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学園ネタ ワグナリアへようこそ!!-04

<ワグナリアへようこそ!!>

「面白いレストランがあるんだが」
 というレイの言葉を受け、シンたちはとある店の前に立っていた。
 本日は土曜日、正午を少し過ぎて放課となったシンたちは外で昼食を済ますことに決まったのだが、その場所
をどこにするか、砂漠の虎はこの前行ったし、と悩んでいたところでレイがこのレストランのことを切り出したのだった。
 ――ファミリーレストラン・『ワグナリア』。
 小規模ながらも全国展開しているファミレスということは周知のことなのだったが、外から店の中を窺うとそこまで
客の数は多くない。ランチタイム、それも学園の近所でこの客足というのはかなり致命的なのではないか、という
のが口には出さずとも全員が共通して持った印象であった。
「……で、どこが面白いんだ?」
「外から見た感じだとそこまで変わったようには見えないけど」
 シンとことりの言葉を受けたレイは簡潔に
「入れば分かる」
 とだけ言い放って店の入り口に向かって行った。
「入ればって……何なんだよいったい」
「う~ん、怪しい料理が出てくるとか?」
 店の前で二人して悩む姿に呆れたのか、朝倉涼子が口を開く。
「とにかく入ってみたらいいんじゃない?」
 その意見に反対する理由もなかったので、三人はレイの後を追った。


「いらっしゃいませ、何名様です、か……?」
 レイに追いついて店に入ると、どこか怯えたような目でこちらを見るショートカットのウエイトレスがいた。自分た
ちのところに来るまでは普通だったのに、と不審に思いながらもシンは質問に応じる。
「四人です」
「それでは、お、お、お、……」
 そこでウエイトレスは言葉に詰まった。どんどん声が小さくなっていく。
「どうかしたんですか?」
 その様子を怪訝に思いながらシンは近づく。何かぼそぼそと呟いているのが聞こえた。
「?」
 眉根を寄せながらさらに距離を詰めると、はっきりとシンの耳に届いた。
「――お殴りしてもよろしいですか?」
 ……どう反応していいのか分からず、シンはそこで固まった。
 だがその直後、ウエイトレスが首根っこを引っ張られるように後退していき、入れ替わりに眼鏡をかけたウエイター
が目の前に現れた。
「申し訳ございません。お席に案内しますのでこちらへどうぞ」
 その言葉に従ってレイと朝倉はウエイターに続く。ただ一人動きを止めたシンに不思議そうな顔でことりは声を
かけた。
「どうしたの?」
「……あ、ありのまま起こったことを話すぜ。『俺は応対を受けていたのに突然「お殴りしてもよろしいですか?」と
事務的に問いかけられていた』」
 何を言ってるのかわからねーと思うが、と言ったところでレイから早く来いという催促を受けたので仕方なく二人
が待つ席に向かった。
 ……早くも嫌な予感に包まれたシンだった。



<ワグナリアへようこそ 2~むーざんむーざん~>

前回のあらすじ:今からそいつを これからそいつを 殴りにいこうかby店員(17)

「私はAランチにしようかな」
「あ、じゃあ私も」
「俺はCランチにするか。シン、お前は?」
 注意深く件の「お殴りしてもよろしいですか?」と言ったウエイトレスの動向を警戒していたシンはその言葉に異
様なほど動揺した。
「え!? あ、あぁ。俺はBランチ、かな?」
 そのあからさまな様子に、ことりがシンの顔を覗き込んできた。
「大丈夫? さっきも何か言おうとしてたみたいだけど」
「いや……なんでもない」
 心配そうな表情で寄ってきたことりのおかげで平静を取り戻しつつ――別の理由で動悸が跳ね上がっていた
が――シンは呼吸を整える。
 ――そうだよな、いくらなんでも空耳だろ。
 常識で考えればそんなことがあるはずない、と心の中で繰り返し呟く。きっと自分の聞き間違えだったのだと。
「ご注文はお決まりですか?」
 良いタイミングでさっきとは別のウエイトレスがやって来た。
「はい、えっ……と」
 気を取り直して注文を、と思った矢先にシンの目にありえないものが飛び込んできた。
 長い茶髪に糸のように細められた目、温厚なイメージをかもし出す表情は先ほどのウエイトレスよりも印象が良い。
 ……腰に差した、妙に迫力のある刀を見なかったことにすれば。
「Aランチを二つにBランチを一つ、それとCランチを」
 さらさらと注文を記すウエイトレスの腰からチャキチャキと音が聞こえてくる。
「お飲み物は紅茶とコーヒーどちらにしますか?」
「私たちは紅茶で」
「俺はコーヒーを。シン、お前はどうす」
「ここここコーシーでお願いします!」
 レイの言葉が終わる前にシンは自分から叫んでいた。どもりまくりの噛みまくりだったが。
「……? えっと、紅茶二つにコーヒー二つですね。少々お待ちください」
 ウエイトレスが離れ――やはりカチャカチャという音を鳴らしながら――、再び怪訝な視線がシンに集中する。
「…………。悪い、ちょっと顔洗ってくる」
 そそくさと席を立ち、『TOILET』の表記の表記の下に歩いていく。
 ――疲れてるんだよな、多分……
 げっそりと精神的にやつれてシンは脚を引きずるように歩いていく。その途中でウエイトレスと肩がぶつかった。
「あ、すいませ……」
 謝ろうとして、シンは気付いた。そのウエイトレスが最初に会った「お殴りしても(ry」のウエイトレスであることに。
 そして。
「キャーーーーーー!!」
 絶叫とともに放たれた拳がシンの胸に突き刺さり、悲鳴を上げるまもなく意識までもが吹き飛ばされた。



<ワグナリアへようこそ!! 3~またのご来店を~>

 ……シンが目を覚ますと、いつの間にか元の席に戻っていた。
「あ、れ?」
 目をこすりシンは再度周りを確認するが、特に変わった様子はない。三人ともいつの間にか来ていたランチに
手をつけており、他の客も特に変わった様子はない。派手な叫び声と共に客が一人殴り倒されればいくらなんで
も騒ぎになるだろうに。
 ――夢? 白昼夢でも見てたってのか?
 シンの思考が時折霞がかったかのように明滅する。今この瞬間が現実なのか夢なのかも分からないほどに。
「ん? やっと起きたかシン」
 ――隣から声がする。レイのような気がするが確信が持てない。
「シン君? どうしたの?」
「顔色が悪いけど大丈夫?」
 ――声がする。ことりと朝倉の声のように聞こえたが分からない。
 ――鈍い痛みが身体に奥に残留している。不快感が喉下にゆっくりとこみ上げてくる。
「悪い、ちょっと……」
 口元を押さえながらシンは再びトイレへと向かう。危なっかしい足取りで一歩一歩進んで行き、そして……
「キャーーーーーーーーーーーー!!」
 肩がぶつかったウエイトレスに二度目の一撃を貰った。
 ――なるほど、これが繰り返しオチというものか。
 何かを悟った感覚に軽い陶酔感を覚えつつ、シンはすべてが現実だったことを激痛で思い知った。


「すいません、まさかニ発もお見舞いすることになるとは……」
「大丈夫……でもないけどいいですよ別に」
 二度目である程度耐性が付いたのか、すぐに復活したシンは眼鏡をかけたウエイターに平謝りされていた。
 どうやら先の鈍痛は麻痺した感覚が蘇ったことで不意の一発の痛みがじわじわと当たった箇所から広がっていっ
たらしい。その一発の威力は多少小柄とはいえ男のシンが昏倒したほどなのだから推して知るべし、である。
「で、大丈夫なんですかあの人?」
 視線をウエイターの背後に向けると、先ほどシンを殴り倒したウエイトレスがこちらの様子を窺うように角から半
分身体を覗かせていた。目じりに涙まで浮かべていることから察するに怯えているらしい。
 ――おかしい、殴られたのは俺のほうなのに……
 まるで立場が逆なことに根本的な疑問を感じつつシンはマッシュポテトを口に運ぶ。ファミリーレストランの看板
を良い意味でも悪い意味でも裏切らない味だった。
「それにしても小鳥遊君がここでアルバイトしてるなんて知らなかったな」
「ん? あぁ、あまり話してないし」
 その自然なやりとりにシンは思わず口を挟む。
「ことり、知り合いなのか?」
「うん。同じクラスだから」
 シンはウエイターに視線を移した。ことりと同じクラスということはシンのクラスの隣なのだが、その顔に見覚えは
なかった。
「さっきはすいませんでした。はじめまして、小鳥遊宗太です」
「シン・アスカ、よろしく……まぁ俺の不注意もあったからそこまで気にしてないけど」
 軽く握手を交わす。先ほどの二人のウエイトレスと比べると――もちろんウエイトレスの方が異常なのではある
が――常識人のようだった。
「でもことりと知り合いだったなんてな、言ってくれればよかったのに。なぁ朝倉」
「あら? 私は知ってたけど」

 聞けば人となりをことりから聞いていて、さらに委員長の雑務関係で会ったこともあるとのことだった。
「それでバイト先の話も聞いて、ひょっとしてこの店のことだったのかなぁって」
「……つまり、シン以外はこのファミレスのことを知っていたのか」
 隣にシンが目を向けると、レイがどこか憂いを宿した瞳で遠くを見つめていた。
「レイ? ひょっとして落ち込んでるのか?」
「気にするな、俺は気にしない。たとえ期待していた反応が見れなくてもな」
 はぁ、と語尾に溜息を混じらせて肩を落として落胆している。いつも無表情なレイにしては珍しいほどに分かり
やすいリアクションだった。
「で、あの人は? 見たところそんなに年は変わらないみたいだけど」
 シンが目線だけを動かして背後のウエイトレスを見ると角の奥に引っ込んでいった。
「あの人は伊波まひるさんです。男に免疫がないというか、相当苦手らしいんで」
「あぁなるほど……って納得できるか!」
「シン、落ち着け」
 思わず立ち上がるシンの肩をレイが片手で押さえつける。いつもと違い珍しく何の過失もなくとばっちりを受け
殴られ昏倒したシンにしてみればとんでもない話ではあるのだが。
「シン君、小鳥遊君に言ってもしかたないんじゃないかな?」
 苦笑しながらことりが説得に移るが、それでもシンの憤りは収まる様子はなかった。
「そうだ、あの刀はなんなんだ!?」
「あぁ、チーフのことですか……」
 彼女の名前は轟八千代。年は20歳で実家が刃物店だから刀を腰に差しているそうな。
「そっか、刃物店か。だったらしょうがないな……ところで俺はどこで怒ればいいんだ?」
「私にその答えを求められても、それ無理としか言えなんだけど」
 淡々と答える朝倉に肩を落としてシンは席に座り込んだ。
「シン、逆に考えろ。『学園では魔法や各種銃火器、ナイフ等で襲われてるからパンチや刀くらいどうということは
ない』と考えるんだ」
「実際に襲われる方としてはどんなものでも痛いのは痛いし怖いものは怖いんだぞ……? 学園の外くらい俺に
平穏でいさせてくれてもいいじゃないか……」
 血の涙を流しかねないような悲痛な声で呻く。悲惨な様相を見せたシンから三人はうっと口元を抑えながら目
を背けた。
 ……結局、迷惑をかけたということで代金はタダでいいことになった。その点だけでもシンにとっては救いだっ
たのか、ランチをたいらげる頃には元のテンションに戻っていた。
「ありがとうございました」
 店を出る際、小鳥遊が割引券を渡してきた。
「こんな店ですけど、またのご来店をお待ちしてます」
 爽やかな笑みを浮かべる小鳥遊を見て、シンはたまになら来てもいいかもしれないと考えていた。
「いい店だろう?」
「あぁ、来るときはそれなりに覚悟しなきゃなんないけど」
 レイの言葉に苦笑しつつ、シンは出口へと歩き出す。途中で親子とすれ違った時、その声を聞いた。
「かわいいなぁ……」
 後ろを振り向くと、どう見ても五歳かそこらの少女にうっとりとした視線を向ける小鳥遊の姿があった。
「あれさえなければ普通の人っぽいんだけど……」
 ことりが困った顔でフォロー(?)する。
 ――『偶に』ならいいよな。『偶に』なら。
 胸の内で強調しつつ、シンは店を後にした。

 ――本日のの教訓:学園の外でも油断は禁物、現実は非情である byシン・アスカ





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最終更新:2008年07月24日 23:59
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