
 どろりとした溜息を吐いてシンは顔を上げる。
「――で? 大嫉妬団だかなんだか知らないけど、そんなもの突きつけといて冗談で済ますつもりはないよな?」
 冷めた目で周りを囲む男たちを見渡していた。静かな凄みを宿した瞳を見た者はうろたえながら後退さる。
 シンの腕っ節の強さはかなりのものであるということは男子連中の間では有名である。無論それを知っていたか
らこそヨウランたちは数を揃えてきたのだが、それをものともしない態度を取るシンに彼らは畏怖の念を抱いていた。
 ぐるりとシンは視線を巡らす。それに呼応するようにシンを囲んでいた円がわずかに広がっていく。そしてシン
の目が開いた窓を捉えた瞬間、
「自由への逃走っ! 運命からの脱却っ!」
 机の上に飛び乗り窓側の机を次々と飛び移りながら窓へ接近、そこから迷うことなく飛び降りた。
「なっ!?」
 ヴィーノが慌てて窓から身を乗り出して下を覗く。
「くそっ、いない!」
「アイツっ……下だ! 追うぞ!」
 ヨウランの一声を受けて男たちは全員教室を飛び出していった。
「…………」
 教室にはただ一人、レイだけが残されて……
「おはよう! って、あれ? レイ君だけなの?」
「ああ。他は全員狩りに出た」
「はぁ」

 訂正。教室にはレイと、事態を把握できずにいるこのクラスの委員長――朝倉涼子だけが残された。


「……行ったか」
 ヨウランたち大嫉妬団の声が聞こえなくなった後、シンは窓から『真上』を見上げた。
 三階の窓から飛び降りたシンは、そのまま真下の開いた窓から教室へと逃げこんだのだった。今頃は一階から
グラウンドにかけて草の根を分けながら探し回っているのだろう。
「さて」
 今のうちに教室に戻ろうとシンが振り返ったところで、
「おはようございます」
「ふぐぉっ!?」
 目の前に遠野秋葉が仁王立ちしていた。まだ早い時間のせいか、他には黙々と本を読み続ける長門有希とし
かいない。
「随分と妙な登場をするのですね、まさか二階の窓から侵入するとは思いませんでした」
 不審者を見るような目で――実際不審者なのだが――睨みつけられてシンは思わずたじろいだ。
「い、いやですね? こちらにも少々込み入った事情があったりなかったりするのですが」
「窓から他のクラスに入らなければならないほどの事情ですか?」
 ――教室に入ったら、大嫉妬団と名乗る連中に囲まれ(相手は凶器持ち)、窓から飛び出して真下にあったこ
のクラスに命からがら逃げ込んだ……
(信用されるわきゃねー……)
 何一つ嘘などないのに天辺から底まで嘘くさ過ぎる現実に頭を抱えるシンであった。
「まったく、兄さんもこんな人をどうして庇うのやら……どことなく自分と似てるような気がするとか言ってましたが、
少なくとも会う女性すべてに破廉恥な行為を公然と行う人ではないでしょうに」
「ちょっと待った! 何だよその『少なくとも~』以降の部分は!?」
 は? と聞き返す秋葉にシンはまったく同じセリフをもう一度ぶつけると、そのような噂がまことしやかに流れて
いるということが説明された。
 ――曰く、初対面の女性(全学部全学年の生徒から教師まで)には必ず胸を触る。
 ――曰く、危機的状況に陥ると助けてはくれるのだがその見返りに胸を触られる。
 ――曰く、更衣室やシャワー室に誰かが入っているときにはエンカウント率が跳ね上がる……などなど。
 説明を途中で懇願するように打ち切らせ、シンはぐったりとうな垂れる。
 こんな噂は一学期の頃にはなかった。つまりこの夏休みの間に浸透していったと考えられる。今の説明によると
すでに一年女子の間では有名なほどになっているらしい。こんな芸当が可能だとするならば……
「あ、あいつら……そこまでして俺を追い詰めたいのかぁぁぁぁぁぁっ!!」
 今しがた逃げおおせたばかりの怪しい集団に対して咆哮が上がった。すでに彼らの包囲網は目に見えない形
となってシンを捕らえているようだった。
「……つまり、その噂は虚偽で事実無根である、と?」
「当たり前だ! 俺がそんなこと、俺がそんな…………そんなこと、ねーですよ?」
「なぜ疑問形になるんですか」
 今までの数々の出会いを振り返ってその噂があながち的外れなものではないのではないかということに気付いてシンは膝をつき頭を抱えるしかなかった。しばらくそのままの体勢でいると秋葉からナイフの如き鋭利な視線を
突きつけられていることに気付き、
「あ……じゃあボク帰ります」
 今さら体裁を取り繕うようなぎこちない敬語を使いつつ、いそいそと教室から出て行く他なかった。





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最終更新:2008年07月25日 00:08
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