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シンとデス子⑦

『シンとデス子⑦』

…2年前。あのメサイヤ決戦で、オレは負けた。 
あの裏切り者――アスランに…。
議長の示したデスティニープラン。遺伝子による適正情報を元に、それぞれ自分に合った生き方を歩むシステムであり、『争い』という
キーワードを産まれる前から排除する、おそらくは唯一の反敵対防御対策。 
オレはそれに縋った。 
オレのように、戦争で大事なものを無くす人間が、もう二度と現れる事の無い…そんな世界の実現の為。  
矛盾してる?オレの今までの行動が? 

そうだな。否定はしないよ。オノゴロで家族を亡くしてから、プラントへ渡ってザフトに入隊。最新機に乗って撃って、討って、斬り裂いて、引き裂いて、撃墜して…人を殺してるんだからな。どれだけオレが殺したかなんて解らないさ。 もうオレと同じ境遇の人間を生み出したく
ない。そう思ってるオレが、同じ境遇の人間を生み出してるんだ。…言われて当然だったよ。ああ、認めるさ。 

―――だけど…いや、だから…かな? 
オレは負けた。負けて当然だったんだろうな。幾ら裏切り者でも、その時のアスランには揺るがない信念があった。オレは、最後の最後で
揺らいでしまったんだから。 
惨めに負けたオレを待っていたのは、勝者となった偽善者が差し伸べた手だった。 

『一緒に…戦おう。』

冗談じゃない。 
オレと同じ、真っ赤に染めた手をしている癖に。 
幾らも殺した手で。 
自分が沢山殺してきた事実を――オレの家族とステラを奪った事も――見ないで不殺を貫き、自分は綺麗だと主張するような奴。
勝者になって、オレ達の威信や名誉、誇りや道しるべさえも奪った後…抜けぬけと傲慢にも差し伸べた手を取る程、オレは聖人じゃあ
ないよ。 
オレは黙ってそいつの前から立ち去った。  
その時アスランやメイリン、あのラクスやルナも居たけれど、気にしなかった。 

その後すぐ…かな。ルナとは別れた。 
元々互いに傷を舐め合ってただけだったんだ。長続きなんてしないに決まってるだろ。 
それと同時にザフトを退役した。 
プラントはラクスが議長になり、裏切り者がトップに立っても誰も何も言わない。そんな所にいたくなんて無いから。 

―――それからのオレは、自分で言うのもアレだけど…『抜け殻』だったんじゃないかな。 
昼も夜も区別が付かない。何もする気力が無い。 
食事もまともに採れない。…まともに頭が働かない。 
そんな時だった。 
ぼんやり見ていたニュースが報じていた、ザフト軍MS格納庫から機体が消失したという事件。 
普通、消失なんてするはずが無い。大方強奪されたか何かだろう…うっすらそう考えていた。 

その報道の数日後―――オレは『アイツ』に出会ったんだ…。


突然、オレの住むアパートのドアが乱暴に叩かれた。騒がしいとは思ったけど、全てにどうでもいいと感じていたオレは、ノロノロとドアを
開けた。 

…ドアを開けると、夜中だというのに女の子――まだ幼い――が大きな瞳を潤ませて、オレを見ながら立っていた。 


ふわふわした、肩まであるかないかの金髪、青い瞳、見た目8、9歳位の小さな女の子。 
「…マスター…」
その子は一言呟き、次の瞬間オレに飛び掛かり抱きついてきた。 
「マスター、やっと会えたです!」

その時のオレは、久しぶりに頭が高速回転したよ。 即座に聞いたさ。お前何なんだよ、って。 
「マスター、わたしデスティニーです!」
…馬鹿馬鹿しい。 
それが最初に浮かんだ一言。 
誰が信じるかよ、そんなおとぎ話。 
でも、不思議な事に、そう一瞬考えた後…オレの頭は凄く冷静に考えていたんだ。 
数日前のMS消失事件。 
自分をデスティニーと名乗る少女。 
考えてみれば、この子がデスティニーの名前を知っているはずが無いんだから。消失の前後、その格納庫でMSが起動した痕跡は
無かったらしい。 
じゃあ…目の前の少女は…?

「マスター、信じて貰えないかもですけれど、デスティニーはデスティニーなんです~!」
デスティニーを名乗る少女は、舌の回らない子供らしい声で必死にオレに語りかける。 
…先程までとは違い、オレはすっかり事態を呑み込んでいた。 
つまり、この少女は紛れも無くあのデスティニーだと。 
自分の頭がいかれたかとも思わなかったよ。不思議とね。 
まずはデスティニーを部屋に入れ、たどたどしい話を聞いた。 
長いから要約するけど… 曰く、デュランダル政権のフラグ的な機体だったデスティニーが、現体制の改革推進派の手により解体される事になった前日、デスティニーはこの『デスティニー』の姿になり、必死に基地格納庫から隠れながら逃げてきた。 
不思議とオレの居る場所は感じ取れるから、後はここまでひたすら走って歩いてきた…そんな所だ。 

「えっく…デスティニーは怖かったですよ…ひっく…いっぱい怖い機械を持った人達がデスティニーを怖い顔して見てたです…ぐすっ…」
余程怖かったんだろうな。話しながらデスティニーは泣いていた。 
デスティニーが解体される事になった理由まで、このデスティニーは知らなかったみたいだけどオレには察しがついた。 
「みんなデスティニーを壊そうとしてたです。デスティニー、怖くてマスターの所に来たです。淋しかったです…う…うわぁぁぁぁんっ!!」
大きな瞳から涙を流し、とうとう泣き叫び始めたデスティニー。 
そんなデスティニーを…おそるおそるだったけれど…オレは抱き締め、デスティニーに囁いた。

―――大丈夫。大丈夫だから。 

―――怖かったろ…もう、大丈夫だ。 

怯え、泣きじゃくっていたデスティニーは次第に落ち着いていった。 
「ひく…えぅぅ…マスタぁ…」
震えてる。デスティニーが震えていた。 
小さなデスティニーを宥めていると、暫く嗚咽が続いていたものの、腕の中でデスティニーは眠りについた。 
未だ涙の後が消えないデスティニーをベッドに寝かせ、その小さな手を握る。 
MSだったなんて信じられない…この確かに温もり。 オレがザフトを去ってから、格納庫でずっと淋しい思いをしていたんだろうか。
解体される恐怖に晒されて。オレを呼んで、求めていたんだろうか?  
眠るデスティニーの表情は、あの悲しい少女を彷彿とさせる。―――ステラに、重なる。 
デスティニーを眺めていたオレには、既に今までのような抜け殻な気持ちは消し飛んでいた。 

守る。 
守るんだ。 
今度こそ…守ってみせる。何故MSが人間になったかなんて知った事か。 
自分の乗機だった責任じゃない。 
ステラに似ているからでも無い。 
マユを重ねている訳じゃない。 
この儚い少女はオレを求めて来た。 
オレを…こんな、血の染み付いた手で、小さな手を握るオレを。 
ならばオレに出来る事は何だ? 
この子を守るんだ。全力で、絶対に。 
そして願わくば、ずっと人間として生活出来るよう、教えていかなければならない。  
それがオレの務めであり、オレの義務だ。 
僅かな時間でそう決心したオレの思考が異常かどうかは、判断は任せるよ。 
ただ、否定も同意もしないけど。  


それからデスティニーには『デス子』って当面の呼び名を付けた。デスティニーじゃ、流石にまずいからさ。 
案の定人間社会の事なんて全然知らないデス子に、必死で色々教えたよ。 
ただロールアウトして間もなくの機体だったからか、新しい事はスムーズに吸収していった。幼児並の事しか知らなかったデス子も、今ではちゃんとジュニアスクールに通ってる。二年生だよ。 
料理とか家事も、危なっかしいけれど一緒にやってるしな。 
さて…こんな所かな。 
デス子「マスターマスター、早く来てですよ~!」
ハイハイ…悪い、デス子が呼んでるから。 
ん?あなたにとってデス子の存在とは? 
…そんなの決まってるよ。 

「―――大事な、本当に大好きで大事な…家族だよ…。」 




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最終更新:2008年10月24日 23:45
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