ヤンデレヒロイン-02

1 八神はやての場合

時刻は、深夜3時ごろか……
誰の記憶に残ることもない足音が、六課の宿泊施設に木霊する。
その音しか発生していないせいであろうが、やけに高く広く響く。

不意に音が止まる。静けさを取り戻す闇の中で、正面のドアをその闇よりもっともっと暗い瞳で見つめる女性がいる。
機動六課部隊長、八神はやて……彼女の名だ。

「ここやね。シン、けっこう気配や音に敏感やし……入ったら起きるやんなぁ」

独り言だ……そのはずだ。

「じゃんっ♪」

はやては懐へ手を伸ばし……スプレーだろうか……細長い缶のようなものを取り出した。
ドア、正確には鍵穴に向けるとためらいなく中身を室内へ吹き入れる。

10分ほど経過しただろうか。女性は、スプレーと合わせて準備していたマスクを装着すると
そっとドアノブをひねり室内の様子を伺う。

大丈夫だ、聞こえるのは寝息だけ……

「まったく……こないな強引な手は使いたなかったけど、素直やないシンが悪いんやで?」

ベットに寝ている少年、シン・アスカに艶やかな声を降らす。
ふと、隣に同質量程度のふくらみがあるのに気づく。

「……へぇ……またなんか……何を勘違いしとるか知らんけど鬱陶しいんよ? あんた……」

はやてには、この物体がなにかわかっているようだ。
無造作に腰にかかったホルスターからやけに黒く光る……銃を取り出す。
同じ色の筒上の物体を先端に装着し……狙いを定めると……

引き金を引いた。

パシュという軽い音と共に、着弾した物体がビクンとはねる。
それと同時に、掛け布団が闇より黒く染まっていく様子を無言で眺めると……
さらに引き金を引く。
パシュ。ビクン。
パシュ。ビクン。
パシュ。ビクン。

…………

……

カチッ 「っ!」

先ほどよりさらに軽い音が響き、それに連なるようにはやては憎々しげな舌打ちをもらす。

「……あ……シンが汚れてもうた……ごめんな、もうちょっと待っててな」

隣の惨劇に気づくことなく安らかに眠るシンの頬に手を添えると愛おしむように撫でる。
撫でる……ナデル。

「さ、行こか……楽しみやなぁ。ね? シン?」

深夜の舞台はここで幕を下ろすことになる。
不意に月光がさす。一瞬赤黒いシミを浮き上がらせ雲にさえぎられた。
後に残ったのは、銃創をいたるところに刻まれた少女……だったモノだけだった。

「って、夢を見たんだが」
「えぇー!さすがにそれはひどいよぉ。それに隊長がそんなことするわけないじゃんっ!
 そんなことよりさぁ、ヴィヴィオと一緒にお昼ご飯食べに行こうよっ!ご飯っ!」
「ったく……お前が食いたいだけだろ。まぁ、いいや。行こうか、ヴィヴィオ?」
「うんっ!!」

いつもの光景だ。そう、夢など、所詮夢でしかない。現実になるはずはないのだ。

「……………………」

         ――それを望むものさえいなければ――

ふと、視線を感じ振り向いたシンの表情を心に刻んでいただきたい。
いつか、それは大切なものになる日がくるかもしれないから……

2 フェイトの場合

フェイトはラッピングされた箱をテーブルに置いた。

誕生日おめでとう、シン」

フェイトは少し大きめのベッドに向かって声をかける。

するとベッドの上で何かが動いた、かつて人の形をしていたモノ
そして今は人の形を失ったシン・アスカがそこに居た。

「どうしたの、シン?もうシンから何かを奪おうとする人達はいないんだよ」

彼は奪われた、家族も、護ろうとした人も、大切な仲間・親友も、信じるべき人も
そして己が今までしていた事も全否定されてた、シンにはもう何も無かった、だから私がシン護ろうと誓った。

だけどシンはそれを拒んだ、いくら傷つこうと何かを守ろうとした
私はそれを見て胸が痛んだ、どうして立ち上がろうとするのだろう、どうして自ら傷つこうとするのだろう?
だから私はシンに“休んでもらう事にした"

フェイトはもがこうとするシンの体を抱いた。

「大丈夫、私が守るから。ずっと・・・・・・ずっと」

3クアットロの場合

シン「う・・ん・・・ここは?」
気が付くと初めて見る、コンクリートがむき出しの部屋にいた。天井には安っぽい電灯が光っている。
頭がクラクラする。
そうだ・・・確か珍しく×××が淹れてくれたコーヒーを飲んだ後、眠くなって・・・。
チャッ
何なんだよ。これは!?
両手に手錠が懸けられている。両手だけじゃない、首にも首輪がしてあり鎖が部屋のすみの鉄骨につながっている。
シン「んぎぃぃぃい!!!」
ガキン!
手錠はとれそうにない、首輪もとれそうにない、鎖も切れそうにない。
ババッ
持ち物も確認するが全てない。ポケットに取り出し忘れていた、昨日の買い物のリストまでなくなっている。
途方にくれる。
カチ カチ カチ・・・
今、何時だろうか?
時計は無いが、なぜか秒針の音が頭の中で聞こえた。昼なのか夜なのかも分からない。
皆は大丈夫なのか?この状況で我ながらのん気だな。・・・・オレはまた独りになるのか・・・・_?
カチャッ
この空間の出入り口である、ドアが開いた。入って来たのは黒い下着のみをまとったクアットロだった。いつもと違い髪は解き、眼鏡もつけていない。
シン「クアットロ!!どいうつもりだ?!?」
クアットロ「あーらシンちゃん、元気そうねぇ?」
いつもの口調で話している。だが、なにか狂気めいたものを感じる。
オレはここで殺されるのか?
自分の心臓の鼓動が大きく聞こえ、冷たい汗が流れる。
クアットロ「シンちゃんって、いっつも他の人を助けたり、守ろうとするわよねぇー?常に色んな人のことで頭がいっぱいなのかしらぁ?」
勝手に話をはじめるな!なんでオレにこんなことをしているのか教えろ!!
クアットロ「だ・か・ら、頭の中を私のことでいっぱいにしてあげる。IS発動『シルバーカーテン』。」
景色が変わった?これは幻?見覚えがあるなんてもんじゃない!!
家族が逃げている。上空では、鋼の巨人達が飛び、光を放ち戦ってる。一家の女の子が携帯電話を落とした。それを拾おうと駆け出す一人の少年。空で青い翼を持った巨人が残った家族に光を放ち・・・・
シン「やめろぉぉぉお!!!」
クアットロ「まだまだ~」
景色が変わる。炎の中、黒い円盤を背負った巨人を青い翼を持った巨人が光の剣で・・・
シン「やめてくれぇぇぇえええ!!!」
また景色が変わる。今度は宇宙に浮かぶ大きな岩が爆ぜる。意味するのは親友の死・・・
シン「はあっはあっ・・・」
倒れていた。涙を流し、瞳はカッと開き焦点を失っている。
クアットロ「どお~?シンちゃん。」
クアットロは歩み寄ってきて、腰をおとした。
バッ
ギュウウウ
シンは壊れた瞳のまま、クアットロの首を両手でつかみを絞めた。
殺す殺す殺す殺す殺す・・・・・
だが、クアットロは恍惚の表情になる。
クアットロ「たとえ・・・愛でなくてもいい。殺意と憎しみでも、あなた・・・を一人占めできるなら・・・」
殺す殺す殺す殺すころ・・す・・
パッ
脳裏に今の家族が映る。瞳は元に戻り、手を離す。
シン「はあっ?!うわああああ!!??」
クアットロ「けほっけほっ・・・どうやら、まだまだみたいね。」

恋獄は始まったばかり・・・





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年09月09日 03:42
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。