辺り一面、白銀に覆われた大地に赤と薄紫、二機のACが一つの建物を守るような形で待機していた。
内一機、薄紫色の機体はジナイーダのACファシネイターだ。
二機のACは、大きな損傷こそ無いもの、装甲表面には弾痕や細かな傷が見える。
それはこの場が戦場であることを示していた。
周囲を見渡すと、雪上戦使用のMTや戦闘ヘリの残骸が、所狭しと散らばっている。
「全く、数だけは多いな!」
全身を鮮やかなワインレッドで染め、肩上部とコア下腹部を落ち着いた黒に、
脚部前面と甲の部分を白く塗った機体。
(つまりそれはザフトの赤服を模していた。)
シンのAC、クリムゾンウイングは補給を終え、ゆったりと立ち上がった。
いくつかの任務、アリーナを乗り越え、シンの機体は若干ながらその外見を変えていた。
まず頭部、初期装備のデュアルアイタイプからジナイーダ達と同じ、クレスト制の武骨なモノアイタイプEYE4に。
(合格祝いにもらったのだが、ジノーヴィーのごり押しがあった)
腕部、脚部、コアは変わらず、 メインウェポンはライフルからショットガンに変えた。
これはある中小企業の倉庫護衛をした際、報酬代わりにもらった物だ。
ブレードも初期装備から、ワンランク上の物に買い換えた。
肩武装はレーダーはそのままに、マイクロミサイルはアリーナ初勝利記念に贈与された同時発射数の多い物を装備。
また外見には反映されないが、内装即ちジェネレーターやラジエーターも交換している。
この結果、クリムゾンウイングはその性能を向上させていた。
「確かにな、だが熱くなりすぎるなよ?」
ジナイーダもまたファシネイターの補給を終え、機体を立ち上がらせた。
「そうですね。 アスカさんはすぐ熱くなりますから、少し自重して下さい」
シンの専属オペレーター、エマは言う。
通信機の向こう側で、眉をしかめるのが見て取れるようだった。
「分かってるさ、そんな事」
頬を膨らませ、シンは不服を隠さずに言った。
そして今回の任務について改めて確認する。
依頼者はミラージュ。 この世界最大の企業だ。
内容は地上に建設中の発電施設の防衛。
既にシンとジナイーダは数波にも渡る敵の攻撃を退けていた。
この数はただのテロリストに用意できる数ではなく、裏に何者かの支援があることは間違いはなかった。
とはいえ、そんな事は、雇われの身の二人にはあまり関係がなく、迫り来る敵機の方が二人にとっては重要だった。
「現在、依頼者が敵機の集結場所を捜索するため、別働隊を出しているそうです」
「はっ、そいつはありがたい事だな」 舌打ちをするジナイーダ。
レイヴン二人の他に別働隊まで出すということは、未だ襲撃がやむ気配がない。つまり……
「まだ敵が来るってことか」 眉を歪ませるシン。
「そういうこ……! レーダーに感! 高速輸送機が二機。おそらくACです」
発電施設に備え付けられた大型レーダーを確認していたエマが声を上げる。
「方向は!?」
二人の体が緊張に走り、筋肉が収縮する。
「北東と南西です」
レイヴンを慌てさせないため、抑揚を抑えた声でエマは告げる。
「シン、行けるな」
ジナイーダの言葉にシンは、唾を飲み込む。
命を懸けた戦いでないアリーナは別として、この世界に来てから、
より正確に言えばアスラン・ザラとの月での決戦に敗れてからシンは1対1の戦い。
一騎打ちを本能的に避けていた。
現代戦において1対1の戦いは起きにくいものだがレイヤードとCEにおいてはそれぞれの世界がもつ特異性から、
一騎打ちが起きやすい状況に合った。
レイヤードはACの他を圧倒する戦力とレイヴンの戦闘経験からレイヴンにはレイヴンをという状況から。
CEは一般兵がエース同士の戦いに付いていけないため。
それは兎も角としてシンは初めてのAC戦に、
久方振りの強敵との一騎打ちに、背に氷柱が差し込まれたような感覚を覚え、身を震わせた。
「……シン?」
ジナイーダはシンの様子を訝しみ、再び声を掛ける。
「大丈夫だ」見えない何かに震える自らを抑えつけ、絞り出すようにシンは答えた。
「ではアスカさん迎撃に向かってください」
エマの声が通信機から響いた。
「ムーム、大丈夫か?」
「ええ、問題無いわガルム」
「なら良い、情報ではレイヴンは二人。一人はジナイーダ。 最近有名になってきたランカーだ」
「こいつの相手は俺がする。 君の相手は最近レイヴンになった若僧だ。」
「なに緊張する事はない、アリーナと同じようにすればいい。 死ぬなよ、ムーム」
「見えた。 あれか」
北東に向かったジナイーダは、最大望遠で迫る敵輸送機を捉えていた。
「あの子、大丈夫かしら」
ジナイーダのオペレーター、シーラは不安そうに声を掛けた。
「珍しいな、シーラが他人の心配とは」
それに答え、ジナイーダはレーダーを見る。
未だシンは敵機と接触していない。
(……こちらも、もう少し時間が掛かるか)
「まぁね、それよりあの子、下手すれば死ぬわよ」
真剣な声でシーラは、ジナイーダに問いかける。
幾人ものレイヴンの死を見て来た彼女だから言える重い一言だった。
「分かっている、だがこんな所で死ぬなら、所詮そこまでの男だった。 と言うだけだ」
声色一つ変えることなく、ジナイーダは言う。
「あら、冷たいのね」 意外そうな声でシーラは呟いた。
「そうでもないさ、片付いたらすぐに行ってやるつもりだが……」
そう言うとジナイーダは顔を伏せる。
「だが、何?」
「いや、なんでもない(そうだ。 奴の潜ってきた修羅場が本物なら敗れる筈がない)」
ジナイーダは首を振り、自らの不安を振り切ると、顔を上げ、敵輸送機を睨み付けた。
呼吸が荒い、心拍数もまた上がっている。
俺は恐れているのか? 戦いを?
そんな筈は、今までなら何の問題も無くやって来たじゃないか。
失うのが怖いのか、……いや違う、俺は、負ける事を恐れている。
「アスカさん。 硬くならないでください」
思考の渦に飲み込まれていたシンにエマが声を掛ける。
「……別に、俺は堅くなんか」
混濁していた意識を覚まし、シンは呟いた。
「気休めかもしれませんが大丈夫です。 あなたならやれます」
先程の抑揚を抑えた声ではなく、感情のこもった暖かい声。
その声にシンは胸の奥につかえていたものがとれたようだった。
前からずっと聞き覚えのある声だと思っていた。 ……今思い出した、メイリンだ。
エマはミネルバのオペレーター、メイリン・ホークによく声が似ていたのだ。
それに気付き、ミネルバ時代を思い出したシンは、体から余計な力が抜けるのを感じた。
たかがACの一機が何だ。
オーブの艦隊は、フリーダムは、デストロイはAC一機以上の存在か?
否。
ならやればどうする?
簡単だ。
目の前に立ちふさがる物はすべて薙払う。
シンの脳裏にかつての上官が、戦友が浮かび上がる。
上官。アスラン・ザラの顔を思い出したシンの胸から浮かび上がったのは、憎悪でも憤怒でもなかった。
お互いが信念を懸け、全力でぶつかり合ったのだ。
悔いが無いとはいえない。
だが不思議と黒い感情が浮かぶことは無かった。
分かっていますよ、アスラン。 力の使い方は、自分が何のために戦っているか、分かってますから。
大丈夫さ、レイ、ルナ。 二人はいないけど熱くならない、俺は負けない。
「アスカさん?」 黙り込んだシンにエマは声を掛ける。
「大丈夫。 エマさん」 その目に迷いは無く。 力強く前を見ていた。
「何ですか?」
「あなたがオペレーターで良かった」
「何を急に言ってるんですか……? ! 敵AC降下します」
シンの顔が敵を見据え引き締まった。
「「「「敵ACを確認」」」」 四機のACに搭載されたコンピューターが同時に告げた。
「ランカーAC ニフルヘイム レイヴン、ケルベロス・ガルム AC METIS-メティス- レイヴン、ムーム」
ファシネイターとクリムゾンウイングの搭載コンピューターが瞬時に敵ACのデータをはじき出し、主へと告げる。
黄と紫に塗装された重装AC 右手にレーザーライフル、左手にハンドガンを持った機体がファシネーターに向かう。
「あれは、地獄の番犬! 生きていたのか?」
右手に構えたレーザーライフルをファシネーターへと向ける。
「こんな老いぼれでは役不足だろうが、付き合って貰うぞジナイーダ!」
放たれた閃光を紙一重で避ける。
「よく言う! (シンの所に向かうには時間がかかりそうだな。 信じているぞ、シン)」
「敵はこちらと同じ接近戦重視の上位機種兵装です」
敵機体を把握したエマからの通信にシンは耳を傾ける。
輸送機から降りてきたオレンジ色のACは、ほぼシンと同じような構成だった。
「こちらは機体構成、兵装共に劣っています。真正面からの撃ち合いでは勝機はありません。」
メティスは左手にショットガン、右腕に射突ブレード。 所謂パイルバンカー、杭打ち機を装備していた。
両肩にはそれぞれ別の種類のミサイルを装備している。
「だったら手数で!」
右肩のマイクロミサイルを展開、同時発射可能な三発、全てを撃つ。
「甘い!」
ミサイルが着弾する瞬間、メティスの両肩の装備、エクステンションから銀色の粉末が噴出し、機体を避けるかのように逸れていく。
「ECS? いや、チャフか!」 シンは奥歯を噛み締めるとFCS(火器管制)をミサイルからショットガンへと切り替える。
「中遠距離戦では不利です。 足を使った接近戦を、ただし右腕の射突ブレードには十分注意して下さい」
「了解」
すぐさまブーストを吹かし、円を描くような動きでメティスに迫る。
「機動力も上かよ!」
後ろを取ろうとしたシンだが、それを上回る機動性、速度で逆に後ろに回りこまれる。
そのまま二機のACは円を描くように撃ち合いを続ける。
「くっ、動きが鈍い!」
シンのイメージする動きとクリムゾンウイングの実際の挙動がかみ合わず、ワンテンポ遅れた動きになってしまう。
ワンテンポの遅れは同等、格下の相手ならば問題は無いが、格上の相手では致命的過ぎる。
「いい加減! しつこいんだよ!」
決定打の無い撃ち合いにムームは痺れを切らし、右手に装備した射突ブレードを振りかざし突撃する。
それを紙一重でかわしたシンは横目に後ろにあった巨大な岩が砕け散るのをみた。
「糞っ! なんて威力だよコイツは!」
背筋に悪寒が走る。 直撃を受けたなら只ではすまない。
「まともに相手をしては勝ち目はありません」
「……戦術と知恵を駆使しろと!」
エマの声に答え、周辺を見渡す。 何か使えそうな物を探すが平原のため遮蔽物すらない。
唯一使えそうな巨岩は先程メティスの射突ブレードに砕かれたばかりだ。
「余所見とは余裕だな!」
今一度射突ブレードを構え、メティスが突撃する。
「場所が悪い……。 態勢を整えないと」
機体前面のブースターを吹かし、メティスに向かい数発の牽制を放ちクリムゾンウイングは後退していく。
「逃げるつもりかい? 逃がさないよッ!」
後退するクリムゾンウイングを逃がすまいとOBを起動、瞬時に間合いを詰める。
射突ブレードがコックピットに向けられた時、シンの中で何かが動き出した。
「こんな所でッ! 俺はァァァ!」
胸の奥に眠っていた、どす黒い感情。 殺意が目を覚ます。
その瞬間。 シンの頭の中で何かが弾けた。CEにて幾度なく味わった感覚。
イメージは水面に落ちる赤い種。 しかし、今までと違うのはイメージのなかに赤と黒の羽が加わっていた事だ。
「何だ!? コイツ、急に動きが!」
瞳から光が失われ、心拍数が下がり、頭の中、思考が澄み切った水のようにクリアになる。
分かる。 敵がどう動くか。
どうやれば性能をフルに引き出せるのか、そして今まで拭えなかった違和感が今はない。
それどころか機体がまるで最初から体の一部であったかのように馴染んでいる。
「あ、当たらない?」
始めての強敵との遭遇に、ムームは焦り、闇雲に乱射する、撃つ。
しかし幾ら散弾とは言え、ほとんど狙いを付けていない弾丸が当たる筈も無く、虚しく空を裂くだけだった。
「くっ、来るな!」
種類の異なる両肩のミサイルを展開。 間髪入れず発射した。
だが今のシンにそんな物が当たる筈も無く、全て寸前でかわしきる。
「避けただと! 全弾を!?」
驚愕し、動きの止まるムームを余所に、シンはOB、オーバードブースト。
コア背面に組み込まれた大出力推進装置を起動。 有り余る推進力が機体を重力の枷から解き放つ。
「……悪いけど、手加減は出来ない」
メティスの真上に位置したシンはそのままショットガンを叩き込む。
ショットシェル、弾殻から放たれたベアリング弾が雨の様に降り注ぐ。
それは正にシンにとって起死回生の一撃。
確かな殺意を込め放たれた散弾は、メティスに無視出来ないほどのダメージを与えていた。
左右のミサイルジャマーは根元から吹き飛び、腕部にも少なくない損傷が残った。
右肩のステルスミサイルは発射口が歪み、使用不能になった。
頭部に至っては完全に潰れていた、少なく見積もって戦闘能力は当初の三割減と言った所だろう。
「くっ……まだ、たかがセンサーとメインカメラがやられただけだ!」
すぐさま使用不能になったステルスミサイルをパージ、後方に着地したクリムゾンウイングに振り向く。
未だ背を向けている筈のクリムゾンウイングは既に体制を立て直し、左腕部のプラズマブレードを展開し、攻撃に転じていた。
「甘いんだよ!」
「馬鹿な!? OBを使って、チャージングも起こさないなんて、まるで……」
強化人間みたいじゃない。 ムームが全てを口にする暇も無く、目前に光刃が迫る。
「チィッ! そう何度も、思い道理にいくか!」
全開に吹かしたバックブーストが雪を巻き上げ、熱によって発生した水蒸気が視界を奪う。
「糞っ!」
シンは構わずブレードを振り抜く。 コアを狙った斬撃は脚部を損傷させるに止まった。
致命打を辛うじて回避したムームはバックブーストを吹かしたまま、先ほどのお返しとばかりにショットガンを撃つ
それに対してサイドステップで散弾をかわし、距離をとるシン。
距離が開き、睨み合う二機のAC。
ムームはシンのミサイルを警戒しながらも、未だ切り札右腕の射突ブレードを残しており
シンは破損部位こそない物のかなりのダメージがあり、迂闊に飛び込む訳には行かなかった。
つまり戦場は膠着してしまっていた。
(……ジナイーダの方はどうなっただろうか)
緊張から極度に乾いた唇を舌で舐め、シンは相棒の安否を思う。
『お前に心配されるほど弱くないぞ、私は』
自信に満ちたジナイーダの顔が浮かび、シンの唇がつり上がる。
さっさと目の前にいる敵を片付けて、合流しよう。
一度操縦桿を放し、手を開き閉じる。
大丈夫だ。 まだいける。
深呼吸をし、呼吸を整え、操縦桿を握りなおし、ペダルを目一杯踏み込んだ。
「ッ!」
膠着状態だった場を破るため、策を練っていたムームの目に敵機が再び動き出したのが見えた。
恐怖と緊張から体が動かない。
(……やられる!?)
その瞬間、大型ロケット飛来し、クリムゾンウイングの目の前に着弾した。
「何ッ!」
シンは巻き上がる雪と粉塵を避け、上空へと飛び上がる。
「ムーム!」
メティスを庇うように黄色と紫の重装AC、ニブルヘイムがシンの前に立ちはだかる。
「……まさか、ジナイーダが?」
あのACはジナイーダが相手をしていたはずだ。
シンの脳裏に最悪の光景が浮かぶ。
またか? また俺は……
「酷くやられたな、大丈夫か?」
ニブルヘイムはメティスに頭部を向け、状態を確認する。
「貴方こそ、ここから巻き返しましょう!」
ガルムが来た事に平静を取り戻したようだ。
「二対一。 やれんこともないか」
見定めるようにクリムゾンウイングを見据え、ガルムは呟く。
「お前ら! よくもジナイーダを!」
激昂したシンは狙いをニブルヘイムへと絞り、ミサイルをロック、発射する。
ニブルヘイムは重鈍そうな見掛けからは想像できないほどの動きで全弾を回避。
だがシンはその動きを読んでいた。 移動した先にショットガンを向けていたのだ。
放たれた散弾のおよそ半分がニブルヘイムに命中する。 が揺るがない。
「流石に重量級。 こんな攻撃じゃ効かないか」
間合いを取る為、機体を後退させ、シンは一人思考をめぐらせる。
「……なるほど、ムームが苦戦する訳だ」
寧ろムームには荷の重い相手だ。
ミサイルを囮として使い、こちらの回避する方向を制限し、予測されるポイントへ先に銃弾を叩き込む。
未熟な相手は回避行動をとれず、直撃を受けるしかない。
(素人ではない、戦い慣れている。 下手をすれば、痛い目に合うな)
ちらりと手元の時計に目をやる。
「もう少し時間を稼ぐ必要があるか」
ガルムは一人呟くと、反射的にニブルヘイムの左手に握ったリボルバーハンドガンの引き金を引いた。
クリムゾンウイングの腕部と脚部に数発の弾痕が穿たれる。
「……大したダメージじゃない!」
それでも構わずシンは突撃する。
「こっちは一人じゃない!」
ガルムとの戦いに気を奪われていたシンの側面に回りこんだムームは射突ブレードを構え、目前へと迫っていた。
「しまった」
すぐさまムームへと向き直り、ショットガンを構える。
「貰ったぞ、若造!」
ムームへとシンの注意が向けられる一瞬の隙を待ち構えていたガルムは大型ロケットをクリムゾンウイングへと向けた。
「……こちらも一人ではない!」
聞きなれた声とともに飛来したミサイルが当たり、爆風と共にニブルヘイムの右腕が吹き飛んだ。
「ジナ!」
シンは頼れる相方の登場に歓喜の声を上げた。
「大丈夫か、シン?」
ファシネイターは各部が凍りつき、損傷もしているようだった。
「ああ、無事だったのか」
「すまなかったな。 チープな罠に嵌って動きがとれなかった」
「なら、ここから反撃だ」
「ああ、遅れた分は取り戻そう」
生きていてくれた、失わずに済んだという安堵がシンを包み込む。
相手は強い、だがシンはもはや負ける気はしなかった。
「くっ、あいつら……ガルム、ここは一旦退いて体制を」
「いや、その必要は無い。 もう時間切れだ、悔しいのは分かるがここは耐えてくれ」
ムームの提案にガルムは首を振る、それを受けムームは悔しそうに奥歯を噛み締めた。
「何か様子が変だな?」
動きが止まった相手の様子にシンは首を傾げた。
「……此方から打って出るぞ、シン」
相手の動きに先手を取ることに決めたジナイーダはシンを促す。
「分かった。 行こうじ……」
「若僧! 名前を聞いておこう」
二人が動き出そうとした瞬間ニブルヘイムの外部スピーカーがガルムの声を流した。
「ふざけるな! 貴様、何のつもりだ!?」
挑発としか思えないガルムの行動にジナイーダは激昂する。
「シン、シン・アスカだ」
ガルムの言葉に何かを感じたのか、シンは静かに答えた。
「シン!」
ジナイーダはモニターに映るシンを睨みつける。
「シン・アスカ、その名前、確かに覚えた」
「あんたは名乗らないのかよ」
皮肉めいた口調でシンは返す。
「ふむ確かにレイヴン、ケルベロス・ガルム」
「……ムームだ」
ムームの顔は見えないがシンに対する憎悪は伝わってきた。
「悪いが今日はここでお開きにして貰おう、こちらにも都合があってな」
「逃がすと思っているのか」
余裕の見えるガルムの口調に苛立ちを隠さず、ジナイーダはマシンガンを構える。
「……逃げ切れるさ、貴様等がレイヴンで有るなら、な」
「何ッ!?」
「「レイヴン!作戦領域外より大型ミサイル接近中です」よ」
二人が引き金を引こうとしたその瞬間、シーラとエマからの通信が二人の意識を断ち切った。」
「囮……奴らは最初からそのつもりで」
ジナイーダが力無く呟いたその時、シンとジナイーダの上空を大型ミサイルが飛行機雲を引き、通過しようとしていた。
最終更新:2008年09月22日 13:49