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First stage-02

 ――翌日。

「毎度のことだけど、気付けばこんなことになってるんだよな……」
「まぁまぁ、いいじゃない。たまにはこんな休日でも」
「……今日はな、豆腐が安かったらしいんだ」
「あ、あはははは……あ、ほら雪歩。そんなに離れてるとはぐれるよ」
「う、うん」

 特売のショックを引きずりながらもふらふらと街を歩く。
 隣には真、そして少し離れた場所から雪歩も付いてきている。二人とも今日はオフなので私服だ。

「そういえば真、今日はいつものジャージじゃないんだな」
「うわ、ヒドイなぁ。ボクだって万年ジャージなわけないって」

 少し不機嫌になった真を上から下まで眺める。
 赤いタンクトップに白黒のストライプの入った半袖のパーカー、黒いスラックスと珍しくはあるが真
らしいスタイリッシュな服装だった。

「そりゃそうか、悪い。でもその服も似合ってるな」
「うぅ、喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑だなぁ」

 眉根を寄せて渇いた笑みを浮かべた真だったが、チラリと後ろを歩く雪歩を見てこちらへ顔を
寄せてきた。

「ねぇシン、雪歩何かあったの?」
「あぁ、実は……」

 昨日律子にした説明と一言一句同じことを告げると、真は得心がいったように頷いた。

「なるほどね、まぁなんとなくそうじゃないかって思ってたけど」
「おかげで昨日からずっとあんな感じでさ……なんか初めて会ったときに戻ったみたいだ」

 もっともあのときはそれほど時間を置かず1メートル以内に近づいても大丈夫にはなったので
実際のところより悪化したと言っていい。
 昨日の収録からずっとあんな調子なのだろうか? そう考えるとやはり心配になる。
 気は弱いが芯の強さを持っている雪歩だから一晩立てば雪歩なりに立ち直っているのではと
考えていたのだが、どうやら楽観しすぎていたらしい。

「ふ~ん……」

 若干責めるような視線を感じたが、その意味を問いかける前に真が口を開いた。

「それじゃ、とにかく雪歩の気が紛れるくらいジャンジャン楽しもうか!」
「それはいいけど……結局どうするんだ?」

 とりあえず、と前置きして真はピンと指を立てた。

「あそこに行ってみよう」

 その指先は、都内有数の規模を誇るゲームセンターへと向いていた。



 平日ではあるが、中はかなりの人で賑わっていた。
 ざっと眺めてみるとカップルが多いようだった。ちらほらと学生服が見えるのは……まぁ自分たち
も言えた義理ではないのであえて何も言わない。

「思ってたより人が多いな……大丈夫か雪歩?」

 怯えていないかと振り返ってみたが、意外なことにそわそわしながら辺りを見渡す雪歩がいた。

「え? どうしたんですか?」
「いや、心なしか楽しそうだなぁと」
「あ、あまりこういうところに来ることがなかったから……お父さんから止められてたし」
「そっか、雪歩の家ってそういうとこ厳しいんだったよね」

 真の言葉にそういえば雪歩って箱入りのお嬢様だったっけ、と今さら思い出しながらUFOキャッ
チャーを指差す。

「それじゃ手軽にああいうのからやってみるか。あれなら初めてでもできるだろ?」
「は、はい」
「あ、あのぬいぐるみカワイイなぁ。よぉし! それじゃあれからやってみよう!」
「おいおい、待てって真。ほら雪歩……って、あ」

 つい差し伸べてしまった手を慌てて引っ込めようとしたが、その直前に細い指に捕まえられた。

「雪、歩?」
「い、行きましょう。ほら、真ちゃんも待ってるし」
「いや、そんなに急がなくても……」
「とにかく行くんです!」

 手を引こうとしていたのにいつの間にか手を引かれている現実に戸惑いながらも、雪歩がいつに
なく楽しそうにしていることに安心していた。

 ――これで少しは気が紛れたかな……

 真にUFOキャッチャーのやり方を教わったはいいがわたわたとクレーンを動かす雪歩を見なが
らそんなことを考えていた。

 ……後になってから思う。なぜこの雰囲気を保つことができなかったのかと。
















 ガツンという重い衝撃に腕を通じて全身に痺れが走る。それでもなんとか打ち返せたプラスチッ
クの円盤が台の上を滑っていき、真の手前にあるゴールへと一直線に向かっていく。
 スピードは充分、しかし単純な軌道だったからかあっさりと弾かれた。
 壁にぶつかりながらこちらに飛んでくるパックを今度は短いストロークで打ち返す。
 短く、速く、そして強く。そうしなければ瞬き一つする内にやられてしまう。
 ……すべては真の一言から始まった。

「シン、あれやってみない?」
「ん? エアホッケーか……あんまりやったことはないけど」
「できるなら大丈夫だって! あ、雪歩はどうする?」
「わ、私はとりあえず見ておこうかな……」

 最初は気軽にやるつもりだった。
 しかし一点取られ、一点取り返したところで自分の負けず嫌いに火が着いた。おそらくは真もそう
だろう。
 次第にパックのスピードが増ガツンという重い衝撃に軽い痺れを感じながらも何とか真の一撃を弾き返す。
 台の上を滑るプラスチックの円盤が青い軌跡を描きながら真の手前にあるゴールへと向かってい
くが、すんでのところで跳ね返された。
 壁にぶしていき、わずかでも気を抜けば残像を追うことすらできないほどに
までなっていた。
 周りが騒がしい。視界の端の雪歩があわあわと右に左に顔を動かしている。
 だがそれに気をかける暇はなかった。
 真の鋭い視線がぶつかる。笑っていた。自分もそうなのだろう。
 ……かれこれ十数分は打ち合っているだろうか。あるいは一分も経っていないのかもしれない。
 久方ぶりの高揚感だった。ヨウランやヴィーノたちとやりあったこともあったが、そのときとは比べ
物にならないほどにエキサイトしていた。

「はわ、はわわ……」

 雪歩の声の目を回したような声が聞こえる。同時にパックが台の中央で動きを緩めた。
 絶好のチャンスに身を乗り出してスマッシャーを振りかぶる。ほぼ同時に真も目の前まで突っ
込んできていた。

「うおおおおおおおおおっ!!」
「でやあああああああああっ!!」

 ほぼ同時に渾身の一撃が叩き込まれる。全力を叩き込まれたパックはくるくると回りながら宙へと
舞い……

「「あ」」
「え?」

 ――スコーン!

「ひゃうっ!?」

 雪歩の額に直撃した。
 雪歩は派手に頭を仰け反らせてそのままバッタリと仰向けにぶっ倒れてしまった。

「うわあっ! ゴメン雪歩!」
「ゆ、雪歩大丈夫か!? しっかりしろ!」
「はうううう……」

 幸い雪歩に大きな怪我はなかった。
 しかしショックを受けたのか、また雪歩は元の状態に戻ってしまった。
 派手に騒いでしまったからか周りの人間が真と雪歩のことに気付き、慌しくなり始めたので急いで
ゲームセンターから離れることにした。
 雪歩の手は、握ることができなかった。






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最終更新:2008年10月24日 23:32
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