アットウィキロゴ

わくどきパニックお子様ランチ 鳴動編

これまでの登場人物紹介(注:以下の登場人物は全て本ssのオリジナルキャラクターです。捏造です)

ハイネ・シュト―レン:未来から来たフォルテの長女を名乗る十代前半の少女。
ルナ・フランボワーズ:蘭花の娘だという十歳前後の自称未来人。(今回出番なし)
レイ・ブラマンシュ :赤い瞳以外は「母親」と瓜二つな自称ミントの未来の子供。(今回空気)
ステラ・アッシュ  :ヴァニラの面影を持つ時を翔ける幼女。(出番? なにそれおいしいの?)
マユ・シラナミ   :謎の偽ミルフィーユ。シンや本物のミルフィーユとの関係は不明。

前回までのあらすじ:「子供」達の大いなる野望が明かされました。



 薄暗い雲が瞼のように天を覆い、止めなく降り注ぐ雨の涙が大地を容赦なく打ち据える。
 宵闇に染まる墓地の一角で、少女は土砂降りの雨の中傘も差さず、建てられたばかりの真新しい墓石を見下ろしていた。

 墓標に刻まれた名前は二つ。
 そのどちらもが少女の大切な人であり、またつい先日まで、幼い彼女にとっての「世界」そのものでもあった。
 だが、もうどこにもいない。
 彼女の「優しくて暖かい世界」は、この世界のどこにも存在しないのだ。
 全て〝あの日〟の炎の中で燃え尽きてしまったから……。
 手の中の携帯電話を固く握り締め、彼女は雨粒で濡れた顔を掌で拭った。

 その時、不意に彼女の周りだけ雨が止んだ。
 親譲りの艶やかな黒髪の先端から雨の滴を滴らせたまま、無言で顔を上げる彼女の視界に、見知った影が映り込む。
 いつの間にか、一人の老紳士が少女の背後に立ち、片手に持った傘を彼女の頭上へ差し出していた。
 知っている顔だ、両親の知り合いで家にも何度か来たことがある。

「――空が、泣いてますねぇ……」

 傘の縁から覗く雨空を見上げながら感慨深そうに見上げる老紳士を、少女は不愉快そうな眼で一瞬睨み、しかしすぐに正面の墓標に視線を戻した。

「……ねぇ、ちゅーさ。わたし、今度名前が変わるんだ」

 傘を手に佇む老紳士に背中を向けたまま、少女はか細い声で口を開いた。

「叔父さんと叔母さんが新しいお父さんとお母さんになるの、だからわたしの名前も変わるんだって。わたし……お父さんとお母さんの子供じゃなくなっちゃうんだ」

 両親の墓を見つめたまま淡々と言葉を紡ぐ少女の独白を、「中佐」と呼ばれた老紳士はただ黙って聞き続ける。
 まるで罪人の懺悔を受け容れる聖職者のように。

「これって、罰なのかなぁ――ううん、きっと罰なの。生まれてきちゃったわたしへの、お父さんとお母さんを殺したわたしへの、これがきっと罰なんだ」

 まるで自分自身に言い聞かせるようにそうひとりごちる少女の背後で、不意に、砂利を踏み躙る音が響いた。
〝止んでいた〟雨が、再び彼女の黒髪を打ち始める。
 背中の向こうへ遠ざかる足音を聞きながら、しかしもう二度と振り返ることなく、少女はただずっと墓標の前に独り佇んでいた。
 いつまでも、いつまでも……。

 空は未だ、泣き止まない。



 ――トランスバール暦412年

「……貴女達は、残酷です」

 重い沈黙が支配するブリーフィングルームに、ヴァニラの声が静かに響く。

「貴女達は大きな罪を犯そうとしています。過去を殺すことでこれまでの歩みを否定し、未来を殺すことでこれからの可能性すらも消し去る……本当に酷いことです」
「……何が言いたいんですか、ヴァニラさん?」

 淡々と紡がれるヴァニラの糾弾の言葉に、ハイネが険呑そうな視線で問う。

『分からない人達だなぁ、そんなことも解らないんですか?』

 ハイネの問いの呆れたように返すのは、今やエンジェル隊基地のメインシステムを完全に掌握したノーマッドである。
 ブリーフィングルーム奥のモニタースクリーンに『┐(´д`)┌ やれやれ』の顔文字まで表示して自己主張する人工知能を、フォルテがソファの背もたれ越しに振り仰ぐ。

「ノーマッド、シンは?」
『A-10ブロックで偽ミルフィーユさんと接触したところまではトレースしてましたが、直後、反応をロストしました。
 ミルフィーユさんも一緒だったみたいですし、今頃三人仲良く基地のどこかで迷子にでもなってるんじゃないですか?』
「そう、か……なら放っとけ、放置だ」

 投げやりな口調で報告するノーマッドに、尋ねたフォルテも興味を失ったようにぞんざいに指示する。
 ミルフィーユの強運は周知のものであるし、普段何かと不運なシンも非常時の悪運だけは冴えている。
 あの二人が揃っているならば何も心配することは無い……と、楽観的な結論を下し、フォルテは冷めた目で「娘」に視線を戻す。

「あんた達は世界を救う悲劇のヒロイン気取りなのかもしれないけど、それは違う。あんた達のやろうとしてることは正義でも何でもない、ただの大量殺人だ」
「なっ……!?」

 断罪するようなフォルテの科白に、ハイネが激昂したように顔を紅潮させた。
 しかし反射的に口を開きかけるハイネを封殺するように、今度はミントが言葉を綴る。

「貴女方のそのお粗末な――本当にお粗末ですわ――計画が本当に実現可能かどうかはこの際置いておくとして、もし仮に計画が成功したとすれば、一体世界はどうなるでしょう?
 貴女方の言う〝大人のエゴを押しつけられた子供達〟とやらは確かにいなくなるでしょうね……それはそうでしょう、その子達は〝生まれる前に殺され〟てしまうのですから。
 コーディネイターの存在を歴史から否定することで、貴女方は〝コーディネイターとして生まれる筈だった未来の生命〟を永遠に殺し続けるのです。非道いとは思いませんか?」
「コーディネイターは――あたし達は生きてちゃいけない存在なんだ、生まれちゃいけない命なんだ!」
「それを決めるのは貴女方ではありませんわ」

 言い訳するようなハイネの反論に、ミントはぴしゃりとそう言い放つ。

「それにさぁ、アンタ達気付いてんの?」

 言葉を詰まらせる「子供」達に追い討ちをかけるように、今度は蘭花が口を開いた。

「コーディネイターを全部消すってアンタ達は言ってるけど、それってアンタ達自身も消えちゃうってことよね。
 しかもアンタ達はその手伝いをアタシ達に頼んでる……自分が何を言ってるのか、アンタ達本当に解ってるの?」

 まるで一言一言を「子供」達の心に刻みつけるようにゆっくりと語りかける蘭花の双眸が、不意に刃にように鋭く細まった.

「――自分の母親に「我が子を殺せ」って言ってるのよ、アンタ達は」

 憤りを隠すことなく吐き捨てた蘭花の科白が、ハイネ達の胸に容赦なく突き刺さった。



――同時刻、エンジェル隊基地・地下

「あの……物凄く今更なことかも知れませんけど、ちょっと質問良いですか?」

 闇の中を手探りで進む中、先行する桜色の髪の少女、マユ・シラナミが不意にそう言って立ち止まり、後方の二人を振り返った。
 手の中に握られた携帯電話の液晶の光が、マユの動作に合わせて揺れる。

「わたしって客観的に見れば他人の名を騙ってこの基地に潜入した軍事スパイで、しかも捕縛部隊を蹴散らして逃走までしてる危険人物ですよね。良いんですか? 拘束しなくて」
「本当に今更な疑問だな」

 可愛らしく小首を傾げてみせる偽ミルフィーユことマユを半眼で見遣り、シン・アスカが重い息を吐き出した。

「拘束する必要なんてないだろ――お前は何かの用事でエンジェル隊基地に来た、ただの客だろ?」
「……客?」

 とぼけるようなシンの科白に、マユは思わず眉を寄せた。
 探るような視線を向けるマユに「そう、客だ」と念を押すように繰り返し、シンは続ける。

「基地内を徘徊してたのは迷子になってたからで、それを俺が見つけて保護したんだ。捕縛部隊の返り討ちは正当防衛……ってことで押し切れば問題ないだろ。多分。
 色々と穴だらけな屁理屈だけど、中佐の説得にはこれで十分だろ。あの人基本的に事なかれ主義だし。フォルテ達の方は空気を読んでくれることを期待するとして――」

 言いながら、シンは隣のミルフィーユ・桜葉に顔を向けた。

「……え、どうしたのシン君?」

 不思議そうに首を傾げるミルフィーユに、シンはマユを指差しながらこう尋ねた。

「ミルフィーユ、こいつは誰だ?」
「え、迷子でお客さんのマユちゃんでしょ?」

 即答するミルフィーユに、その時、シンの瞳が怪しく煌めいた。

「そう、客だ! お茶と茶菓子でもてなすゲスト様なんだ。という訳で、取り敢えずここから抜け出したらおやつの準備をよろしく」
「はーい! まかせてシン君」

 満面の笑顔で承諾するミルフィーユに、シンも人当たりの良い笑みを浮かべて首肯を返し――、

「よし――計画通り」
「それは彼女を上手く丸めこんだことがですか? それともちゃっかりおやつの約束を取りつけたことがですか?」

 どこぞの新世界の神志望な殺人ノート保有者ばりに邪悪にほくそ笑むシンを半眼で見遣り、マユは呆れたように嘆息を零した。

「……良いんですか? 下手すれば全員――あなた達もです――軍法会議行きですよ?」

 責めるようなマユの言葉に、シンは「良いんだよ」鼻を鳴らす。

「軍事施設に偽者になって潜り込むのは確かに重罪だ。けどお前は一度でも自分からミルフィーユの名前を名乗ったか? 俺達が勝手に勘違いして勝手に大騒ぎしてただけだろ。
 あと今の俺は軍人じゃない――というか人ですらない――から軍のために動く義務も義理も無いし、それにこの程度なら個人の裁量でどうとでもなるのがエンジェル隊なんだよ」
「ええっ!? シン君って箱詰めで特急便な桃から生まれたキス・ターミネーターだったんですか!?」
「待て。いろんな意味でちょっと待てミルフィーユ」

 マシンガンのような勢いで畳み掛けるシンの理論武装(という名の言い訳)に、傍のミルフィーユが素っ頓狂な声を上げた。
 余談だが、トランスバール近辺で〝キスをすると爆発する〟人形爆弾が宅配便を装って送りつけられるという事件が数ヶ月前に頻発し、蘭花もその被害に遭っていたりする。

 閑話休題。

 シン・アスカはトランスバール皇国軍の正式な軍人ではない――否、それ以前に「人」として認められてすらいない。
 ノーマッドと同じく、〝エンジェル隊が回収したロストテクノロジー〟として、シンはエンジェル隊基地に「保管」されているのである。
 要するに「物」扱いされている訳だが、シンは今回、己の置かれたその待遇を逆手に取った。
 ただの「物」――「者」ではなく――であるが故に、軍関係〝者〟が遵守すべき「軍に忠誠を誓い奉仕する義務」は無い……つまりシンはそう主張しているのだ。

「何て言うか、それはどうなんでしょうか……? その、人として……」

 人としての尊厳を完全に無視した、ある意味居直りとも言えるシンの屁理屈に、マユは思わず顔を引き攣らせる。

「……何でなんですか?」

 不意に表情を曇らせ、マユは呟くような弱々しい声でぽつりと問いかけた。
 質問の意味が分からず怪訝そうに首を傾げるシンとミルフィーユを、まるで睨むように険しい顔で見据えてマユは続ける。

「わたしとあなた達は何の関係も無いただの他人――ていうかわたしは侵入者で、ミルフィーユ・桜葉の名前と姿を騙った偽者なのに、どうしてそこまでしてくれるんですか?
 わたしなんか庇ってもあなたには何のメリットも無いのに。寧ろ利用されるだけ利用されて、最後には見捨てられたり裏切られるかもしれないのに、何で優しくするんですか!?
 情けをかけてるつもりなら、やめて下さいよねそんなの。それは優しさじゃなくてただの弱さです。そんな甘い感情が通用する程、この世界は優しくも暖かくもないんですから」

「違う!」

 癇癪を起こした子供のように顔を歪めて、まるで決壊したダムのように一方的に糾弾の言葉を浴びせるマユに、シンは反射的に否定の声を上げていた。

「世界が優しくないからこそ、人は――俺達は優しくなれるんだ。たとえ何度裏切られようと、信じることを諦めちゃいけないんだ。エンジェル隊に入って、俺はそれを学んだ」

 強い口調でそう諭すシンに、マユは下唇を噛み締めながら視線を逸らす。

「何なんですか……あなたは、あなた達は」

 憤るように声を震わせながら問うマユに、シンは「決まってるだろ」と口を開き――、

「正義の味方だよ」

 ――まるで当たり前のことのように、そう口にした。

 それは場を和ませるための冗談だったのかもしれない、少なくともシン・アスカ自身はそれほど深く考えずに発言したに違いない。

 だが、その何気ないシンの一言は――、

「……ざ、けるな」

 全てを奪われ、何もかもに絶望した少女の、

「ふざ、けるな……!」

〝正義の味方に助けて貰えなかった〟少女の、

「ふざけるなぁぁぁーーーっ!!」

 ――逆鱗に触れた。

 マユの手の中から携帯電話が滑り落ち、乾いた音を立てて地面を転がる。
 落とした携帯電話を一切気にすることなく――寧ろ蹴り飛ばしながら――マユはシンの襟首を掴み、力任せに地面に組み伏せた。

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!」

 仰向けに倒れたシンの上に馬乗りになり、まるで壊れたテープレコーダーのようにマユは「ふざけるな」と繰り返す。
 呪詛のように、八つ当たりするように。

 マユの脳裏に、土砂降りの雨の中で両親の墓の前に佇む黒い髪の少女――〝子供の頃の自分自身〟の姿が鮮烈に蘇る。
 守られるだけだった無力な自分、奪われるがままだった非力な自分。
 正義の味方はいるのだと無邪気に信じて、そして裏切られた愚かな自分。
 大嫌いな昔の「弱かった自分」が、記憶の向こうで泣いて――否、嗤っている!

「正義の味方? 驕るのもいい加減にしてよ……戦争はヒーローごっこじゃないって知ってる癖に、あなたにもわたしにも正義の味方の資格なんて無いって解ってる癖に」

 シンの胸倉を掴み上げ、マユが震える声で語りかける。

「護ることしか知らない癖に、護ることしか出来ない癖に。勝手に護って、それで勝手に満足して死んだ癖に。
 残された〝世界〟のことなんて全然考えてない癖に、わたしたちのことなんて全然考えずに逝った癖に……!」

 ぽたり、ぽたりと、シンの顔に水滴が落ちる。
 暗がりでマユの顔は見えない、だがどんな表情なのかは嫌でも解る。
 マユは今、ミルフィーユと瓜二つな顔を歪めて、泣いているのだ。
 まるで泣き方を忘れてしまった幼子のように、不器用に泣いているのだ。

「ヒーローになるつもりなんて、これっぽっちも無い癖に……期待させるような嘘を言わないでよ……」

 そう言って泣きじゃくるマユに、シンも、ミルフィーユも声をかけることが出来なかった。

 全く、訳が解らなかった。



……To be continued

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年12月29日 15:40
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。