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学園ネタ ◇o77ehnrsws氏時空-03

「言われたことしかできない人間を三流。言われたことを上手にできる人間で、ようやく二流。お前たちはいつに
なったら一流になるんだ?」
 ――キーンコーンカーンコーン……
 まるでその言葉が終わるのを待っていたかのようにチャイムが鳴り響いた。
「む……今日はここまで。みんな、よく考えて行動するように」
 そう言って国籍不明・年齢不詳の黒人教師、アウグストゥスは礼を待たずに出席簿を持って出て行った。
「……またなんつーか飛ばしてたなぁ、あの先生」
「迫力があるだけに口を挟めないしな。しかし相変わらずいい言葉だ」
「あぁ、とても数学の教師のセリフとは思えないよな。昼はどうする?」
 シンとレイはざわつき始めた教室でそんな会話を交わしていた。時刻は正午を少し回ったころ、つまるところ昼
休みである。腹を空かせたハイエナたちが購買部と食堂に群がってくる時間でもある。
「すまない、ギルに呼ばれているんだ。一人で済ませてくれ」
 そういうことなら仕方ないか、とシンは一人教室を後にする。最近では大嫉妬団の影響もあって一人では心休
まる時間を過ごしにくいのだが、それは彼自身の問題なので他の人間を巻き込むわけにはいかない。
「購買でパンでも買って、どこかで食うか」
 階段を降りながら場所を思案する。音楽室に誰かいればいいのだが、誰もいなければ入ることもできない。屋上も悪くはないのだが、もし大嫉妬団の連中がいては昼休みどころか残りの時間すら犠牲になりかねない。大学
まで足を伸ばしてサークル棟という手もあるが、別の意味で食われかねない。
「どうすっかなー……」
 背筋を伸ばしながら廊下を歩くシンだったが、唐突にクイッと服の裾を引っ張られる感覚に足が止まった。
「ん?」
 シンが振り返ると、私服を着た小柄の少女がいた。ツインテールにまとめた鮮やかな銀髪、紫水晶(アメジスト)
色の瞳に白い肌とどこか人形を思わせるような少女だった。尖った耳はこの少女が神界か魔界の出身であること
を証明している。
「…………」
「…………」
 しばらく無言で見つめ合う。廊下の真ん中でそんな姿で固まっているのだから目立って仕方ないのだが、少女
に服を掴まれているので身動きが取れなかった。
「えっと、何? 小等部の子?」
 とりあえず聞いてみるシンだったが、少女の反応はない。まさか本当に人形なんじゃないかという錯覚を覚えた
のだが、そこで初めて少女の目が合った。
「――りん」
 聞き逃しかねないほど小さく呟かれた言葉がシンの耳に届く。
「りん? 名前?」
「……りん、どこ?」
 いや聞かれても、と言ったのだがそれでも少女が服を話す気配はない。
「りん? りん……遠坂凛?」
 パッと頭に浮かんだ名前を口に出すと少女の首が横に振られた。
「え~と、他には……」
 悩むシンの目に少女が抱えているものが飛び込んできた。
 ――猫のぬいぐるみ。大きな三毛猫の尻尾にと小さな黒猫がしがみつくようにぶら下がっている。
「そのぬいぐるみは?」
「……これは、白玉と黒玉」
 ぎゅっと大事そうにぬいぐるみを抱きしめる少女を見て、シンは察した。
 ――寂しがっている。
 早く『りん』を見つけ出さないといけない、という焦りにも似た感情がシンの中に生まれた。
「……どこから来たんだ?」
「楓の家」
 かえで? と聞き返したところで、シンの頭の中で今までの単語がパズルのように組み合わさっていった。
 ――りん、かえで、神族or魔族の少女……
「りん……ひょっとして、土見稟?」
 その名前を口に出した瞬間、少女の瞳がわずかに揺れて首を縦に何度も振っていた。
「ってことは二年校舎か……いや、今は昼休みだしどこにいるのか分からないよな」
 そもそも土見稟のクラスをシンは知らない。自身の周りのことならともかく、隣の校舎の有名人のことまで把握す
るほど彼は周囲に気を配っていなかった。
「んっふっふ。お困りのようニャね、そこのウサミミが似合いそうな少年!」
 いきなり降って沸いた声にシンの肩がビクリと震える。気付けばシンと少女以外の人影が周囲から消えていた。
「な、何だっ!?」
「おぉビビってるビビってる。ベータカロチン取りまくりんぐな目をしているクセに結構なビビリ君なのかね?」
 ――落ち着け、相手の言葉に惑わされるな。
 数度の深呼吸で冷静さを取り戻したシンは高らかに叫んだ。
「隠れてないで出てこい、ネコアルク!」
「ニャーッニャッニャッニャッ! よくぞ見破ったそこなウサ目のツンデレ! 略してウサデレ!」
 いやなんだその適当なネーミングは、というシンの突っ込みを無視しつつさらに声が響く。
「あ~、しかしなんだねチミも爪が甘い、甘いよチョコレートよりと言うかなんというか。きっと縦に斬れば確実に殺
れるのに名有りキャラには真正面から突いてしまって結局殺れない、そんなスウィートさを潜在的に持ってるね」
「ワケわかんないこと言ってないでさっさと出て来い!」
「ふむ、では視線を俯角20度くらいに落としてみ?」
 言われたとおりにシンは視線を下げる。そこには冗談のような二頭身のネコっぽいものの姿があった。
「『灯台もっと暗し』と昔の御人は言ったわけですが、その言葉にニャストフィットした哀れな子ウサギが一匹。とこ
ろで、灯台って何ですか?」
「……もう何もかも忘れて教室に帰りたくなった」
 呻くように呟くと、シンの服の裾が再びクイッと引っ張られた。
「っとそうだ。土見、先輩を探さなきゃな」
「ふむ、そのことニャんだが……ちとアチシと取引しないかいマイブラザ」
 胡散臭さしか感じないそのセリフに眉を潜めながらも情報が何一つないシンは話を聞くことにした。

「……なんか、えらく損した気分だ」
 ネコアルクからの要求は「猫缶をおくれ」というシンプル極まりないものだった。要求というよりはたかりに近かっ
たが。代わりにいつも昼休みに土見稟がいる場所を教えてもらった、というわけである。
「というかなんで購買部に猫缶が置いてあるんだ? しかもあんな高いやつ」
 売れてるのか? という疑問が浮かんだが、もはや銃刀法違反すら容認されているようなこの学園のことだ。ナ
イフや重火器、ストレージデバイス等々に比べれば普通のものである。
 ……比較対象が間違ってるのだろうが。
「で、だ」
 シンは立ち止まった。同時に背後に続く足跡と服にかかる負担もなくなる。
「……そろそろ服を離してほしいんだが」
 振り向くと未だに制服の裾を掴んだ少女がいた。しかし言われていることの意味が分からないのだろうか、頭の
上に?マークでも浮かんでそうな顔をしていた。
「いや、制服伸びるし。あと人目もあるし」
 すでにここは二年校舎校舎であり、当然のことだがシンにとっては周りは他人だらけ――中には大嫉妬団のメ
ンバーもいそうだが――なのだ。これ以上いたずらに注目を浴びたくないシンにとっては『私服の少女に服の裾
を掴まれたまま歩く下級生』というどう考えても目立ってしまうこの状況は御免被るものだった。
 だが、そこまで言われても少女は分からないようだった。

 ――人界に来たばかりでこっちの常識知らないとか?
 おそらくはそんなところだろう。はぁ、と大きく息を吐いてシンは右手を少女に差し出した。
「?」
「とりあえず、これで我慢してくれ。これならはぐれる心配はないだろうし」
 注目は変わらないだろうけどな、というぼやきは胸中で留めておいた。少女はシンの顔と右手を交互に見て、
おそるおそる右手を掴んだ。
「よし、じゃあとっとと屋上に行くか」
 手を引きながら先に進もうとして、
「あ、そういえばまだ言ってなかったっけ。俺はシン・アスカ」
「しん?」
 そう、と頷くと少女は口の中で何度か繰り返し、
「プリムラ」
 と告げた。
「プリムラ、それが名前か?」
 首を振って頷く少女――プリムラに頷き返し、シンは再び歩調を抑えて歩き出す。
「それじゃ行くか。早くしないと昼休み終わっちまうからな」
「行く」
 ……奇異の視線が集まる中、シンとプリムラは握った手を離さないように屋上へと向かった。


 ――放課後、一年校舎は嫉妬の炎が吹き上がっていた。
「シン! テメェはまた! またしてもぉぉぉぉぉぉっ!!」
「その悪行、もはや天が許しても俺たちが許さん! おとなしくここで殺されろっ!!」
 繰り出される凶器攻撃をほうきの柄でなんとか防ぎながらシンは抗議の声を上げる。
「あのなぁ! お前たちが思ってるようなもんじゃないっての! ただ迷ってたから案内しただけだっての!」
『そんな機会すら恵まれない俺たちへの自慢かそれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
「うぉぉ、覚醒した!?」
 さらに激化する猛攻にシンが耐えている頃、レイと朝倉涼子は教室の掃除を完了させていた。
「俺たちの分は終わりだな。シン、俺はもう帰るぞ」
「そんな殺生なっ!? へるぷみーいいんちょ!」
「ゴメン、それ無理」
 ――は、薄情だ。この世はあまりにも薄情すぎるっ!
 と絶望するシンの耳に、ガラガラと扉が開く音が届いた。
「……これはいったい、どぉいぅことかな?」
 ピタリ、と大嫉妬団の動きが止まった。シンの動きも同じく止まった。あまりにも特徴的な声で一瞬にして誰なの
か分かったからだ。
「あ、アウグストゥス先生……」
「掃除もまともにこなすことのできない生徒にはぁ、然るべきペナルティを、与えねばならんよなぁ?」
 ――あれ? おかしいな? 何で俺はこんな目に遭ってるんだろ?
 目の前で金色の光が膨れ上がるのを目にしてシンはいくつもの「何故?」を浮かべた。
 が、
「ぶるぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 そんな現実逃避ごと、金色の光は教室にいたすべてのもの――既にレイと朝倉涼子は帰っていた――を吹き飛ばした。

 これから数日後、プリムラがこの学園に転入してきたことでさらにシンへの風当たりが強くなるのだが、
 それはまた別の物語である。





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最終更新:2008年07月24日 23:58
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