GUNDAM SEED DESTINY ―Double Cross―
第二話「ふたつの運命」(後編)
「日本に、ですか」
「そうだ。これから君には、サガラ軍曹のバックアップについてもらう」
数日後、再びカリーニンに呼び出されたシンは、新しい任務とやらを受け取ることになった。
「サガラ軍曹は現在、ある人物の護衛任務についている。だが、向こうでの安全がある程度確保され、
人員削減の意味も含めあちらに裂く兵員を減少したのだ。だが、護衛対象の重要性は変わらない」
カリーニンはそこまで言って、一度咳払いをした。
「そこで君の出番だ。AS、白兵戦共に高水準の能力。加えてウルズチームとの連携も可能。
さらに言うならば、君の給料を考えてもチーム派遣よりよほどリーズナブルだ。どこにも穴がない」
何ともドライな言いぶりではある。
ちなみに、シンの給料は実践をこなしていないのと、大半がデスティニーや自分が半壊させたASの修繕費用などの回される減棒処分のようなもののため、能力に反してかなり安い。具体的に言うと宗介の半分ぐらいだ。だが、これは遠まわしに自分を思ってくれている彼なりの表現なのだろう、とシンは思った。
兵士としての理想系、その腕と頭脳は一切の容赦も躊躇もなく、その人物の全てを見抜き、そして使い切る。
僅かな期間ではあるが、それがカリーニンと向き合ったシンの偽らざる感想である。
「ところで、日本って場所の位置も何も俺には分からないんですけど」
「問題ない、輸送機を用意してある。飛行場でサガラ軍曹と合流したまえ」
地理的問題もパス。もう断る理由なんてこれっぽっちもない。
そもそも仕事を選べる側の人間じゃないし、と言う内心の呟きを飲み込み。シンはカリーニンに敬礼を送る。
「了解しました。準備が整い次第、任務に入ります」
「うむ、しっかりやれ。ところで、景気付けに私の料理でも食べていかないかね?」
手続きとも言える仕事口調を少し改め、カリーニンはシンにそう切り出した。
それが、二時間ほど前の話。
「……何だったんだ、あれは……」
そして、現在。シンは輸送機でメリダ島を離れ、日本に向かって飛んでいる。
カリーニンが振舞ってくれた料理はボルシチと言うらしいが、少なくともまっとうな物には思えなかった。
色合いはビーフシチューに似ていたし、まあ大丈夫だと思っていたのだが。あの妙にケミカルな味わいは何だったのだろう……?
「まあ、戦場は人を狂わせるって言うし」
自分のことを完全に棚に上げ、輸送機の窓から僅かに見える空を見るシン。どんな世界でも、地上から見る空の色は変わらないと思う。
違うのは人だけだ。こんな風に輸送機がなければ空を飛べない世界もあれば、自由自在に空をすいすい飛び回る人もいる(まあ、飛行魔法は結構難しいらしいのだが、シンはその事実を知らない)
まもなく到着です、と言うパイロットの言葉に従い、座席に座りなおそうとしたシンの目に、あるものが映った。
暗緑色の、鳥のようなフォルム。頭の上でなにやら高速回転する、剣呑な武装を装備したもの……。
「戦闘ヘリ!?」
その事実に気がついたときには、それからミサイルが放たれた後であった。
極秘飛行場の施設内で、宗介は輸送機の到着を待っていた。
シン一人を運ぶのに小型ジェットを使わなかったのは、自分達に対する補給物資を積んでいるからだ、との説明も受けてはいたのだが。いつもとは違うその輸送方法に心配も僅か生まれる。
軍人とは、徹底したリアリストである。それが通用している間は方法を変えるべきではなく、それ故に無駄と妥協を排除する。そもそも、輸送機が必要なほどに大量の物資を、自分とシンの二人でどう運べと言うのか。
(今回のことといい、何かあるな……)
研ぎ澄まされた兵士の感で、そんなことを考えているとき。嫌な予感を感じて周囲を見回す。同時、鳴り響く警報のサイレン。
(まさか……!)
そう思いながら、宗介は走り出す。何がどうなっているかは分からないものの、少なくともここでじっとしていていい状態ではない。
事実、今まで彼がいた場所を銃弾が駆け抜け、空中に騒音を撒き散らしながら迫る影を認める。
「戦闘ヘリ……!」
毒つくようにつぶやく。奇襲攻撃を受けはしたもののミスリルとて歴戦の組織。すぐさま反撃が始まり、火線が上がる。
『当基地は襲撃を受けている。目標は戦闘ヘリ3機にAS4体。これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない』
情報を知らせるアナウンスが、事態の深刻さを物語る。こんな場所を攻めるには破格の数だ。兵器庫に突っ走った宗介は、アタッシュケースを三個ほど引っつかみ、外に出る。一つを開き、組み上げながら空を見上げ。
ミニガンを旋回させる戦闘ヘリのパイロットが、こちらを見据えた……。ような気がした。
「うるさい……!」
お互いが互いを敵として認め、引き金を引く。迷いが欠片もなかった分、宗介のほうが早い。
彼が放ったのは携帯型の地対空ミサイル。突然の反撃に反応する暇もなく、戦闘ヘリは空中で爆散する。命中を確認するでもなく手袋をつけて次弾を装填し、発射準備を整えていると。
ミスリルのロゴマークをつけた輸送機が、滑走路に突き刺さった。
「シン……!」
思わず宗介が僅かな声を上げ、時同じくして二機めの戦闘ヘリが彼に狙いを定めたその時。
鉄塊と化していた輸送機が、ぎしりと大きな音を立てた。次いでそこから閃光のように何かが飛び、戦闘ヘリを串刺しにする。
AS用の対戦車ダガーだと、宗介でさえ気付くのにしばらくかかった。
「あの高度から落ちて平気な、ASだと……?」
ありえない話だ。そんなことをして平気なASなど存在しない。そう、『構造的な新技術』では、どうしようもない高度と速度。
しかし、そんなものをどうにでもしてしまえる技術が一つだけ、ある。宗介はそれを知っている。
「ラムダ・ドライバ搭載機だと言うのか……?」
半ば呆然とする宗介の前に、輸送機の残骸を引き剥がしながらゆっくりと立ち上がる、ASの全容が目に入った。
形状としては、M9のそれに近い。全体的に引き絞られた、人間によく似た体つき。複眼モノアイの頭部に、適所に配された装甲。両腕が僅かに太いが、これは誤差の範囲内。
大きく違うのは背部だ。大型ミサイルを連想させる二機のブースターと、増加されているらしいウェポンラッチ。今、そこには大型単分子カッターと、クルツが使うような大口径の火砲が装着されている。
一番近いイメージとしては、アーバレストにバックパックを背負わせたようなものであった。
『こちらレッドアイ。これより迎撃に移る』
全周囲スピーカーで響き渡る声が、その主が誰なのかを雄弁に告げていた。
『この機体はARX-SC『シグズウェル』AIは『ウェル』だ。これに君が乗っていると言うことは、
状況が最悪になっていると言っていい』
カリーニンが入れたらしい音声ファイルを再生しながら、シンは機体スペックを改めて確かめていた。
基礎能力はM9の二割増し。通常のASにはおよそ搭載されていない武器の数々は、これが試作機だということをありありと告げている。
しかし、その全てをシンは当たり前のように受け入れることが出来た。
『試作型装備を多数装備した、貴重な試作機だ。壊すなよ』
カリーニンの声はそこで止まり、次いでテッサの声が再生される。
『シグズウェルには、デスティニーのOSをASにフィードバックしたものが搭載されています。
反応速度その他は問題ないはずですが、武装がかなり威力に偏っているので注意してください。
その、武装コマンドシステムが間に合わなくて、同じ場所に装備をつけるしかなかったんです……』
申し訳なさそうな声を聞きながら、シンはむしろ好意的に笑った。
こいつが自分の愛機と同じ装備を、同じOSを持ったASならば。どんな相手であろうと負けるはずがないじゃないか……!
『目標を確認しました。敵AS、M9ガーンズバックが四機。かなり高度な技術を持っているようです』
聞こえてくる、年若い女性からサンプリングされたと思われるウェルの声。
M9。シンも扱ったこともある、第三世代の傑作AS。それが四機もやってくると言うこの現実。
どう考えても、これをこちら側に渡したくない誰かがいるらしい。
『とりあえず、慣らし運転には十分みたいですよ。少し踊ってみましょうか?』
それなのにこのAIは暢気なものだ。自分のほうがあいつらより格が上だと言いたげである。シンはつられて、少し笑った。
「……だったら見せてもらおうじゃないか。お前の強さを!」
『戦闘開始(オープンコンバット)。加速用ブースター点火』
声と同時、シグズウェルは大地を勢いよく蹴り付けた。同時に、背中からAS用の大型刀を取り、構えを取る。
僅かな浮遊感と同時、壮絶な加速がシンの体を襲った。シートに体を押し付けられる感覚まで、デスティニーと変わらない。
知らず、シンの顔に僅かな笑みがひらめいた。壮絶な勢いで加速するシグズウェルを狙って、M9の一体がライフルを振り上げる。
しかしそれさえも遅いとばかり。大上段からの振り下ろしによって、唐竹割りにされるM9。
ふわりと着地したシグズウェルの背後で、真っ二つになった敵機が爆発を起こす。
「何だ、あれは……?」
知らず、宗介は呟いていた。ことAS戦闘においてはスペシャリストであるだけに、シンが乗るあのASの異常性がつぶさに理解できる。
大型単分子カッターや対戦車ダガーによる攻撃力と、大型ブースターを実戦に応用することで得られる爆発的な加速力。
軌道がどうとかいう問題ではもはやない。あそこまでの加速力ならば、操縦者が認識する前に攻撃される。
自分たちの使っているASが戦車ならば、シンの乗るあれはジェット戦闘機。速度という武器を手に、暴れまわる暴風。
すでにシンはM9の一機を真っ二つにし、対戦車ダガーを投擲して牽制した二体目の胴体を横一文字に切り払う。大型化している分、単分子カッターの威力も跳ね上がっているようだ。
刹那、飛来するミサイル。携帯型のミサイルランチャーまで持ち出す敵の資金源には疑問が浮かぶが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「避けろ、シン……!」
あれを食らっては、どんなASでも破壊されてしまうだろう。
だが、もし。もしもあのASにラムダ・ドライバが搭載されていたならば……。
宗介はそのまま、通信機を手に入れるために基地に引き返した。
飛来するミサイルに対し、シンは右手をかざした。
これがデスティニーと同等の武装を装備していることから、あるものが装備されていると勘違いをしていたためである。
『接近警報! ミサイルが飛来……。って、何をしているんですか!?』
ウェルの悲鳴にも似た音声が響く中、シンはある確信を持っていた。
「お前がデスティニーと同等の武装を持っているなら……! 答えろ!」
意思を持った叫びと共に。かざした右手の前で、ミサイルがひしゃげて爆散した。
「よし。ソリドゥス・フルゴールも装備しているようだな」
確かめるような口調のシン。すぐさま背部の75mm狙撃砲を引き出し、三体目のM9を打ち抜く。胸部を破壊されたM9が前のめりに倒れるのを見ながら、撤退する最後の一体に照準を合わせる。
『ウルズ7よりレッドアイへ。聞こえるか、シン!』
通信機が焦ったような声を上げたのは、ちょうどそんな時であった。
「宗介か! そっちは大丈夫なのか?」
『問題ない。いいか、良く聞け。お前のASには特別な装備が搭載されている。
何と言うか……。武器に意思を注ぎ込むようなイメージを思い浮かべろ!』
どこか要領を得ない説明では、ある。だがまあ、やれるだけのことをやってみようと結論したシンは、再び大型バーニアを使った。
デスティニーが持っていた装備で、もっとも己の意思を込めることが出来そうな装備と言えばあれしかない。
「……砕け散れぇぇぇぇぇッ!」
コクピットから上がる声と同時。がしゅん、とどこにあるか分からない内部機構が働いたような感覚。
一気に接近したM9の後頭部を掴んだシグズウェルの右手から、一発の弾丸が放たれ。
轟音と共に、M9そのものが一気にひしゃげ、爆散した。
「しかし、とんでもない破壊力だったな、最後のあれは」
「あれがラムダ・ドライバだ。まさか、お前のASに搭載されているとは思わなかった」
会話をしながら、回収しに来た輸送艇を見送るシンと宗介。あれだけの立ち回りを演じた後なので、一度整備をしようと言うことになったのである。無論、データ取りと言う一面もあるにはあるが。
シグズウェルのほうはと言うと、最後の一撃が原因で右腕が少々がたついている以外、特に損傷はない。
あまり認めたくはないが、本当に朝飯前だったわけだ。改めてあの機体の戦闘力の高さに表情が引きつる。
「さて、俺達も出発しよう。一時間はかかるからな……」
そう言い置いて、歩き出す宗助を追いかけるシンの目に。赤い髪の少年の姿が映る。
「……何だろう、さっきの妙な反応は……」
あの映像を発信する電波を逆探知し、どうにか世界を確定したなのはたち探索班。今回はチームごとに行動して大体の目安をつけようと言うことになり、少し出撃の遅れたエリオはキャロとはぐれ、一人どことも知れぬ異世界を歩いていた。
おそらく着地点がずれたのだろう、と判断し周辺探索をしていたところに、妙な爆発音と異様な気配を感じ、そちらの方に向かっている。
「まあ、遅れたのは僕の責任だけど……」
ちょっとむくれつつも呟く。多分こちらの方にみんながいるだろうと思い、さっき感知した気配の方にまっすぐ歩いていく。
そこには、赤い瞳と黒髪の、自分たちが探している人の姿が……。
エリオ・モンディアルは幸運だったのかも知れない。
自分たちが探している人物を、すぐに見つけることが出来たのだから。
シン・アスカにはようやく運が回ってきたのかも知れない。
心の片隅に在ったであろう、優しい場所に帰る手がかりがつかめたのだから。
だが、同時にこの会合が騒動の始まりであることも。二人はよく知っていた。
「シン、さん……!?」
「エリオか!?」
運命の歯車がかみ合った瞬間とは、こういうことを言うのだろう。
加速度的に回る何かの予感を感じながら、シンもエリオも、僅かな間お互い二の句を告げずにいた。
GUNDAM SEED DESTINY ―Double Cross―
第二話「ふたつの運命」 了
第三話「星と雷鳴と剣と」に続く
最終更新:2008年09月10日 09:28