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くろがねジェラシー特盛丼-04

 轟――と、虚空にレーザーの軌跡を描きながら振るわれる対艦刀の一撃が、鮮血色の翼を広げた鋼鉄の巨人、トゥルーデスティニーに襲い掛かる。
 迫り来る鋼鉄の刃を、トゥルーデスティニーは両手に握った大剣で受け止める――が、

「――こ、のぉっ!」

 荘厳な鎧を身に纏う少女、デス子の怒号と共に、力任せに振り抜かれた対艦刀がトゥルーデスティニーの機体を野球ボールのように吹き飛ばした。

「くぅ……っそぉおっ!!」

 揺れる紋章機のコクピットで、シン・アスカは悪態を吐きながらフットペダルを踏み込んだ。
 トゥルーデスティニーの背面スラスターが逆噴射し、慣性を無理矢理殺して機体を制止させる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 体勢を立て直そうとするトゥルーデスティニーに、しかしそうはさせないとばかりにデス子が背中の翼を羽撃かせ、雄叫びを上げながら対艦刀を構えて突進する。
 牽制するようにばら撒かれるバルカン砲の雨を掻い潜――らずに、そのままシンの機体目掛けて真っ直ぐ突っ込む!

「いたたたたたたたた痛い痛い痛い痛い痛いけど痛いなんて言わないっ!!」

 被弾の痛みに泣き顔を見せながらも、デス子は対艦刀の柄を両手でしっかりと握り締め、怯むことなく突き進み、トゥルーデスティニーに肉薄する。
 槍のように鋭く突き出された対艦刀の切っ先がトゥルーデスティニーの盾を貫通し、その奥の本体に深々と突き刺さった。
 手応え――無し!?
 瞬間、串刺しにした筈の敵機の輪郭が崩れ、まるで蜃気楼のように掻き消える。

「ミラージュコロイド……いつの間に!?」

 驚愕したようにデス子が声を上げる、その横合いから――、

「トゥルーデスティニーなら、こんな戦い方も出来るんだよ!!」

 ――ミラージュコロイドの〝隠れ蓑〟を脱ぎ捨てたトゥルーデスティニーが、シンの怒号と共に大剣を振り下ろした。

 咄嗟に対艦刀を振り上げ、迎撃を試みるデス子だったが、刀身に突き刺さった盾の重みで思うように素早く動けない。
 間に合わない……ならば!
 迫り来る鋼鉄の刃をデス子は大口を開けて待ち構え、そして上下の歯で挟み込むように受け止めた。

「なっ……!?」

 瞠目するシンに、デス子は大剣を咥えたまま不敵に笑う。

「ふごご、ふごふご、ふごごごご(今のわたしも、こーゆー戦い方が出来るんです)!!」
「何言ってるのかさっぱり解んねーよ!」

 ツッコミと共に繰り出されるトゥルーデスティニーの回し蹴りを、デス子はバックステップを踏んで躱し、再び前方へ踏み込みながら左手を突き出した。
 反射的に身を仰け反らせたトゥルーデスティニーの鼻先を、掌から撃ち出されたビームの飛礫が掠める。

「まだまだわたしのターンです!」

 言いながらデス子は更に一歩前に踏み出し、敵の懐奥深くへ身体を捻じ込む。
 対艦刀を左手に持ち替え、空いた右手で拳を握り――敵を殴り飛ばす!
 弾丸のように放たれたデス子の右ストレートが、トゥルーデスティニーの横面を打ち抜いた。

「調子に……乗るなっ!!」

 首が吹き飛ぶかと思う程の衝撃に揺れるコクピットで、シンは歯を食いしばりながら操縦桿を押し込んだ。
 トゥルーデスティニーが背面スラスターを全開で噴かしてよろめく機体を踏み留め、その勢いを利用して大剣を振り抜く。
 カウンターで繰り出された斬撃をひらりと躱すデス子に、トゥルーデスティニーは腰のビームライフルを片手で引き抜き、目測で照準を合わせてトリガーを引いた。

「――っ!」

 咄嗟に胸の前で交差した両腕からバリアを発生させ、防御の体勢を整えるデス子に、フルオートで撃ち出されるビーム弾が怒涛のように押し寄せる。
 全弾、命中――ドーム状に展開されたバリアの表面にビーム弾が次々と着弾し、紅蓮の炎がデス子を呑み込む。

「これだけ撃てば……!」

 疲れを滲ませながら呟くシンに――、

「どうなるっていうんですか?」
「――っ!?」

 返答の声は、すぐ背後からやって来た。
 一拍遅れて、敵の接近を告げるアラート音がトゥルーデスティニーのコクピットにけたたましく響き渡る。
 爆炎に紛れて背後に回り込んでいた……?

「そんな小細工っ!」

 悪態を吐きながら振り返りざまに向けたビームライフルの銃口を、鋼鉄の籠手に覆われたデス子の掌が握り潰し――瞬間、閃光と共にライフルが爆散した。
 仰け反るトゥルーデスティニーの脇腹に回し蹴りを叩き込み、デス子は刀身に盾を突き刺したままの対艦刀を、まるで鍬のように垂直に振り上げる。

「脳みそをブチ撒けちゃえぇぇぇーーーっ!!」

 怒号と共に振り下ろされる鍬――もとい対艦刀を大剣の柄で弾き、トゥルーデスティニーは背面スラスターを噴射して後退した。
 デス子も背中の翼を羽撃かせて虚空を舞い、両者は仕切り直すように間合いを開けて睨み合う。
 厄介な相手だ……対艦刀を正眼に構えて油断なくこちらの隙を窺うデス子をモニター越しに見ながら、シンはそう思わずにはいられなかった。
 ただでさえ攻撃を憚る外見である上に、ロストテクノロジーの影響なのか機体(と言って良いのか疑わしいが)性能もトゥルーデスティニーを頭一つ凌駕している。
 加えてこちらの攻撃の悉くを正面から打倒し、ミラージュコロイドを応用した奇襲まで止めてみせたデス子の戦い方は、まるで――、

「――まるで、未来でも視ているかのようだ……ですか?」
「なっ……!?」

 頭の中に浮かんだ科白を、まるで先読みするかのようなタイミングでぴたりと言い当てられ、シンは驚愕に目を見開いた。
 愕然とするシンに酷薄に嗤い掛け、デス子は首を振りながら口を開く。

「それ違います、マスター。わたし未来なんか視てません、わたしが見てるのはマスターだけです。マスターのことならわたしは何でも知ってるんです、何でも解ってるんです。
 そのガラクタの中のマスターが今何を考えてて、今どんな顔をしてるのかまで全部解っちゃうんです。だってわたしは――わたしがマスターの〝デスティニー〟なんですから!」

 恍惚とした表情を浮かべ、歌うように言葉を紡ぎながら、デス子は対艦刀に刺さった盾を引き抜き――それが再戦のゴングとなった。
 片手に握った盾を大きく振り被り、デス子はフリスビーのように投擲した。
 回転しながら迫る盾を頭部のバルカン砲で撃ち落とし、トゥルーデスティニーは仕返しとばかりに両肩のビームブーメランを投げつける。
 緩やかな弧を描いて左右から迫るブーメランを対艦刀の一振りで叩き落とし、デス子は背中の長距離砲を構えた。

「チャージなんてさせるかよ!」

 背面バーニアと両翼のスラスターをフル稼働させ、シンは自分をロックオンする長距離砲の砲口を目指して機体を突撃させた。
 大剣を振り上げながら高速で接近するトゥルーデスティニーに、デス子は悪戯めいた笑みを浮かべる。
 腰から突き出した長距離砲を片手でしっかりとホールドし、虚空を踏み締めながら腰を大きく捻り――、

「チャージなんて……してないです、よっ!!」

 次の瞬間、横薙ぎに振るわれた長距離砲の砲身がトゥルーデスティニーを野球ボールのように打ち返した。
 まさに、ジャストミート。
 振り抜いた砲身を文字通り砕く勢いで繰り出されたデス子のカウンターに、トゥルーデスティニーは為す術も無く吹き飛ばされる。

「言ったでしょう? マスターのことは何でも解るって。撃たれる前に潰しに来ることなんてお見通しなのです!」

 半ばから折れた長距離砲を撫でながら勝ち誇ったように哄笑するデス子に、トゥルーデスティニーの中のシンが口惜しそうに歯噛みする。

「ねぇ、マスター……?」

 無様に宇宙を漂うトゥルーデスティニーを見下すように眺めながら、デス子が虚ろな笑みを浮かべてシンに語りかけた。

「わたし、強いでしょう? わたし凄いでしょう? そんなガラクタなんかより、わたしの方が全然凄くて、わたしの方がずっとずっと強いでしょう?
 そんなの当たり前ですよね……だってわたしがマスターの剣なんですから。わたしがマスターの盾なんですから。わたしがマスターの翼なんですから」

 虚空を蹴り、闇と無重力の海の中をまるで泳ぐように進んで、デス子はトゥルーデスティニーにゆっくりと近づく。
 咄嗟に振り上げようとする大剣を片手で押さえ込み、自身の対艦刀も背中に納めて、デス子は両腕を広げてトゥルーデスティニーを抱き締めた。

「わたしがマスターの〝デスティニー〟なんです、わたしが本物の〝デスティニー〟なんです。〝デスティニー〟はわたし一人で十分なんです、そうでないと嫌なんです……」

 鋼鉄の胸に顔を埋め、肩を震わせながらか細い声でそう口にするデス子に、シンは何も言えなかった。
 本当に厄介な敵だ……緊張が途切れ、急速に鎮静化していく己の闘争心を自覚しながら、シンは小さく吐息を零した。

 操縦桿を握る両手に力が入らない……この強敵を倒す絶好のチャンスだというのに、このまま大剣でデス子を貫けば全てが終わるというのに。
 それで、任務完了だというのに……。
 しかしシンには、出来なかった。
 胸の中で泣いている女の子を殺すことなど出来る筈がなかった。
 そこまで、シンは割り切れてはいなかった。
 トゥルーデスティニーがまるで抱擁を返すように、ぎこちない動作でデス子の背中に両腕を回す。
 既にシンの中では、この少女を敵と見ることは出来なくなっていた。

 だからだろうか……トゥルーデスティニーの胸の中でデス子が口にした――、

「――だから、マスターを殺してわたしも死ぬしかないんです!」

 という科白に、シンは一瞬反応が遅れた。
 咄嗟に振り払ったデス子の両眼に凶悪な光が灯り、撃ち放たれた二条の光線がトゥルーデスティニーの胸部装甲を掠める。

「あなたが悪いんですよ、マスター?」

 後退を試みるトゥルーデスティニーの顔面を右手で掴まえ、デス子はまるで幼子を相手するように優しい口調で語りかけた。
 シンと同じ紅の双眸に、狂気の光を宿しながら。
 瞬間、トゥルーデスティニーのコクピットが眩い光に包まれ、機体を揺らす激しい衝撃と共に全てのモニターが暗転する。
 頭部のメインカメラが破壊されたのだ。

「あなたがわたしを裏切るから、あなたがわたしを捨てるから!」

 暗闇に覆われたコクピットに、デス子の怨嗟の声が響き渡る。
 再び機体を襲う衝撃……どうやら鷲掴みにされたままの頭部に、デス子がまたビーム弾を撃ち込んだらしい。
 一撃で粉砕してしまわないように、威力を抑えて。

「あなたはわたしが殺すんです。裏切ったから、わたしじゃなくてガラクタを選んだから。だからあなたを殺すんです。わたしがいらないマスターなんていらないのです!
 でもね、マスター……あなたはわたしの宝物なのです、あなたがわたしを裏切ってもそれは変わらないんです。だからあなたを壊すんです、宝物だから壊すんです。
 あれ? わたし何が言いたかったんだろう……まぁ良いです、どうで全部壊すんです。全部壊して、薙ぎ払って、消し飛ばして、何もかもを真っ白にするんです。
 ガラクタも宝物も、欲しいものもいらないものも、マスターもわたしも世界も全部壊して真っ白にするのです。真っ暗はもう嫌だから、全部真っ白に変えちゃうんです」

 衝撃、衝撃、衝撃、衝撃……断続的に襲う被弾の衝撃がコクピットを揺らす中、壊れたようなデス子の哄笑だけが暗闇に空しく響き続ける。
 サブカメラに切り替え、視界を取り戻した全天周モニターに映し出されたデス子の顔は……泣いていた。
 笑いながら泣いていた、嗤いながら哭いていた。

 その時、一際大きな衝撃がトゥルーデスティニーのコクピットを襲った。
 モニターの中ではデス子が黒ずんだ鋼鉄の塊を右手に握っている、どうやら遂に頭を千切り取られたらしい。

 慟哭にも似た刃金の少女の哄笑を止める者は、誰も――、



「……醜い妄執ですわね」



 ――否。
 たった今、現れた。



――つづく

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最終更新:2009年01月24日 20:29
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