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悠久幻想曲ネタ-03


<序章:運命の再会~それはMS的な意味で~>


 シン・アスカは異世界人である。
 科学によって人が宇宙にまで飛び出したコズミック・イラの世界から魔法が日常的なものとして存在する世界の
とある大陸のとある街、エンフィールドにやってきたのだ。
 原因は分からない。神とやらのせいかもしれないし、■■■■■■■■■■(←何故か検閲される)の気まぐれ
かもしれないし、単にどこぞの誰かの思いつきネタなのかもしれない。
 が、そんなことは当事者であるシン・アスカにはあまり関係はなかった。彼が欲するのは帰るための方法と、それまでにどう過ごすかということだけだった。
 後者についてはジョートショップという何でも屋の店主、アリサ・アスティアの厚意に甘える形で臨時店員として
屋根裏部屋に住まわせてもらっているが、前者については未だ模索中である。魔法が関わる可能性が高いこと
から何人かに事情を話し――もちろんすぐには信じてもらえなかったが――、協力してもらっている。
 そんな日々を過ごしながら、シン・アスカがエンフィールドにやってきて早くも二週間が経過していた。

 そして、あんまりにもあんまりな、残酷にもほどがある再会の日が来た。


 石畳の道路を風を切って駆け抜ける。平日の日中、それもセントラルロットのさくら通りということもあって異様な
ほどに人々の注目を浴びながらもそれらを一切気にする素振りも見せずにシンはひたすらに走り続けていた。
 その目線は彼の10メートルほど先を駆ける目標に揺らぐことなく向けられている。二日前に依頼を受け、地道
な聞き込みからようやく居場所を突き止めここまで追い込めたのだ。このチャンスを逃してはならないとシンは意
識を総動員して相手の挙動のすべてを捉える。
 どこへ逃げようとすぐに後を追えるように。
「っ!」
 目標が凄まじい速さで建物の間へ消えた。シンは前方向へのベクトルを強引に打ち消し、直角に飛ぶようにし
て曲がる。積み上げられた木箱や投棄されたゴミが障害となって先程よりも格段にスピードが落ちるが、それは
シンが追いかける相手も同じようで時折ゴミに足を滑らせていた。
 ――それが機だと察したシンは、温存していた体力のすべてを使い切るかのように地面を蹴りつけた。
「はああああああっ!!」
 木箱の上へ飛び乗り、そこからさらに跳ぶ。逃げる相手はそれに気付き慌てて駆け出そうとするがまたもゴミに
足を滑らせた。
「捕まえたっ!」
 シンは両手を伸ばし、着地すると同時に目標を決して逃さないようにガッチリと捕らえた。

「――確かにこの子ね、家出したっていう猫は。ちょっと汚れちゃってるけど」
 籠の中でふてくされたようにうずくまった猫を見ながらアリサは確認するように呟いた。
「俺のせいじゃないですよ。そいつがゴミだらけの場所に逃げ込むからそんなになったんですよ」
 猫と同じように不機嫌を隠すことなくシンは言い放つ。一心不乱だったとはいえ猫を捕まえた直後にゴミの山に
突っ込んでしまったのだから当然といえば当然なのだが。
「でもそんな所に逃げ込む前に捕まえられなかったシンさんのせいでもあるっスよね?」
「はっはっは……よぉしテディ、俺の苦労を1ミリでも分かってもらえるようにスキンシップでもしようか」
「ギャーっ!? く、臭いっス! ご主人様! ご主人様ーーーっ!」
 シンからわしわしと頭を撫で回されつつ臭いを擦り込まれたテディの絶叫が響く。
 ――二人と一匹、ジョートショップの日常は些細な変化はあるものの概ねこのようなものだった。
「それじゃあ私は依頼主さんにこの子を届けに行くけど、シンクンはこれからどうするの?」


 聞かれてシンは窓を見やる。予定よりも早く仕事が終わったためにまだまだ陽は高かった。
 わずかに思案し、改めてシンはアリサに向き直る。
「とりあえず、この臭いをなんとかしてから適当にブラブラしてます。日が沈むまでには戻ると思うんで」
「それならボクの身体に無理やり染み込ませられたこの臭いもなんとかしてほしいっスーーー!」
 じゃれあう一人と一匹の様子を聞いてクスリと笑ったアリサはドアを猫の入った籠を片手にドアを開ける。
「それじゃあ行ってくるわ。二人ともちゃんと仲良くね」
「あ、はい」
 ドアが閉じきったところでシンはテディを開放し、そのまま閉じたドアを見つめ続ける。
「う~……ひどいっスよシンさん」
「あ? あぁ悪い……風呂入るか」
 部屋の奥へと足を向けてシンは歩き出す。先程のアリサの言葉を思い出しながら。
 そして、かつてそれと似た言葉をかけられたのを思い出しながら。
 ――ちょっと買い物に行ってくるわ。シン、マユ、喧嘩せずに仲良くね。
 ジクリ、と古傷が開いたような痛みをシンは感じていた。


「……と言っても、特に用はないんだよなぁ」
 ざっと身体を清めたシンは行く当てもなく街を歩く。外に出れば何かしら暇は潰せると考えていたのだが市街地であるイーストロットまで来ても特にすることも見つからず、結局のただの散歩になってしまった。
(まぁ、部屋でゴロゴロしてるよりはいいか)
 だが結局散歩にもすぐ飽きが来る。二週間とはいえ男手を得たジョートショップはそこそこ仕事が増え、派遣さ
れるシンは東西南北を駆け回ることが日常となってしまったおかげで目新しいものがほとんどなくなってしまった
のだ。
「慣れが早いのも考え物だよな。にしても暇だ」
「そうかそうか、そいつは俺にとって好都合だな」
 シンのぼやきに答えつつ、いきなり何者かがシンと肩を組んだ。突然寄りかかられた重みにシンの足が止まる。
「……確かに暇とは言ったけどな、なんでこういうときに限って会うのがお前なんだよアレフ?」
 嘆息しながらシンは横目で長身の青年――アレフ・コールソンを睨む。年はいくつか上のようだが、シンの口調
は同年代に対するそれ同じようなものだった。
「まぁまぁまぁ、それもひとつの運命ってことだ。暇ならちょっと付き合えよ」
「いやだ。どうせまたナンパの数合わせだろ」
 アレフを振り払いつつシンは止まった歩みを再開する。彼にしてみればいくら暇を持て余しているとはいえ、酔狂に付き合うつもりはないということなのだろう。
「待てよ、話だけでも聞いていけって」
 しつこく誘うアレフの態度に呆れながら再度シンは立ち止まる。初めて会ったときからこんな調子なのだからシ
ンにしてみれば年上というよりも悪友のようなものであった。
「わかった。聞くだけ聞く、で俺は行く」
「ってつれないなオイ……まぁいいさ、あの二人見てみろよ」
 目線で示された方へとシンは目を向ける。下校途中なのだろうか、エンフィールド学園の制服を着た少女が二
人洋品店の前で楽しげに話していた。どちらもパッと見で十分に可愛いと思える容姿である。
「なるほどな、よく分かった。じゃあな」
「ってホントに聞くだけかよ!」
 さらりと流して立ち去ろうとしたシンの肩が再び掴まれた。
「あぁもう離せって! 何が悲しくてお前の鍵コレを増やす手助けをしなきゃなんないんだよ!」


 アレフは親しくなった女友達の部屋の鍵を集めるという趣味を持っている。同意の上で譲られたものではあるが、
その数は十数個とも数十個とも言われており、本人以外は正確に把握できないほどだ。
「人聞きの悪い奴だな、まるで俺が鍵のために女の子たちに声かけてるみたいな言い分じゃないか。あくまで仲
良くなることが第一目的、鍵はその記念に譲ってもらうだけさ」
「どっちにしろ俺には関係ないね、一人でやってくれ」
 突き放すように言ってシンは離れる。さすがに三度目の説得は諦めたのか、アレフはおとなしく引き下がった。
「ちぇっ、分かったよ。けど次はちゃんと付き合えよな!」
 軽い調子で言い放ち、アレフは一人で女生徒たちに近づいていった。
 呆れた様子でシンは溜息を吐く。本当に一人で行ってしまったこともだが、感情を逆なでしない程度の引き際
を心得ていることに感心すら覚えていた。
(悪い奴じゃないんだよな……一応は)
 遊びではなく、あくまで平等に付き合うと公言する通りにアレフは女性と接している。そのことでトラブルを呼び
込んでしまうこともあるが、それでもそのスタンスを崩さないところは感心すべきところなのかもしれない。
 そんなことを考えながら歩き出すシンの背中に、
「あ、シンだ! ちょうどいいところに!」
 歩くトラブルから声をかけられた。
(――アレフに付き合っておけばよかった)
 シンは己の選択に後悔した。まだ手遅れではないかもしれないと無視を決め込む手も考え付いたのだが、被
害がシン個人だけでなく周囲にまで拡散しかねないということで却下した。
 観念して振り向き、少女に声をかける。
「……マリアか、今日も元気そうだな」
 そう挨拶するだけでシンは体力が削られていくような錯覚に陥る。だがそんな心境なぞ素知らぬように――実
際知らないのだろうが――少女、マリア・ショートは笑顔という他者にとっては絶大な危険信号を振りまきながら駆
け寄ってきた。
「うん、元気だよ! それでね、ちょっとマリアに付き合ってほしいんだけど」
 来た、とシンは生唾を飲み込んだ。タイミングを間違えれば即DEAD ENDだ。
「あのね、新しい魔法を覚えたんだけど……」
「あっ! あんなところにそこはかとなくアレっぽいようでアレな物体がっ!」
 シンは明後日の方向を指差しつつ叫んだ。突然上がった大声に驚きながらもマリアはシンの指先の示した方
向に目を向ける。
「え? なになに?」
 その瞬間、シンは全力で背後へと駆け出した。文句なしのスタートダッシュ、これ以上はないというほどの刹那
の見切り。
 ――彼に問題があったとするなら、足元を確認していなかったことだけだった。
 全力で踏み出した足が地面からの抵抗を受けることなく滑る。重心を崩したシンはその勢いを保ったまま地面
へと豪快に倒れこんだ。
「な……っ!?」
 倒れてから初めて気付いたようにシンは動揺の声を上げる。慌てて起き上がろうとするが既に時は遅く、マリア
が振り返っていた。
「なによぉ、何もないじゃない……ってどうしたの?」
「…………いや、なんでも」
「ふぅん。でね、新しい魔法覚えたから特別に見せてあげようと思ったの!」
 さいですか、と興奮してしゃべり続けるマリアに対して生返事をしながらシンは足を滑らした原因を拾い上げた。
 ――女難避けの護符。
 天からのジョークにしてはあまりにも性質が悪すぎだった。



「……で、俺はいつまでこうして待ってればいいんだ?」
「もうちょっとでできるから。う~ん、ここの形ってどんなのだっけ?」
 不安が何割か増すような独り言を耳にしてシンは空を仰ぐ。何故にこんなことになってしまったのだろうか、自
分はただ持て余した暇を潰すために散歩していただけなのにと心の中で涙しながら。
 マリア・ショートは極度の魔法マニアである。たとえ何であれ魔法を使えばなんでもこなせることができると妄信
しているほどなのだが、肝心の本人が使う魔法は必ずと言っていいほどに失敗する。それもどんな魔法を使うに
しろ最後に爆発することは確約されているほどだった。
 そんなマリアはここ、『陽の当たる丘公園』で人気のない場所で地面に白墨で紋様を描いてた。シンを中心とし
て円形に広がった複雑な模様、知識のない人間でもすぐにそれが何なのかは思いつくだろう。
 ――魔法陣、それもこれは召還の陣形だった。
「よしできたっ! これで多分大丈夫!」
「多分かよ……」
 弱々しく突っ込みを入れるシンだがその場所から動くことはできなかった。魔法に関しての知識が皆無で迂闊に行動を取ることに及び腰であるのもそうなのだが、正直なところここまで来て足掻いても仕方がないという達観
もあったからだった。俗に言うまな板の上の鯉状態である。
「じゃあ始めるね! シンは頭の中で強そうなもののイメージを浮かべてね!」
 そう言ってマリアは目を閉じて呪文の詠唱を始めた。

 ――この魔法、対象の守護獣を召還するものだという。聞きかじった程度の知識しかないシンの頭でもそれが
珍しく、そして高度なものであることは容易に想像できた。
(まぁ、結果はいつもの通りなんだろうけどさ)
 いつ爆発が起こってもいいようにシンは身構える。だがそんなシンに向けて目を瞑ったままマリアが叫んだ。
「ちゃんとイメージして!」
 注意されて仕方なくシンは『強そうなもの』のイメージを浮かべる。
 ……モビルスーツ、この世界に来るまでに彼が見たいくつもの鋼の巨人が頭の中に浮かんでは消えていく。
「――え?」
 突然の変化にシンは声を漏らした。白墨で描かれた円陣が光を放っていたのだ。
「これ、まさか……成功!?」
 頭の中で浮かべた幻想が本当に実体となって現れてしまうのかという不安がシンの胸中で広がっていく。
 光は徐々に輝きを増していき、黄昏色に染まった公園の一角を真昼のように照らしだし……
 そして、爆発した。
「結局これかーーーーーーっ!!」
 上げて落とすという実に典型的なオチに見事にはまりつつシンは茜空へと舞う。きりもみ回転しながらほぼ真上
に吹き飛ばされたシンはそのままもうもうと砂煙のあがる魔法陣の上に落下した。
「ごはっ……!?」
 回転のおかげでろくに受身も取れずにシンは背中から叩きつけられる。肺の中の空気が衝撃ですべて吐き出
され、呼吸困難に陥ったのか地面を左右に転がりながら咳き込んでいた。
「あれ? あれぇ? おっかしーなぁ。シン、大丈夫?」
 マリアの困惑した声がシンの耳に届く。だがそれに答える余裕があるはずもなく、とにかく呼吸を落ち着かせる
ことに努めていた。
「っ……な、なんとか無事だけど!」
 ようやく身体が機能を取り戻したシンは――ある程度覚悟はしていたとはいえ――人をこんな目に遭わせてお
きながら、しれっとした声で話しかけてくるマリアに恨み言の一つ二つでも叩きつけようと地面に手をつけて立ち
上がろうとした。


 ――ふに、と地面の固さとはかけ離れた感触をシンの右手は掴んでいた。
「何だ?」
 目を凝らして注視するシンだったが、砂煙に阻まれて何がそこにあるのかが分からずにぺたぺたと触り続けるこ
とでしか確認できなかった。何度か触ってみて分かったことは生物的な柔らかく温かなものと金属質な冷たく硬
いものということだけであったが。
 やがて風によって煙は払われ、右手が何を掴んでいたかが分かった。
「――――」
 シンの口が何かを呟くように開いては閉じる。実際には何を言っていいのか分からずに反射的に口を動かして
いるだけだったが。
 ……それは小さな少女だった。
 身長はシンの腰より少し上まで、というよりも全体的に小さい。外見上は十代前半あたりというところなのだが、
それにしてはいくらなんでも小さすぎた。
 だがそんなことすら些末な問題だった。誰もが一番に目に付くのはその異様な格好だろう。
 水着のようなアンダーウェアーの上に青や白のアーマーのようなものを身に着けている。さらに背中には折りた
たまれた赤い鋼の翼があった。
「え……? その娘だれ?」
 駆け寄ってきたマリアに問いかけられるがシンは答えられない。
 答えを知らないのではなく、ありえない答えが頭の中に浮かんでいるせいで。
「そんな、何で」
 シンの呟きに答えるように、少女の瞳がゆっくりと開かれる。
「う……?」
 翠色の瞳を目にし、シンはこんなところまで『アレ』とそっくりであることに怖気すら感じていた。
「ここ、は?」
 のろのろと上体を起こそうとする少女の動きが止まった。その寝惚けた視線の先にはシンの右手に未掴まれた
ままの彼女の胸があった。
「…………」
 少女の目が右手を辿ってシンの顔に向けられる。未だに呆然としたままのシンはその目を見つめ返すことしか
できず、マリアはマリアで状況を把握できずに「ほえ?」と呟いていた。
 しばしの静寂、だが少女の目に意識が戻っていくにつれて顔が徐々に朱に染まっていく。
「はわ、はわわ……」
 その様子を見てようやくシンも自失状態から戻った。自分の右手が何を掴んでるのかに気付いて慌てて――し
かし右手はそのままに――口を開く。
「ち、違う! これは……」
「っ、きゃあああああああああああああああああ!!」
 少女の悲鳴をシンが聞くことはなかった。
 何故ならその直前に顎に強烈なフックを貰って意識があっちの世界に飛びかけていたからだった。
(――いいセンスだ)
 鮮やかすぎる一撃にむしろ羨望すら覚えつつ、シンは意識を手放した。

 ……それからシンが目覚め、少女がデスティニーであることを明かしたのは辺りが暗闇に包まれてからのことだった。


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最終更新:2008年06月28日 00:30
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