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GUNDAM  SEED  DESTINY ―Double Cross― ◆l.5pQ38hy6-04

『ウルズ2より各機へ。目標部隊を確認した。これより作戦フェイズに移行する』
 M9から聞こえてくる通信に、ゆっくりと息を吸い込んで計器類をチェックする。
 今まで培ってきた操縦技術なら大丈夫。そう、心を落ち着かせる。
『ウルズ6、了解』
『ウルズ7、了解』
 仲間達の声も聞こえてくる。だから自分も、大きく声を上げた。
「レッドアイ、了解」
 ミスリルに正式配備されているAS、M9のコクピットの中で、シンは静かに通信を返した。
 赤目(レッドアイ)、それが、今の彼のコールサインだ。
『ウルズ6よりレッドアイへ。そんなに硬くなりなさんなって』
『ウルズ2よりレッドアイへ。今回はあたし達のバックアップだから、そこまで気を張らなくても大丈夫よ』
 クルツとマオの声が聞こえてくる。了解、と声を返そうとして一度息を吸い込んだとき、それはやってきた。
『ウルズ7より各機へ。そうも言ってられないらしい。こちらに別働隊が接近中だ』
 一瞬、一同に緊張が走る。確かにレーダーに反応があり、ASが数機こっちに近づいているのが見えた。
「レッドアイより各機へ。別働隊の陽動はこちらでやる。作戦の遂行を!」
 宣言と同時、迫ってくる敵に向かって機体を回頭させるシン。
 止める間も在ればこそ、そのままスロットルを一気に開けば、灰色の機体は一条の矢となる。
『ウルズ2よりレッドアイへ。……命令違反じゃないけど、言いたいことはあるから生き延びなさい。
 いいわね!?』
「了解」
 半ばヤケ気味に聞こえるマオの声に、言葉を返す。彼女も知っている。シンの取った手以外に方法がないことを。
 そもそも、ウルズ・チームの三人でどうにかするべき任務に、研修をかねて任務に行くことになったシンが滑り込んだのだ。
 そのための配置なのだから、これぐらいはしなければ申し訳が立たない。
『ウルズ7よりレッドアイへ。目標はサベージタイプが四機。時間を稼ぐだけで良い、無理はするな』
「レッドアイよりウルズ7へ。了解、やれるだけやってくる」
 宗助との通信を最後に、シンは一度目を閉じ深呼吸。思考を切り替える。
 目を開いたその時、彼の両目に焦点はなく、茫洋とした眼が在るばかり。
「いくぞ……!」
 通信マイクは、彼の小さな呟きを捉えてはいなかった。
 まるで、人形のような声を。


GUNDAM  SEED  DESTINY ―Double Cross―
第二話「ふたつの運命」


「……で。君は何故ここに呼び出されているかわかっているかね、アスカ特務伍長」
 任務が終わり、どうにか回収されてメリダ島に戻ってきたシンを待っていたのは、低くて重い声であった。。
 アンドレイ=セルゲイビッチ=カリーニン。階級は少佐。
 ASの運用などを一手につかさどるエキスパートであり、ミスリル内部ではシンの上司の一人である。
「だいたい予想はついています、少佐。任務違反の件ですよね?」
 その言葉に、シンもさすがにちょっとばつの悪そうな顔をしながら下を向くほかなかった。
 ちょっと考えてみれば、自分が思いっきり任務違反を犯していることぐらいは容易に想像がつく。
「少し違う。あれが任務違反だとは言い難い。グレーゾーンであるのは事実だが、君の仕事は突撃するAS部隊のバックアップだ。
 別働隊の相手をすることは任務の範囲内であり、問題はない」
 そこまで言って、カリーニンは眉をひそめた。その手に報告書が乗っていると言う事実を改めて確認する。
「問題は、君の乗る機体の消耗率だ」
 そういってから、ゆっくりと息を吐き出す。
 現状、シンはミスリルでデスティニーガンダムの修理を行ってもらう代わりに、ASのテストパイロットとして日々を過ごしている。
ガンダムの修理が終わり次第、通称ベヘモス(と、MSクラスの大型機を呼称するらしい。実物は見たことがない)を相手と仮定した戦闘訓練の予定もある。
 しかし、問題はASに乗ったシンの活用方法であった。
「……高いですか?」
「高い、などというものではない。君が今までに消耗させた部品で、すでにAS一機は作れるな」
 恐る恐る出したシンの質問に、眉間にしわを寄せながら答えるカリーニン。難しい顔をしているのは常だが、ここまでありありと『困った』と言える気配を出されると反応に窮する。
「出した戦果を考えれば、確かに妥当だ。君が提出したデータはどれも既存の機体の限界を上回り、
 実戦任務では単騎でサベージ四機、ミストラル2二機からなる混成部隊を撃破して見せた。
 だが、そろそろ整備班の方から上がってくる悲鳴に対応しなくてはならなくなってきている」
 カリーニンは言いながら、ため息をついた。それだけで、彼の苦悩がありありと伝わってくる。
 実力は問題ない。むしろ折り紙付きといっても良いぐらいだ。このあたりは、流石に元ZAFTのエースである。
 しかし、それゆえに機体が追従しきれないと言う致命的な状況が問題として浮上したのである。
 もともと、シンの反射神経その他はコーディネーターとしての天分と、培われた努力によって磨かれた技術とを両立する、兵士として理想系に限りなく近い能力を持っている。
しかし、兵士と言うハードウェアが強化されても、それを扱うソフトが追随できなければおのずと限界は出てきてしまうものなのだ。
 限界を探り、その領域に限りなく近づいたせいで故障箇所が通常の三割増しで増える一方、確かに機体のスペックデータやモーションデータ、並びに戦果として多大な貢献をしてもいる。
 指揮官としては、どちらを立てても角が出る。カリーニンの眉間に皺が寄るのも、まあ仕方ない事情ではあった。
「そういうわけで、数日中に君には新しい任務が出るとは思う。それまでは、習熟のためにシミュレーターでの訓練をしておいてくれ。
 それから、大佐が呼んでいたぞ。OSのことについて話し合いたいそうだ」
「了解しました」
 カリーニンの立てた判断に胸をなでおろしつつ、シンはその場を辞した。後には、資料を見つめるカリーニンの姿があるばかり。
「……この能力あってこそ、か……。『パッチワーク』の無茶な性能は」
 資料を見据え、重いため息を吐き出した後。どことも知れぬ虚空を眺めながら呟くカリーニン。
 その表情には、重い困惑がありありと乗っていた。


「アスカさんのASの消耗率についての報告は聞いています。
ですから、今回は少し違うアプローチをしようと思っているんです」
 テッサに案内されたのは、格納庫であった。
無数のASたちが整備されている中、一体だけ巨大なスペースをとられた、鋼の巨体が居座っている。
 外部損傷こそほとんどないが、内側をかなり激しく破壊されたその機体。
 名前を、デスティニーガンダムと言う。
「違うアプローチっていうのはわかりましたけど、それとデスティニーとどう関係が?」
 シンがたずねると、タラップの長い階段を苦心惨憺しながら上るテッサが、ゆっくりとこちらを振り返る。
「アスカさんが使ったASの破損状況をチェックしてみたんですけど、
 原因の一つにOSの追従性が低いことが分かったんです。信じられないことなんですが」
 言いながら、ちょっと興奮気味に話し始めるテッサ。技術畑の人間らしく、こういうことになるとものすごい勢いで饒舌になる。
「ですから、もともとアスカさんが使っていたデスティニーガンダムのOSから必要な情報を抜き出して、
 それをASのシステムにフィードバックすれば、損傷度を押さえられるんじゃないかって思いまして。
 でも、これはアスカさんの持ち物ですから、勝手にいじるわけにも行きませんし。だから、カリーニンさんに呼んでいただいたんですけど」
 ご迷惑でしたか、とばかりにちょっと見上げてくるテッサ。身長差があって相手のほうが少し小さいせいか、こういう形でしか話しにくいのは仕方ないことだとは思う。同時に、視線の出所そのほかにちょっと恥ずかしくなったりもした。
 少なくとも、今まで会った人間はほとんどシンのことを名前で呼び、アスカと苗字呼びする人が少なく新鮮だと言うのもあるんだろうと、そう思うことにした。
 でないと後が怖い、色々な意味で。
「そういうことですか。だったら、協力しますよ。俺が命を預ける機体の事だし、できることはします」
 シンはそう答えながら、コクピットに到着するとハッチを素早く開けてOSのデータロードのために準備を始める。
 機械技術の差がどうなのかは分からないのだが、彼女がやってみると言うのだからやらせてみよう、とシンは考えていた。
「えっと、少し見せてください」
 テッサはそう言いながら身を乗り出し、画面を見つつキーボードを走らせる。目的のデータなどを素早く開き、コピーしてゆくその様は長く触れているシンでさえ目を見張るものがあった。
「……すごい」
「そんなことはないですよ。
 基本人型ですし、動作のルーチンその他はASとそこまで変わるわけではないです。
 フィードバックには苦労するでしょうけど……」
 言いながら、残像が見えそうなほどの手つきでキーボードをいじるテッサ。しみじみとその様子を見ていたシンだったが、やがて小さくため息をついた。
「……どうしたんですか?」
 不意に聞こえた音に、テッサがキーを打つのをやめてこちらを見てくる。シンはそれに対し、手を小さく振ってから。
「いや、その……。どこもかしこも戦争をやってるのを見ると、平和って言葉が薄っぺらく感じられて」
 それは、偽らざるシンの本音であった。機動六課も、ZAFTも、ここミスリルでも戦争が起こり、自分はそこで人を直接、間接的に殺し、またその手伝いをして生きているのだ。なんとさもしい事だろう、と小さな嘆きが飛び出すのも、少年のメンタリティ的では無理もないと言える。
 不意に、シンの髪に小さな手が乗った。
「……アスカさんは、やさしい人なんですね」
「優しい? 俺がですか?」
 予想外の言葉に聞き返すシンの頭を、テッサの小さな手が撫でてゆく。片手でもそこまで速度が落ちておらず、OSの方からは順当に必要なデータが照合されてゆく。
「兵士になる人っていうのは、色々なタイプの人がいます。お金だったり、主張だったり……。
 でも、そんな中でも他の人を、世界を思いやれるのはすごいことだって、私は思うんです。
 戦場では、そんなことが出来なくなるぐらいに殺意が渦巻いていますから」
 頭を撫でながらの、テッサの言葉は続く。
「平和な世界って、本当はどこにもないのかも知れない。でも、いつか来ると信じて、少しでもそうなるように私は闘っています。
 だから、その……。よければなんですけど。そんな風に考えたら少しは、楽になると思いますから……」
 言っている間、テッサはこちらの方を見ようともしない。何かあるのか、と思いながらも作業中だし、頭に手を置かれているのでのぞきこむことも出来ない。
 しかし、その言葉がまっすぐに自分を思ってくれていることは、理解できた。それぐらいの余裕は、今のシンにだってある。
(ZAFTで闘ってる頃には、こんなこと言われてもどうにもならなかったんだろうな……)
 そんなことを思いながら、進捗率を見ようとすこしだけ体を動かすと。
「きゃっ……」
 バランスを崩したテッサが、コンピューター画面に向かってまっすぐ倒れこんでゆき。
「あぶなっ……!?」
 それを察したシンが、思い切り体を前に出して止めようとした結果、二人の顔は急速に近づいていって――――。


 同時刻、次元航行艦アースラにて。
 小さなブラウン管の中では、シンとアッシュブロンドの少女が画面外に消えてゆく様が映し出されていた。
「……で、これのことなんだけど」
 額に青筋を一つ浮かべながら、ティアナがその画面を食い入るように見据えている。
「シン、人が見てないと思ってこんなことをしているなんてね……。少し頭を冷やさなきゃ」
 手にしていたコップの中のコーヒーを波打たせながら、どうにか怒りをこらえるなのは。
「そうだね。反省してもらわないとだよね」
 パンにバターを塗っていたナイフをくの字に捻じ曲げながら、フェイトも同意する。三人の背中には、恐ろしいほどの漆黒のオーラがあふれていた。
「で、でででも。シンさん僕達がこっちに向かってるってこと知らないんじゃ……」
 流石にいたたまれない空気になっていたのを見るや、どうにか事態を収拾しようと言葉を投げるエリオ。
「そ、そうですよ。ひょっとしたらもう戻れないって思ってるのかも……」
 流石にこの状況が怖すぎるのか、同意したように声を上げるキャロ。二人とも隠してはいるが、両足が震えていたりする。
 その言葉を聞いた瞬間。三人の動きがぴたりと止まった。空気ごと固まったかと錯覚するような沈黙の中、大きく息を吐き出す。
「でも、よく見てみたらシン、さびしそうな目をしてません?」
「そうだね、さびしそうだね」
「私たちに会えない上に、どこともわからない世界に放り投げられちゃったんだし、当然なの」
 どうやら何か、彼女達の間で奇怪な化学反応が起こったらしい。とりあえず柔らかくなった空気に、安堵の息を吐くエリオとキャロ。
(雨の降る街角で膝を抱えてるシンに、そっと傘を差し出して「帰ろう」とか……)
(人気のない公園で寒さに震えるシンに、あったかいコーヒーををさしだしながら……)
(雑踏でふらついてるシンの肩を、そっと支えて「大丈夫?」って……)
 なのは、ティアナ、フェイトはそれぞれ孤独なシンを自分が助ける妄想に浸りながら、しばし視線を中空に彷徨わせる。その隙にエリオはモニターのスイッチを切り、キャロはエリオとあわせて二人分の食器を違うテーブルに運んだ。
「お帰りー。流石に、あそこで食べるのは無茶だったと思うな」
 一人退避していたスバルに、疲れたような顔をしてうなずくエリオとキャロ。出発してからずっとこの調子で、シン救助部隊(仮)の面々は、日々どうしようもないほどの綱渡りを余儀なくされている。
 失敗すれば精神がすり減り、最悪の場合訓練と言う名目のストレスのはけ口にされる運命が見え隠れしていた。
「でも、早く見つかるといいね、シン」
「はい……」
 ニコニコ笑いつつ、肩をばしばし叩くスバルに、疲れきった表情でうなずくエリオであった。




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最終更新:2008年09月10日 09:18
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