自分は何をしているのだろうか。考えない日はなかった。
ヘブンズベースでアスランに敗れ、その折の爆発が元で流れ着いた異世界。
そこで出会った仲間達は暖かくて、何より優しくて。
いつの間にか、自分もこの人たちと共にもう一度がんばろうと、そう思うようになっていた。
魔力がなかろうと、モビルスーツでは魔法使いたちの相手をするのがいかに苦しかろうと。大切な人たちを守るためならば頑張ることが出来た。
だが。
やはり自分はこの世界に来るべきではない来訪者なのではないか。そんな考えは、常に心の片隅に眠っていた。
そしてそれは、ふとした弾みに目を覚ましてしまうのだ。
周囲から鳴り響く無数の物音で、シンは目を覚ました。
気がつけばそこにあるのは無数の計器類、コンソール。パイロットスーツに覆われた自分の体。
そこが見慣れた場所、デスティニーガンダムのコクピットの中だと気付くのに、気を失っていた頭ではしばらくかかった。
「……な、何だよこれ……!?」
状況がつかめない。
物音の原因を判断するべく、周囲の情報を一気に取り込む。同時に愛機の状態も取得するが、酷い有様であった。
M2000GX 高エネルギー長射程ビーム砲、エネルギーバイパス回路中破。使用不能。
MA-BAR73/S 高エネルギービームライフル、照準システムに致命的バグ発生。使用不能。
MX2351 ソリドゥス・フルゴール、エネルギーシステムカットダウン、使用不能。
数え上げればきりがない。現状武装として満足に使用できるのは、背中にしょったアロンダイトと、パルマフィオキーナ(ただし、五回使えればいい方)そしてバルカンぐらいであった。フラッシュエッジ2についてはどこかに行ってしまったのか、反応さえない。
しかしそれ以上に酷いのは、外の状況である。
「これ、は……」
思わず息を飲む。
そこにあったのは、文字通りの戦場であった。
縮尺で言うと10メートルにも満たない小型のマシンが町を壊し、互いに銃を撃ち合い、破壊しあう。
その影では多くの人々が涙を流していることだろう。うずたかく積みあがった死体も、黒コゲになった人の前に呆然としゃがみこむ子供の姿も見える。
本来ならば見えないはずのそれを、皮肉なことにデスティニーの高性能なカメラアイは全て鮮明に捉えていた。
「うわああああああああああっ!」
絶叫する。心の奥に眠っていた、赤黒い何かが燃え上がる。
思わず、シンはデスティニーを動かした。
背中のヴォワチュール・リュミエールを全開にし、一番近くにいた機械人形の胴をアロンダイトで叩き潰すように切り裂く。
焦ったのはそれまで戦闘をしていた双方の軍である。いきなり巨大な人影が突っ込んできたかと思えば、どちらに対しても一切容赦なく攻撃を加えるのだ。
おまけにその攻撃力と機動力たるやすさまじく、次々に仲間も敵も数を減らしてゆく。
巨人のような存在からは、怒号とも悲鳴とも付かぬ声が響き渡っていた。理屈の分からないその声が、なおさらに兵士達の恐怖をあおる。
「そんなに戦争がしたいのか、あんた達はっ!!」
声と共に、巨大な剣が敵の本陣を叩き潰す。
「俺がなぎ払ってやる、全てっ!」
返す刀は、今度は自分たちの指揮官をヒキガエルのように粉砕した。
敵でも味方でもない圧倒的な戦闘力を前に、もはやなすすべがない。撤退しようにも、あちらの常識を逸脱した機動力が逃走さえも許さない。
程なくして、その場に立っているのはシンの乗るデスティニーガンダムのみとなっていた。後は逃げたかくず鉄の群れとなったか。戦闘を終わらせたと言うのに、シンの心は晴れない。
「戦って、戦って……。いつになったら平和が来るんだよ……」
コクピットの中で、僅かに震えるような声が、上がった。
新たな敵影が見えたのは、そんな時である。どうやら三人組らしい。だが、ろくな整備もせずに暴れまわったデスティニーガンダムの関節は、シンの反応に追いつくのに僅かなタイムラグを必要とした。
そして、それが文字通りに勝敗を分けたのである。
三体のうち一体、白い機体がいきなり自分のクロスレンジに接近していたのだ。先ほどの連中と比べて、あまりにも速い。
「しまっ……!」
反応してはいたシンが、バルカンで迎撃しようとしたその時。
壮絶な衝撃がデスティニーガンダム内部を襲い、何が起こったのかわからぬまま、機体が言うことを聞かなくなってゆく。内部の電子系をやられたか、それともエンジンか。有爆の危険性を恐れてかろうじて膝をつき、コックピットハッチをあけたシンの目の前に、銃口を向ける人影がある。
「動くな。両手を上げてゆっくりと出て来い」
いやに若い声で告げる兵士に、シンは従うほかなかった。外に出れば、パイロットスーツの中から汗が噴出しそうなほどに熱い。
「いくつか質問に答えてもらう。お前はここにいた連中をどうした?」
「倒したよ」
こともなげに言うシンの答えが意外だったのか、目の前の兵士は僅かに動揺したようだった。
一度だけ首をかしげてから、続ける。
「では、お前はここの扮装には直接的に関係していなかったんだな?」
「そうだよ。連中が暴れてたから吹き飛ばしはしたけど。戦ってる理由も目的も知らない」
ヘルメットをとっていいかと続けて問いかけたシンに、兵士は一度うなずいてから銃を降ろした。そのままメットに手をかけたところを見ると、向こうもヘルメットが息苦しく感じたらしい。
「抵抗しなければ、悪いようにはしない。お前の機動兵器は回収させてもらうが、見たところもう動かないだろう。さほど問題はあるまい」
「ああ。ところで、ここはどこであんたは誰なんだ」
ヘルメットを取りながら問いかけるシンに、同じようにメットを取った兵士がまっすぐな目を向ける。自分と同じくらいの年齢だろう。だから、と言うわけではなかったが。
シンはこの男を、信じてみることにした。
「俺の名前は相良宗介。どこの国にも所属しない、極秘の傭兵機関ミスリルから派遣された」
その頃……。
「何やて!? シンが消えた!?」
食堂のテーブルを思い切り叩きながら、八神はやてが悲鳴のような声を上げる。
「わ、私も報告でしか聞いてないんですけど……」
「レジアス中将が、シンのいた倉庫街で爆発があったって……」
有無を言わさぬ圧力を持ったはやての視線に耐えかねてか。ややびびりながら声を上げるティアナとスバル。
「確かに、救助班が大量に向かってるって報告はあるけど……」
ニュースなどの情報端末を恐るべき速さで弄り回しながら、情報を検索し続けるなのは。普段はやらないようなことを、平気でやるあたり恐ろしい。
「でも、デスティニーで出て行ったんですよね? そう簡単に消えるなんてこと……」
もっともな意見を述べるエリオ。彼もまた、心配そうな顔で横からなのはの検索するニュースを覗き込んでいる。
「多分、次元跳躍や」
「そうだね。もともとの世界からこっちにも来たんだし。また跳躍するってのはありえると思う」
しばし考えた後のはやての言葉に、何事もなかったかのように便乗するフェイト。
シンは、元いた世界に帰ったのだろうか。それとも……。どこか不安げな空気が周囲を包む。
「やっぱ、探そう。シンは仲間やもん」
そんな空気を砕いたのは、はやての一言だった。
「向こうで幸せに暮らしてるんやったらそれでええ。でも、もしもそうでなかったら」
「迎えに行ってあげなくちゃ、だね」
はやての言葉をなのはが次いで。周囲の空気がにわかに盛り上がってゆく。
「主の決定ならば、私に依存はない」
「さっさと探し出そうぜ! あいつも、機動六課の仲間なんだからな!」
先ほどまで黙って食事を取っていたシグナムとヴィータも、それに同意する。
「あれ、フェイトちゃんは?」
そんな中、一通りニュースの検索が終わったなのはは、いつの間にか食堂から消えていた自分の親友の姿を探していた。
「もしもし、母さん? あの、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
GUNDAM SEED DESTINY ―Double Cross―
プロローグ 了
第一話「新たなる戦場で」に続く。
最終更新:2008年09月10日 08:55