ARMORED CORE-08





ACMoJ ファーストミッション前編

「ジナイーダ、頼みがある」
仕事が終わり、いつもの部屋着(半袖Tシャツにショートパンツ)でリビングのソファーに寝転がり、
くつろいでいたジナイーダにシンは真剣な顔付きで声を掛けた。
「ん? ……なんだ?何か用か」
視界の端にシンの顔を捉えたジナイーダは緩みきった表情を一変させシンに向き直った。
「いや、用って程でもないけど……」
言いにくそうにシンは言う。 ただその表情は変わらない。
ジナイーダはシンの顔を見つめる。
シンが口を開くまでは、ジナイーダは何も言わないつもりだった。
「俺とジナが始めて会った場所、覚えているか?」
「ああ、忘れる筈がない……! お前まさか!?」
(元の世界に戻りたいのか?)
何かを察したジナイーダは声荒げた。
「多分、ジナが考えている事とは違うよ」
シンの口から出たのは、ジナイーダとは対称的に落ち着き払った声だ。
「なら何故?」
「あそこには、置きっぱなしの忘れ物があるからさ、それを取りに行きたいんだ」
懐かしむように、静かな口調のままシンは言った。
「忘れ物? ……お前が乗っていた、あの機体の事か」
記憶を探りゆっくりとジナイーダは言葉を紡ぎ出した。
「ああ、そうだ」
力強くシンは頷く。
「正直言いにくいが、、あれはもう……」
珍しく躊躇いがちにジナイーダは口を開く。
「言いたい事は分かるよ。 でも、それでもあれ、いやアイツはデスティニーは俺の半身なんだ」
「この世界に来るまでは、只の道具としてか見てなかった」
「アイツは俺が、シン・アスカという人間だと証明する、唯一の証なんだ」
「俺の過去なんだ。 今の俺と過去のデスティニー、二つで一つなんだ」
ジナイーダはシンの瞳を見つめる。 真っ直ぐな、前だけを見た純粋な紅の瞳。
決意と覚悟を固めた顔。
レイヴンになるとシンが決めた時にも見せた顔だ。
その表情は、感情の起伏が激しいシンが見せる中で、ジナイーダがもっとも好きな顔だった。
戦いの中に、生と死の狭間にあっても、純粋に前を未来だけを見つめる。
その瞳はジナイーダが出来ない顔であり、そんな顔のできるシンがひどく羨ましかった。
「だから、あの場所までの行き方を教えてくれないか」
シンは深々と頭を下げた。
「どうせ教えなかったとしても、お前はどんな手を使っても行くのだろうな」
ふぅ、と溜め息を付くと、ジナイーダは座っていたソファーから立ち上がる。
「ジナイーダ!」
ジナイーダに向かい、シンが叫ぶ。
ジナイーダは今一度、溜め息をつき
「……ファシネイターからデータを取り出してくる。 少し待っていろ」
諭すような口調でジナイーダは言った。
「ジナイーダ、ありがとう」
「れ、礼など言うな」
彼女にしては珍しく、照れた頬を朱色に染め、足早に歩き去った。


『難しいですね。』
シンの自室、パソコンのモニターに映し出された言葉に、シンは落胆の表情を浮かべた。
『どうしても、ですか?』
文字を打ち込み、言葉を形作っていく。
『ええ、ACの私的利用にはかなりの手間と時間がかかります。』
内容から察するに、相手はマネージャー、エマ・シアーズのようだった。
異様に思うかもしれないが基本的にこの世界の地下居住区、レイヤードは電波の混線のしやすい閉鎖空間である。
さらに言えば割合監視のしやすいネットやメールはかつてレイヤードヲ支配していた管理者にとっては都合がよく。
結果としてレイヤード全体に張り巡らされたネットを通じた連絡はレイヤードでは一般的な連絡の取り方だった。
『ただ、手が無い訳ではありません。』
『何です?』
シンは素早くキーを叩いた。
『少し裏技を使います、費用は掛かりますし、そう何度も使える物ではないのですが』
『構いません。』
『そうですか、分かりました。』
『その裏技とは……』
「……そんなんで良いのか」
モニターに映し出されたその裏技に、シンは思わず絶句する他無かった。


廃墟の中を二台の大型トレーラーが走っている。
先を走るトレーラーの荷台には二機の作業用MTと一機のACが載せられていた。
ACの中でシンはジナイーダから受け取ったマップから進入経路の確認をしていた。
「レイヴン、聞こえるか? 目標地点に到達した。 悪いが、この先は瓦礫が多くてトレーラーじゃ進めない」
「……MTを出したいんだが、作業用MTは非武装なんでな、悪いんだが安全を確かめてきてくれ」
「了解」
短い返事を返すと、シンはシステムを起動し、機体を立ち上がらせた。
「それにしても、あんたも変わってるな」
「え?」
運転手の苦笑じみた笑い声が通信機から響き、シンは間抜けな声を上げた。
「こんな安い割に怪しげ、しかも依頼主も誰か分からない依頼、普通は受けないぜ、ま俺達も人のことは言えないか」
シンは思わず吹き出しそうになり、ぎこちない笑みを浮かべた。
運転者の言う、『安くて怪しげな依頼』 実はその依頼主こそ、他ならぬシン自身なのだ。
エマの語った裏技、それは匿名で自分宛に依頼を出すという、それでいいのか傭兵ってな抜け道だった。
エマに言わせれば、大したことでもないし、内容も含めて厳重注意くらいでしょうということなのだが。
シンにとって痛かったのは報酬は戻って来るから兎も角、トレーラーの賃貸料から何から全部自分持ちなことだった。
体一つでこちらに来たシンが金なんて持ってるはずもなく、レイヴン同士の懸け試合アリーナに出たり、ジナから借りたり。
それはそれは涙なしには語れない話があるのだが、今回は関係ないので話を本筋に戻そう。
「まぁ、ね。 俺は駆け出しだからね、どんな仕事でもやるよ」
「そうだったのか、じゃあその内、俺達の護衛でも頼むかな? ハハッハッ!」
「ああ、何かあったらよろしく頼むよ」
豪快な笑い声に思わずシンもつられて笑みを浮かべた。
「レイヴン、本当にオペレーター無しでよろしいのですか」
「大丈夫です。 すみません、無理言っちゃって」
続いて聞こえるエマの声に、シンは力強い返事を返した。
「いえ、気にしないでください。 でも気を付けてください。 この辺りはテロリスト達の縄張りですから」
「了解。 シン・アスカ行きます!」

「……ここだ」
マップを確認したシンは辺りを見渡し、安全を確かめる。
ジナイーダから聞いた話では、デスティニーは瓦礫でカモフラージュされているらしい。
「これか、上手く隠したもんだな」
ACを使い、関心した様子でカモフラージュ代わりの廃材を撤去していく。
動力炉が停止し、PSダウンしたデスティニーは灰色の地肌が剥き出しになっている。
それが周囲の色と交じり合い、保護色のように上手く隠していた。
傷ついたデスティニーの全貌が明らかになり、シンの胸に熱い何かが込み上げる。
それをなんとか押さえたシンは通信機を手にした。



ACMoJ ファーストミッション後編

ジノーヴィの家、地下ガレージ

「……手酷くやられちまったな」
ジノーヴィの家、地下ガレージにあるシン用のスペース。
そこには二機の、鋼鉄の巨人の姿があった。
そのうちの一機、片足を失い、最早立つ事も出来ないかつての愛機デスティニーを見上げ、シンは誰にでもなく呟く。
デスティニーに傷の付いていない所は存在しない。
無限の正義の名を冠するかつての上官アスランとの機体との決戦で
脚部ビームサーベルによって左腕を肩から、リフターによって右腕と右足、太股から下を失っていた。
背部に装着されたウイングも両腕を切断された際に損傷している。
かろうじて無事だった部位は頭部、胴体、左足、背部ウェポンバインダー、及びそこに装着されている高出力エネルギー砲。
だがそれらの部位もよく見れば、細かい弾痕や破片などによる細かい傷が見受けられる。
それはシンにとって誇らしい事でもあったが、同時になんともいえない思いが渦巻いていた。

「やあ、ここのガレージは気にいってもらえたかい?」
思案に耽っていたシンの耳に、ここ数ヶ月で聞きなれた男の声が聞こえた。
「ジノさん、アグラーヤさん」
横を見ると家主であるジノーヴィとそのパートナー、アグラーヤが階段から足を下ろした所だった。
「はい、すみません。 わざわざスペースを開けてもらったみたいで」
シンは軍人らしい流れるような動きで頭を下げる。
ジナイーダから、自分のACを置くためのスペースを開けたと事前に聞いていたのだ。
「何、気にする必要はないさ。 場所なら有り余っていたんだ」
「そうね。 只片付いていなかっただけ。 だもの」
アグラーヤの言葉に、ジノーヴィは僅かに顔をしかめた。

確かにここの地下ガレージは広い。
今でさえ、AC4機にパーツが多数。それにMS(の残骸)があるのに、まだ空きスペースがある。
もしかしたら、ミネルバの格納庫に匹敵しているかもしれない。
「……でも俺、拾われてから何もできないのに」
シンは僅かに声のトーンを下げ俯く。
「シン君、そんな事は言わないでくれ」
ジノーヴィは首を振り、言葉を継ぐ。
「君がどう思っているかわからないが、少なくとも君の事を私達は、ここにはいないジナも含めて、家族みたいに思っている」
シンの顔を見つめジノーヴィは言う。
「だから遠慮なんてしないでね」
ジノーヴィに続き、アグラーヤは優しく微笑んだ。
「ジノさん、アグラーヤさん。 ありがとうございます」
異世界に放り出され、『あの頃』のようにただ一人きりだと思っていたシンにとって、ジノの言葉が嬉しかった。
二人はシンの返事に満足そうに頷く。
「私達はもう上に行くがシン君はどうする?」
「あっ、俺はもう少しここにいます」
「そう、それじゃあ後の戸締まりと消灯はしっかり頼むわね」
「はい。 わかりました」
足音が遠ざかり、二人の姿が見えなくなるとシンはデスティニーに向き直った。
意を決したかのように一歩を踏み出し、デスティニーのコックピットに潜り込んだ。

「…………」
非常用の照明さえつかないコックピットの中、シンはモニターに触れた。
まるでここだけ時が止まってしまったかのようだ。
いや時が止まったわけじゃない、ここはまだCEなんだ、そしてシンの心もまた。
「ごめんな、ごめんなデスティニー」
「俺がもっと上手くお前を扱っていれば、もう少し俺が強ければ、お前はこんな風にはならなかったのに」
「恨んでくれていい、憎んでくれていい、そうすれば、俺はお前やCEの事を忘れずに済む」
シンの頬を熱い物が流れた。
それが涙であると気付くには数秒が必要だった。

───シン、私は貴方の事、恨んでなんていませんよ。
「えっ?」
背中越し聞こえる聞いたことのない女の声に、シンは体を固くした。
シンはあわてて後ろに振り向く。
そこにいたのは、白いワンピースの上に、青いストールを羽織ったまだあどけなさの残る少女。
年はシンと同じくらいだろうか。
流れるような黒い長髪に、中心に赤い石の埋め込まれた黄色いV字のブローチがシンの目に止まる。
見覚えのない少女だがシンは古い友人のような懐かしさを感じていた。
じっと顔を見つめる。 整った顔立ち、スッと力強い眉、美人と言っていい。
問題があるとすれば……少女が半透明だったということか。
(幽霊か?) 案外冷静な自分にシンは驚きを覚える。
ここ暫く色々ありすぎて感覚がおかしくなっているのかも知れない。
「幽霊に知り合いは……」
(ステラ……シンに会えて良かった……だから前を見て、明日を……)
そこまで口にして、シンの脳裏に自らの無力さゆえに救えなかった金髪の少女の顔が思い浮かんだ。
「一人しかいないんだが?」
「幽霊。 あなたにとっては私は幽霊のようなものかもしれませんね」
少女は悲しげな笑みを浮かべると、言葉を続ける。
「過去とは幽霊。 忘れた頃に現れ、人に死が訪れるまで人を苦しめ続ける」
「過去……まさか、君はデスティニー、なのか?」
シンは困惑を隠せない。
「はい!」
満面の笑顔で少女、デスティニーは頷いた。
「……夢なのか?」
うわごとのようにシンは呟く。
「そうですね。 これはうたかたの夢」
「夜が明け、目が覚めれば、忘れさられてしまう。 水泡のように、まるで最初からなにもなかったかのように」
「でも、それでも私は、シンに知ってもらいたかった」
「私はZGMF-42Sデスティニーは貴方の事を恨んでなんていないと言う事」
「いえ寧ろ、シンが私のパイロットであった事を誇ってすらいると言うことを」
シンの目を真っ直ぐに見つめ、デスティニーは言った。
その目には一切の世辞も迷いも含まれてはいなかった。
「でも、俺は負けた。 勝たねばならない、負けられない場面で」
「それでも、私は貴方がパイロットで良かったと思っています」
「貴方は私の性能を十分に、いえ、十二分に引き出してくれた」
「そうでなくては、ジャスティスをあそこまで追い詰める事はできませんでした」
「だけど、俺が未熟なせいでお前は……」
奥歯を噛み締め、搾り出すようにシンは言葉を紡ぐ。
「だったら、強くなって下さい! もう二度と、誰にも負けない位!」
そんなシンを叱責するようにデスティニーは声を張り上げる。
「私には後悔も、未練もありません。 ただ心残りがあるとすれば、もう二度とあなたと共に飛べないと言う事です」
「……デスティニー。 なら約束する。 俺は強くなる。 今度こそ守れるように。 そして」
「一年先かもしれない。 三年、五年、十年掛かるかもしれない」
「でも、いつか、いつか必ずお前を飛べるように直す。 だからそれまで待っていてくれ」
俯いていた顔を上げ、拳を握り、シンは誓う。
世界に、かつての愛機に、そして何より自分自身に。
「それでこそ私が認めた人です!」
見ていて気持ちが良いほどの笑顔を見せたデスティニーに、シンもつられて微笑んだ。
シンがデスティニーに触れようとした瞬間、デスティニーの右手が光へと変わった。

「時間、みたいですね」
「時間?」
「明けない夜が無いように、覚めない夢もまたありません」
「……俺の目が覚めるのか」
「はい、そして殆どの事を、あなたは忘れてしまうでしょう」
「でも、私の事を頭の片隅に置いて置いて下さい、そうすれば私は幾らでも待ち続けられます」
「うん、分かったよ」
「ああ、それとあの子に名前早く付けてあげてください。 いつまでも名無しじゃあ可哀想ですよ」
「ああ、大丈夫だ」
「そうですか、ならお別れは言いません。 おはようございます、シン」

「夢?」
動力の通わないハッチを人力で押し開け、コックピットから這いずるように出る。
妙に懐かしい夢をみていた気がする。
……内容は朧気にしか覚えていないが。
天窓を見上げると、群青色に染まっていた空がゆっくりと白み始めていた。
「もう、朝か……名前、考えなきゃな」
───なんだ、ちゃんと覚えているじゃないですか。
シンは慌てて振り向いた。 視界の端、デスティニーの肩に、白いワンピース姿の少女が見えた。ような気がした。
その聞き覚えの無い筈の声は、どこか懐かしく。 見覚えの無い筈の姿は、記憶に残っていた。
( 約束。だもんな。 大丈夫、俺は前に進めるよ、だから安心してくれ───)
ふー、と溜め息を付くと、過去と現在。 二機の愛機を見上げ、意を決し、一歩を踏み出した。


「ふぁーあ」
気の抜けた欠伸をしながら、ジナイーダは自室の扉を閉めた。
空腹を感じ、キッチンを覗き込むが、まだだれも起きてきてはいないようだ。
何か口にしようと周りを見るが食パンしかない。
味気ないなと思い時計を見ると6時半
「む……」
未だに寝ぼけている頭をフルに使い考える。
姉さん達はオフだといっていたので、10時位まで起きては来ないだろう。
ならば頼みの綱はシン。
元軍人らしい規則的な生活の奴なら、7時には起きて自分の分の朝食をつくるだろう。
タイミングさえあやまなければ温かいハムエッグ、トースト(メニューは勝手に決めた)にありつけるだろう。
「あいむしんかーとぅーとぅー」
鼻歌を交え、とりあえず時間つぶしの為、地下ガレージへと続く階段を下りていく。
「ん、開けっ放しとは不用心な」
階段を下りきった先、入り口のドアが半開きになって、光が漏れていた。
「さてはシンだな、仕方のない奴め」
やれやれと溜め息混じりに呟いたジナイーダは、ゆっくりと半開きのドアを開けた。

「あっ、おはようジナイーダ」
整備用のキャットウォークに、見覚えのある若い青年の背中、というか青年などと呼べるのは家に1人しかいない。
「……」
「……えっと」
「何故朝食係がここに居る……イレギュラーだ」
半開きの口から、思わず本音が漏れる。
「? イレギュラーって?」
首を傾げ、シンは言った。
「気にするな、それより何をしている?」
ジナイーダは必死に誤魔化すが、頬の赤み具合で何か隠しているのはバレバレだった。
「ああ、エンブレムを描いてたんだ」
KYなシンには珍しくジナイーダの発言をスルーすると、キャットウォーク後ろの名無しのACを指差した。
まさか勝手に朝食係に任命されているとは思ってもいないだろう。
シンのACの左肩。
そこには一本の剣を境に、赤と黒、二色に塗られた二枚の翼が描かれていた。
左側には航空機のような直線的な翼、右側には猛禽のような曲線的な翼。
「……いいじゃないか、何かモチーフがあるのか?」
エンブレムへと目を向けていたジナイーダは、シンへと首を傾け、問い掛けた。
「ああ、こいつと前の愛機の翼が同じ色だったからさ、それに考えるのに二時間もかかったからな」
ACの後方に鎮座する灰色のヒトガタを見つめ、シンは答える。
その目は今だけを見据え、過去を振り返るような様子は無かった。
「考えるのに二時間だと? おま……いや、全く、ちゃんと寝たのか?」
何か言おうとしたジナイーダは、シンの目を見ると言葉を途中で飲み込み、呆れたような嬉しいような複雑な口調で言った。
「大丈夫だよ。 睡眠はしっかりとったよ」
「お前の大丈夫はあてにならない。……そういえばエンブレムは良いが、名前は決まったのか?」
「ああ、クリムゾンウイングって名前にした」
「紅の翼か、機体色は変えないのか?」
「今から塗るとこだよ」
そう言いながらシンは足元に置かれたペンキを指差した。
「ちょっと待て、お前まさか自分で塗るつもりか!?」
「そのつもりだけど」
「普通は専門の業者に頼むんだ。……む、ファシネイターの塗装も剥げてきたな」
ジナイーダは愛機を見上げると呟いた。
言われてみると確かに、無数の細かい傷や弾痕があるのが見えた。
「シン、今日何か予定はあるか」
何かを考え込んでいたジナイーダはシンへと振り返る。
「いや、特に無いけど」
「そうか、なら決まりだな。 私が塗装屋に連れて行ってやる」
「本当か!? そりゃ助かる。 でもいいのか?」
「気にするな。私とお前の仲だ。 ただ問題が一つある」
ジナイーダは深刻そうな顔で、右手の人差し指を突き出す。
「問題?」
シンは首を傾げた。
何か仕事でも入っているのだろうか? 普通ならそう考える。
「ああ、まだ朝食を食べていない」 
「……ぷっ、あははっは、っ何だよ、それ!」
「わっ、笑うな!」
「あーあ、可笑しい。 分かったよ、朝飯位俺が作るよ」
「うん、よろしく頼む。 あっ、フレンチトーストとハムエッグは作ってくれ」
「はい、はい。 分かりましたよ」
苦笑しながら、階段へと向かうシン。
ジナイーダはシンに遅れ、階段の手すりに手を掛けた。
――――ジナイーダさん、シン君の事よろしくお願いしますね。
「えっ?」
そのときジナイーダは目にした。 灰色のヒトガタ、デスティニーの左肩に白いワンピース姿の少女の姿を。
「ジナ? どうかしたか?」
ジナイーダの様子に気が付き、シンはドアの向こうから首を出す。
「いや、何でもない……と思う」
反射的にシンへと振り返り、すぐデスティニーを見るがそこには何も無い。
「見間違いか?」
明かりを消すと首を傾げ、ジナイーダはドアを閉めた。

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最終更新:2008年09月22日 13:46
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