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くろがねジェラシー特盛丼-03

「全砲門開放、出力最大! 喰らいな――ストライクバースト!!」

 全身を重火器で武装したフォルテの紋章機、ハッピートリガーが両腕を広げるように左右側面のレーザーポッドを展開し、機体に搭載したあらゆる兵装を一斉に撃ち出した。

「そんなもの……!」

 雪崩のように押し寄せるビームとミサイルの群れを睨みつけ、鋼鉄の鎧を纏い刃金の翼を広げた巨人の少女、コードネーム〝デス子〟が苛立たしげに表情を歪める。
 右手のライフルで迫り来るミサイルを撃ち落とし、デス子は背中の翼を羽撃かせた。
 鋼鉄の両翼の内側から光の羽を噴出させ、残像を残しながら降り注ぐビームの雨を潜り抜ける。

「ちぃっ、何て出鱈目な機動性なんだ……モビルスーツとやらは化け物か!?」

 敵の異常なスピードにフォルテが忌々しそうに舌打ちする中、弾幕の嵐から脱したデス子は更に加速、背中の対艦刀を左手で引き抜きながらハッピートリガーに急接近した。

「このっ、墜ちろ!!」

 狼狽の声を上げるフォルテを嘲笑うように、デス子は次々と撃ち放たれるレーザーの雨の中を飛び回り、左手の対艦刀を振り上げながらハッピートリガーに肉薄する。
 そのまま仕返しとばかりに振り下ろされたデス子の斬撃は、しかし――両手剣を片手で扱おうとしたせいか――手元が狂い、二連砲の銃身を斬り落とすだけで終わった。

「くぅ……っ」

 致命傷こそ免れたものの被弾の衝撃に(物理的に)揺れる紋章機のコクピットで、フォルテは手元のパネルを操作、半ばから両断された二連砲を機体から切り離す。
 本体から分離し、闇の中をゆらゆらと漂う二連砲は、すれ違うようにデス子の脇を通り過ぎ、その背中の向こうで爆発した。
 思わず安堵の息を吐くフォルテの顔は、しかし次の瞬間、目の前の光景に愕然と凍りついた。
 全天周モニター越しにフォルテの目に飛び込んできたものは、ライフルを手放した右掌にビームの光を集束させるデス子の姿だった。

「吹っ飛べえええぇーーーっ!!」

 怒号を上げながらデス子が光って唸る右手を突き出し、ハッピートリガーに掴みかかる。
 槍の如く突き出される鋼鉄の掌底がハッピートリガーの表面装甲に触れる、その刹那――、

「やらせるかぁぁぁーーーっ!!」

 ――シン・アスカの怒号と共にトリコロールカラーの流星、紋章機トゥルーデスティニーがバーニアを全開に噴かし、デス子の横合いから弾丸のように突っ込んで来た。

 文字通り渾身の敵の奇襲に、デス子はバックステップを踏むように虚空を蹴って後方へ飛び退き、トゥルーデスティニーの体当たりを回避する。
 目標を見失い、しかも方向転換も今更利く筈もなく、トゥルーデスティニーはデス子とハッピートリガーの間を空しく通り過ぎる――筈だった。

「逃がすかものかぁぁ!!」

 トゥルーデスティニーのコクピットで、シンは雄叫びを上げながら操縦桿を倒し、機体を90°横へ傾けた。
 直後、トゥルーデスティニーはバーニアを逆噴射、主翼を軸に独楽のように回転する。
 機体後部から伸びるブレード状のスタビライザーが横薙ぎに振り抜かれ、デス子を真横から殴りつけた。
 予想外の敵の追撃をもろに喰らい、デス子はビリヤードの珠のように弾き飛ばされる。

 だが、シンの攻撃はまだ終わっていなかった。

「――まだまだぁ!」

 咆哮をコクピットに轟かせ、シンは紋章機を更に旋回、機体正面の長距離砲をデス子へ向ける。
 銃口に荷電粒子が集束し、次の瞬間、撃ち放たれた破壊的な光の奔流がデス子を丸呑みにした。
 瞬間、爆発の炎がモニタースクリーンを白く染め、シンは思わず眩しさに目を細める。

 光が納まり、回復したモニターの中央にシンが見たものは――、

「でぇぇぇーーーいっ!!」

 ――左手の盾を正面に構え、右手に持ち替えた対艦刀を振り被りながら接近するデス子の無傷な姿だった。

「墜ちろぉぉぉーーーっ!!」
「――このっ!」

 絶叫と共に振り下ろされるデス子の対艦刀と、再び反転したトゥルーデスティニーのブレードが、宙空で激しくぶつかり合い火花を散らす。

 不意に、まるで背筋を氷の舌で舐められたような悪寒に襲われ、シンは咄嗟にフットペダルを踏み締めた。
 後部バーニアを最大に開放したトゥルーデスティニーが、まるで飛び退くようにその場から後退し――直後、

「目からビィィィーーーム!!」

 ――デス子の紅の双眸から突如放たれた二条の光線が、虚空を薙ぎ払った。

「くそっ……非常識な真似しやがって!」

 機体を再び反転させてデス子と正面から睨み合いながら、シンは舌打ち交じりに毒吐いた。

 長い戦いになりそうな予感がした。



「凄っ……」

 息もつかせぬシンとデス子の攻防に、蘭花が思わず感嘆の声を上げた。
 初めての紋章機を手足のように操るシンの操縦技術も驚異的だが、何より――、

「――紋章機で本当に“格闘”戦する馬鹿なんて、アタシ初めて見た……」

 接近戦用の格闘装備ならば蘭花の紋章機、カンフーファイターも搭載している。
 だがその武装が想定する「格闘戦」とは「スピードを活かした一撃離脱戦法」である、間違っても「本当に零距離で殴り合う」などという変態的な戦い方ではない。

『くそっ……非常識な真似しやがって!』
「アンタが言うな」

 スピーカーの向こうで戯けたことをほざく赤い眼の新入りに、蘭花はこっそりと舌を出した。



「やめて! シン君もフォルテさんもデス子ちゃんも、皆やめて下さい!!」

 全天周モニターの向こうで繰り広げられる激闘にショックを受けたように顔を青ざめさせ、ミルフィーユ・桜葉がパイロットシートから身を乗り出しながら叫んだ。

「どうして……何で喧嘩しなきゃならないんですか!? こんなの絶対に間違ってます!!」
『――ミルフィーユ』

 必死に制止を訴えるミルフィーユを、シンがウィンドウ越しに冷たく一瞥する。

『今回の任務の第一目的はロストテクノロジーの回収か破壊――つまりあいつの捕獲か撃墜だ。それを忘れるな』
「解ってるよ、そんなの解ってるよ! でも他にも方法はあるでしょ、話し合いとか……戦う以外の道もあるでしょ!?」

 冷酷極まりないシンの物言いに悲痛な声で叫び返し、ミルフィーユはモニターの中のデス子を哀しそうな眼で見遣りながらパイロットシートに座り直した。

「撃って撃たれて、撃たれたから撃ち返して、やられた借りは百倍返しで……そんなの、哀し過ぎるよ……」

 そう言って肩を震わせながら俯くミルフィーユの頬を、一筋の涙が流れ落ちた。

「デス子ちゃん! もうやめて!!」

 目元いっぱいに涙を溜めて、ミルフィーユはデス子に力の限りに呼びかけた。

「わたし、デス子ちゃんを傷つけたくないんです! それはきっとシン君だって、皆だってきっと同じ気持ちです!! だからお願い、暴れるのはもうやめて!!」
「……うるさい」

「何もかもを壊して、たった一人のパートナーのシン君とも殺し合って……デス子ちゃんが欲しいのは、本当にこんな悲しい未来なの!?」
「うるさい!」

「帰ろうよ、デス子ちゃん……わたし達が戦う理由なんて、喧嘩する理由なんて無いんだから。一緒にエンジェルベースに帰ろう?
 帰って、迷惑かけた人達皆に「ごめんなさい」って謝って、それで全部終わりにしようよ。それでこんな戦いは終わりにしようよ」

「うるさいうるさいうるさぁぁぁーーーい!!」

 ミルフィーユの説得に拒絶の叫号を返し、デス子は右手の対艦刀を両手で握り直した。

「あなた達が……マスターを奪ったあなた達が、暗くて寒くて誰もいない闇の中に閉じ込めたあなた達が! そんな綺麗事を言うなあああああああああああっ!!」

 逆上したように絶叫しながらデス子は対艦刀を振り上げ、光と刃金の翼を羽撃かせながらラッキースターに突進した。
 赤い瞳の奥で憎悪の炎を燃やすデス子の気迫に呑まれ、ミルフィーユは思わず息を止める。

「あとデス子って呼ぶなぁぁぁーーーっ!!」

 心からの叫びを轟かせながら、デス子は対艦刀を縦一文字に振り下ろす。
 その時、凍りついたように動きを止めるミルフィーユの紋章機、ラッキースターの前に、まるで盾にでもなるかのようにライムグリーンの影が突如躍り出た。
 円盤型のシールドを装備したヴァニラの機体、紋章機ハーベスターである。

「……光波防御帯シールド展開、出力最大」

 ヴァニラの呟きと共に紋章機右肩部の円盤が発光し、ハーベスターとラッキースターを包み込ように形成された光の「傘」がデス子の斬撃を受け止める。

「そんなものっ!!」

 刃を阻む敵のバリアに怯むことなく、デス子は対艦刀を目の前の厄介な光の「傘」へと振り下ろした。

「こんな淋しいだけの世界なんていらない! こんな空っぽの未来なんていらない! 何よりあなた達が一番いらない!! だから薙ぎ払うんです、何もかもを!!」

 胸の中に溜め込んだ激情を吐き出しながら、デス子はバリアを何度も、何度も対艦刀で打ちつける。

「壊して! 薙ぎ払って! 消し飛ばして! 何もかもを真っ白で真っ平にするんです!! ガラクタも宝物も、欲しいものもいらないものも全部!!」

 光の「傘」の表面に徐々に傷がつき、亀裂が広がり……そして遂に限界を超え、バリアは音を立てて砕け散った。
 護りの「壁」を失ったハーベスターにデス子が容赦なく斬りかかる。

「だから……あなた達も撃つんです、あなた達も壊すんです! 今日、ここで!!」

 歪んだ想いを乗せて袈裟がけに振り下ろされたデス子の斬撃が、ハーベスターのシールドを両断した。
 追い討ちをかけるように、デス子は対艦刀を腰だめに構え直し、ハーベスターのコクピットへ迷いなく突き出す。

「この馬鹿!! ――アンカークロー!」

 蘭花の怒号と共にカンフーファイターの両腕、アンカークローがデス子へ撃ち出された。
 敵の不意打ちにデス子は咄嗟に斬撃の軌道を捻じ曲げ、無理矢理振り上げた対艦刀の刀身で左右から迫り来る鋼鉄の鉤爪を弾き返す。

「お返しですっ!!」

 短く叫びながら、デス子は両肩のビームブーメランを引き抜き、カンフーファイターへ大きく振り被って投げつけた。
 緩やかな弧を描いて飛来する二本のブーメランがカンフーファイターの両脇を掠め、アンカークローの射出装置を切り裂きながら通り過ぎる。

「あっぶな……」

 主武装は失ったものの直撃は辛うじて免れたことに、蘭花は安堵の息を吐く――直後、

『――蘭花、避けろ!』

 切羽詰まったようなシンの声が通信回線越しにやかましく響き渡る。
 何事かと思わず後ろを振り返った蘭花が見たものは、Uの字を描くように大きく旋回し、再びカンフーファイターに迫る二つのブーメランだった。
 紋章機後部、推進用スラスターにビームの刃が深々と突き刺さり、激しい揺れがコクピットを襲う。

「斬刑です!!」

 推進部を破壊され、身動きの取れないカンフーファイターに、デス子が――とどめを刺すつもりなのか――対艦刀を振り上げながら急速接近する。

「駄目ぇぇぇーーーっ!!」

 遠ざかるデス子の背中をロックオンし、ミルフィーユが咄嗟にトリガーを引いた。
 機体中央の長距離砲にエネルギーが充填され、ラッキースター最強の武装、ハイパーキャノンが撃ち放たれる。

 闇を呑み込みながら虚空を突き進む極太の光の奔流を、デス子が憤怒の表情で振り返る。

「あなたって人は、本当に……っ!!」

 呪詛の言葉を零しながら背中の大出力砲を引き出し、エネルギーを急速充填させる。

「――本当に、何なんですかぁぁぁーーーっ!!」

 怒りと憎しみを織り交ぜたようなデス子の怒号と共に大出力砲が火を噴き、二色の光の激流が正面からぶつかり合い、互いに喰らい合い、そして相討ちになるように爆発した。

「デスティニィィィーーーッ!!」

 両手の操縦桿を固く握り締め、シンは紋章機のコクピットで怒号した。

 パイロットシートの周囲に新たなウィンドウが無数に展開し、最後に鳥を象ったトランスバール皇国軍の紋章がシンの正面に映し出される。



――EMBLEM FRAME NEO OPERATION SYSTEM

Generation
Unrestricted
Network
Drive
Assault
Module

――Combat Battle Mode…TRANSFORM STANDBY READY.



 G.U.N.G.A.Mとも読める文字の羅列が紋章に重なるように表示され、次の瞬間、トゥルーデスティニーが「変形」を始めた。
 左右の主翼が機体背面へ折り畳まれ、胴体が「く」の字に折れ曲がる。
 後部の推進部はスライドして脚になり、側面アーマー下に格納されていた腕も展開する。
 最後にV字型の角飾りをつけた頭部がせり出し、変形は完了した。

「何、あれ……」
「紋章機が、変形した……?」
「嘘……」

 突如人型に――鋼の巨人に姿を変えたシンの機体に、ミルフィーユ達は驚愕を隠せなかった。
 しかし一番衝撃を受けていたのは、〝変形する紋章機〟という非常識を目撃したミルフィーユ達ではなく、〝自分でないデスティニー〟を目の当たりにしたデス子だった。

「デスティニー――デスティニー、ガンダム……!」

 震える声で、デス子はその名を口にした。

「なぁデスティニー、お前は何がしたいんだ……?」

 戦慄に顔を強張らせるデス子をモニター越しに見上げ、シンはトゥルーデスティニーのパイロットシートからぽつりと呟いた。

「お前は何を求めているんだ? お前は何が欲しくてこんなことをしているんだ……?」

 淡々と紡がれる疑問の言葉は、しかしその実、答えを求めている訳ではなかった。
 全てはシンの自問自答、〝目の前の敵を討つ〟ための自己暗示に過ぎない。

 それとも……と、シンは続ける。
 まるで凍てついた焔のように冷たく熱い、そんな矛盾した光を瞳に宿し、シンは表情を消した顔で〝敵〟を見据える。

「それとも――また戦争がしたいのか、お前は!?」

 シンの怒号と共にトゥルーデスティニーが背中の大剣を引き抜き、〝二人のデスティニー〟の戦いは第二ラウンドに突入した。



――つづく

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最終更新:2009年01月24日 19:53
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