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八神SAAAAAAN!-05

「さて、本日お忙しい中に皆様にお集まりになって貰ったのは他ではありません。欧州課資財調達班のシン・アスカの素行調査結果を
ご報告させて頂きたいと思った次第であります。では、まずお手元の資料をご覧下さい」
 薄暗い会議室の中、これまた薄暗い雰囲気で何やら妙な会議が始められようとしていた。
 参加者は素性を隠す為か、皆一様に黒頭巾を被り、あまつさえボイスチェンジャー
によって声色すら変える徹底っぷりだ。
「僭越ながら、議事進行は私伝説が努めさせて頂きます。宜しいですか?正義、赤チン」
「構わない。続けてくれ伝説」
「承知しました正義」
「って何で私が赤チンなのよ!レイ!」
 黒頭巾を脱ぐと中から現れたのは、赤い髪とスーツになってもミニスカートが心情
のルナマリア・ホークが顔を出した。

「五月蝿いぞルナマリア。お前はこの会議の秘匿性について重々理解しているのか」
「うっさいわね!アスランじゃなくて、ザラ課長が正義でレイが運命。その方向性で
何で私が"赤チン"なのよ。傷薬?私消毒薬なの?もうちょっと考えなさいよ!」
「所詮便宜上の名前だ。気にするな。俺は気にしない。これっぽちも」
「うわっ何かスッゴイムカツクんだけど」
「いいから席に戻れ、赤チン。文句は伝説の報告を聞いてからでも遅くは無いだろう」
「イラっ来た。今私すっごく苛っと来たわ」
「赤チンに構っていると進行が遅れますので、正義こちらをごらん下さい」
 伝説がパソコンを操作すると、プロジェクターから伸びる光が暗闇に走り、パワー
ポイントが起動する。
 トップページには、運命観察日記第三次中間報告書と大業かつデカデカと明記されて
いる。

「六月九日土曜日午前十一時二十三分。JR第二京都駅で運命の様子です」
 プロジェクターには、普段着に着替え、駅前のモニュメントで誰かを待つシンの映像
が映し出されている。
 頻繁に腕時計を確認したり、髪を何度も触ったりと、本人は無意識だろうが、何処と
無く落ち着かない様子が見て取れる。
「もう、ややこしいからシンでいいじゃない」
「しっ!黙ってろ赤チン」 
「はぁ~い」
『もしかして待たせた?』
『いいや、今来たとこだ。ティアナさんこそ、そんなに急がなくても良かったのに』
 急ぎ早に走ってきたティアナを、頭を振るいながらやんわりと制すシン。
 まるで、ドラマのシーンを切り出してきたかのようなベタな展開にルナマリアの限界
値は一瞬で振り切れ雲海の彼方へと飛び立っていく。
「痒い。痒いわ!もう全身かゆかゆよ!それに嘘付きなさいよシン。アンタ、報告書通
りなら一時間も前から待ってるでしょ!って言うか年下に"さん"付けなのかアンタは!」
 ルナマリアは、バンバンと報告書を打ち鳴らし、腹を減らした虎のように「がああ」
と唸り続けている。
 映像には件の人物をシンが挨拶する場面が映し出され、報告書によれば、シンが駅前
に到着した時間は午前十時半。
 ティアナとの待ち合わせの時間が十一時半だから、シンは、キッカリ一時間前に駅前
に立ちソワソワしていた事になる。本当にお約束を外さない男である。

「赤チン。少し静かにするんだ」
「うぅ、私の時は平気で一時間は遅刻してきた癖にぃ。シンのあほぅ」
 ルナマリアはグッタリと机に突っ伏し、モゾモゾと芋虫のような動きをしながら、なにやらブツブツを嘯いている。
 はっきり言って不気味以外何者でも無い。
「赤チンと運命は距離が近すぎただけだ。互いに異性を認識する前に深い仲になった弊害だな。
友達付き合いの延長線上だったのか、そうでないか。当事者の赤チンが一番良く分かっているだろう。後、気持ち悪いからその動きは止めろ」
「いきなりマジトークしないでよレイ…って言うか人の恋愛を勝手に推測するな」
「それはすまなかったな。で、続けていいか、ルナマリア?」
「あぅ…お願い」
 ルナマリアはさめざめと涙を流しながら、プロジェクターに視線を向ける。
 映像がズームされ、シンとティアナの様子が鮮明に表示される。

『今からどうする?』
『まず飯でも。ティアナさん、何か食べたい物ある?』
『そうね。何でもいいけど』
『なら、大通りの方行こう。この間美味い店見つけたんだ』
『そうね。ならそうしましょうか』
 シンの態度はぶっきら棒に見えて、何処と無く柔らかい物があり、相手を気遣っているのがバレバレだった。
 連れだって歩く二人だが、肩が触れあうか触れ合わないかのギリギリの距離を保ち、
二人の今の互いを思う距離感を如実に現している。
 二人共見ようによっては、仲の良い兄妹に見えるが、歳の離れた男女が逢引をしている
ように見える。
「一応シン本人に聞いた所、買い物に付き合った"だけ"だそうですが、この様子を見る
と何処まで信用して良いのか分かったものではありません」
「そうね…」

 ルナマリアの額には怒りの四つ角が既にダース単位で発生し血管が浮き出ている。
 二人はやがてオープンカフェに入り、簡単な昼食を取るようだった。
 シンは、運ばれてきたランチを黙々と口に運び、何故かティアナは、その様子を上機嫌
に見つめている。
『ちょっと、アンタ。食べかす頬っぺたについてるわよ、見っとも無いわね』
『あ…あぁ、悪い』
 本当に何気無い仕草で気を付けていないと見落としそうになってしまう。
 ひょいとティアナは、シンの頬っぺたについたベーコンを取り、自分の口へと運ぶ。
 シンは、特に何とも思っていないのか、皿に残ったパスタをフォークで集め口に運び続けている。
 傍から見れば途轍もなく恥ずかしい情景が繰り広げられているのだが、恐らく今は全
ての感情が食欲に向いているのだろう。
 そんな、シンを見たティアナは、頬を指でかき「まぁいいか」と言った具合にで自分の
皿へと意識を移している。
 プチっと、本当に些細な音が聞こえる。
 だが、確実にルナマリアこと赤チンの血管が切れる音を隣に座るアスランは聞いていた。
(怖えええ)

「落ち着け私。落ち着きなさいルナマリア・ホーク。そうよ今の私はルナマリア・ホークでなく、只の赤チン。
消毒液よ消毒液なのよ。だから、あんな小娘がシンに粉掛けようと対した事じゃないの。ねえ、私」
 ポーチからコンパクトを取り出し、青筋を立てながら、鏡越しに自分に語りかけながら
うっとりとするルナマリア。
 アスランは「どんなセルフコントロールだ」とゲンナリとした様子でルナマリアを見つ
め、視線を再びプロジェクターへと戻す。
 場面はいつの間にかカフェから駅前屋台広場へ映っている。休日だけあって、広場は人混みでごった返し、
案の定と言うべきか、殆どの客が家族連れかカップルばかりで、皆甘い物を楽しみながら休日に彩りを加えている。
「私だって、駅前広場ならシンと良く行ったもんね!」
 果たして誰に張り合っていると言うのだろうか。
 ルナマリアは、机から体を乗り出し、映像の仲の二人に噛み付かんばかりに呻き声をあげている。
 シンとティアナは、極有り触れたアイスクリームの屋台に並び、これまたベンチに腰掛け何気無い会話を交わす。
『チョコばっかりだな』
『良いじゃ無い好きなんだし。こんなとこで気を使っても仕方ないでしょう』
『あんまり食べ過ぎると太るぞ』
『…こ、これ位問題ないわよ、ちょっと!』
『勿体無いだろ。それにこれ以上食べるとやっぱり太るぞ』
『…ア、アンタねぇ』
 と、シンはこれまた何気無い仕草でティアナの頬についたアイスを拭い、自らの口に運ぶ。

「ああ!」
 ルナマリアが突然立ち上がり、プロジェクターに若干本気めの殺意をぶつける。
『なんだよ、手はちゃんと洗ってるぞ』
『分かってるわよ』
 シン本人は全く意識していないようだが、ティアナの方は耳朶を赤く染め、口をパクパ
クさせている。

「あの小娘。私でもそんな事された事無いのにいいい!」
 ついに怒りが我慢の限界を超えたのか、バキリと言う音と共に硬スチール製のデスクが罅割れる。
「正義。私は赤チンの限界点が今一よく分かりません」
「奇遇だな伝説。俺も良く分からない。多分、自分がされた事が無い事をされると、速攻でメーター振り切るんじゃ無いか?」
「なる程…」
 ルナマリアは二人が止める間も無く「クケケケケ」と奇声を発しながら、椅子でプロジェクターの破壊に元気に精出していた。
 纏っている空気が鬼気迫り過ぎて、二人はルナマリアに近寄る事すら出来ない。
 ドッカン、ドッカンと剣呑な音が会議室に響き、プロジェクターとレイのパソコンが粉々になった所。
「あぁいい汗かいた!」
 すっきり爽やかと言った様子で、軽やかに席に着いた。
「気が済んだか…赤チン」
「ええ…少し落ち着いたわ」
(これだけやっても少しなのか)
 女は恐ろしいとアスランの背中に大粒の冷たい汗が流れる。。
 アスランはルナマリアの蛮行を見てみぬふり決め込み、これが母校のナンバーワンアイドルの成れの果てだと自戒を込め、
アメフトの試合で華麗なチアガール姿を綺麗な思い出としそっと封印した。

「だが、不味い…これは不味いだろシン」
 今はまだ清い交際?を保っているかも知れないが今後どうなるか分からない。
 あまり言いたくない話題だが、自分を含め男は基本的に狼なのだ。どれだけ自制心が強
かろうと、一度プッツンいってしまえば止まる事を知らない生き物なのだ。
「そうだ、ホテルに入る写真をフライデーか何処かに撮られて、それをネタにザフトかアクタイオン社に持ち込まれたら…
スキャンダル…株価大暴落…代表が泣く。カガリは今泣いているんだぞ!シン!もとい紹介した俺の面目が丸つぶれだ!」
 アスランは幅跳びの世界選手権で優勝出来程の論理を飛躍を見せつけ、もう完全に目元
が黒くなり妄想と現実の区別が付かなくなってしまっている。
「まぁ…あそこで何故か唸ってるアスランは放って置いて…実際ルナマリア。お前はどう思う?」
「どうって…何がよ」
「お前はシンの恋人だろう。今のシンがティアナ・ランスターに向ける感情が恋愛感情かどうか分からないか?」
「"元"恋人"よ。アンタ、わざと言ってるでしょう…今の私にシンの何かを言う資格なんてないもの」
「だとしても、俺を除いて最近までシンの一番近くに居たのはお前だ。何か感じる事くらいあっただろう」」
「分かんないわよ。彼女だったからって、私、シンの全部知ってるわけじゃ無いもの」
「情けないな」
「あんですって?」

 その時アスランが正気ならば、薄暗い会議室の中で稲光が交錯したのを確かに見ただろう。
室内の気温が下がり、二人の怒気に呼応するように気圧が極端に低下していく。
「ちょっと今の聞き捨てならないわね…私よりレイの方がシンの事詳しいですって?」
「俺はシンの親友だからな。親友とは最も親しい友とか書く。つまりは、シンと生涯を共にする存在と言う事だ。
俺はシンの婿だしな。知らない事は無い。無くても聞けば教えてくれるはずだ」
「ホモは黙ってなさい」
「腐女子も黙っているがいい。シンは気が付いて無いかも知れんが、ベットの下に男×男の如何わしい本を持っているなど
全くもって汚らわしい。そんな君が俺と同じくシンの幼馴染で元恋人だと!全く厄介な存在だよ君は!」
 テンションが上がったて来たのか、異母兄弟のクルーゼそっくりの言い回しになるレイ。
 こうなると彼を止める事が出来るのはオーブ統括西日本部長のギルバード・デュランダ
ルかシンのデコチョップしかない。
 真に残念な事に両人ともこの場にはおらず、つまり、二人を止める物は何も無く、口喧嘩はヒートアップして行くだけだ。
「残念でしたあ、シンはその事知ってたもんねぇ。知った上でスルーしてくれた優しい奴だったもんねえ。
って言うかアレはファンタジーよファンタジーなの。空想の世界の産物を現実世界に持ち込んでくる方がナンセンスよ!
大体現実世界のヤヲイは汚いのよ、あっシンは全然別ね!」
「馬脚を現すとはこの事だなルナマリア。お前の穢れた妄想の産物にシンを利用するなど
言語道断。元恋人として勿論、幼馴染としても異を唱えさせて貰おう!」
「ホ○パワー全開の女装野郎に言われたくないわよ。頭ん中ぶっ飛び過ぎて終わってるじゃないの!」
「勘違いするなルナマリア。俺は最初から最後までクライマックスだ!主にシン方面で」
「黙れや変態…」

 因みに本来突っ込み役のアスランだが、その後の人生をどんな風にシミレートしたか知らないが、
真っ白に燃え尽きたボクサーのように机にガックリとうな垂れて絶望している。
 一体何をどう考えれば、そんな精も根も尽き果てた状態になるのか、甚だ疑問だが、今
のルナマリアとレイには些細な事だった。
 むしろ邪魔?とさ言える雰囲気だ。
「さっきから聞いてれば!未だに未練タラタラでは無いか!」
「ったりまえでしょ。アンタは分かって無いかも知れないけど、シンって超優良物件なのよ。
オーブの最前線でエース張ってるし、仕事方面だって将来有望だし、スポーツ万能だし、あれで結構頭も良いし、
炊事洗濯も一通り出来るでしょ、我侭言っても基本的に聞いてくれるし、コスプレしてくれるし、夏と冬のイベントに
連れてっても顔引き攣らせるだけで文句の一つも言わず付いてきてくれるし、何よりマユちゃんが可愛いしぃ、それから、それから」
 シンの良い所を上げる度に、ルナマリアの語尾がドンドンか細くなって行く。
 今のルナマリアは、まるで、親と逸れ不安意脅える幼子のようにも見えた。
「じゃあ、何故別れたと言うんだ全く…」
「…私は別れたく無かったわよ…」
「…すまない。俺が無遠慮だった」
「いいわよ…別に」

 地雷を踏んでしまったのか。
 急に生気を失くし、ドンヨリと塞ぎこんでしまうルナマリア。
 レイは、シンとルナマリアが別れた原因を直接は知らない。
 シンからは「ルナが俺の事嫌いになった」と聞かされただけだ。
 だが、ルナマリアの様子を見る限り、どうにもシンとの別離を後悔しているように見えた。
「俺は…便利屋では無いんだがな」
「何よ急に」
「兎に角二人共。シンの対処は"親友"の私に任せて頂きたい。バッチリ事の仔細、シンの気持ちを聞いて来ようと思っている」
「…まぁそんなに…言うならレイに任せるわよ」
 自分で聞ければ一番良いのだろうが、今のルナマリアにそんな度胸は無かった。
 ムカツク事実だが、シンとレイは親友同士だ。男にならば言える事もあるだろう。
 寄りを戻すと言うより、もう一度お互いちゃんと話したい。
 別にあの娘の事が好きならそれでいい。
 でも、せめて、シンの言葉で直接今の気持ちを聞きたい思うのだが、あれこれ考える内に
、随分時間が経ってしまっていた。
 ならば、とっとと電話の一つでもして約束すればいいのだろうが、二十代も半ばに差し掛
かるとと一度突き出した槍は中々引っ込める事が出来ないのだ。
 繊細な乙女心はそんな事を思いながら、レイに一縷の望みを託したのだ。

「頼むぞレイ。俺の命運はお前にかかってる。このままじゃ俺は終身刑だ」
「アスランは、いい加減こちら側に戻って来てください。午後の仕事に差し支えます」
 生ける屍と化したアスランは、生気の抜けた顔でレイに懇願するように抱きついてくる。
 レイは、面倒くさそうにアスランを引っぺがし、総務のメイリンに引き取りに来るように連絡する。
「本当に任せていいのね」
「ああ…勿論だ。俺が望んでいるのはシンの幸せだけだ」
「アンタは本当に敵か味方か分からない奴よね」
「気にするな。俺は気にしない」
 黒頭巾を脱いだレイの笑顔は、女性のルナマリアが見ても美しいと感じる程慈愛に満ちていた。

「って言うか何で黒頭巾被らないといけないのよ、レイ」
「こんな事に会議室を使ってる事がバレたらギルに怒られる」
「…そりゃそうだわ…ね」
 やってる事が無茶な割にはレイ・ザ・バレルはそことなく常識人だった。





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最終更新:2008年10月13日 23:44
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