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Galaxy Destiny-04c

「こんにちは、アスカさん。ご機嫌いかがですか?」

 一応の礼儀は弁えているつもりなのか、そんな挨拶の言葉を口にしながらシンの顔を覗き込んだのは、シンもよく知る少女だった。

「みん、と……?」
「お見舞いに来ましたわ」

 掠れた声で来訪者の名を口にするシンに、ミント・ブラマンシュはそう言って柔らかく微笑した。

「それにしても……」

 顔一面に浮かべていた笑みを消し、ミントはおもむろに顔を上げ、部屋の中を見渡した。

「――殺風景な部屋ですわねぇ、何も無いじゃないですか」

 半ば呆れたようなミントの科白の通り、シンの部屋には私物らしきものが殆ど置かれていない。
 床に無造作に脱ぎ捨てられた軍服も、デスクの上に積み上げられた書類や記憶媒体も、全て仕事に関係したものばかり、プライベートに関わるようなものは何も無い。
 唯一私物と言えるものは、今は枕元に置かれているピンクの携帯電話だけ、そう言えばシンが私服でいるところすらミントは見たことが無かった。
 エンジェル隊に来てから未だ日が浅いとはいえ、変化の激しい本人の気性といい、ミルフィーユとはまた違った意味でつくづく読み難い男である。

 ちなみに他のエンジェル隊員達の私室は、まるで部屋そのものを私物化しているかのようにそれぞれ個性的な改装が施されている。
 ミルフィーユの部屋にはお菓子作り用のキッチンが備えられ、蘭花の自室にはトレーニング用の器具や占いグッズが混在している。
 フォルテの自室はまるで博物館のように収集した銃器類を飾るガラスケースが立ち並び、ヴァニラの部屋には礼拝用の祭壇と御神体らしき円筒状のオブジェが設置されている。
 かくいうミントの私室にも、趣味の着ぐるみコレクションを保管するための金庫が増設されている。
 それらの部屋に比べれば――否、一般的な若者の私室と比較しても、この部屋は余りに殺風景であると言えるだろう。

「エッチな本も無いんですか?」
「ねーよ! ……別に良いだろ、そんなの」

 落胆したようなミントの物言いにへそを曲げたのか、シンは憮然とした表情を浮かべながらぶっきらぼうに言い返した。

「無駄なものは置かない主義なんだよ」
「あら? 必要最低限なものすら揃っていないように見えますが」

 負け惜しみにも似たシンの言葉を一笑し、ミントは何やら思案するように口元に手を当て、再び部屋の中へ視線を巡らせる。
 見れば見る程物寂しい、がらんとした殺風景な部屋……それは言い換えれば、どんな物でも持ち込めるということにはならないだろうか?
 そう言えば先日実家の方で面白いものが開発されたと聞いている、それの実験も兼ねてこの殺風景な部屋に少しばかり『個性』を与えてみるのも良いかもしれない。

「――アスカさん。この部屋にちょっとしたインテリアを追加して、ついでにその風邪も治してしまいませんか?」
「……は?」

 ミントの唐突な提案に、シンは思わず怪訝そうな声を上げた。



 翌日、未だ病床に臥すシンの部屋にミントが〝連れてきた〟のは、まるでヒョウタンか洋梨のような8の字型のずんぐりとした体躯が特徴的な一体のロボットだった。

「……ミント、それは?」
「我がブラマンシュ財閥が先日開発した全自動型の家庭用医療ロボット、名づけて『できるんです君ver. Ka』。これはその試作機ですわ」

 唖然とした顔で尋ねるシンに、ミントは誇らしげな表情で傍らの奇怪なメカを紹介する。
 銀河に名だたる超巨大企業集団、ブラマンシュ財閥――ミントはその総帥令嬢である。
 今回、ブラマンシュ財閥傘下の医療器メーカーが同じく財閥傘下のロボット製造業者と提携して家庭用の医療ロボットを開発したらしい。

「風邪の看病から緊急時の手術まで全自動」を謳い文句に設計開発されたそのロボットの試作機を、ミントはシンのために実家から取り寄せたのだという。

 自社の製品に絶対の自信を抱いているのか、『できるんです君』の性能を説明――というよりは自慢――するミントの笑顔に揺るぎは無い。

「本当に信用出来るのかよ?」
「ではご自分の身体で試して下さいませ」

 ベッドの上に上体を起こし、胡散そうな眼差しで『できるんです君』を眺めるシンに、ミントは挑戦的な笑みを浮かべて指を鳴らした。
 両脚のキャタピラを転がしながら、『できるんです君』はゆっくりとシンの座るベッドに近づき――、

『WARNING! 患者 の 容態 が 危険レベル と 判定』

 いきなり警告を始めた。
 ずんぐりとした胴体の装甲がスライドし、ぽっかりと開いた腹の空洞から、まるで昆虫の脚のように幾つもの関節を持つ細長いアームが無数に展開する。

『迅速 な 処置 が 必要 と 判断。緊急手術 を 開始 します』

 物騒極まりない科白をのたまいながらアームを触手のようにうねうねと動かし、ベッドににじり寄る医療ロボット(という名のガラクタ)に、シンの中で何かが弾けた。

「自由への逃走!」

 ひらりとベッドから飛び降り、出口へ一目散に駆け出したシンの後ろ襟を、アームが引っかけるよおうに掴まえる。
 風邪により低下した体力と身体能力、それがシンの敗因だった。

 暴れるシンをベッドの上に縛りつけ、『できるんです君』がアームを振り上げる。
 無数のアームの先端でメスや注射器やよく分からない器具が不気味に煌めき――、

「オペ 開始」
「いやぁあああああああああああああああああああっ!?」



 そして――、



「ねぇ……何か最近シンの奴が変じゃない?」

 デスクワークに一区切りがつき、ミルフィーユの手作りケーキをおやつに休憩しながら、蘭花が何気ない口調でそう切り出した。
 蘭花の言葉に他の者達も心当たりがあったのか、フォークを動かす手が一瞬止まる。
 シン・アスカが宇宙インフルエンザから復帰して数日、それまでとは明らかに違うシンの様子に、エンジェル隊の全員が違和感を抱き始めていた。

「……風邪が治ってからのシン君、何だかちょっと冷たくなった気がします」

 そう言って落ち込んだように表情を曇らせるミルフィーユに、隣で紅茶を啜っていたフォルテが意外そうに首を傾げる。

「そうかい? あたしは逆に暑苦しくなったように感じるんだけどねぇ」
「えー? フォルテさん、それ全然違いますよぉ!」

 フォルテの科白に、ミルフィーユが不満そうに口を尖らせる。

「――だ、そうですけど。アスカさん、何か問題ありまして?」

 そう言って何気ない素振りで話題の中心人物を一瞥するミントに、ミルフィーユ達も視線をシンに向ける。
 その先には――、

「……コー、ホー。コー、ホー」

 しゅこー。

 髑髏のような不気味な鉄仮面を被った変態がいた。

 襟元や袖口から覗く素肌は金属的な光沢を放ち、背中から突き出すパイプからは断続的に蒸気が噴出している。
 ミルフィーユ達の視線を受け、シン(らしき仮面男)は赤い両眼をチカチカと明滅させながら、一言。

「――気ニスルナ。俺ハ気ニシナイ」

 落ち着いた口調でそう諭され、ミルフィーユ達も気にしないことにした。

『いや気にしろよ』

 投げ出されたソファの上で呟くノーマッドのツッコミは、いつも通り誰も聞いちゃいなかった。

 ここは地球から遥か何万光年も離れた銀河の果て、トランスバール皇国。
 古代文明の遺産〝ロストテクノロジー〟の回収を主な任務とし、銀河の平和と安全を守るために日夜戦い続けるギャラクシーエンジェル隊は今日も平和だった。



――BAD END 2:仮面ソルジャー




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最終更新:2009年01月30日 23:25
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